Infinite Stratos Another   作:来迎 秋良

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15:銀の福音、白い雪・前編

日付は変わり、合宿二日目。

生徒一同はISテスト用のビーチへ集合していた。

(ちなみに箒姉さんたちは眠そうだ。なんでだろ?)

 

僕らが集合した理由は、一日かけてのデータ取りと、各種装備の試験。

特に僕ら専用機持ちは、専用装備やらなんやらが送られてくるから余計に大変。

僕にいたっては、一夏の白式が装備を全部拒否するわがままな子だから、

試験装備も増量だ。

 

「よし、全員遅れていないな。では早速、各班振り分けられた機体の装備試験。

 専用機持ちは専用装備のテストだ。全員、迅速に行え」

織斑先生の台詞で、各々の作業に入る。

箒姉さんは織斑先生に呼ばれていたけど、まあいいや。

 

「んー、このライフル、ちょっと精度低くないかな。

 こっちのライフルは、銃身の冷却が遅い……。

 あ、この特殊装甲シールド、いけるかも!」

僕はディスプレイを多重展開してスペックデータの確認と、

試験稼動を同時にする。

 

「聡里、そんなにいっぺんにできるの?」

「うん、でも束姉さんはもっと凄いよ。一人でいっぺんに五つの作業こなすから。

 ISの補助無しで」

それを言うと、シャルは驚きで凍り付いていた。すると。

 

「ち~~~~~ちゃ~~~~~ん!!」

その叫びと共に、砂煙を上げながら試験場の崖を駆け下りてくる人が一人。

 

「はぁ……束」

束姉さんである。

 

そして飛びついてきた束姉さんにアイアンクローを食らわせ、

無言で地面に引き摺り下ろす織斑先生。

 

「煩いぞ、束」

「うぐぐ……相変わらず容赦のないアイアンクローだねぃ」

といいつつ千冬さんから逃れられる姉さんもハンパないと思うけど。

というか、僕らの周りの年上の女性って、そんな人ばっかりだ。

 

「さーくんもいっくんもさっきぶり! それと……やっほー箒ちゃん!

 久しぶりに会ったけど、やっぱり成長してるねぃ、おっぱいとか!」

「束姉さん、それセクハラ。同性だけど」

「殴りますよ」がんっ

殴りながら言うか、箒姉さん。

 

「ひどい、殴りながら言った~! しかも日本刀の鞘で~!!」

「あ、あの。この合宿には関係者以外は……」

「んん? ISの関係者という点ならこの私以上の関係者は居ないでしょ?

 へんなことを言うね君は」

「あ、はい。そう、ですね?」

山田先生、あえなく撃退。束姉さんに勝てる人はそうそう居ないよね。

 

「もう、束姉さん。自己紹介くらいしてよね。みんな困ってるじゃん」

僕の台詞に、しぶしぶながら自己紹介する姉さん。

 

「さーくんが言うならしてあげるよ。

 私が天才の束さんだよ、はろ~。終わり」

「姉さんってば、それだけ? まあ、いいか」

僕らの会話で、他の人たちも騒然となる。

それもそうか。目の前にいきなり、ISの発明者が現れれば。

 

「それで、だな。姉さん。頼んでおいたものは……?」

「え、箒姉さんが束姉さんに頼みごと!?

 それで束姉さん、僕からの電話にも出ないくらい必死だったんだ」

あの束姉さんが電話に出ないなんておかしいと思ったんだ……あ、そっか。

 

「姉さん達が歩み寄ったついでに、隠してたこと、言っちゃうね。

 箒姉さん、実はね。束姉さんって箒姉さんのこと、ずっと心配してたんだよ?

 それと、ずっと謝りたかったんだって」

「ちょっ、さーくん、しーっ!!」

「姉さんが……?」

箒姉さん、ビックリしてる。

 

「箒姉さんが引っ越さなきゃいけなくなったのは、私のせいだーって。

 だから、姉さんが頼み事してくれて、束姉さんうれしかったんだと思うよ。

 だから、箒姉さん。束姉さんの事、許してあげて」

「姉さん……」

「その……ごめんね、箒ちゃん。

 私のせいで、いっくんたちと別れ別れにしちゃって……。

 本当にごめんなさい! 私が悪かったです!」

そう言って、束姉さんは箒姉さんに頭を下げる。

なんと涙目で、だ。

 

「ね、姉さん……私もすまなかった。ずっと姉さんのことを、何も考えず。

 だから、もう頭を上げてくれ!」

おろおろと、そういってなだめる箒姉さん。

それを見かねた織斑先生が、二人を一旦止める。

 

「二人とも、積もる話もあるだろうが、今は篠ノ之のISだ」

その言葉で、束姉さんは涙をぬぐい、笑顔になる。

 

「そうだね、今は箒ちゃんのISだね! それでは、大空をご覧あれ!」

その声と共に束姉さんが何処からか取り出したスイッチを押すと、

空から金属の塊が降ってきた。

 

「な、なんだぁっ!?」

「ふっふっふ、これぞ箒ちゃん専用のIS『紅椿』!

 全スペックが現行ISを上回る束さんお手製のISだよ!

 ささ、パーソナライズとか済ませちゃうから、箒ちゃん、装着して!」

「あ、ああ。わかった」

箒姉さんは、促されるままに紅椿を装着し、起動する。

そして、フィッティングとパーソナライズを束姉さんが始める。

 

「それじゃあ始めるよー。 ぴ、ぽ、ぱ、と」

姉さんはそんな暢気な台詞とは裏腹に、物凄い速度でディスプレイに入力する。

 

「は、早い……!?」

「束姉さんは相変わらず早いね。それじゃ、僕も補助するよ」

言い、僕は宵闇のハイパーセンサーを部分展開、

「わーい、さーくんに褒められた!

 それじゃあ、さーくんはエネルギー配分を箒ちゃんに合わせてお願いね!

 私はいろいろ調整しとくよ!」

そして、僕らは作業を分担して始める。

 

 

「……この二人、本当にどれだけ天才なのよ」

そうつぶやいたのは、鈴。

理由は簡単で、束も聡里もモニタとコンソールを同時に数枚展開し、

それぞれの作業を進めているからだ。

 

「ん、エネルギー配分は終わったよ。他に何かある?」

「じゃあ、もうこっちの構造はわかったでしょ?

 ちょっと残りの微調整済ませといて。

 束さんはいっくんの白式を見せてもらうよ。

 その後はさーくんの宵闇だからねーっ!」

彼女はその言葉と共に作業を中断し、一夏のほうへ駆け寄っていく。

 

「やれやれ、微調整も何ももう僕が手を出せるとこは、

 ろくに無いくらいなんだけどね。

 うーん……それじゃ、こんなもんかな。カタタンっと」

そういいつつキーボードへの入力を終わらせ、聡里は箒に声を掛ける。

 

「これで、宵闇は箒姉さんの専用機だよ。よかったね。一夏とお揃いで」

彼がそう言ったとき、周りの女子がぼそりとつぶやく。

 

「あのIS、篠ノ之博士の身内だからって篠ノ之さんが貰えるの?」

「そうだよね、不公平だよねぇ」

そういった彼女たちに、束と聡里がそれぞれ言う。

 

「何言ってるの? 有史以来、人類が公平だった事なんかないよ?」

「それに、他人を羨んでそんなことを言うしかできないような人は、

 ISの方が嫌っちゃうよ。ISは人間と同じだからね」

天才とその義弟に言われ、彼女らは黙り込むしかなかった。

実際、彼女らはISの適正が上がらず、ISに拒絶されていると自覚があったからだ。

 

「それじゃ、これ以上そんなこと言わないでくれるかな?

 箒ちゃんはそんなつもりないんだし。むしろこの子はそんな特別扱い、嫌いだよ」

 

 

「よっしゃ~、いっくんのもおわったぜぃ! それじゃ、さーくんの宵闇も見せて!」

と言われ、僕は心の中で念じる。

 

(起きて、宵闇)

 

その意識を感じ取り、左手の黒いガントレットが光を放つ。

そして僕の体を黒い旋風のようなものが包み込み、それが収束した後には

宵闇を起動し装着した僕が立っていた。

 

「それじゃ行くよんっ、そりゃ~☆」

束姉さんは宵闇のデータソケットにプラグを接続し、

情報をサーチし始める。

 

「うわ、何このフラグメントマップ。いっくんのと正反対だよ。

 その上、物凄く複雑になってる。さーくん、いままでどのくらい宵闇動かした?」

「え? えーっと……ざっとh単位で4桁届くか届かないかくらい?」

その台詞に、その場に居た全員が驚く。

 

「え、でもさー君ってIS動かしてからまだ数ヶ月でしょ?

 どうやってそんなに動かしたの?」

「暇な時に、IS起動していろいろ作業してたんだ。

 寝る寸前までハイパーセンサーの並列処理使って、

 パッケージや武器の設計とかやってたから。

 だから僕の宵闇は、オリジナルパッケージとか武器とかあるよ。

 姉さん、見たい?」

「へぇ、さーくんが作ったパッケージ? ちょっとごめんよ……おお!

 これ、一人で考えたの? すごいね!」

姉さんはパッケージを褒めてくれる。

 

「あははっ、宵闇はクセがなさ過ぎるから。このくらいはね」

「さすがは天才束さんの弟だよ! それじゃ、さーくんに最適化しとくね」

そういわれたけど、僕は断る。

 

「それはこっちでやるから、微調整だけお願いできる?

 僕のクセは、消したくないから」

「りょーかーい、それじゃはじめよー! はーるばるきーたーぜ、アゴだけー♪」

「それを言うなら函館でしょって」

僕らは、またウィンドウを多重展開して作業を始めた。

 

 

「よし、終了。ありがとう、姉さん。おかげで行き詰ってた調整が片付いたよ」

「いーのいーの、天才束さんはさーくんの成長が見れて満足だよ!

 それじゃ、今度は紅椿の試運転だね! 箒ちゃん、ちょっと飛んでみて」

言われ、紅椿を動かした箒姉さんは、その場から『消えた』。

 

「速い……!」

「うそ、この速度、瞬時加速より速い……!?」

ラウラとシャルはそれぞれに言う。

 

「どう、箒ちゃん。『箒ちゃんが思った以上に』動くでしょ?」

「……はい!」

箒姉さん、相当嬉しいみたいだけど、浮かれてるな。

何かあった時、考えておかないと。

剣道の二の舞にならないようにしなきゃ……。

 

「それじゃ次は武装のテストだねっ。

 箒ちゃん、両側の刀を使ってみて。まずは『雨月(あまづき)』からね!」

そう言われ、箒姉さんは紅椿の右側に装備されている日本刀を抜き放ち、

上空の雲に突きを放つ。

 

すると紅い光線が飛び出し、雲は蜂の巣になってしまった。

 

「次は空割(からわれ)ね! じゃあ、これ切り落としてみて」

そういって束姉さんは16連装ミサイルポッドを紅椿へ発射……って!?

 

「「箒(姉さん)!!」」

「……やれる、この紅椿なら!!」

姉さんはそういい、左側の日本刀でミサイルをまとめて斬り捨てる。

だが、その余波がシャルたちのほうへ飛んできた!

 

「シャルッ! くっそ、ちぇいっさー!」

僕は叫び、赤いレーザーを宵闇で『殴り消した』。

 

「ギリギリ、セーフ……。姉さんたち!!」

「す、すまん!」

「何で怒ってるの、さーくん? そんな金髪なんてどうでもいいじゃん」

束姉さんは他人だからって、危険に巻き込んだことを反省してない。

 

「束姉さん、アンタって人は……!」

「聡里、ボクは無事だし大丈夫だから! それより、どうやったの?

 レーザーを殴り飛ばすなんて」

宥められた後聞かれ、僕は答える。

 

「ああ、この武器を展開したんだよ」

そう言って、僕は手甲状の武器を見せる。

 

「インパクトナックル、『吼拳(ほえこぶし)』。甲龍の衝撃砲を見て、

 参考に作ってみた。といっても、射程距離が出せなかったから、

 打撃の強化用になっちゃったけどね。

 僕に出せた最大射程は1メートルくらいだよ。

 どうにか威力はある程度再現できたけど」

そう言うと、今度は鈴がびっくりしていた。

 

「アンタ、一人で組み上げたの!?

 うちの国の技術者が総力を挙げて開発した武器を、たった数ヶ月で!?」

「うん、まあね。でもまだまだだよ。さっきも言ったように、射程距離ないし、

 使いどころが限られてくるからね。中国の技術者さんは凄いよ」

僕は宵闇の展開を解除、そして姉さんに紹介をする。

 

「束姉さん、紹介をしとくね。こっちのツインテールの人は、

 中国の代表候補生で一夏の二番目の幼馴染、鳳鈴音。

 それからこの金髪の人が、イギリスの代表候補生でセシリア・オルコット。

 それとこの子がドイツのラウラ・ボーデヴィッヒで、

 さっき僕が守った子が、シャルロット・デュノアだよ」

彼女たちを紹介すると、ラウラは敬礼、シャルは礼儀正しく頭を下げる。

 

「ふーん、さーくんが金髪の子なんかと友達になるなんてねー。

 ま、他の子もさーくんたちの友達なんでしょ?

 なら、覚える努力はしようかな」

「ありがと、姉さん。それじゃ……」

そう言ったとき、山田先生が息せき切らせて走ってきた。

 

「お、お、織斑先生!大変です!これを!」

彼女が織斑先生に渡した情報端末を見て、織斑先生は表情を曇らせる。

 

「特務レベルA、現時刻より対策を始められたし……」

特務レベルA……!?

それ、IS学園への大規模テロ並みの警戒態勢、だよね。なんで!?

 

「それが、その、ハワイ沖で実働試験をしていた……」

山田先生の一言で、なんとなく理解した。

ハワイ沖では、今アメリカとイスラエルが共同開発していた

新型ISをテストしてたはず。

そこでトラブルが起きて、こっちにお鉢が回ってきたんだろう。

そう思っていると、織斑先生が怒号を上げる。

 

「現時刻を持ってテスト稼動は中止だ! これより教員は特殊任務に入る!

 専用機持ちは集合! 織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、鳳!

 それと篠ノ之両名も来い」

箒姉さんも、紅椿を手に入れたから呼ばれたらしい。

でも、この浮かれた精神状態で特務……不安だ。

 

 

「では、現状を説明する」

織斑先生のその台詞に始まった会議の内容をまとめると、

軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が突如暴走、

この花月荘の沖合い二キロほどの地点を通過する。

それを、僕ら専用機持ちが捕獲、さもなくば撃墜しろという事だ。

 

「それでは、作戦会議を始める。意見がある者は挙手しろ」

「はい」

早速、セシリアが手を挙げた。

 

「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

「わかった。 だが、これは二カ国間の重要軍事機密だ。決して口外はするな」

「了解しました」

その後、提示されたスペックデータを元に僕らは作戦を考える。

 

「広域殲滅を目的とした、特殊射撃型……。私のブルー・ティアーズと

 同じような装備のようですね」

「攻撃、機動双方に特化しているわね……。

 しかも、スペック上はアタシの甲龍を上回ってる。厄介ね」

「この特殊装備が厄介って感じはするね。丁度本国からラファールの

 防御用パッケージが届いてるけど、連続防御は厳しいかな」

「それにこのデータでは、格闘性能が未知数だ。持っているスキルもわからん」

「さらに付け加えるなら、情報処理能力が相当高いね、これは。

 特射と高速機動を同時にこなすようだし。

 となると、現地で指揮もした方がいいかもしれないな。

 偵察は……不可能かな。この速度では、一回のランデブーが精々だ」

僕らが各々の意見を言い終わり、作戦を立てる。

 

 

「それじゃ、僕が前線で指揮を取ることにするよ。

 丁度、広域指揮用パッケージ『帝(ミカド)』も組みあがったし。

 それで問題ないかな」

僕の意見に、誰も反対はなかった。

そして僕の仕切りで作戦会議。

 

「この作戦は、一撃必殺の攻撃力を持った一夏の白式が中核になるかな」

「そうだね、聡里。ボクも同意見。でも、どうやってエネルギーを使わず

 一夏を福音の所まで連れて行くか、だよね」

「それなら、私のブルー・ティアーズが。丁度本国から強襲用パッケージ、

 『ストライク・ガンナー』が送られて来ていますし、

 超高感度ハイパーセンサーもありますので」

「ちょ、ちょっと待て! 俺が行くのか!?」

一夏はおろおろとして、僕らに聞いてきた。

 

「「「「「当然」」」」」

僕ら六人のセクステット。

 

「だが、織斑。これは実戦だ。もし覚悟が無いなら、無理強いはしない」

一夏は実の姉に言われ決心したらしく、力強く頷く。

 

「……やります。俺が、やって見せます!」

「よし、いい返事だ。では、オルコット。超音速下での戦闘訓練は?」

「二十時間強です」

「ならば適任か「ちーちゃん!、ちょっと聞いて!」

 ……山田先生、室外への強制退出を」

「わー、待って待って!いま私の頭に、

 それ以上の作戦がナウ・プリンティング!」

そういって束姉さんが天井の穴から降りてきた。

というか、とんでもないところから登場するなぁ。

 

「聞いて聞いて! ここは断☆然! 紅椿の出番なんだよ!」

束姉さんはその台詞と共に、ディスプレイを展開して織斑先生にみせる。

 

「姉さん、もうちょっと詳細説明……って、もういいや。僕から言うよ。

 紅椿は、これまでにない新装備、展開装甲を持ったISで、

 『即時万能対応機(リアルタイム・マルチロール・アクトレス)』の

 機体に仕上がっています。定義上は、第四世代ISになりますね」

僕の説明で、室内の全員が息を飲んだ。

そりゃ、実の弟の僕だって紅椿見るまで信じられなかったし。

 

「な、第四世代……!?」

「ついでに、いっくんの白式の雪片弐型も展開装甲だよ。

 試しに私がつっこんだ~」

その台詞に、さらに全員が驚く。

 

「姉さん、白式をいじってるって言ってたの、そういう事……」

「うん、七割方できてて、捨てられてたのを完成させたのだ!」

その台詞に、一同沈黙。

自分達が総力を挙げてしている事が無意味って辛いからなぁ。僕は馴れたけど。

束姉さんは、戸籍上は僕の姉だしなぁ。

 

「……話を戻す。束、紅椿の調整にはどのくらい掛かる?」

「お、織斑先生!?」

セシリア、動揺してるね。

そりゃ、一夏と一緒に任務に出れると思ったらこれだもんな。

 

「セシリア、君のパッケージはまだ、インストール済んでないからだめ。

 僕が補佐しても、二十分はかかると思う。

 その点、紅椿は出力の微調整だけだから五分……いや、三分だね。

 悪いけど、今回は待機。わかった?」

「聡里さん……」

僕の台詞に、セシリアはまだ文句をいいたそうだったけれど、

僕は次の台詞で反論を封じる。

 

「セシリア、一夏と一緒に戦いたいのはわかるけど、これは実戦なんだ。

 トーナメントとは違う。一分一秒を争うんだ。

 だから、すぐ調整できる箒姉さんを参加させる。諦めて」

そこまで言われ、ようやく彼女は引き下がる。

 

「でも、この中で高速戦闘の経験があるのはセシリアだ。

 一夏、後でセシリアに高速戦闘を教わっておいて。

 じゃないとついて来られなくなるよ」

僕の台詞に顔を輝かせるセシリア。やれやれ、士気高揚も成功かな。

 

「それじゃ姉さん達は、紅椿の展開装甲の調整を。

 僕はミカドとアマテラスの同時展開時のバランス調整とか、

 権限の委譲とかがあるから、みんなは一夏へのアドバイスをお願い」

そして、僕は織斑先生の元へ。

 

「それでは、織斑先生。衛星とのリンク、その他の権限の委譲をお願いします」

「ああ。だが聡里、この事件、どう思う?」

「……おそらく、『白騎士』を同じですね。うちのバカ姉が、毎度毎度……」

「お前が謝らんでもいい。だが、どこか篠ノ之は浮ついていないか?」

さすが織斑先生、気付いてたか。

 

「はい。専用機をもらって、箒姉さんもはしゃぎ過ぎてるみたいです」

「やはりか。聡里、気をつけておいてくれ。戦場であの状況では、死ぬぞ」

「……了解です、先生。では、宵闇の調整、しておきます」

 

 

そして、僕らのすべての準備が終了し、夜十一時半、作戦開始時刻。

 

「来い、白式」

「行くぞ、紅椿」

「起きて、宵闇」

僕ら三人は、それぞれにISを展開し砂浜で待機。

そして、二人に僕は指示を飛ばす。

 

「指揮権限、委譲確認。ミカド・アマテラス共に正常動作確認。

 ちょっと情報処理速度は低下するけど、しょうがないか。

 白式、紅椿との情報接続確認。いつでも行けます」

『よし……。では、はじめ!』

織斑先生の声と共に、僕と一夏を乗せた箒姉さんは飛び上がる。

 

「早い……ッ!? 一夏を乗せてるのに、

 アマテラスの巡航最高速度と同等なんて!

 束姉さんなんてものを作ってるんだ!?」

紅椿は相当の性能を持っている。あれは最初から

『第二形態移行(セカンドシフト)』したような性能じゃないか……!

 

「聡里、位置情報を教えてくれ!」

「あ、了解! 暫時衛星リンク設定……完了。

 目標位置確認、ここからは、早さが勝負。

『一撃必殺(ワンアプローチ・ワンダウン)』で沈める。いいね!?」

「「ああ!」」

その声と共に僕ら三人は最大速度まで加速、福音へ突撃して行った。

 

 

聡里たちの数キロメートル先を、高速で飛行する『銀の福音』。

その機体を、横から捉えた一夏は、最大速度で斬りかかる!

 

「うおおおおおおおおっ!!」

そして、零落白夜を発動させ、光の刃が当たる寸前。

福音は、頭部の銀色の翼を翻し紙一重で回避する。

 

「白式、急速回避! 敵が迎撃体勢に入った!

 紅椿は急速機動で撹乱! 特殊武装を広範囲に散らして!」

僕の指示で、二人は戦闘を進める。

 

なぜ僕が指示だけかというと、

広域指揮用通信索敵パッケージ、『帝(ミカド)』が原因。

ミカドは広域通信と情報の並列化で集団戦闘を有利に進めるけれど、

それを使用しているISの情報処理能力が著しく下がるという欠点がある。

今、宵闇は姿勢制御とミカド、アマテラスの制御、使用で処理がほとんど食われてる。

 

「く、ひらひらかわす……なら!

 白式、敵の直上! 紅椿は敵の直下! 最大速度で挟撃をかけろ!」

「「了解!」」

僕の声で、一夏と箒姉さんは挟撃をかける。だが。

 

「これは……!? なんでこんなとこに来るんだよ!? 紅椿、直下に密漁船!

 福音の攻撃予測範囲だ!防衛して!」

僕の指示に、しかし姉さんは従わない。

 

「そんな犯罪者など放っておけ! 今は福音を落とすのが先決だ!!」

この姉は……ッ!

 

「だめだ! 人命が優先! 姉さん、紅椿の力に溺れるな!

 姉さんは、そんな酷い人間だったのかよ!?」

僕の言葉で、姉さんは明らかに動揺を見せた。

 

「なっ、私が紅椿の力に!?」

「そうだよ、姉さん! ってやば!

 両機とも緊急回避! デカいのが来るッ!!」

僕は叫び、密漁船を守るために急速降下。

丁度その瞬間、福音の頭部の翼が展開、全方位射撃を放ってきた!

そしてそのエネルギー弾が、姉さんに迫る!

その時、姉さんが取り落とした刀が、粒子化し消えた。

 

「具現維持限界(リミット・ダウン)!? 姉さんッ!」

要は、姉さんの紅椿のエネルギー切れ。

この状態であの数のエネルギー弾が直撃すれば、ひとたまりも無い。

 

「姉さん、逃げて!」

僕は密漁船へ降り注ぐ弾を止めるので精一杯で、動けなかった。

 

 

ああ、私は、また力に溺れたのか。

剣道と同じように。

 

そのせいで、また人を傷つけるのだな。

……すまない、一夏。

私は、お前の事が……

 

「箒いいいいいいいいいいいっ!!」

 

 

「「一夏ッ!?」

一夏が、箒姉さんをかばって被弾した!?

 

「一夏、いちかぁっ!!」

「ぅ……ぁ……」

そのまま、一夏は落下してしまう!

 

「姉さん、一夏を早くキャッチして! その後は、即時撤退!

 作戦は失敗だ! 戻るよ、姉さん!」

「……ああ」

 

そして、僕らはそのまま花月荘へ帰投し、

一夏を救護メンバーに渡し、作戦を練り直すことにした。

 

続く。

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