お久しぶりです。
新シナリオのファンサを見て、ビビッと来てしまい超特急で執筆しました。いつかはゲーム復帰したいです。
・・・・・・明日即売会参加なのに何やってんだ俺、と反省はしていますが後悔はしていません。
いつも以上に短い上に、クオリティもすごくすごい(悪い意味で)です。ご容赦ください。
途中で頓挫してしまいましたが、純愛短編のプロット自体はあるので、いつか完成できればと考えております。
遠くから聞こえる、複数の掛け声。
空はすっかり暗くなっているが、練習場からは絶え間なくウマ娘やトレーナーの声と足音が聞こえてくる。
中央トレセン学園。全国に複数あるトレセンの頂点ということもあり、通常のトレーニング時間が過ぎても練習を続けるチーム、自主練に励むウマ娘が多い。
俺も追加トレーニングを考えたが、次のレースまで日程が空いていることから、必要以上に追い込む必要もないと判断し、既に切り上げている。
ミーティングを終え、現在は来週たづなさんに提出する予定のレポートをまとめている。
ソファに座って、眼の前のノートPC画面を向き合いながら資料作成を行っている……のだが、若干左腕が動かしづらい。
「なあ、ドーベル」
「……」
返事は返ってこなかった。もう一度、口を開く。
「……ドーベル」
「……何?」
少しばかり涼しさを感じるような声。それが、『すぐ横』から聞こえてきた。
そちらに顔を向けると、一人のウマ娘。冬用の制服に身を包み、そっぽを向いており表情は伺えず、しかし耳がピコピコと忙しなく動いている。
メジロドーベル。クールビューティーと称される、自慢の担当バである。
2人用のソファに俺と腰掛け、右手で俺の服の裾を掴んでいる。力が非常に強く、シワが残ったらどうしようかと不安に感じるが言葉には出さない。
長く艶のある尻尾は、これまた俺の左足に巻き付いており、ちょっとやそっとじゃ取れそうにない。
かれこれ1時間、彼女はこの体勢のままでいる。当然、自由を奪われている自分もだ。
「いや、改めて言うけどさ、このトレーニング、もう必要ないんじゃn」
「やだ」
提案の形で伝えようとした言葉が、門前払いされる。取り付く島もない即否定である。
あいも変わらずドーベルの顔は見えないが、その雰囲気から、俺の提案への明確な拒絶が感じ取れる。
小さくため息を吐き、パソコンと向かい合う。
先程出しかけた言葉、トレーニングというのはレース練習のことではない。
彼女と契約してから3年間、ずっと続けてきた『男慣れトレーニング』のことである。
幼少期の経験から人前、特に男性の前だと極度に緊張してしまうドーベル。
実力に関しては、前担当であるチーフトレーナーの指導もあって非常に高い能力を持っていたため、精神面が克服できれば一気に羽ばたける……そんな考えで、ドーベルと相談の末、このトレーニングを取り入れた。
取り入れた、と仰々しく言ったが内容はいたってシンプル。彼女の都合の良い時間帯に、俺の近くにいるというものである。
一見何の意味があるのかと思うかもしれないが、これだけでも彼女にとっては結構なストレスになる。
最初は10秒も持たなかったけれど、30秒、1分……と徐々に伸びていき、3年目には俺相手なら30分ほど近くにいられるようになった。
実際、効果は覿面だ。顕著となった例が、先月開催されたG1レース、エリザベス女王杯である。
ティアラ路線を駆け抜けてきたウマ娘にとって、一つの集大成となるレース。新進気鋭のクラシック級、経験豊富なシニア級がひしめく舞台で、栄冠を手にしたのがドーベルだった。
レース内容も語りたいことは山ほどあるが、今回話したいのはレース後のファンサービスのことだ。
ターフから離れる際、一着(あるいは入着)となったウマ娘は、最前列の観客と触れ合う距離まで近づき、サインやタッチを行うことが推奨されている。
推奨と書かれてはいるが、応援を送ってくれる観客、ファンあってこそのレースのため、最近はほぼほぼ義務化扱いだ。
この時、まずい対応を見せれば、折角応援に来てくれたファンを失望させてしまう事となる。何度も続けば、最悪の場合学園全体の評判に影響を与えかねない。
トゥインクルシリーズに入る前のドーベルは、まさにこの危惧に当てはまるようなウマ娘だった。
大勢の観客の前では、極度に緊張してしまう彼女。男性を特に苦手としているが、女性相手でもある程度はマシというだけで、普通からは程遠いぎごちない態度、挙動をしてしまう。
それを克服するためのトレーニングを長年続けていたが、それが功を奏し、エリザベス女王杯では一着のウマ娘に相応しい対応を見せた。
自ら観客に笑顔で近づき、特に苦手とする男性相手にも笑みを浮かべたままサインに応じる。去り際に振り返り、優雅に微笑む姿は見返り美人そのものだった。
その美しい姿に魅了される人が続出し、メディアやSNSなどで大いに話題となったのも記憶に新しい。
ともかく、契約当初の状態が嘘のような変貌ぶりに、俺もこっそりと涙を流した。
今までの努力は無駄ではなかったという喜びと、これでもうトレーニングは続けなくても良いなという安堵である。
日々の男慣れトレーニングは、ドーベルにとってもかなりの負担となっていたはずだ。立派にファンサを全うできたので、彼女の重りとなるものは取り除こうと思ったのだ。
レースの余韻も落ち着いた数日後、トレーナー室で俺は明るい口調で伝えたのだ。
『ドーベル。レース後のファンサ、とても良かったぞ。あれだけ出来るなら、もう克服できたと言っていいと思っている。君にとって負担になっている男慣れトレーニングは終了としよう』
……で、1ヶ月後がこれである。
「……」
終始無言のドーベル。あの日から、彼女は平日のトレーニング後は必ずこのような行動をするようになった。
ほぼほぼ触れ合うような距離に並んで座り、服を掴み、尻尾を俺の足に何重にも絡ませてくる。
時間も、今までの日ではなく1時間なんてザラだ。
明らかに、今までより距離が近い。態度こそいつもどおりではあるが、流石に普通ではない。
こちらから何度か提案の形で離れさせようとしても、無視されるか拒否されるかの二択である。
(どうしたもんか……)
と思いつつも現状打開策は見えない。
力では叶わず、説得もうまくいかず。
彼女の心境を読むことが出来ず、推測するにも材料が足りない。
仕方なく、多少の不便を感じつつもパソコンのモニターと向き合うことに決めた。
願わくば、今の状況がドーベルにとって負担になっていないことを……。
『……バカ』
微かに、隣からそんな言葉が聞こえた気がした。
続編あるかも