Infinite Stratos Another 作:来迎 秋良
「篠ノ之神社。全然変わってないね、姉さん」
「ああ……。 親切な人が手入れしてくれていたらしい」
僕と姉さんは、今篠ノ之神社へ戻ってきている。
その理由は、篠ノ之神社で夏祭りが開かれるからだ。
「それと、箒姉さん。良いの? 一夏を呼ばなくて。せっかくの晴れ舞台なのに」
「なっ、なぜ一夏が出て来る!」
「だって、姉さん……一夏の事、好きなんでしょ?」
「ち、ちが……」
「わないよね。 横から見てて良く判るよ」
そこまで言われて観念したのか、姉さんは一枚の写真を取り出す。
その写真は元々一夏と千冬さんと、姉さん二人と僕が写っているものだけど
左右が折り曲げられていて、一夏と箒姉さんのツーショットのようになっていた。
「だが一夏に、女らしい事は似合わないなどと言われてしまったら、私は……」
「あーもう! 姉さん考えすぎ!」
僕は言い、姉さんの頬をつつく。
「あのね、姉さん。一夏はなんだかんだで、
ちゃんと箒姉さんの事を気遣ってくれてたでしょ。
ちゃんと女として、ね。それに、そのリボンだって、一夏に貰ったんでしょ?」
そのリボンを指差し、さらに言う。
「一夏が姉さんの女らしい事が似合わないって思ってたら、
リボンをプレゼントはしないでしょ」
「あ……ああ! そうだな!!」
「それと、姉さんは花火の時『あの場所』へ一夏を誘ってきたら?」
姉さんはそれを聞きあの場所を思い出したらしい。
「あ、ああ! それがいいな! うむ!!」
「僕とシャルロットは、別の場所へ行くよ。最近新しい場所を見つけてね。
それじゃ、頑張ってね、姉さん。僕はシャルが来るまで屋台のほうを手伝ってくるよ」
そう言い、僕は離れる。
姉さんは顔を赤くしつつも、気合を入れていた。
◇
「さーて、どこ手伝いますか……あれ、あそこに居るのって……翔兄ぃ?」
「お、聡里か! ひっさしぶりだなぁ! 元気にやってたか?
にしても、女ばっかの学校に入学とは、お前もやるねぇ」
今僕が話している男の人は翔太郎さん。僕は翔兄ぃ(しょうにぃ)って呼んでる。
以前いろいろお世話になった人で、
今は不思議系男性アイドルのプロデューサー兼マネージャー、
あとボディーガードをやってる人。
元々PMC(民間軍事企業)の特殊装備テスト部門に居たとか何とか。
つくづくとんでもない人だな。
「翔兄ぃ昔からお祭り好きでしたもんね……。
あ、もしかして来人さんも来てるんですか?」
「ああ。今日は久々の休みだからな」
「もし来人さんが来てるってバレたら、大騒ぎですけどねー」
僕の台詞に、イタズラっぽく笑い返してくる。
「ま、お前なら言っても大丈夫だろうと思ったから言ったのさ」
「相変わらずハーフボイルドですね。 あ、僕も手伝いますよ。
人を待ってるので、そのあいだ手伝おうと思って来ましたから」
「お、サンキューな。それじゃ、この景品並べといてくれ」
そう言って渡してきたのは、大きな段ボール箱だった。
「今年も射的なんですね。じゃ、また一回だけさせてもらいますよ」
「その一回でデカい景品持っていきやがるんだよな、お前は……」
そんなこんなで景品を並べ終え、時計を見るとシャルとの待ち合わせ時間十分前だった。
「あ、翔兄ぃ。そろそろ時間だから行くね」
「おう。また来たら会わせてもらうさ」
◇
「あ、シャル。もう来てたんだ。待たせちゃったかな」
「ううん、ボクも今来たところだから」
僕が待ち合わせ場所の鳥居へ着くと、すでにシャルが待っていた。
「あ、シャルも浴衣、着て来たんだ。良く似合ってるよ」
「そう? ありがと、聡里」
そのまま笑い合う僕らだけど、一人居ない。
「シャル、ラウラは? いつも一緒にいるけど居ないね」
「ああ、ラウラなら織斑先生に呼ばれたよ。
何でも、一夏の事で相談があるとかないとか」
千冬さんか……ならしょうがないか。
「それじゃいろいろ見て回ろうか。と、まずは知り合いにシャルを紹介するから来て。
こっちだよ、シャル」
そう言い、僕は翔太郎さんのいる射的屋にシャルを連れて移動した。
◇
「翔兄ぃ、連れて来ましたよ」
「お、来たなさ聡里……いっ!? おまっ、その美人さんは!?」
翔兄ぃに美人って言われて、シャルはどぎまぎしてる。
「紹介するね、翔兄ぃ。彼女はシャルロット・デュノア。僕の大切な恋人だよ」
「さ、聡里。恥ずかしいってば……。 初めまして。シャルロット・デュノアです」
その紹介に、翔兄ぃは手をぽんと叩いてシャルのほうを見る。
「ああ、そういや一時雑誌に載ってたな!
『世界で二人しかいない男性IS操縦者の一人が、フランスのご令嬢のハートも射止める』
とかなんとか」
……え゛?
「「えええええええっ!!?」」
僕とシャル、二人してかなりマジで叫んでしまった。
「あれ、知らなかったのか? ほら、記事データ見てみな」
言われて、僕は翔兄ぃに見せられたタブレット端末を見る。
「ほ、本当だ……。
そのゴシップ誌に書いてあった記事は、
『玉の輿か逆玉の輿か、社長令嬢と世界でただ二人の男性ISパイロット、熱愛発覚!?
はたしてその愛の結末は! 今後の進展に期待!』
らしい。
そりゃ目立ったわけだ……。
「こっちでも出回ってたんですね、それ……」
「いや、俺は芸能関係だからたまたま知ってただけだ。
ま、来人も知ってるから次会った時は覚悟を……おっと、噂をすれば」
その言葉通り、神社のほうから一人の男性がこちらへ歩いてきた。
「やぁ、聡里くん。久々だね。それとそっちの子は……シャルロットさんだね。
初めまして。僕は来人(らいと)。聡里くんの友人といったところさ」
くっそー、人のことを面白がってるなこの人。
「そう。でも、来兄ぃ(らいにぃ)は『Phillip(フィリップ)』って言ったほうが
シャルには判りやすいんじゃないかな」
僕の台詞で、シャルは口を押さえ声を上げるのに耐えた。
「え!? あの大人気アイドル・フィリップさん!?」
「そ。それで翔兄ぃは来兄ぃのプロデューサー兼マネージャー兼ボディガードだって。
翔兄ぃが僕の格闘の師匠で、戦術とかの師匠は来兄ぃなんだよ」
僕の言葉に、にやりと笑う二人。
「へぇ、そうなんですか!?」
「ああ、まあな。こいつも昔からいろいろトラブルに巻き込まれてたんでな。
それでこいつに稽古つけてやってたんだ」
「それに、聡里くんは吸収が早いから教えるほうとしてもかなり楽しかったよ。
それじゃ、二人とも楽しんでおいで。僕もまた見て回るよ。
それとも手伝おうか? 翔太郎」
そんなこんなで来兄ぃと翔兄ぃは話し出したので、僕らは挨拶をして離れる。
◇
その後、僕らは出店を回ることにした。
「あ、聡里。このりんご何? キラキラしてて、甘そうな香りがするけど」
「それはりんご飴って言うんだよ。 りんごの表面を飴で覆ってるんだ。
すいませーん、りんご飴ひとつくださーい!」
「あいよっ、兄ちゃん! 200円ね!」
そんなノリでりんご飴を買った僕は、それをシャルに手渡す。
「はい、これ。ここのお店のは美味しいよ」
「ありがとう、聡里! ……んー、甘くって美味しい!」
「お、嬉しい事言ってくれるねぇ!
そんじゃもう一個サービスだ! 持ってけ!」
と気の良いりんご飴屋さんからもう一本貰い、お礼を言った後神社へ向かう。
「シャル、もうすぐ神楽……神様に見せるための舞が始まるんだけど、
踊ってる人を見たらきっと驚くと思うよ?」
「え、誰?」
と会話をしていると、舞の踊り子……箒姉さんが、舞台へ上がった。
「え、箒さん!?」
「うん。この神社は、姉さんが生まれた家なんだ。
僕が束姉さんに拾われてからしばらく住んでた家でもあるけどね。
……さて、姉さんが神楽を始めるよ。静かに見よう」
◇
その舞は、とても麗しかった。
細い腕が振られ、舞う足は乱れない。
刀が空を切り、扇が風を凪ぐ。
赤い裾が翻り、束ねられた髪を振り踊る姉さんは、
神々しい美しさがあった。
◇
「お疲れ様、姉さん。凄く上手だった。やっぱり練習はしてたんだ」
「聡里、見てくれたか……な、デュノア!?」
「凄く上手だったよ、箒さん。 ボクもあんな風に踊ってみたいな」
そう言ってにこりと笑うシャルに、姉さんは照れている。
「そ、そうか。 ううむ、クラスメイトにいつもと違う姿を見られるというのは、
少々気恥ずかしいものだな……」
「そうかな? ボクは立派に踊れてて、良かったと思うよ?」
そうして話していると、一夏がやってきて話しかけてきた。
「お疲れ、箒」
「い、一夏! まさか、今の舞を見ていたのか!?」
「ああ、まあな。その……綺麗だったぞ。聡里たちも、神楽を見てたのか」
「まぁね。それじゃシャル、僕らは行こうか。二人の邪魔しちゃ悪いからね。
じゃあ後でね、一夏、姉さん」
僕はシャルの手を引きその場を離れる。
そしてその場には一夏と箒姉さんだけが残されて、二人はどぎまぎしていた。
◇
「それじゃ、またいろいろ回ってみようか。まずは……翔兄ぃの射的に行こう」
「ああ、あの射的屋さんだね。いこっ、聡里」
「ちょっ、シャル早いってば!」
「翔兄ぃ、また来ちゃいました。 射的やってみますね」
といってお金を手渡すと、翔兄ぃは苦笑いを返してきた。
「お前すげー上手いから五発撃って五発とも賞品持って行ったろ……。
ま、見てるこっちが楽しかったけどな。
それと、お前の恋人さんにもさせてみるか?」
翔兄ぃ、自分から墓穴掘ってるような。
「え、いいんですか!?」
「おう。美人さんにはサービスしないとな」
「おだてても、手加減はしませんよ?」
シャルは言い、受け取ったコルク銃を構え、構える。
というか、マジで本気になってるよこの子。
◇
「un(アン)」
まず猫のぬいぐるみゲット。
「deux(ドゥ)」
手提げバッグに当たったけどギリギリ倒れない。
「trois(トロワ)」
手提げバッグゲット。
「quatre(カトル)」
テレビの札に当たったけど倒れず。
「cinq(サンク)!」
最後の弾はデジカメに当たりゲット。
「……なあ聡里。彼女何者だ?」
「フランスの国家代表候補生。あと、僕のISトレーニングのパートナーの一人」
「なるほどな、通りで射撃姿勢が決まってると思ったぜ」
流石元プロ。今でも見てる所は見てるんだ。
「それじゃ次、僕行きますね。 あ、弾三発で行きます」
流石にこれ以上取ったら翔兄ぃに悪いでしょ。
「壱」
音楽プレイヤーに命中、ゲット。
「弐」
テレビの札を狙うが、ふらついただけで落とせない。
でも、おかしいな。やけにあの札、重そうだ。
……あー!
「あの札、鉄板で出来てる。そりゃ重いわけだ。でも……」
そう言い、僕は『ドンナー・オージェ』を起動。
ちょっとズルいけど、どっちもどっちかな。
「参!」
そしてそのテレビの札の一点、バランスが崩れるポイントを狙撃。
コルクは狙い通りに飛び、札を倒した。
◇
「お前ら、マジで商売人泣かせだよな……」
「そんなこと無いですよ。これでも手加減しましたからね。
もっともテレビは本気で狙わせていただきましたが?」
「ぐっ……。 えーい俺の負けだァい! 持ってけ、ドロボー!」
そう行ってそれぞれの賞品をいろいろ渡してくる。
なんだかんだ言って全部『それっぽい』物(IP○DならぬIP○Pとかね)じゃなくて
その賞品なのが翔兄ぃの良い所。
「ありがとうございます!」
「お、おう。 じゃあ、またいつかな」
翔兄ぃはシャルのお礼に照れつつ手を振ってくる。
そして僕らは翔兄ぃの屋台から離れ、また別の屋台を見た。
◇
「それにしても、ちょっとやりすぎたかな」
そういう僕の手には、小型テレビ(パソコンのウィンドウくらいのやつ)とバッグ。
バッグの中にはヨーヨーやらエアガンやら、縁日のお約束の景品が入っている。
「大きめのリュックで来て良かった。じゃないとあの変身ベルトは入らなかったよ」
「聡里、もしかしてああいうヒーローものって好きなの?」
シャルに聞かれ、僕はちょっと恥ずかしいけど答える。
「うん。昔からああいう特撮が好きでさ。最近のやつの変身ポーズは大抵できるよ」
と言い、某『マゼンタの通りすがり』のマネをしてみる。
「本当に好きなんだね」
「うん、あれは子供向け番組じゃなくて、人間ドラマだと思ってるよ。
……あ、そろそろ時間かな。それじゃ、一度神社に戻ろうか。
シャルに見せたいものがあるんだ」
とシャルの手を引き、篠ノ之神社へ戻った。
◇
「雪子さん、ちょっと荷物置いて行かせてもらいますね。
今年の『とっておきの場所その弐』にシャルと行って来ます」
「まあ、凄い大荷物ね。 今年もさすがね、聡里くん」
「いえ、そんな事は。それじゃ、行って来ます!」
そう言って再びシャルの手を取り、外へ出る僕らの後ろから
「二人とも~、花火の音に邪魔されないようにね~!」
という声に送られ、僕らは神社を後にした。
「聡里、どこに行くの?」
ああ、まだ説明してなかったんだっけ。
「これから花火があるんだけど、僕が見つけた特等席があるんだ。
ちょっとごめんね……っと」
「わ、わっ! 聡里、いきなりどうしたの!?」
僕がシャルを抱き上げたので、シャルはパニクったらしい。
「こっから、ちょっち普通じゃない移動の仕方するから、僕から手を離さないようにね」
そう言うとシャルを抱えたまま僕は飛び上がり、
神社横の塀の上、横の森の木でさらに多段ジャンプをし神社の屋根の上に上った。
「もう、聡里! いつもいきなりなんだから!
今度からこういうことする前に一言言ってよね!」
「あはは、ごめんごめん。 でも、ここからが一番いい眺めだよ。どう?」
僕の言葉で周りを見て、シャルは目を輝かせる。
「うん、ホントに綺麗! 凄いね!」
「実は僕も昔、暇な時とかにここから空を見たりしてたのを思い出したんだ。
それで、シャルを連れて来たんだよ」
その言葉を言った後、僕は意を決して、言いたいことを言う。
◇
「ねえ、シャル」
「何? 聡里」
ボクは聡里が声を掛けてきたから、そっちを見た。
そう言った聡里はの表情はすっごく真剣な顔だった。
「今日は、渡したいものがあるんだ」
聡里は言うと、ポケットから小さな箱を取り出した。
そして、それをボクに渡してくれる。
「開けてみて、シャル」
言われるままに中を見ると、そこには……
「指輪……それも、これ、カルティエの最新モデル!?」
「うん。 シャルが前、街中で声を掛けられてたから。
これをつけておけば、そんな事もなくなると思って」
ボクはその指輪を見る。
聡里の想いが詰まった指輪。
ボクと聡里の、繋がりの証。
ボクは……。
「ありがとう、聡里。 大切にするよ」
聡里にそう伝えて、ボクは『左手の薬指』に指輪を嵌めた。
◇
「……よかった。拒絶されたらどうしようかと思ってたよ」
「そんな事、するわけ無いじゃない。だってボクも聡里は大好きだもん!」
シャルはそう言って僕に飛びつき、キスをしてくる。
それを拒絶せず、僕も彼女を抱きしめ、キスに夢中になる。
ほんのりとりんご飴の甘さを感じ、その舌を絡ませる。
その時花火が空に大輪の花を咲かせ、僕らはその下で長い長いキスを求め合った。
◇
「……終わっちゃったね、花火」
「……そうだね、シャル」
僕にもたれかかっているシャルの肩を抱き、僕らは話す。
「そろそろ、戻ろうか?」
「ううん、ボクはもう少し、このままでいたいな」
「そう、だね。 それじゃ、もう少しだけ、このままで」
神社の屋根の上で、僕らは寄り添い、星を見る。
だが、こんな平和な時は続かないと、僕は自分に言い聞かせた。
僕は、『単なる普通の男子』ではないのだから……。
続く。