ベルトレ短編
明日にもう一話投稿予定です。
※注意!!※
・シリアス
・悲恋
となります。苦手な方はブラウザバック推奨です。
『 拝啓
・・・・・・って畏まるのも今更よね。アンタと知り合ってもう10年近く経つんだし。でも、親しき仲にも礼儀ありというし、今までずっと書き続けてきたから、今回も付けておくことにしたわ。
・・・・・・今回で、手紙を書くのは最後になりそうだし、尚更、ね。
長くなりそうだし、先に本題を言うね。
アタシね、結婚することになったの。
びっくりした?いつもアンタには振り回されてばっかりだったから、この報告で少しくらいは度肝を抜けたかしら。
アタシ自身だって驚いてるのよ?緊張して、男の人と碌に話すこともできなかったアタシが、将来のパートナーと共に歩むことになったんだもの。
分類の上では、一応だけど政略結婚になるのかな。お婆様が1年間ほど前にお見合いの席を設けてくれて、ようやく今日世間に公表するんだ。
あ、政略結婚とは言ったけど、よく漫画やドラマにありそうな家繁栄のために無理矢理、っていうものではないわ。
メジロ家繁栄のため、っていう部分はあながち間違ってはいないけど、1年かけて何度も会って、話して、笑いあって、たまに喧嘩して、それでこの人とならやっていけるって思えたの。形式上ではあるけど、彼から正式に告白を受けたときは嬉しくて泣いちゃった。
ふふ、惚れた贔屓目っていうのも入っているけど、すっごく優しい人よ。カッコいいし、アンタと違って頓珍漢な行動をしないし、歯の浮くような恥ずかしいことも言わない。ほんと、アタシにはもったいないくらいの良い男性。
少女漫画にハマった時から、結婚にはずっと密かに憧れていたの。男嫌いなのに何を変なことを、って言われそうだけど、本当の話。突然現れた王子様に恋に落ちて、その人のことしか考えられなくなって、結婚式では永遠の誓いとともにキスをする・・・・・・ロマンチックな、文字通り漫画でしかありえないような展開。
ずっと思い描いていた憧れの結婚が、ようやく叶うの。お婆様は勿論、姉妹のみんなも祝福してくれた。
・・・・・・でもね、一つだけ予想外だったことがあるの。
もし結婚するのなら、アンタとだと思ってた。
今でも覚えているわ。トレセン学園でアンタとともに駆け抜けた日々を。
チーフトレーナーから紹介を受けた最初の出会い。あの時はまだサブトレーナーだったわね。その2か月後には正式な契約を結んで、デビュー戦に出て、クラシック、シニア、ドリームトロフィーリーグ・・・・・・あっという間の6年間だった。
レースだけじゃない。休日は2人で、色んなところに行ったね。ライバルとなるウマ娘のレースを見に行った後や、練習で使うシューズを購入した後の、そこそこ余った時間。素直になれなかったアタシと違って、アンタは本当に自然に、
『ん~・・・・・・この後の予定はないし、偶には遊びに行くか、ドーベル』
って誘ってくれた。その行先は、狙ったようにあたしが気になっていた映画や遊園地とかで。普段の会話の中で、不意にポロっと漏らしていた願望をアンタはしっかりと覚えてくれていた。
まだ時間もあるのは事実だし、仕方なく、って言い訳しながらアンタに付いていったけど、ごめん。本当は、すごくうれしかったんだ。
異性と二人きりで時間を潰すだなんて、憧れていたデートそのもので。嬉しさ恥ずかしさが混じって、そっけない態度しか取れなかった。
アンタが気づかずに、遊園地でカップル割チケットを使用していたと分かったときは叫んじゃったけど。でも、受付の人が特に気にする様子もなく処理していたって事は、普通に恋人同士に見えていたのかな。そうだったらいいな。
アタシを強いウマ娘にしてくれたトレーナー。アンタの隣にいた時、本当に幸せだった。このまま、永遠にこの時間が続けばいいなって思った。
・・・・・・ねえ、アンタが突然いなくなってから、もう3年経ったよ。
アタシね、卒業式にアンタに告白しようと決めていた。関係性がトレーナーと担当バから、1人の男と女に代わる日。
その日が近づくにつれて、心がどんどん騒ぎ始めたな。返事の内容が怖くて、恋人がいるかどうかも聞いてこなかった。
・・・・・・でも、その日が訪れる事はなかった。
卒業式の1週間前に、アンタは学園を去ったんだもの。
ねえ、トレーナー。その時のアタシの感情、分かる?普段通りにトレーナー室に向かって、珍しく不在だなと思いつつ持参した少女漫画を読んでいたら、突然たづなさんが入ってきてさ。
『ドーベルさん、さっそく今日から部屋の整理を始めますので申し訳ありませんが退出をお願いできますか?』
って言われたの。
何を言われているのか全く分からずに話の内容を質問し返して、そこで初めて知ったの。アンタが、前日付けでトレセン学園を退職していたことを。
昨日まで、全然そんな素振りを見せなかった。
アタシが何も知らなかったことを話したら、たづなさんも驚いていた。トレーナー本人からアタシに全部伝えておくからと言われていたと。全部どころか一言も、相談すらもなかった。
たった1日。それはアンタが行方をくらますのには十分すぎる時間だった。お婆様にも事情を説明して、メジロ家の力で捜索もしてくれた。でも、見つからなかった。
卒業式の日になっても、歳が一つ増えても、二つ増えても・・・・・・。
『立つ鳥跡を濁さず』って言うのかな。アンタが居なくなったタイミングは、トレセン学園側から見れば最適なタイミングだったみたい。担当バは卒業式を迎えるだけだし、この時期に辞めるトレーナーは少なくないそうだ。
でも、詰めが甘いよトレーナー。
アタシの心、ドロドロのぐちゃぐちゃになっちゃった。
涙が枯れるってこと、初めて知った。声が枯れるってこと、初めて経験した。失恋の痛みについて、漫画を読んでいてどんな感じなのか何となく想像はあった。でも、その想像の何十倍も、何百倍も苦しいものだった。
もう、一生分泣いたんじゃないかって思うくらい泣いた。こんなに苦しいのならいっその事、思い出を全部忘れたいと考えた時もあった。
でも、いくら泣いてもあんたとの思い出はちっとも流れなかった。
当然だよね。忘れられるはずないよ。一つ一つどれをとっても、掛け替えのないアタシだけの宝物。アンタの顔が、声が、ぬくもりが、心の奥にずっと残っている。
ライアンなんかは腕をまくって
「待ってて、ドーベル。こんなに貴女を泣かしたトレーナー、ぶん殴って引きずり連れてくるから」
と怒っていた。でも、その瞳にははっきりと、居なくなった彼を心配する色が浮かんでいた。結構顔を会わせる機会はあって、その中でライアンも、あんたの人となりを十二分に知ったからだと思う。
時間が経てば、傷は癒えるんじゃないかとも考えた。でも、違った。3年掛けても癒えたのは表面上だけ。ふとした拍子に、傷口は簡単に開くの。
・・・・・・たとえば今みたいに、アンタを想いながら手紙を書いているときとか、ね。
・・・・・・ねぇ。あたしの婚約会見、今日なんだ。メディアの人達もたくさん来るし、全国ニュースで中継される予定なの。
トレーナー。一度だけでいいの。もし、会見を見たのならアタシに連絡をしてほしいの。
5分だけでも、ううん、1分だけでもいい。
あの日結局伝えられなかった、あの日からずっと消えないままでいるこの想いを伝えたい。
・・・・・・そうすればきっと、アンタを諦めることが出来るから。
将来を誓った相手がいるっていうのに、早速ほかの男性(ひと)に告白しようとする、ロクデナシだって自覚している。
だから、こんなことをするのは最初で最後。
アタシ、メジロドーベルは、生涯においてアンタ以外に告白することはないでしょう。自分でも抑えきれないくらいの、楽しくて、苦しくて、甘酸っぱい、溺れるような初恋だったから。
叶わない恋なのだから、せめてあんたの手で摘み取ってよ。お願い。
・・・・・・ごめん、最後だってのに愚痴になっちゃったね。
トレーナー。多分届かない手紙だけど、言わせて。
アタシ、アンタに会えて本当に良かった。好き。好き。大好きだよ。アンタの事、絶対に忘れない。忘れられるはずがない。
・・・・・・ごめん。やっぱり会いたいよ。トレーナー・・・・・・。』
意識が覚醒する。
まず、視界に入るのは白い天井。殺風景な色を見て、変化を求めて身体を起こす。少し寝すぎたようで頭に若干の痛みを感じた。
窓を見ると、夕日が落ちかけているのが見て取れる。昨日ぐっすりと寝たのに、昼寝までおまけとなったらそりゃあ頭痛の一つもするよなと思いつつ、体を伸ばす。
見渡すと、見覚えのある殺風景な部屋。既視感がある、という事実に少しだけ安堵する。
本日の朝、白衣を纏った医師から言われた台詞を思い出す。・・・・・・きっと、毎朝毎朝同じ事を、俺に言い続けているのだろう。
ベットの横に備え付けられている机。その上に上がっているノートを手に取る。中身は、毎日俺が書いているという日記。
パラパラとめくるが、余りに代わり映えしない内容に苦笑する。せめてもう少しマシなの書いとけよ、と『うろ覚えとなった』昨日の俺に愚痴る。
贅沢にも個室をもらっているため、居心地は快適だ。俺、昔そんなに稼いでいたのかとも思ったし、日記を書き始めた日付を見ると、内心費用足りてるのかとも考える。
ただ、俺はここに来てから何度かこの質問を医師にしていたようで、朝の説明で入院費用に関しては一切心配しなくていいと言われている。覚えてなくてもセコさは本能レベルで刻まれているようである。
窓の外を見やると、離れた地表の一角に小さな花園があり、一面にユーカリの花が咲き誇っていた。その美しさに手を伸ばしかけるが、届くはずもないとすぐに降ろす。
自分が何者だったのか。と考えることはある。何せ、一日中やることがないのだ。起きて、メシ食って、寝るだけのスケジュール。きっと、毎日同じ考えに至ってはいるはずだ。
とはいえ、本日は既に日没が近い。難しいこと考えずに、頭空っぽにしてテレビでも見て・・・・・・まあ文字通り空っぽなんだけどな!ハハハ!!と自虐しつつリモコンを取り、電源を入れた。
適当にチャンネル回そうか、と考えて飛び込んできた映像に目が止まった。
速報、と大仰しいテロップとともに笑顔を見せている一組の男女。その片方であるウマ娘を見た瞬間、謎の既視感が脳内を走った。
『メジロドーベル、婚約発表』
その文字が、彼女の笑顔と共に映し出されていた。
お相手の男性共々、『初めて見た』人物である。それなのに、何故か初めてではないような、そんな不思議な感覚がまとわり付く。
(・・・・・・いや、こんな美人さんだったら、忘れようにも忘れられないはずなんだけどな)
頭をかしげながら、流れる映像から情報を読み取る。両人物とも家がかなりの名家であり、件のメジロドーベルに関しては学生時代、その家の名に恥じないレース成績を残したとのこと。
レース、と聞いて、不意に頭の中にレースの光景が流れる。それは、今見たメジロドーベルが緑と白を貴重とした服を身に纏い、大観衆の中で芝の上を駆ける姿。
空想、という言葉で片付けるには、やけにリアルな映像。
(・・・・・・何だ?俺は、彼女の事を知っているのか?)
と少しだけ考え・・・・・・バカバカしいと切り捨てた。
こんな美人さんと昔関わりがあったかもしれないなど、よくある都合の良い話である。生まれてからずっと、こんなお調子者の性格だったんだろうなと自分を笑い飛ばした。
再びテレビ映像を注視する。
名家出身、イケメンと美人さん。そして、時折見つめ合う二人の間には、画面越しにも確かな愛情を感じた。
「お似合いだな~」
と感心する。二人の背景を何一つ知らない俺ではあるが、きっとこの二人は末永く共に暮らすのだろうという予感があった。
(それならまあ、一つお祝いでもしときますか)
自己満足とは言え、お祝いくらいはしてもいいだろう。
微笑みながら報道陣の質問に対応する二人に、本心からの言葉を告げた。
「それじゃあお二人さん。末永くお幸せにな」
絶対に、会見中の二人には届かない祝福の言葉。それを言い終えた俺は、後ろ髪を引かれることなくチャンネルを変えた。
トレーナー……以前から記憶障害を自覚。ドーベルの思いに気付きつつも、この有様では幸せにできないと卒業式前に失踪を決意。
感想をいただきましたので補足。
純愛からシリアスまで様々なジャンルを執筆しておりますが、原則としてどの短編でも2人が結ばれるルートを一つは妄想……もとい用意しております。
今話では、この先トレーナーが記憶を取り戻してドーベルに会いに行き……その後なんやかんやあって、という感じです(アバウト)。
唯一、『消えない想い』だけは2人が結ばれるルートを考えずに執筆しました。今なお思い浮かびません。助けて。