Infinite Stratos Another 作:来迎 秋良
僕ら二人が一夏を連れ、帰還した後。
姉さんは、旅館の裏でただ立ち尽くしていた。
「姉さん」
「聡里か。私はもう、ISには乗らない。
そもそも、私は力を持つ資格は、もう……」
「なーに言っちゃってんのよ、アンタは」
「鳳……何の用だ。こんな私に」
姉さん、大分落ち込んでるな。
「あーあーあー、わっかりやすいわね!」
鈴は言い、姉さんの胸ぐらを掴み睨みつけ、怒鳴る。
「それで、私は反省してますってポーズ? ふざっけんじゃないわよ!
「だが! 私は、もう、ISに乗る資格は……」
「姉さん、それは違うよ」
僕も、言いたいことは言わせてもらおう。
「姉さん、一夏も力を持ってるけど、暴走しなかった。 なんでか判る?」
「それは、あいつが強いから……」
姉さんの言葉を、首を左右に振って否定。
「違う。一夏は、姉さんたちを護る為に力を使ってるから。
一夏は『皆を護る為に』剣を振るってる。
……姉さん。姉さんは一夏のために、剣を振るえば良いんじゃない?
力に目標を与えてやれば、正しい方向に振るえるから。
剣道だって、そうなんでしょ?一夏に勝ちたくて鍛えたって言ってたじゃない。
それを今、やってみればいいんだよ。ね、姉さん」
それだけ言って、僕は姉さんに背を向ける。
「聡里、何処へ行く?」
「みんなの手伝い。といっても、いらないかもしれないけど」
僕らは、反撃の準備をしているんだ。
もし姉さんが来なくても、僕らだけでも行く。
その覚悟でね。
「だが、織斑先生には待機していろと言われただろう!?」
「少なくとも、僕は命令されて、従う義務は薄いからね」
そこにラウラがやってきて、告げる。
「父上、福音の位置は特定できたぞ。
ここから三十キロ離れた洋上で停止している。
衛星の目視での確認だ」
「さすが、シュヴァルツェア・ハーゼの『お姉様』だね。
鈴! パッケージのインストールは?」
僕の言葉に、サムズアップで返す鈴。
「勿論、終わってるわよ! あとはシャルロットとセシリアだけ」
「それなら、終わっています」
丁度、その二人も集合。
「たった今、完了しましたわ。
超高感度ハイパーセンサーの調整も終了しております」
「ボクの方も大丈夫。ガーデン・カーテンの準備はできたよ。
聡里の調整のおかげでね。いつでもいける」
そして、全員が箒姉さんに向き直り、言う。
「あとは、姉さん次第。 ……どうする?」
「私、は。 ……やる」
姉さんの瞳には、消えていた決意の火が灯っていた。
「戦い、勝つ! 今度こそ負けはしない!」
その言葉に全員の意思はまとまり、玄関に集合する。
◇
「……よし、紅椿の調整は終了。これでエネルギーは持つはず。
それじゃあ、皆、こっちからの指揮系統の受け入れ準備を……」
「貴様ら、何をしている」
僕の言葉を遮り現れたのは、鬼教官こと、織斑先生だった。
「……織斑先生」
「貴様らは全員待機と言った筈だが?」
鬼の形相ってこのことなんだろうか……。だけど。
「織斑先生、僕らはまだ、作戦終了はしていません。
あくまでも、一時撤退というだけで。
故に、作戦の再開、という事です。
今回は少なくとも目標が損傷しており、速度も出せない状態。
勝算はあると判断しました。
そして、僕に委譲された戦闘行動時の指揮権はお返ししていません」
僕が並べたかなり強引な理屈に、織斑先生はにやりと笑う。
「まだまだだな、小僧。行かせるとでも思ったか?」
織斑先生はISの近接専用ブレードを抜き放ち、僕へ向けかまえる。
「やはり、そうなりますよね。でも、姉さん達だけは行かせる!」
僕の叫びと同時に宵闇が展開され、バヨネット『秘刀(ひめがたな)』を展開。
先生に向き合う。
「……フ、本気にしたか?」
「え?」
織斑先生が、剣を降ろした。
「待て、私からの命令は、これだ。総員、これより福音の再度攻撃に入る!
今回の目標は、操縦者の救出、および福音の撃破だ。
……貴様らの覚悟、見せてみろ!」
「「「はいっ!!」」」
その激と共に、僕ら専用機持ちは大空へと飛び出した。
◇
「……」
洋上で、ひざを抱きまるで胎児のごとく浮かんでいる『銀の福音』。
だが、ふと『彼女』は空の一角を見上げ、緊急回避。
飛来した砲弾を回避する。
◇
「くっ、外したか!」
ラウラの初弾は、やはり外される。
「ラウラ、鈴! レールカノンと拡散衝撃砲で牽制!
セシリアはパッケージ換装して、特殊兵器に備えて!」
「「「了解(ですわ)!」」」
三人は言い、各々の行動に入る。
「当たれ!」
「簡単に回避させないわよ!」
ラウラが直撃コースで、鈴が拡散衝撃砲で逃げ道を塞ぎ砲撃。
セシリアは防御のためパッケージを量子化し、格納を始める。
だが、その時。
[La...♪]
マシンボイスの歌声が響き渡り、特殊兵器『銀の鐘(シルバー・ベル)』が起動。
パッケージ換装中のセシリアを攻撃する!
「きゃあっ!」
「シャル!」
「オッケー、聡里!」
そこに、防御専用パッケージ『ガーデン・カーテン』を装備したシャルが飛来。
セシリアとエネルギー弾の間に割り込み、受け止める。
「こっちは大丈夫! 聡里! 篠ノ之さん! 二人で決めて!」
「二人の大火力で、落としてしまえ!」
シャルとラウラの声を受け、僕はミカドを展開解除。
そして、アマテラスとスサノオを展開し、二本の刀、
クサナギとムラクモを構え、福音の頭上へ。
「姉さん!」
「判っている!」
箒姉さんは、福音の真下へ。
そして。
「「堕ちろぉっ!!」」
僕ら二人の四本の太刀筋が重なり、福音の二つの羽根を切り落とす。
そのまま福音は海の中へと没していった。
◇
「やった、落とせたよ聡里!」
「シャル、まだ終わってない! 福音の操縦者を救助しないと……!?」
そう言いかけたとき、海中からまばゆい光がほとばしる。
直後海の水が蒸発し小規模な水蒸気爆発が発生、僕らは吹き飛ばされる。
「これは……第二形態移行(セカンド・シフト)!?
マズい、総員退避! コイツにセカンドシフトされたら、勝てない!!」
そう叫ぶがすでに遅く、瞬時加速で接近され鈴が捕まってしまう。
「鈴っ!」
「くぁ……」
鈴は気を失い、そのまま海に投げ捨てられる。
「よくも鳳さんを!」
「待て母上、無茶だ!」
「シャル、待って! 今は……ッ?!」
シャルが突進し、ラウラが止めようとするも振り切られる。
そして、そのシャルを砲撃しようと福音は『エネルギーの翼』を展開。
一斉にエネルギー弾がシャルとラウラに降り注ぐ!
「さ・せ・る・かぁぁぁぁぁぁっ!!」
「「聡里(父上)!!」」
僕は先ほどのシャルのように、エネルギー弾と二人の間に割り込む。
そして、僕は固有武装のシールド『明鏡(めいきょう)』を十数枚展開し、
多層でエネルギーシールドを発振させ、エネルギー弾を受け止める。
が、数発抜かれてしまい、その全てを僕が受け止めた。
「聡里っ!」
「あはは、やっぱ僕って、不可能を可能にする、なんて、ね……」
何発か頭や腹に当たってしまっていて、力が抜ける。
そのまま海に落ちそうになる僕をシャルとラウラが支え、箒姉さんにかばわれる。
「デュノア、ボーデヴィッヒ。聡里を頼むぞ! 私が決める!」
「ねえ、さん。無茶だ」
「無茶だとしても、せめて一矢は報いる……!」
そういい、二本の刀を構え斬りかかるも、双方の刀は両腕に止められる。
そして、福音の翼が輝きを増し、姉さんを砲撃する……ハズだった。
しかし、それは遠距離から飛んできた砲撃により阻止される。
「荷電粒子砲……!? こんな装備を持ったIS、どこに……」
「姉さん、アレ、見て」
僕がどうにか指差した先には、姿を新たにした純白のISが。
それは……
「「「一夏!!」」」
そう、そこに居たのは、白式第二形態・雪羅。
そしてそれを纏った、一夏だった。
一夏は砲撃を行った後、すぐに紅椿に近づき姉さんに話しかける。
「待たせたな、箒。それと、心配かけた。だが、俺はもう大丈夫だ。
……それと、これな」
「これは……リボン?」
「ああ。 こないだお前と一緒に買い物に行った時、欲しそうにしてたからな。
こっそり買っておいたんだ。誕生日おめでとう、箒」
一夏はそう言って、リボンを姉さんに渡す。
姉さんは、それを顔を赤らめて受け取り、そして一夏は姉さんから離れる。
「それじゃ、決着つけてくるぜ。 まだ、終わってないからな」
そういう一夏の視線の先には、ふらつきながらも動き続ける福音。
「再戦と行くか!」
◇
一夏が叫ぶと同時に、福音はエネルギー弾を一夏に放つ。
それを一夏の白式・雪羅の腕が『変形』し、受け止める。
「そう何度も喰らうかよ!」
「あれは……零落白夜のシールド? なら、しばらくは負けないか……」
零落白夜のシールドは、シールドエネルギーをかき消すもの。
ならば、エネルギー武器しかない福音は、現状不利だ。
だが、それを福音も理解したのか、最大火力での全方位砲撃にシフト。
僕らを巻き込むほどの過剰なまでの攻撃を仕掛ける!
「しまった! 守りきれるか……!」
「一夏! こっちは、大丈夫! 仮にも僕らも専用機持ちだ!
一夏は福音を落とす事だけを考えろ!!」
僕は叫び、姉さんとシャルの支えを振り切り、飛び上がる。
そして残ったシールドユニット『明鏡』数十基を全部投擲し、遠隔操作する。
「被害は最小限に、相手の損害は最大限に。 明鏡、直接反射!」
僕の声と共に、明鏡のシールドに当たったエネルギー弾は、
福音の方へと引き返してゆく。
「みんな、砲撃は、僕が引き受ける。 一夏は攻撃、箒姉さんは一夏の支援!
シャル! ガーデンカーテンで、僕自身の護衛を頼む!
ラウラ、鈴、セシリアは僕らの後ろから射撃、砲撃で牽制!」
僕の台詞を受け、全員がそのフォーメーションに移動。
僕が全方位砲撃を打ち返す、あるいは逸らし、
シャルが流れ弾を防ぎ、ラウラたちが足止めした福音に、一夏が迫る。
しかしその時、零落白夜の輝きが白式から消えた。
「しまった、エネルギーが!」
「どんだけ大喰らいになったんだよ、白式!
だめだ、これじゃあ……!」
このままでは、押し切られる。
僕らの誰もがそう思ったとき、姉さんが呟いた。
「……私は、一夏と共に、戦いたい!」
その声に反応したように、紅椿が黄金色の輝きを放つ。
「これは……ワンオフ・アビリティ……!?」
「ならば、行くぞ、紅椿!」
「くっ、もう動くエネルギーすらロクに残ってない……!」
そしてエネルギーが限界の一夏の元へ、姉さんが駆けつける。
「一夏!」
「箒! お前、ダメージは……!?」
「私は問題ない! そんな事より一夏、これを受け取れ!」
姉さんが言い白式の手を取ると、白式のエネルギーに変化があった。
「これは……白式のエネルギーが回復してる!?」
「姉さんのワンオフアビリティは、エネルギーの生産……いや、増幅かな?
とにかく、一夏、姉さん! そろそろ、決めて!」
もうこっちも限界。 早く決めてもらわないと、僕が落とされそう。
「判った! 行くぞ、箒!」
「勿論だ!」
二人はそのまま、息のあったコンビネーションで戦闘を繰り広げる。
一夏に向けられた拳は姉さんが弾き、
姉さんに向けられたエネルギー弾は一夏のシールドがかき消す。
そして、姉さんと一夏が福音を挟み、
福音に二条の零落白夜の光と二振りの日本刀を叩き込む!
「こいつで、終わりだぁぁぁぁぁっ!!」
[L...a...]
そして、福音はエネルギーの全てを削り取られ、解除される。
そのまま操縦者の女性が、海に落ちて行ってしまう!
「しまった!」
慌てて全員が彼女の元へ向かおうとするけれど、遅い。
僕がすでに下で待機して、受け止めていたから。
「まったく、一夏は学習しないね。セシリアのときも、こんなだったでしょ?
それじゃあ、僕のほうから作戦終了の報告はしておく。
みんな、おめでとう! 僕らの勝ちだ!!」
◇
僕らが旅館へ帰ると、織斑先生が待っていた。
「聡里、報告しろ」
「了解です、織斑先生。
福音は撃破。操縦者の女性は先ほど、医療班の方に預けてきました。
福音のコアも回収済み、作戦は成功です」
僕の報告を聞き、満足そうに頷く先生。
「よし、織斑以外はダメージ診断に行け。
だが、織斑。お前は無断で出撃したな。後で反省文を提出するように」
「……はい」
ありゃりゃ、一夏、ドンマイ。
「織斑先生、一夏が中核を担ったんですから、お手柔らか、に……」
あれ、なんかめまいが。
「聡里? 大丈夫? フラフラしてるけど」
「えーっと……大丈夫、じゃ、ない、かな……」
「聡里? 大丈夫か、聡里!?」
どうやら無理しすぎたみたいだ。
そのまま、僕は気を失ってしまった。
◇
「……ん、ここは?」
僕が眼を覚ますと、布団に寝かされていた。
「ふぅ、ちょっと無茶しすぎちゃった、かな? みんなはどこだろう」
そう呟き部屋から出ようとふすまを開けると、そこにはシャルが居た。
「あ、シャル」
「聡里、よかったぁ!」
「うわぁっ!?」
シャルはそのまま、僕に飛びついてきた。
僕も起きたばかりなのと、まだ本調子じゃないから、そのまま倒れてしまう。
「聡里! さとりぃっ!!」
「ちょ、ちょっとシャル、落ち着いて!」
「落ち着けないよ! 聡里ってば、僕がどれだけ心配したと思ってるの!?
あのまま死んじゃうかもしれないって思ったら、僕、もう……!」
涙目で言ってくるシャル。
相当心配をかけちゃったみたいだね。
「……ごめんね、心配かけて。でも、約束、したでしょ? シャル。
『シャルの前から居なくなったりしない』ってさ。
約束は破らないよ。ほら、ぎゅーっ」
「聡里……」
僕が抱きしめると、シャルはようやく安心したようだった。
そしてその時、入り口から声が聞こえてきた。
「おうおう、相も変わらず仲睦まじいな、デュノア、聡里」
「「お、織斑先生!?」」
「私も居るぞ、父上、母上」
そのまま部屋に入ってくる織斑先生とラウラ。
「ほう、ボーデヴィッヒはこの二人を親だと見ているのか。
だが、その考えだと、デュノアに同い年の娘が居る事になるな」
「ええ、それが、ちょっと」
僕は苦笑いしつつ、ラウラを撫でる。
「なら、いっそのこと娘ではなく、妹として見てやればどうだ?
ボーデヴィッヒ、お前もその方が落ち着くと思うが」
「ああ、それなら僕らも変な感じしないし、その方が良いと思うよ!
ね、シャル!」
「あ、うん! そうだね! ラウラ、ラウラは僕らの妹ってことで!」
僕らは慌てて同意する。
いい加減父上と母上って呼ばれるのは、くすぐったくって……。
「ち、父上と母上、が言うなら……」
「その父上、母上っていうのも、違うでしょ。
そうだな……それじゃ、兄さんと姉さんで良いんじゃないかな」
「ああ、それなら大丈夫だ。それでは……兄さん、姉さん」
そう言うラウラにシャルは抱きつき頬ずり。僕と織斑先生はそんな二人を
笑って眺めている。
◇
その後。僕とシャルは二人で砂浜にやってきていた。
「夜の海も綺麗だね、シャル」
「そうだね、聡里」
僕らは言って、並んで座り海と星空を眺める。
「それでシャル、話って……何?」
僕の質問に、シャルはしばらく悩んでいたけれど、
真剣な面持ちで僕に向き直る。
「ね、ねえ。聡里。 ボクの事、どう思う?」
「え、どういう事?」
「そ、その……異性として、聡里はボクをどう見てるの?」
シャルに言われて、僕は考える。
僕にとってのシャル。大切な友人であるのは間違いない。
でも、それだけじゃない。
僕にとって、シャルは……
「大事な女性、だね。 ずっと守ってあげたい。
そして、ずっと一緒に居たい」
僕の台詞を聞いて、シャルは頬を赤らめる。
「それで、シャルにとって僕はどうなの?」
僕の質問の答えは、シャルの中で決まっていたらしい。
「聡里も、僕にとって大事な人。ずっと、ずぅっと一緒に居たい」
その答えを聞いて、僕ら二人は笑い合う。
「一緒、だね。シャル」
「うん……。 ねえ、聡里。 その……」
シャルの台詞を、僕は待つ。
「あの! ボクと、付き合ってください!」
シャルが言った言葉は、僕が言いたかった事。
そして、シャルから言って欲しい言葉だった。
「勿論、受けるよ。シャル。 というか、僕もいつ言おうか悩んでたんだ」
そう言って微笑むと、シャルも笑い返してくれる。
「それじゃボクたち、両思いってことかな」
「そうみたいだね。 じゃあ、成立ってことでいいんだよね」
そう言って、僕らは寄り添い、互いにもたれ合う。
そして、どちらからとも無く、口付けを交わした。
◇
「さて、聡里。お前に話しておくことがある」
僕ら二人が戻ってくると、僕だけが織斑先生に呼び出された。
「お前に、デュノア社から晩餐会の招待状が届いている。
おそらく、そこのデュノア関係だろう。 ……どうする?」
「……行きますよ。それに、断ったらシャルがどうなるか、わかりませんからね。
僕も一度、デュノア社の社長とは直接会って、話したいですから」
僕はそう言って、織斑先生の手から招待状と航空券を受け取る。
「でも、あっちをこっちの思惑に巻き込むくらいはしなきゃ、ダメですよね。
向こうに行くにも猶予はありますし、いろいろしときますよ。
教えてくれてありがとうございます、織斑先生」
僕は言って、にやり、と織斑先生にのみ見えるように笑みを漏らす。
その笑みは、まるで氷のようだったらしい。
続く。