私だけのトレーナー   作:青い隕石

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お久しぶりです。

アオハル杯にのめり込んでしまい遅くなりました。申し訳ございません。

現在も絶賛育成中のため、いつも以上に短い&動きがない文章になっています。これ、多分5話は行きそう・・・・・・。


この気持ちからは、逃げたくない(3)

桜が咲き誇るトレセン学園。風に揺られ、舞う花びらとともに新しい風が校舎を駆け巡る。

 

 少女たちの瞳には期待、不安、戸惑い、野望・・・・・・様々な色彩が浮かんでいる。それでも共通する感情が一つあった。

 

 『この学園で1番になること』

 

 数百人に及ぶ新入生の顔には、等しくその想いが見え隠れしている。

 

 先週、入学式を終えて学園の一員となった彼女達。初日こそ新天地での生活に戸惑うウマ娘がほとんどであったが、1週間も経てば慣れる者は出てくる。

 

 そもそもが、全員中央の試験を突破して来た精鋭中の精鋭だ。スタートラインは同じでも、ここから自身の頑張り次第で立ち位置がどんどんと変わっていく。既に自主練の計画を立てて上級生に混じって取り組んでいる子もおり、今年の1年生もかなりの有望株揃いであることが伺える。 

 

 勿論、それはトレーナーにも言えることだ。総数はウマ娘ほどではないが、難関試験を突破して中央で指揮を振るうことを許された猛者が新たに着任してきた。

 

 新進気鋭の若い青年もいれば、長らく地方で活躍したベテランもいる。特にベテラントレーナーに関しては、自分みたいな若造よりも多くの経験、技術、知識を持っている。中央在籍歴が数年長いくらいでは埋められない差があり、いい刺激になるとともに、新たな壁がやってきたという思いも出てくる。

 

 今年やってきたウマ娘、トレーナー。彼ら、彼女らの関心は来週の選抜レースに向けられていると言っていい。両者にとっての、目標への第一歩。レース日以降は常時スカウトが許可されているが、皆の注目が集まる場面で好印象を残せればひとまず安泰だ。黙っていても引く手あまたとなるためである。

 

 新トレーナーとしても、その日を逃すとスカウト活動に支障が出てしまう。長らく中央トレセン学園に在籍している強豪トレーナーが、優秀なウマ娘を逃すはずがないからだ。もたもたしているとあっという間に有望株がいなくなってしまうため、選抜レース当日で契約を結ぼうと躍起になっている。

 

 

 

 ・・・・・・と、トレセン学園中の関心が来週に向けられている中、俺はトレーナー棟の廊下を歩いていた。

 

 自分の職場であり、3年間根を下ろして仕事に打ち込んだ場所なので勝手知ったる・・・・・・と言いたくなるところだが、生憎自分に割り当てられたトレーナー室との往復の3年間だったため、全体像はあまり詳しくない。

 

 もっと言えば、今みたいに3階まで上がってきた事は殆どない。

 歩き慣れていない道。しかし、その足取りに迷いはない。目的の部屋の場所は事前にしっかりと把握しているためである。

 

 初めて訪ねる事となる部屋。こんな機会がなければ、この先ずっと来ることもなかっただろうと思う。

 自分の目の前に佇むドア。そこには『高川』というプレートが取り付けられていた。

 

 一度息を吐いて心を落ち着ける。腕時計を見て、約束を取り付けた時間であることを再確認して、ノックをする。

 

 どうぞ、という返答を聞いて、ドアノブに手を掛ける。

 

 「失礼します」

 

 静かにドアを開ける。同時に、微かに花の香りが漂ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紅茶が注がれたカップを差し出され、礼を言って受け取る。仄かに漂ってくる匂いをかぐだけで穏やかな気持ちになれる。紅茶に関しては素人もいい所だが、きっと名の知れた銘柄なのだろう。

 

 改めて、目の前に座る女性を見る。

 

 一見しただけでは優しく、穏やかな雰囲気を纏った女性に見える方。いや、優しいのはそのとおりなのだが、トレセン学園に在籍するトレーナーで彼女を知らない者はいない。

 

 高川トレーナー。そのトレーナー歴は30年以上になる。数多くのウマ娘を育て上げ、数多くのGⅠを取らせた歴代屈指の女性トレーナー。

 

 経歴もさることながら、自分のチームで取り入れている理論やトレーニング方法を惜しげもなく公開しており、悩みがあるのなら時間の許す限り他チームのウマ娘、トレーナーの相談も受け付けている。

 

 彼女が幅広い人、ウマ娘から慕われているのは、技量だけでなくその人柄にもあるのだろう。かく言う自分も、トレーニングを組み立てる際は公開されている理論を大いに参考にしている。

 

 「まずはお礼を言わせて」

 

 向かい合って開口一番、いきなり頭を下げてきた。

 

 「ありがとう、ターボちゃんと契約してくれて。チームを離れてからどうしているか、気が気じゃなかったの」

 

 「いえ、お礼を言われるほどでは・・・。私自身、ターボの技量に惚れ込んで契約をしたので」

 

 彼女の言葉を受け止めつつ、自身の言葉を紡ぐ。高川トレーナーから見れば気になっていた教え子の行く末が不安でたまらなかったのだろう。

 

 一口、紅茶を飲む。今まで飲んだことがないような、スッと入ってくる味に内心驚きつつ、単刀直入に切り出す。

 

 「早速ですが、本題に入ってもよろしいでしょうか?」

 

 「ええ。尋ねてきた理由は・・・・・・ターボちゃんの弱点についてよね」

 

 「はい」

 

 掛けられた問に、黙ってうなずく。ターボの実力は、間違いなく学年の中でも上位だ。トップスピードと、そこに到達するまでの加速力は随一。スタミナは優秀までとは言えずとも並以上はある。坂路は若干苦手としているが、欠点というほどではない。今頃重賞レースのトロフィーを獲得していてもおかしくはないだけの技量がある。

 

 この時期に燻っているような子ではないと自信を持って言えた。・・・・・・先日の、プレオープン戦を見るまでは。

 

 「ターボが本番のレースで走る姿を見せたいと言った時は、疑問がありました。言葉でも伝えられるのではないのかと。しかし、実際プレオープン戦を見て納得しました。あのレースには、言葉では伝えきれない課題が詰まっていました」

 

 「・・・・・・ええ。私も後から見たわ。あれが、ターボちゃんの抱える唯一の、そして致命的な弱点なの」

 

 紅茶を口にし、ふぅ・・・と息を入れた彼女が視線を落とす。その表情には無念さが漂っていた。

 

 最終コーナーの追い上げからの、突然の失速。その時、顔に浮かべた『恐怖』の表情。

 

 レースは一人で走るものではない。10人以上のウマ娘と一緒に走り、その中で1着を目指す。当然ながら、彼女達は競り合う。より良いタイムを目指すため。そして、より良いポジションを取るため。 

 

 必然的に、彼女達はレース中密集する。時には、人一人分の間隔もないほどに。

 

 ・・・・・・どんなにレースを愛し、走ることが好きなウマ娘であろうと大なり小なり抱える感情がある。追い越そうとする時、コーナーを曲がる時に、ふっと押し寄せる感情。

 

 

 

 『もし相手も、自分と同じ方向に動いたら?』

 

 

 

 「時速60km/hを超えるスピードで走るウマ娘達。それだけの速度を出す者同士が強く接触してしまったらどうなるか。レースに興味がない人でも容易に答えられます」

 

 半分ほどに減った紅茶を飲む。思い浮かぶのは3年前、トレーナー新人研修の時に見せられた映像。

 

 それは、一つのレースを撮影したものだった。GⅡレースということで観客の入りも上々。先頭集団が最終コーナーを周り、熱気が最高潮に達した。

 

 ・・・・・・その次の瞬間、歓声が悲鳴に変わった。

 

 少しでも良い位置に入ろうと数人のウマ娘が競り合い、その勢いで2人が接触してしまった。

 

 トップスピードに近かった2人は堪えることが出来ず、バランスを崩して芝に叩きつけられた。一度だけでは勢いを殺せずに、何度も何度も痛々しく身体を跳ね上げる。

 

 当時、ニュースにもなったレース中の接触転倒事故。すぐさま病院に運ばれた2人だったが、その結果は悲惨なものだった。

 

 1人は複数箇所の骨折により、レース復帰は絶望的だと判明。入院中に中退を申し出た。もう1人はリハビリの末にレースに出られるまで回復したが、後遺症に悩まされて復帰後半年もしない内にトレセン学園を去った。

 

 両者とも、年内にGⅠ出走が決まっていた将来有望な逸材。それが、たった一度の接触で未来を閉ざされたのだ。

 

 上記の件は重賞レースだったことで世間からも注目を浴びたが、オープン戦や未勝利バ戦まで敷居を広げると、接触事故というのは結構な数がある。当然、起こってしまったら無事で済まない可能性が高い。

 

 「今は何でも見れる時代なのね・・・。事故が起こったレースがまとめられている動画みたいなものもあるそうよ。恐らく、ターボちゃんも入学するまでにいろんなレース映像を見てきたのだと思うの」

 

 多分、事故のレースもね。と高川トレーナーが呟く。自分でもその動画は何度も見ている。トレーナーとして、無茶な作戦を指示しないようにするために。

 

 そうやって何度も見る内に、気になったことがあった。

 

 接触しても2人共転倒する事例だけではない。事故件数の半分以上は、接触後に片方だけが転倒したレースだった。

 

 倒れたウマ娘。倒れなかったウマ娘。そこにははっきりとした共通点があったのだ。

 

 そう・・・・・・

 

 「1人だけ転倒したレース。そのウマ娘は、全員が相手よりも『小柄』でした」

 

 映像が頭に浮かぶ。その全てにおいて、接触時は体格の小さなウマ娘の方が、衝撃に耐えきれずに転倒していた。

 

 考えてみれば誰でも納得できる。走るスピードがそう変わらなくとも、身体の大きさに差があった場合、どちらが弾き飛ばされやすいか。

 

 何も激しい衝突だけではない。かする程度の接触でさえ、速度を持った状態ではバランスを崩し、転倒する可能性がある。勿論、小柄なウマ娘の方が、だ。

 

 担当バであるターボを思い浮かべる。技術面はいくらでも磨くことが出来る。しかし、体格は変えようがない。トレーニングによって体幹を鍛えることは出来るが、逆に言えば出来ることはそれくらいだ。

 

 「ターボちゃんは恐れているの。小柄であるがゆえの、レース中の接触事故を。それによって、レースに出れなくなってしまうことを」

 

 「・・・・・・難しい問題です。実力で勝てないのであればいくらでも可能性があります。レースに『絶対』はない。欠点、弱点があっても少しずつ改善していくことが出来ます。・・・・・・しかし、精神面の改善は難しい」

 

 高川トレーナーの沈痛な声に、自分も賛同する。

 

 レースに関心がない人の中には、次のように言うものが一定数いる。

 

 『気が小さい、臆病、短気とかって言っても気持ちの問題でしょ?気を強く持てば何とかなるんじゃないの』と。

 

 身体的なものより精神的な欠点の方が軽く見られがちなのだ。実際は逆だ。身体的な欠点のほうが、まだ改善しやすい。

 

 イップスと呼ばれる精神的な症状がある。主にスポーツの動作に支障をきたし、突如自分の思い通りのプレー(動き)ができなくなるというものだ。

 

 それまで何億、何十億とその道で稼いできたトップアスリートが、キャッチボールも満足にできなくなり、1mやそこらのパターを入れられなくなる。そうして引退に追い込まれた選手がいることを知っている。

 

 精神病の厄介な点。それは、治療法、改善法がわからないことだ。気持ちとは千差万別。どの方法が良いか、文字通り一人一人違ってくる。他人には有効な手段だったとしても、当の本人には逆効果でした、なんて事もザラだ。

 

 「・・・・・・言い訳にもならないけど、これでも入学当初よりは大分良くはなってるの」

 

 カチャ、と音を立ててティーカップを置いてしまった。

 

 「入学時は、今よりも酷かったのですか?」

 

 「ええ。当時は、バ群に近づくことも出来なかったの。私の全力を掛けてターボちゃんに向き合ってみたけれど・・・・・・ダメだったわ。私では、彼女の力になることが出来なかった。何も出来なかった私が言えるセリフではないことは分かっているわ。それでも、あなたに頼むしかないの。お願い・・・・・・」

 

 ターボちゃんを、輝かせてあげて。

 

 絞り出すような声とともに、高川トレーナーは若手の自分に再び頭を下げた。





理事長代理、シナリオを始める前はクールビューティーというイメージでした。まさかポンコツヒザ神だったなんて思わないやん・・・・・・。結婚したい(真顔)

先日、ウマ娘キャラソートを試してみた所、

1位 サイレンススズカ
2位 メジロドーベル
3位 アドマイヤベガ
4位 ナイスネイチャ
5位 マンハッタンカフェ
6位 マチカネフクキタル
7位 ゴールドシップ
8位 メジロアルダン
9位 ツインターボ
10位 ライスシャワー

となりました。好きなキャラと書きたいキャラ、結構一致していたんだなあと。
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