私だけのトレーナー   作:青い隕石

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ターボの口調が迷子。

性格改変もの難しい・・・。


この気持ちからは、逃げたくない(2)

 レース後半、前を進むウマ娘との距離がどんどんと縮まっていく。

 

 ここだ、このタイミングだ。思うより先に身体が反応する。トレーナーさんからも褒められた加速力とスピード。後方にいた自分と、前方のバ群との差はもうわずかだ。

 

 最終コーナーから直線に入る。このままバ群のすぐ脇を抜けられれば、勝てる。

 

 勝てるんだ。今まで一度も獲れなかった勝利を掴むことが出来る。あれだけ望んだ1勝をあげることが出来る。

 

 近づいて、近づいて・・・・・・ 

 

 その脚力を、スピードを間近で実感して・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、ターボは・・・・・・また逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ターボちゃん、諦めるのは早いわ。一度落ち着いて、それから考えても・・・」

 

 「・・・・・・ごめん、トレーナーさん。もう、ターボが決めたことだから」

 

 広いトレーナー室。おしゃれな雰囲気を感じさせるその部屋今、重い空気が漂っている。いるのはターボとトレーナーさん。自分が持ってきた一枚の書類、『契約解除願』を強引にトレーナーさんに渡した所だ。

 

 中央トレセン学園でも名の通ったベテランの女性トレーナーさん。部屋の隅にあるショーケースの中には、たくさんのG1トロフィーが飾られている。重賞すべてを含めるとなると、とてもこの部屋には収まりきらないだろう。そしてそこに、自分の名前が刻まれたものはない。

 

 10人以上いるチームの中で、勝てていないのはターボだけ。先輩はGⅠの常連だし、一緒に入った同期の子もつい先日GⅢレースで1位を勝ち取った。スタートラインが同じだっただけで、今ではとても手の届かないところまで行ってしまった。

 

 そもそも、未勝利の自分はまだスタートラインにすら立てていないのかもしれない。

 

 トレーナーさんと契約を結んで9ヶ月。年明けまで付き添ってくれたのだ。優しいトレーナーさんのことだ、自分から言い出さなければきっとこの先も私のために頑張ってくれる。

 

 それだけは避けたかった。自分にかかりきりのせいで他のチームメンバーへの対応が疎かになり、レースでの勝利を逃してしまったとなるのが怖かった。

 

 何度も引き止めてくれたトレーナーさん。でも、ターボの意思が固いのを察したのか、最終的には受け取ってくれた。

 

 「・・・・・・ごめんなさい。ターボちゃん・・・・・・」

 

 頭を下げるトレーナーさん。悪いのはターボなのに、最後の最後まで気にかけてくれた。それが嬉しく、同時に申し訳なくなった。

 

 最後のあいさつをして、部屋を出る。もう、この場所に戻ることはない。1月だからだろうか、胸のあたりが冷たくなったように感じた。

 

 沈んだ気持ちで食堂に入る。今日の夕食はターボの大好物であるハンバーグ。それなのに、心は全然晴れなかった。いつもならお皿いっぱいに盛り付けているのに、食欲が湧かない。通常の量を頼むと、食堂のおばさんに心配されてしまった。笑ってごまかし、空いている席に座る。

 

 手を合わせた後、一口食べる。おいしい。おいしいけれど、いつもみたいにがっつくような食べ方をすることができない。

 

 手を止めると浮かんでくるのは先日のレース。勝てたはずなのに、掴み取れなかった。最後の最後で、また『自分』から逃げてしまった。

 

 自分に勝てないウマ娘が、他人に勝てるはずがない。そういう意味では、敗北という結果は当たり前だったのかもしれない。

 

 考えから逃げるように、再びハンバーグを口に運ぶ。もそもそと噛みながら、ため息をつく。

 

 これからどうなるかは前に調べたから分かっている。教官の下について、特訓を行う。その後、模擬レースや本番のレースに出走してトレーナーからのスカウトを待つ。明日には今のトレーナーさんとの契約が切れるから、早速練習が始まるだろう。

 

 今のターボをスカウトしてくれる人がいるのか、そこが一番の問題だ。もうすぐ進級という時期に選抜レースも含めて未勝利のウマ娘を求めてくれるトレーナーはいない。だからこそ、どんなレースでもいいから結果を残さないといけない。

 

 量が少なかったからか、時間を掛けずに食べ終わったので食器を戻す。

 

 「やらなくちゃ・・・・・・うん、やらなきゃ!」

 

 食堂を出て、一度自分を鼓舞する。

 

 トレセン学園に入って分かったこと。多分ターボは、レースを走るウマ娘として一番ダメな欠点を抱えている。トレーナーさんも尽力してくれたけど、結局治すことはできなかった。

 

 それでも、それでも諦めたくはない。だって、自分の気持ちにだけは、嘘を付けないから。

 

 

 

 「君がツインターボかな?」

 

 彼と出会ったのは、初めての模擬レースが終わったあとだった。

 

 最初は、声を掛ける相手を間違えているのではないかと思った。だって彼は、私をスカウトしたいと言ってきたのだ。それ自体はターボも望んでいることだけど。

 

 1ヶ月教官の指示を受けながら練習に取り組み、挑戦した今回のレース。ターボの順位は9着だった。下から数えた方が早い順位であり、見せ場もなかった。

 

 他の子と間違えているのかもしれないと思い、正直に話す。勘違いから契約を結んで後からそれに気づいたら、ターボにも彼にも良くない。

 

 「違うよ。他のウマ娘じゃない、君との契約を考えているんだ。ツインターボ」

 

 ・・・・・・だからこそ、彼の言葉にはびっくりした。

 

  彼はしっかりとした口調で、スカウトの理由を語ってくれた。

 

 『レース終盤の加速力と追い込みに魅せられた』

 

 その言葉は、前のトレーナーさんも褒めてくれた取り柄。競合チームの中にいた落ちこぼれのターボが、唯一自信を持って自慢できる武器。

 

 それを、また見つけてくれた。あの一回の模擬レースで、目立たなかった自分に目を向けてくれた。

 

 嬉しくなり、すぐに契約を結ぶ意思を伝えた。自分で決めた道とはいえ、トレーナーさんがいない状態は心細く感じる気持ちがあったのだ。

 

 それと同時に、やらなければいけないことがある。前のトレーナーさんと契約を解除した理由は、トレーナーさんに、チームに迷惑をかけないため。

 

 だからこそ、今から契約を結ぶトレーナーさんにも迷惑をかけるわけには行かない。自分を評価してくれたのだから、ターボは自分の実力を全て打ち明ける必要がある。

 ・・・・・・早めに、伝えないといけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツインターボと契約を締結した2日後。俺は・・・訂正、俺達は第三運動場に足を運んでいた。

 

 お互いに簡単な自己紹介を終えた後、まずは彼女の実力を見たいと思い早速トレーニングに移ることになったのだ。

 

 ランニングからの基礎トレーニングを経て、最後にレースを想定したタイム測定。幸いあまり人、ウマ娘がいなかったため純粋な測定を行うことができた。

 

 出来たのだが・・・・・・

 

 

 「・・・・・・マジか」

 

 

 タイムウォッチを握る俺の手は微かに震えていた。

 トレーナーとして失格なのだが、心のどこかで『年度末の時点で担当トレーナーがいなかったことで、ツインターボは学年平均よりも能力が低い』と考えてしまっていたのだ。

 

 今俺は、その認識が間違っていたことを実感している。

 

 2000mを駆け抜け、現在はターフに座って休憩を取っているツインターボをちらっと見る。本番さながらの走行だったためラストスパートもしたのだが、あまり息が上がっているようには見えない。

 

 その状態での、この結果だ。

 

 「・・・・・・これ、オープン戦どころの話じゃねーぞ」

 

 もう一度タイムを確認するが、表示されている数値に変わりはない。

 

 はっきり言おう。このタイムを本番で出すことが出来るのなら、彼女は重賞レースの常連になれる。

 

 それくらい、ツインターボは『速かった』。俺が三年間担当してきたウマ娘とツインターボが今走ったら、正直どちらが勝つか分からない。G1レースに出場した程の実力があるにも関わらずだ。

 

 学年平均とかそんな次元の話じゃない。若手の俺なんかが担当してもいいのかと迷うほどの逸材だ。

 

 そっと脇に抱えていた紙の資料を開く。昨日、たづなさんからもらったものだ。そこにはツインターボの詳細なデータがびっしりと書かれていた。

 

 彼女は最近までとあるチームに所属していたこと。そのチームトレーナーは、学園内でも屈指の名トレーナーであること。

  

 そして、デビューから今まで一度も勝てなかったこと。

 

 彼女の実力を見たら、あの強豪チームに所属していてもなんら不思議ではない。と同時に、未だ未勝利ということが謎である。

 

 ツインターボが出走していたレースは、未勝利バ戦、プレオープン戦、オープン戦で固められている。これだけのタイムを出せるのであれば、全戦全勝していてもなんらおかしくはない。

 

 健康診断の結果を確認しても異常なし。どこかに故障を抱えているわけでも、痛みをかばっているわけでもない。

 

 だとすれば・・・・・・

 

 「そういえばトレーナーさん。タイムはどうだった?」

 

 思考に浸っていると、休憩を終えたのかツインターボが近くまで来ていた。体力を残して走っていたとはいえ、既に息が整っている。

 

 あれだけのトップスピード、加速力を持っており、スタミナも平均以上はありそうだ。何より、模擬レースでも見た終盤の追い込みは驚異の一言である。

 

 ストップウォッチに表示されたタイムを見せると、彼女は満足そうな表情になった。

 

 「ん。良かった」

 

 「普段からこれだけ走れているのか?」

 

 「トレーニングの時はそうかな。流石にこれだけの記録となると、調子がいい時限定だけど」

 

 小さな背をぐぐっと伸ばし、身体をほぐしながら答えるツインターボ。淡々と話しているが、いくら絶好調のときでもこのタイムはそうそう出せるものではない。

 

 「トレーナーさん。考えが顔に出てる」

 

 はっと彼女を見る。発言した彼女は、少しバツの悪そうな表情をしていた。

 

 「・・・・・・結構、他の人やウマ娘に言われてきたから。『それだけ早く走れるのに、なんで勝てないの?』って。そういう表情、分かるようになっちゃった」

 

 あはは、と誤魔化すように笑う彼女は無理をしているようには見えなかった。何も感じていないはずがない。あるいは・・・・・・もう慣れてしまったのか。

 

 「・・・・・・すまない、ツインターボ。嫌な思いをさせてしまって・・・・・・」

 

 「も~、謝ることなんてないよ。勝てないのは事実なんだから・・・・・・。でさ、一つお願いがあるんだ」

 

 「何だ?言ってみてくれ。」

 

 「・・・・・・どんなレースでもいいから、一番近い時期のレースにターボを出してほしいんだ」

 

 「・・・・・・は?」

 

 あまりにも急な展開に変な声が漏れる。俺が内心思っていたことを悟られたと思ったら、今度はレース出走のお願いだ。話の道筋がつながっていない。

 

 しかし、彼女の表情は冗談を言っているようには見えなかった。ぎゅっと手を握り、真っ直ぐに自分を見つめている。

 

 一つの覚悟を決めたように、ツインターボは再び口を開いた。

 

 「多分、言葉で説明するより、見てもらったほうが伝わると思うから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツインターボから頼まれたレース出走登録。これ自体はすぐに手続きを済ませることが出来た。

 

 中央トレセン学園の場合、重賞レースは別だが、オープン戦までなら直前の申込みにも対応してくれることが多い。

 

 たづなさんに掛け合った所、翌週末のプレオープン戦であれば枠が空いているため出走が可能だとの連絡を受けたのだ。ツインターボにもう一度確認をとった後、申請を行った。

 

 レースまでの10日間はトレーニングに費やした。様々な練習を行う中で坂道や下り坂は若干苦手だと判明したが、それでも弱点になるというほどではない。

 

 レース当日。俺は観客席の最前列からターフを眺めていた。観客の入りもそれなり。天候も良好。レース条件は良好である。

 

 (普通なら、問題なく勝利できるはずなんだ)

 

 トレーニング中の彼女の走りを見る度、その思いが心を支配する。レースの調整をするのであれば1ヶ月は時間が欲しかったが、彼女自身がやる気だったため負担がかからない程度に急ピッチで進めた。短期間でのやりくりになったとはいえ、仕上がりも上々だ。

 

 早めにゲートの中に入った彼女は、深呼吸をして心を落ち付けているように見える。目を閉じ、何度も息を吸っては吐いていた。

 

 ・・・・・・7戦0勝。入賞は1度のみ。それがツインターボの成績だ。あれだけのポテンシャルを持っていながら未勝利であること。そして、模擬レースの時に見た、あの失速。

 

 一つ。一つではあるが、ツインターボというウマ娘が何故勝てないのかの仮説が思い浮かんだ。 

 

 もし、その仮説が当たっているのであれば・・・・・・

 

 その想像を遮るように、聞き慣れた大きい音が鳴った。

 

 ゲートが開いた音。2000mのレースが始まったのだ。

 

 ツインターボはやや出遅れ、その流れで集団から少し下がった所に展開している。

 

 観客の歓声を背に受けながら走る、11人のウマ娘達。ゼッケン姿の彼女たちを名前で呼ぶ観客はまばらだ。まだそこまで知名度がないため、知人や数少ないファンくらいにしか知られていないためだ。

 

 それでもレースで勝利を積み重ねていけばその数は増えていく。いつか、満員の会場で万雷の拍手と歓声を受けて走る自分の姿を夢見て、彼女たちは目の前の勝利を掴み取るために駆け抜ける。

 

 ウマ娘の集団が向こう正面に入る。ツインターボは未だ後方だ。持ってきたストップウォッチでタイムを確認すると、そこには、トレーニングの時よりもはっきりと悪いタイムが表示されていた。

 

 握る手に力がこもる。

 

 (やっぱりか・・・・・・)

 

 ストップウォッチをポケットに仕舞い、双眼鏡を手に取る。注視するのは、ツインターボの『表情』だ。

 

 模擬レースの再現のような展開が続く。第三コーナーを抜け、最終コーナー。ここでツインターボが上がってきた。何度も見た加速力とトップスピード。瞬く間に前との距離を詰めていく。 

 

 最終直線に入って観客の歓声も最高潮に達する。

 

 残り400m弱。ツインターボと先頭集団の距離はあと1バ身。迫っていき、彼女はバ群を捉えかけ・・・・・・

 

 

 

 あの時と同じように、急ブレーキが掛かった。

 

 

 

 加速が落ち、スピードが止まり、外へと流れていく。ツインターボの追い上げは観客も周知するところだった。だからこそ、失速した彼女に対しどよめきが起こった。

 

 そのままツインターボは伸びてこなかった。一度失速した状態から再加速することが出来ず、ゴールラインを駆け抜けた。幾人ものウマ娘が通ったあとで。

 

 結果は8着。これまた以前と同じように、下から数えたほうが早い順位だった。

 

 (これは・・・・・・)

 

 見たら伝わると思うから、とツインターボは言っていた。その言葉通り、このレースを通じて彼女のことが、彼女が抱える弱点が十全に理解できた。

 

 最終タイムも、トレーニング時のベストタイムより遥かに悪い数値だった。それでも断言できる。彼女は今日、全力で走った。間違いなく、本気だった。

 

 だからこそ・・・・・・

 

 (これは・・・・・・難敵だ)

 

 レース最終盤、最終直線において双眼鏡越しに覗いたツインターボの表情がはっきりと脳内に浮かび上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の表情の色。それは、『恐怖』だった。

 




現在短編の構想、執筆段階に入っているキャラを記載します。

ツインターボ(このシリーズ)・・・・・・構想完了。残り未執筆。
メジロドーベル(3作品目)・・・・・・構想完了。2割執筆。
マンハッタンカフェ・・・・・・構想完了。未執筆。
メジロアルダン、ミスターシービー・・・未構想。

ツインターボ短編(恐らく3~4話で完結)が終わったらメジロドーベル短編、マンハッタンカフェ短編のどちらかを投稿予定です。

ミスターシービーに関してはキャラ紹介画面のセリフを見て執筆欲が出ましたが、肝心の構想が降りてきません(汗)。アドマイヤベガの時はセリフを見てから完成まで割と一直線だったので、同じようにアイデアが降りてくれることを期待します。
 
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