私だけのトレーナー   作:青い隕石

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『あなただけに見せる姿』(トレーナー×メジロドーベル)のおまけになります。




おやすみコマンド~充電日~ 

 突然だが、中央トレセン学園の一日は長い。

 

 日本で最もレベルの高いトレセン学園ということもあって、平日は朝から晩まで休まる暇がない。

 

 早朝、始業前から開放される運動場・練習場で汗を流すウマ娘の姿が一定数見受けられる。個人で走る者、チーム単位で練習に打ち込む者、様々だ。毎日打ち込むほど熱心なウマ娘は稀だが、週に1回以上取り組む者まで含めればかなりの割合を占める。1大レース前ともなれば、その数は更に増える。

 

 その後身体を冷まし、朝食を取ったら授業が始まる。レース関連の座学は勿論、一般科目のカリキュラムも余すことなく時間割を埋めている。ウマ娘とはいえ学生の本分は勉学であるため、定期試験で芳しくない成績を取った生徒には補修という名の監禁が待っている。

 

 ・・・・・・定期試験後、毎回のように補修室に引きずり込まれる同室のウマ娘については、深くは触れないでおく。あえて1つアドバイスするなら、授業中は寝ないほうがいい。

 

 授業が終わると、ようやくレースへ向けての練習時間となる。トレーナーの指示に従い基礎練習や模擬レースを時間の許す限り続ける。敷地内で打ち込むもの、敷地外で安全に気を配りつつ走り込むもの、様々だ。

 

 練習が終わればトレーナーとのミーティングの後、夕食をとって自由時間となる。ただし、ほんとうの意味で自由になれる時間は少ない。

 

 先程も触れた通り、一般科目に加えてレース座学も学ばなければいけないのだが、当然ながら期間は中等部3年間、高等部3年間と一般学校と変わらない。それでいて座学も追加されるので、必然的に授業スピードは早くなる。余程の天才、秀才でなければ授業時間外で予習復習しないとすぐに弊害が出る。

 

 寮の自室や学園の自習室で勉学に時間を費やした後は、道具の手入れもしなければいけない。蹄鉄シューズは勿論だが、寮生活なのでトレーニングで着るジャージの洗濯など細かい作業も必要となる。

 

 すべて終われば、とっくに日は沈み月の光が地を照らす時間帯。翌日に支障をきたしてはいけないため、早めに就寝することとなる。

 

 

 

 ・・・・・・ここまで一気に説明したが、まどろっこしいので一言に要約する。

 

 つまり、平日は『トレーナーに甘える時間が非常に取りづらい』のだ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレセン学園の近場にあるマンションの一室。その扉の前に私は来ていた。

 

 人の足だと学園までだいたい徒歩10分。トレーナーとなった人は敷地内のトレーナー寮に入る場合が多いのだが、近場のアパートやマンションに住居を構える者もいる。その場合は学園から家賃補助が出るとはいえ、寮に住まえば補助どころかタダなためあくまで少数ではある。

 

 『折角都会で就職したからさ、気分だけでも一人暮らしを楽しみたかったんだ』

 

 というのが私のトレーナーの弁だ。寮とマンションでそんなに変わるものかと思っていたけど、彼が満足しているのならば深く聞かなくてもいいだろう。

 

 ・・・・・・それに、私にとっても非常に都合がいいし。

 

 チャイムを1回鳴らす。そんなに時間が経たないうちに、鍵が開く音と共に扉が開いた。

 

 「おはようトレーナー」

 

 「おはよ、ドーベル」

 

 短い挨拶を交わし、するりと室内に入る。鍵を掛け、小さく一息。

 

 「ドーベル、暑かっただろ。何か飲む・・・・・・」

 

 「いらない」

 

 トレーナーの言葉を遮って、ギュッと彼の服を掴む。まだ朝半ば、これから時間はたっぷりあるのだけれど、それでも我慢できない。

 

 上目遣いでトレーナーを見上げると、苦笑した彼に連れられて居間に足を進めた。

 

 トレーナー室に負けず劣らずの殺風景な部屋。多く用意してもどうせ使わないからいつよう最小限のものでいい、と言っていたがせめてテレビくらいは買ったほうがいいのではと思う。

 

 前に来たときに聞いてみたのだが、

 

 「いやあ・・・・・・見たいものっつっても野球や相撲、後はレースくらいだし。今だと全部ネットで見れるし、俺は必要性を感じないんだよなあ」

 

 と頭をかきながらやんわりと断られた。野球が好きだということでマックイーンのことを話そうと思ったけど、何か胸がムカムカして結局取りやめた。

 

 トレーナーが先にソファに仰向けに寝る。

 

 「ほらドーべ、・・・・・・っと」

 

 名前を言われる前に身体が動く。もう、待ちきれなかった。ぽす、っと音を立ててトレーナーに飛び込んだ。

 

 ・・・・・・2日ぶりの感触が、匂いが、私の五感を支配する。

 

 「えへへ・・・・・・」

 

 彼の胸板に顔を乗せ、体を預けた。トレーナーが私の頭と背中を優しく撫でながら、抱きしめてくれる。大きな手が動く度、撫でられた場所がぽかぽかと暖かくなるのを感じた。

 

 

 

 休日にトレーナーの家にお邪魔するようになった理由は、私の失態によるものだ。

 

 先程述べた通り、平日はやることが多すぎてなかなか2人だけの時間を確保することが出来ない。一日最長でも30分取れればいい方で、レース前となれば1週間我慢しなければいけない時もあった。

 

 少しだけでもと思ったけど、一度抱きついてしまうと歯止めが効かなくなる。結果、泣く泣くミーティングが終わってすぐにトレーナー室を退出する日も多かった。

 

 そんな日常の中で、どうしても自分の感情を抑えられなくなった時があった。トレーナーに抱きしめてもらいたい。撫でてもらいたい。欲望が留めることが出来ず、数日間食事や勉学、道具の手入れの時間を削って甘えてしまった。

 

 トレーナーも、私が連日長時間甘えていたことである程度予測はしていたのだろう。練習前、突然蹄鉄シューズを確認したいと言われた。毎日使用しているため、数日間とはいえロクに手入れをしていなければすぐにバレる。

 

 結果、トレーナーにこっぴどく叱られた。その日の練習は中止となり、トレーナー室でみっちりと説教をもらう事となった。手入れを怠った道具で万が一怪我をしてしまったらどうするんだ・・・・・・トレーナーの言葉に私は何も返せなかった。

 

 嫌われたのかもしれない。失望されたのかもしれない。泣きそうになった私は、次の瞬間トレーナーに抱き寄せられていた。

 

 「・・・・・・すまん。思えば俺も、恋人らしいことをあまり出来てなかった。一緒にいれる時間を、もっと増やすべきだった」

 

 私の我儘でこんな事になったのに、トレーナーはいつもより優しい手付きで頭を撫でてくれた。謝らなければいけないのに、私はされるがままに身を任せてしまう。

 

 私が落ち着いてから、改めて話し合いをした。叱られた手前気が引けたが、トレーナーにありのままの気持ちを言ってほしいと言われたため、思い切ってもっと一緒の時間を増やしてほしいと申し出た。

 

 私の言葉を受け、彼は一旦考える素振りを見せる。その後、一つの案を出してくれた。

 

 「それならドーベル。1ヶ月に1~2回ほどでいいならの話だが・・・・・・」

 

 

 

 と、言う流れで今につながる。平日は今まで通り、勉学やトレーニングに費やし、どうしても我慢できなくなった時は休日思う存分甘える。

 

 そう、文字通り一日を掛けて、足りなくなっていた充電をする。今みたいにソファの上で横になった体勢のまま抱き合ったり、キスしたり・・・・・・とにかく自分の欲求に任せて行動を取っている。

 

 大体は自分がトレーナの上に乗っている。一度だけ私が下になって、今トレーナーにされているみたいに、私の胸に抱いたことがある。きっと、トレーナーの耳に私の心臓の高鳴りが届いていたはずだ。

 

 抱きしめたトレーナーの身体が暖かかったのを覚えている。もう一度味わいたいのだけれど、恥ずかしかったのかあれ以来トレーナーからNGを言い渡された。・・・・・・またしたい。そこそこ胸はある方だと思うんだけどなあ。

 

 「んっ・・・・・・」

 

 抱きしめられる力が強まった。クーラーの効いた部屋の中、私の身体は暖かくなったまま治らない。お互い薄着だからか、より感触がダイレクトに伝わってくる。

 

 でも、足りない。もっとトレーナーに甘えたい。愛されたい。

グリグリとマーキングをしながら、そんなことを考える。

 

 ・・・・・・そんな思考を読んでいたのか、不意に背中を撫でてくれている手が離れた。

 

 疑問に思ったときには、もう遅い。

 

 「ひゃっ・・・・・・」

  

 思わず、声が出てしまった。ぽふっ、という軽い衝撃の後、さわさわとくすぐったくなるような感触。

 

 弱点の一つである耳。そこに、トレーナーの手が何度も這う。

 

 時には撫でられるように、時には押されるように、時には揉まれるように・・・・・・

 

 (ダメ・・・・・・幸せ、すぎる・・・・・・・)

 

 目を閉じ、一層彼に身を引き寄せる。

 

 彼に身を預けて、頭を撫でられて、抱きしめられて、彼の匂いや感触に包まれながら耳に意地悪をされる。一度この幸せを知ってしまったら、もう戻れない。戻りたくない。

 

 こんなに幸福でいいのかな?と思うときもある。でも、遠慮する気なんて欠片もない。

 

 とくん、とくんと彼の鼓動が伝わってくる。最初抱き合ったときよりも、その間隔が狭くなっていた。この行為に、彼もドキドキしてくれている。その事実が、嬉しかった。

 

 「とれーなぁ・・・・・・」

 

 甘えるように彼を呼ぶ。私の声に反応したのか、ぎゅっと耳を摘まれてまた声が漏れる。痛くないように調整してくれるため、耳がずっと幸せなままだ。・・・・・・もう少し、強くしてほしいという思いもあるけど、まだちょっと言う勇気がない。

 

 (でも、いつかはしてほしいな・・・・・・)

 

 時刻はまだ、朝とも昼とも呼べぬ時間帯。

 

 今日一日、どれだけ愛してもらえるのかを想像し、頬を赤らめながら彼を抱きしめる力を強めた。

 

 





マンハッタンカフェ短編執筆中。年内に投稿できるよう頑張ります
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