Infinite Stratos Another   作:来迎 秋良

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今回、聡里とシャルの仲が悪化。
そして、新キャラと、会長の妹が登場です。

それでは、どうぞ。


26:クローズ・ユア・ハート

「「死ね」」

千冬さんに良く似た織斑マドカと、

僕にそっくりな外見の『壱』という人物の銃弾が迫る。

だが、その銃弾は僕らには届かなかった。

 

「兄さん、大丈夫か!?」

「ラウラ、助かった!」

どうやら僕を探してくれていたらしいラウラが、

AICを使い銃弾を止めてくれたからだ。

 

「一夏、伏せろ!」

僕の叫びに反応し伏せた一夏の頭上を、ラウラが投げたナイフが飛びマドカへ。

そして僕も自身の拡張領域からナイフを取り出し、壱に飛び掛る。

 

「お前、もしかして、アダムタイプの正式型か?」

僕のナイフを頬に突きつけての質問に答えず、

壱はにやりと笑いながら腕を掴み、僕のナイフを奪い取り、僕に投げつける。

 

それを頬に掠めさせながら続いて繰り出した僕の蹴りは

全く同じ動きで蹴り返してきた壱の攻撃に受け止められ、

そしてまた同じモーションで体勢を立て直し向き合う。

 

「壱。 そろそろ時間切れだ」

先ほどラウラが投げたナイフを掌に突き刺してかわすという暴挙をしたエムが

壱に声を掛ける。

 

「あいよっと、エム。 じゃあな、出来損ない」

それだけ言うと、壱は懐からジュースのカンのようなものを取り出し

ピンを抜き、僕らに向かって投げつける。

 

「っ!? ラウラ、目つむって!」

僕が言うがすでに遅く、その缶……フラッシュバンが破裂し視界が奪われる。

そして視界が戻った頃には、織斑マドカも壱も居なかった。

 

 

「どうしたの、聡里!? 血が出てる!」

僕の顔の血を見たシャルが慌てて駆け寄ってくる。

僕はなんでもないと答え、血を拭うとまた、そこには傷がなかった。

 

「何があったか、ちゃんと教えてよ?」

「判ってる。 でも、今は一夏の誕生会を落ち着いて過ごさせてあげよう」

それだけ言い、僕は家の周りを警戒しつつパーティの続きを眺めた。

 

 

翌日。

暴走していたとはいえ学園に敵対する行動を取った僕は、

学園の懲罰室で謹慎処分を受けていた。

そしてお昼頃。 自身のシステムチェックをしていると、ドアをノックされた。

 

「入るわよ、聡里くん」

言いつつ入ってきた人物は盾無会長だった。

だが、どことなく様子がおかしい。

 

「こんにちは、会長。 僕の処分、決まりました?」

僕の質問に、微笑みつつ会長は返答してくれる。

 

「まだよ。 でも、貴方は世界でただ二人のIS操縦者だし、

 そうそう簡単に学園が手放すとは思えないわ。

 それに、貴方あの後で束博士経由で関係各国に謝罪文を提出してたんでしょ?

 各国の担当官が舌を巻いてたわよ、貴方の行動の早さに」

会長の言うとおり、僕はアメリカを始め、襲撃に関わってしまった各国に

謝罪文と、亡國機業の部隊構成データを送っていた。

まあ、それで罪が無くなるとは思ってないけれど。

 

「僕は皆に手を挙げちゃいましたから、これくらいは当然だと思います。

 それで、先輩は何の御用ですか?」

それを言われ、会長は再び挙動不審になる。

そしてしばらくすると、意を決したように会長は切り出す。

 

「その、お願い!」

彼女は、言いつつ両手を『ぱんっ!』と打ち合わせ、僕を拝んでくる。

 

「妹をお願いします!」

「……え?」

 

 

「……」

エムは、亡國機業の施設内にある自室で黙って右手の包帯を交換している。

ラウラのナイフを受け止めた時の右手の傷は、

すでに医療用ナノマシンによって塞がっていた。

 

そしてノックも無しに、スコールがずかずかと室内に侵入してきた。

 

「昨日の無断接触の件だけど、説明してもらえる?」

あくまで笑顔を崩さず問いかけるスコールを一瞥し、エムはふたたび包帯を巻く。

 

「あなたの任務はISの強奪。 あまり暴走するようなら……」

スコールが言った瞬間、ベッドサイドのテーブルが吹き飛び

同時にエムは壁に押し付けられていた。

その時、二人に声が掛けられる。

 

「……キャットファイトは終わったか? 上司さんよ」

「あら、イチ。 セッティングは終わったの?」

その質問を受け、壱は返答。

 

「ああ。 ……宵闇の形態移行時のデータの組み込み、成功したぜ。

 これで、オレのISもシフトできるらしいってさ。ま、どうにでもなるけどな」

言いつつ不敵に笑う壱に、スコールは苦笑する。

 

「自信たっぷりね。 ……じゃあエム、もう少し考えて行動してね。

 私も仕事に戻るわ」

それを言い、エムをベッドの上に放り投げスコールは部屋から出て行った。

 

 

「お邪魔します、四組ってここで合ってるよね?」

謹慎明けの朝、僕が四組の教室へ行くと中にいた女子たちが驚いていた。

 

「篠ノ之君! なんで四組に!?」

「うそっ、なんで聡里様が!?」

聡里『様』って……僕は一体どういう風に見られてるんだ?

 

「いや、ちょっと簪さんに用があって」

僕が言うと、集まって来ていた女子が一様に凍りつく。

そして彼女たちの視線を追うと、そこでは無言でキーボードを叩く、

眼鏡をかけた少女が居た。

 

「君が、簪さん? 初めまして。 僕は篠ノ之聡里です」

言いつつ一礼する僕を簪さんは一瞥、右手をわずかに上げるが、

すぐに降ろし作業に戻る。

 

「……私には、あなたを……殴る権利がある……。 でも、疲れるから、やらない……」

これは前途多難だな……。

 

「……用件は?」

簪さんに聞かれ、僕は返答する。

 

「いきなりで悪いけど、タッグマッチで僕と組んでくれないかな」

「イヤ」

即答ですか、そうですか……って、当たり前か。

僕自身の理由を一つ言おうかな。

 

「それと、謝罪に。 僕と一夏のせいで、打鉄弐式の完成が遅れてごめんなさい」

それを言うと、簪さんがこちらを睨んできた。

 

「……そう、たしかに、迷惑」

「それで、お手伝いしようと思って」

僕がそう言った瞬間、僕の頬で『ガッ』と鈍い音がした。

簪さんが僕の頬を叩いた音だ。しかし、彼女の方が驚いた表情をする。

なぜなら平手打ちされた僕は揺れもせず、叩いた感触も金属のようだったからだ。

 

「……あなた、は」

簪さんが言おうとした瞬間に、教室のチャイムが鳴り響く。

 

「あっと、時間切れか。 それじゃ、また。 いい返事を期待してるよ」

僕はそれだけ言って教室へ戻る。

簪さん、心を開いてくれるといいけど……。

 

 

その日の放課後。 僕はぶどうジュースと紅茶を持ってIS整備室へ行った。

理由は簡単で、簪さんが打鉄弐式の整備をしているからだ。

それで室内に入ろうとすると、丁度出てこようとした簪さんと鉢合わせした。

 

「「あ」」

簪さんは目線をそらし、出て行こうとした。

 

「あー、待ってまって! 簪さん!」

慌てて追いかけて、彼女に声をかける。

 

「……名前で、呼ばないで」

「それじゃ、更識さん?」

僕が言うとようやく立ち止まったけれど、こっちを睨んでくる。

 

「苗字でも、呼ばないで」

「んー、じゃあ……かんちゃん?」

その呼び方に一瞬驚き、いい加減うんざりしたのか、

溜息をついて歩き出す。

 

「私に……構わないで」

言われたけど、僕も理由があるから追いかけて、とりあえず聞く。

 

「でも、僕も飲み物二本もいらないからさ、どっちか貰ってよ。

 ぶどうジュースと紅茶、どっちが良い?」

「……じゃあ、ぶどうの方……」

「はい、どうぞ」

言って、僕は簪さんにジュースを手渡す。

その時、僕の手に触れてしまって、びくりと手を放す。

 

「どうしたの?」

「……なんでもない」

彼女ははっとして、僕の手の中からぶどうジュースの缶を奪い取る。

 

「おっとと……それで、タッグの事なんだけど」

僕が聞いたとき、簪さんから質問が来た。

 

「あの……貴方、何者?」

それを聞かれると思っていたので、僕は苦笑しつつ答える。

 

「やっぱり、『人間として』生活するには違和感あるのかな。 

 ……簪さんなら信用できそうだし、教えてあげる。 ちょっと見てて」

言いつつ、僕は腕の偽装……人間の外見を消し、本来の金属アームにしてみせる。

 

「え……」

「……見ての通り、だよ。 僕はISと人間が一体化した物なんだ。

 だから、君の無茶が気になって。……一人だけで、その子を組んでるんでしょ?」

そう言って、僕は彼女のクリスタルの指輪……待機形態の『打鉄弐式』を指差す。

 

「……でも、私もお姉ちゃんに勝つためには……」

彼女は言いかけて、はっとしたように口をつぐむ。

 

「お姉ちゃん……盾無先輩の事?」

僕に聞かれて、何かを吹っ切ったように、

そして自嘲するように彼女は自分の思いを話し始めた。

 

彼女は小さい頃から、姉である盾無と比べられて育ってきた。

何をしても完璧な姉と、いつもその後を追いかけるしかない妹。

その辛さは、小さい頃から束姉さんと比べられた僕にも、なんとなく判る。

と言っても、束姉さんと違って人当たりの良い性格も相まって、

さらに大変だろうけれど。

 

「……なるほどね」

「うん……。 だから、お姉ちゃんを越えるには、私もお姉ちゃんみたいに、

 専用機は自分一人で完成させないと……」

簪さんは、本当に口惜しそうに言う。

でも僕は、そんな彼女にちょっとした答えを言う。

 

「……でも、彼女も一人で組んだ訳ではないみたいだよ」

僕の質問に、はっと顔を上げて簪さんは僕のほうを見る。

 

「彼女も組んだ時、微調整とかを虚先輩とか、薫子先輩に頼んでたって聞くし」

「え、でも……」

簪さんは、何か信じたくない事を聞いたような顔をしていた。

 

「……簪さんは、本当にお姉さんの事が好きなんだね」

そう言って、さらに僕は続ける。

 

「お姉さんが完璧で、一人だけで何でもできるって本当に信じてる。

 でも、そんな人、居ないよ。 みんな、誰かと助け合ってるから。

 だから、僕はキミを助けたいんだ。 一人で無理、してるからね」

彼女はそれを聞いて、何かを考えたらしい。

 

「まあ、僕が言えるのはこれくらいかな? とりあえずはね。

 ……ああ、もうこんな時間か。 それじゃ、また明日。

 明日こそ、いい返事をもらえるように期待してるよ」

それだけ言って立ち上がり、僕は自室へ戻る。

 

簪さんは、後ろで悩みこんでいる。

……彼女が考えて答えを出さないと意味が無い。

じっくり考えると良いよ、簪さん。

 

 

「お姉ちゃん……」

簪は自室に戻り、アニメではなく特撮を見ていた。

悪の組織に改造された正義の味方に悪者が倒される、勧善懲悪物。

 

しかし目はそれを見ず、聡里に言われた言葉を考えていた。

 

(お姉ちゃんも、完璧じゃない?)

 

いつも私の一歩先を行って、完璧な姉も、手助けが無いとその『完璧』は無かった?

 

簪は、自分の中の姉の姿が、自分に手を差し伸べてくれたように思った。

そして、ふと気付いた。

 

テレビの中のヒーローと、彼女の知っている一人の男子がダブったことに。

 

(……あの人、みたいに)

 

簪が思い出す、一人の男子。

自分の体が他の人間と違う事を知りつつそれを受け入れ、

悲しげな笑顔で笑う、彼。

しかし、時々寂しそうにどこか遠くを見るような視線を虚空に投げかけている。

 

(……何を、見てるんだろう?)

 

彼女はその横顔を思い出し、すこし顔を火照らせ、胸に手を当てる。

 

(……ドキドキが、止まらない)

 

彼女は気付いていない。

彼女自身が彼に惹かれていることを。

 

そんな彼女とは関わり無く、画面の中のヒーローは去って行った。

 

 

「やっ、こんにちは、簪さん」

「……また、貴方?」

彼女と話した翌日のお昼。僕は食堂へ行く途中で簪さんを見つけ声をかけた。

 

「また僕だよ。 お昼ごはん、一緒させて貰うね」

「もう、確定?」

確定だよ、と頷いて、僕は素うどんを、簪さんはかき揚げうどんを選ぶ。

 

「……へぇ、簪さんはかき揚げをつゆにつけるんだね。

 ラウラはサクサクが好きだから、会ったらケンカになるかも」

「……ラウラさん? ドイツの?」

簪さんも知っていたらしい。 まあ、国家代表候補生だし、それでかな?

 

「そう、ラウラ。 普段は冷たいように見えるけど、良い子だよ。

 シャルと僕を兄妹のように慕ってくれているんだ」

僕が言って微笑むと、簪さんはすこしむくれて聞いてくる。

 

「シャル……?」

「うん。 シャルロット・デュノア。 ……僕の大切な女性(ひと)だよ」

僕の言葉で、簪さんはなぜかさらに気を悪くしたようで、

僕のうどんに七味とうがらしを一瓶ブッかけてきた。

 

「な、何するの簪さん!?」

「……別に」

「やれやれ……。 んー、それじゃいただきます」

僕は言ってしれっと真っ赤になったうどんを食べる。

平然と食べる僕に、逆に簪さんが驚いたらしかった。

 

「何で、平気で食べてるの?」

「え? 味覚をカットしてあるから」

言った僕に、また簪さんは申し訳なさそうな顔をする。

 

「……ごめんなさい」

「別に、良いよ。 でも、は、鼻に突き抜けてくる……」

鼻を押さえる僕を見て、簪さんは苦笑を返してきた。

と、丁度その時。

 

「うっ!?」

「……どうしたの?」

「いや、ちょっと寒気が……。 誰かにネタにされてるのかな」

 

 

聡里と簪が食堂で歓談をしている時。

遠くのテーブルでは一夏、箒、シャル、ラウラ、セシリア、鈴が

聡里たちの様子を見ていた。

 

「……楽しそうだな、聡里」

「そう、だな……」

「聡里……他の女の子とあんなに楽しそうに……」

「ね、姉さん。 顔が怖いぞ……」

「シャルロットさんって、こんなに嫉妬深かったのですね……」

「アイツの事だから心配無いと思うけど……何で?」

六人それぞれにつぶやいた中で、シャルだけ邪気が篭っていた。

 

「さとり、うわきは、じゅうざいだよ?」

「「「「「……」」」」」

黙り込んだ全員の気持ちを、一夏が代弁する。

 

「恋する女の嫉妬って怖ぇ……」

 

その直後、一夏が箒たちにじとっとした目で睨まれていたのは当たり前である。

 

 

「……であるからして、射撃戦の場合、相手の動きと自分の動き、

 エネルギー兵器の場合空気のゆらぎなど、様々な要素が関わり……」

午後の授業。教師の言葉も、簪の耳には殆ど入っていなかった。

元々専用機持ちに選抜されるほどの実力を持ち日々の訓練も怠らず、

さらに専用機を自分で組もうとするだけの知識もあるので問題は無いが、

彼女はその時、前日の続きを考えていた。

 

(……本当に、普通の人間じゃないんだ)

叩いた時、微動だにせずに受け止めた時、そして昼の、味覚カットをした、

そのときの聡里を思い出していた。

 

簪は、聡里の言葉も共に思い出していた。

 

『完璧な人なんて居ないよ』

言って微笑む聡里。 その後、言葉は続く。

 

『だから、僕はキミを助けたいんだ』

(私を? なんで?)

 

混乱する思考。

その中で、聡里は手を差し伸べてくる。

 

『普通の人間じゃない僕だけど、だからこそ手伝えると思うんだ』

(で、でも……)

 

自分で迷惑ではないのか。

その想いを見透かしたように聡里は微笑を返す。

 

『そんな事はないさ。 それに、僕もキミを手伝いたいからするんだ。

 ねえ、簪さん。 僕と、組んでくれないかな?』

言いつつ手を差し伸べる聡里。

その彼の手を取り、勢いごんでうなずく簪。

だが簪の目の前の『聡里』は消えず、ガッツポーズをしていた。

 

「……え?」

 

 

「いよっしゃぁ! オッケーって言ったよね!

 それじゃあ急いで申し込みしてこよう! もうすぐ締め切りだから!!」

僕はようやく簪さんに了承を貰ったのでテンションがハネ上がって、

簪さんの手を引いて職員室までダッシュする。

 

「え? ……あっ!」

簪さんはなぜかまた顔を真っ赤にして僕に引っ張られる。

そして多少無理やりだけど、タッグ申請の書類に一緒にサインをしてもらい、

どうにかタッグとして確定できた。

 

そして、第二整備室。

僕はまた簪さんを半ばひきずるようにしてつれてきていた。

 

「うわぁ……。 これは凄いね。 皆の活気が凄い。

 ダリル先輩のヘルハウンドとフォルテ先輩のコールドブラッド、

 それに……あ……」

そこに居たのは、シャル。

いつもは僕がメンテしていたけど、僕が簪さんに関わってばかりいるから

こちらでメンテすることにしていたらしい。

 

「……あの、シャル」

「何かな、篠ノ之くん」

「え……っと、こちらは更識簪さん。今回の僕のパートナーです」

僕の紹介で、シャルは簪さんを見る。

 

「へぇ、篠ノ之くんはボクと一緒にいるよりこの子と居たいんだ」

「ええっ!? そうじゃなくって、シャルも大事なんだけど……」

「……シャル『も』? そうなんだ……もういいよ」

それだけ言うと、僕を無視してラファールの方へ歩いていってしまう。

 

「シャル……。 やっぱり、僕じゃダメ、なのかな。

 ……それじゃ簪さん、キミのIS、見せて?」

僕はどうにか笑顔を取り繕って簪さんへ言う。

彼女は少し怪訝そうな顔をしていたけれど、

クリスタルの指輪を中指に嵌めた右手を胸元にあて、言う。

 

「おいで、『打鉄弐式』……」

そして彼女を灰色の光が包み、それが収まった時、

大型ブースターなどを装備し機動戦に特化した機体を纏っていた。

 

「……ふむ、成程ね。基礎は出来てるんだ。

 となると……実働データと武装?」

僕の質問を肯定する簪さん。

 

「そう……。 今のデータじゃ、実戦は無理……」

そういう彼女に、僕は聞く。

 

「それで、武装って? 僕の実働データが使えるかもしれない」

「えっと……マルチロックの高性能ミサイル。 それと、荷電粒子砲が、まだ……」

彼女の返答で、僕ははっと気付く。

 

「それなら、僕と一夏の機体のデータが使えるかも!

 マルチロックは甲夜の神楽の『覚醒』が使えるし、

 荷電粒子砲は一夏の『雪羅』が使えるよ!」

言いつつ僕は宵闇のマルチロックオンシステム『覚醒』と、

一夏の『雪羅・ハンドキャノンモード』のデータを呼び出す。

 

「えーっと……これだ! 簪さん、このデータを見て」

僕は言って、僕自身に内蔵されている空中投影スクリーンを起動、

左腕でデータを表示し、彼女に見せる。

 

「そう……こうすれば良かったの。 でも、この荷電粒子砲は、出力が強すぎ。

 もうちょっと、調整した方が良い……」

「やっぱり、そう思う? ……さて、と。

 それじゃ、簪さんのマルチロックシステム、作ってみようか」

言って僕は宵闇のオペレートシステムを起動。

そのまま作業しようとすると、一人の女子が乱入してきた。

 

「かーんちゃーん、さーとりーん」

「あ、のほほんさん」

「本音……」

ひょこっと僕らのところに来たのほほんさんは、

打鉄弐式のコンソールをひらいて勝手に調整する。

 

「機体調整手伝ってあげる~、えへへ~」

「あっ、やめて……あっ、あっ」

そんな二人の様子は微笑ましいけれど、ちょっと肝心なところからズレていたので止める。

 

「のほほんさん、そこじゃなくて、調整はPICの干渉域だと思うよ?

 まあ、そうだな……装甲のチェックでいいかな、簪さん?」

「う、うん……」

「は~い。 それじゃあ二人のおおせのままに~」

と、のほほんさんを言いくるめてどうにか作業を始める。

 

「それじゃ、始めるよ。 ……宵闇、シンキングリンクモード起動。

 並列思考用仮想領域、確保完了。 それじゃ、データこっちに回して。

 こっちで実働時の動作シミュレートして、問題があったら言うよ」

「わかった」

それから、僕らは黙々と作業する。

驚いたのは、簪さんが一気に十一個もの入力デバイスを使いこなしている事だった。

 

(へぇ、簪さんの情報処理能力って、実は僕を超えてるんじゃないかな……?)

 

作業中にそんな事を考えつつ彼女を眺めていた僕に、

彼女からデータが送られてくる。

 

「一応、できた。 基礎部分だけど……いける?」

「ん、やってみる」

僕は返事をして、空中投影ディスプレイを起動。

その空間の中に、打鉄弐式の3Dモデルを呼び出す。

 

「シミュレータープログラム、打鉄弐式へ接続完了。

 それじゃあとりあえず、基礎システムのチェックをしておこう」

言って、僕はシミュレートを開始する。

打鉄弐式は送られた擬似信号を受け、PICで浮遊したまま飛行体勢を取る。

そして、シールドとPICのエネルギーか干渉を起こし姿勢が不安定化。

 

「ここは……こう」

彼女は言いつつ、そのデータをリアルタイムで微調整していき、

仮想コースを一周した頃には飛行システムが完成していた。

 

 

「よし、お疲れ様、簪さん。 そろそろテスト、してみる?」

「……うん。 よろしく、お願いします」

彼女はいいつつぺこりと頭を下げる。

その彼女に笑いかけつつ、僕は確認する。

 

「それじゃ、目的は飛行テスト。場所は第六でいいかな。

 それでよければ使用許可取ってくるけど」

「うん……。 それで、できれば、並列飛行してサポートして欲しい……」

その言葉に『了解』と答え、僕はのほほんさんにもサポートを頼む。

 

彼女も快く引き受けてくれて、僕はとりあえず二人に先に行ってもらって、

ピットのスペースを片付けた後で合流することにした。

 

 

第六アリーナ。

超高速機動の訓練などに使われるこのアリーナの使用許可を取り、

僕は簪さんの隣に、宵闇を展開して並び立つ。

 

「簪さん、そっちの様子はどう?」

「ん……。調子は、良い……けど、あなたのIS、セカンドシフトしたって、聞いた」

彼女は僕の機体の形状が第一形態から変化していないのが不思議らしい。

 

「あー……。第二形態への移行システムは完成したんだけど、

 まだ僕にはその『変形』が完全には使いこなせなくて。

 今は一部分を展開するように使ってる。 これでも基礎性能は上がってるし」

言って僕はパッケージ『帝』を展開、情報支援モードを起動する。

 

「それじゃ、僕が先にコースを飛ぶから、

 コースをできるだけトレースしてみて。

 コースのデータはこっちから転送するから」

言って僕は宵闇の脚部装甲を展開、高機動状態へ。

 

そのまま学園の中央タワーへ向かって飛び、

ねじれたタワーにぶつからないように気をつけつつ

その周囲をらせん状に昇ってゆく。

 

そのコースを完璧にトレースしてきた簪さんに対して、

僕は急降下のテストを提案する。

 

それに同意した彼女は、すぐに姿勢を整え急降下動作に入る。

しかし、そんな彼女の打鉄弐式に、異常が起きていた。

 

(……ん?)

 

右足のブースターの噴射炎が『強すぎる』。

そして、右足のブースターは噴射に耐え切れず自壊、爆発した。

 

「「っ!?」」

 

簪さんは慌てて機体を立て直そうとするけれど、

爆発の時データに狂いが生じたのかシステムはエラーを吐き出している。

本来エラーが出たらそのまま予備回路に切り替わる筈が、切り替わらない。

 

(……そうか、開発途中だから予備システムがまだ無いんだ!)

 

エラーで機体を動かせないまま、

簪さんはタワーに向かって高速で接近してしまっている。

 

「くっそ、間に合えっ!!」

僕は、宵闇のバーニアを全開出力にし、彼女へと飛んだ。

 

 

(やっぱり、駄目なの……?)

 

打鉄弐式がエラーを起こし、タワーに叩きつけられると理解した時、簪は思った。

 

(やっぱり私は、手伝ってもらってもお姉ちゃんみたいに上手には出来ない。

 だから、無理したから、もうすぐ大怪我しちゃうんだ……)

 

マイナス思考に陥り、ごく短時間のはずが引き延ばされて感じる感覚を受け止める。

聡里も全力で来てくれているが、高機動型の打鉄弐式には追いつける距離ではなかった。

 

しかしぶつかる寸前。 簪が恐怖に身を縮めた時、聡里の姿がふっとかき消える。

直後、彼女の眼前で『黒い粒子』が渦を巻く。

 

黒い粒子の渦が収まった後、自分の動きが止まっている事に彼女は気付いた。

そして……聡里に抱きとめられている事も、同時に理解した。

 

「「……え?」」

簪と聡里は同時に疑問の声を上げ、それと同時に空中投影ディスプレイが展開。

そこに書いてあった文章を二人は見た。

 

「『PTS-AP00 ZERO Oneoff Ability:光輝流星 Create Complete』……?」

簪が呟いた時、宵闇の飛行ががくりと不安定になる。

そのまま地面に着地し簪を下ろすと同時に宵闇が展開解除……

具現維持限界を起こし、宵闇を纏っていた聡里は地面に倒れ伏した。

 

 

「……また倒れちゃった……」

僕が身を起こした場所は、医務室のベッドの上だった。

右に視線を移すと、簪さんがベッドに突っ伏して寝ていた。

 

「……無事だった、か。良かった」

その声を聞いてか、彼女はすっと眼を覚ます。

そして僕の顔を見て、涙目になって抱きついてきた。

 

「聡里さんっ!」

「わわっ、ちょっと簪さん、いきなり何!?」

僕はあわてて簪さんに声を掛ける。

 

「だ、だって……打鉄が墜落して、聡里さんが私を助けて、それで気を失って……!」

その台詞を聞いて、僕は苦笑い。 また他人に心配をかけちゃったよ。

 

「ごめんね、簪さん。 心配おかけしました」

言いつつ簪さんの頭をなでつつ、ふと入り口のほうを見て凍りつく。

そこには……氷の女王もビックリの冷たい笑顔をしたシャルが居たからだ。

 

「へぇ……そういうこと? ふーん……。

 最近ボクにかまってくれないのは、こういう事だったからなんだー」

「ち、違うよシャル!

 確かに簪さんの手伝いであんまりシャルと一緒に居る時間取れないけど……」

テンパっている僕を無視し、シャルはUターン。

冷ややかな台詞だけを置いていく。

 

「それじゃ、ボクは先に部屋に戻ってるね。

 聡里、まあ、適当に遊んでれば? ボクはどうでもいいんでしょ?」

「ちがっ……」

「じゃあね、聡里。 簪さんだっけ、とお幸せに」

それだけ言ってシャルは部屋を出る。

医務室には、凍りついた僕と状況が判っていない簪さんだけが残された。

 

続く。




シャルは嫉妬したら怖いと思う(多分)。

それと、聡里の新能力、単一能力も発揮されました。
宵闇のほうは、まだフルスペックではないです。

それでは、また次回。
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