私だけのトレーナー   作:青い隕石

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第4話投稿。恐らく次で完結です。

改めて見直すと、トレーナー×ターボ要素が皆無になりそう・・・・・・。あらすじ詐欺である。


この気持ちからは、逃げたくない(4)

 

 コポコポ、と湯気を立てながらカップに収まるコーヒー。

 

 何度目のおかわりとなるのか忘れてしまったそれを、やや気だるげに手に持つ。少し気が抜けたせいか、あくびが喉元まで迫って来たため慌てて左手で口を押える。

 

 仕事机に戻る際、部屋の窓から外の景色が見えた。少し前までは真っ暗だった景色が、今は徐々に明るさを帯びてきている。

 

 夢中になるあまり、寝るタイミングを逃してしまったようだ。日付が変わる辺りは眠気がピークだったのに、2~3時頃から逆に目が冴えてしまうこの現象は、一体何なのだろうか?俗にいう深夜テンションというものかもしれない。

 

 明日・・・・・・じゃなかった、今日が休日で本当に良かったとため息をつく。あくびをしながら担当バのトレーニングを見るなんて愚行、出来るはずがない。

 

 椅子に座り、角砂糖を一つカップに沈める。初めはブラックで飲んでいたが、だんだんと胃に伸し掛かってきたためだ。まだ熱いため少しだけ口にし、ふぅ、と息を吐く。

 

 軽く一息を入れ、再びパソコンに向かい合う。画面には、自分がこの時間帯まで起きることとなった原因・・・・・・とあるレースの映像が流れていた。

 

 レース終盤、最終直線でラストスパートをかけるウマ娘たち。その後方で委縮してしまい、最高速度を維持できずに後退していった自身の担当バ・・・・・・ツインターボ。

 

 一つのレースが終わると、そのまま違うレースが初めから流れる。日付も、コースも違う映像。共通しているのは、ターボが出走していることだけ。

 

 ゲートオープンから序盤、中盤、そして終盤。ウマ娘全員がカメラ内に収まっており、展開が一目でわかるものとなっている。じー、っと凝視し、その全てを目に焼き付ける。

 

 全部で7戦のレース映像。今までのターボの公式戦全てを撮影した貴重な資料だ。先日、高川トレーナーの元を訪れた際、帰り際に彼女から頂いたものである。

 

 通しで見ても30分とかからない映像。それを繰り返し、繰り返し見続けているうちに朝を迎えてしまった訳だ。

 

 (高川トレーナーには感謝しても、し足りないな・・・・・・)

 

 心の中でお礼を言いつつ、うんと背伸びをする。

 

 公式戦の映像は、100のトレーニングと同等の価値を持つ。練習でどんなに完ぺきにこなせることでも、本番でも同じように発揮できるかは別問題だ。特に、敗北したレースには今後の成長につながる改善点が詰まっていることが多い。

 

 注目度の低い未勝利バ戦、プレオープン戦はデータでしか残っていないことがあるため、撮影してくれていた彼女には感謝しかない。

 

 

 

 『ターボちゃんを、輝かせてあげて』

 

 

 

 若手の自分に、深々と頭を下げて頼み込んできた高川トレーナーの姿が思い浮かぶ。大先輩にここまでしてもらったのだ。これでターボを勝たせなければトレーナー失格だ。

 

 「・・・・・・うーん」

 

 ノンストップで流していたレース映像。そのうちの一つに目が留まる。

 

 秋の未勝利バ戦。公式戦において、ターボが唯一入賞したレースだ。3位という順位であり、スタートがもう少し良ければ1位を取れていたかもしれない。

 

 全ての映像を何度も繰り返し見た。それゆえ、はっきりと分かる。このレースだけ、ターボは明らかに異なる挙動を取っていた。

 

 (成程な・・・・・・)

 

 再生を止めないまま、物思いに耽る。下位に沈んでいたターボにとって、この作戦ならば勝率はグンと上がるだろう。しかし、その後ターボは二度と同じ挙動をしなかった。

 

 理由は・・・・・・確定ではないが想像がつく。

 

 この方法を再び取るか否か。彼女が今も同じ気持ちなのか。

 

 「・・・・・・まずは、確かめるか」

 

 明日のトレーニングに思考を巡らせつつも、パソコンをシャットダウンする。多少ぬるくなったコーヒーを一気に流し込み、トレーナー寮への帰宅準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、第四運動場でトレーニングを開始・・・・・・する前に、ターフの外で俺はターボと向き合っていた。

 

 トレーニング内容は既に伝えていたため、何の話かと怪訝そうな顔をするターボ。しかし、次の俺の言葉を聞いた瞬間、彼女は硬直した。

 

 「・・・・・・高川トレーナーから、ターボの過去のレース映像をもらったんだ」

 

 高川トレーナー、という単語を出した瞬間、微かに彼女の表情が曇った。申し訳なさそうな、そんな表情。契約が解除されたとはいえ、元トレーナーを想う気持ちは強いことが読み取れる。

 

 しかし、その後の『レース映像』という単語でその表情が固まった。

 

 「そっか、見たんだ。・・・・・・ひどいものばかりだったでしょ?」

 

 自虐的に笑うターボ。しかし、その顔はどこかぎこちない。話題に対し、あまり深く触れてほしくないような顔。

 

 普段だったらそんな表情をされたら俺もやんわりと話題を変えるが、生憎この話は今後の方針を左右する重要な話である。心の中で謝罪をしつつ、更に一歩踏み込む。

 

 「ああ。だが、1つだけ入賞を果たしたレースがあった」

 

 昨日、トレーナー室で嫌になるほど見たレース。お陰で映像再生機器がないこの場所でも、頭の中で鮮明に思い浮かべることが出来る。

 

 7戦のうち、唯一違う挙動を取ったもの。そのお陰で入賞を手中に収めたレース。彼女の抱える恐怖を克服するために高川トレーナーが編み出した作戦なのだろう。

 

 最終コーナーに差し掛かる際、彼女が『大きく』動いた。

 

 「恐怖を感じない大外も大外。観客席間近まで接近するように大きく膨らんで最終直線を駆け抜ける方法。この方法でターボは入賞を勝ち取った」

 

 バ群と十分すぎるほど距離を空けてのスパート。あらかじめ距離を取ることで委縮することなく、最後までトップスピードで彼女はゴールラインを駆け抜けた。

 

 ターボを見る。俺の話を聞いているターボは、手をぎゅっと握り締め、顔を俯かせていた。

 

 「・・・・・・その後のレースで同じことを続けていれば、1着を取ることも可能のように見えた。だが、この作戦を取ったのは一度きり。・・・・・・ターボがこの方法を続けなかった理由、ある程度は予想がついている。それでも、直接聞きたい」

 

 

 

どうして、同じ方法をその後のレースで続けなかったのか?

 

 

 

 人気の少ない運動場に、俺の声が響いた。

 

 大外も大外を目指す作戦は、彼女の弱点を補う一つの回答と言える。実際、それで過去最高順位を記録した。

 

 本来なら、そのまま続けようと思うだろう。しかし、今のターボからはその意思が見受けられない。

 

 俺が予測を言うのは簡単だ。それでも、ターボの気持ちを確認したかった。だからこそ、一旦言葉を切って彼女を見やる。

 

 うつむいたまま、俺の言葉を聞き終わったターボ。1分が経ち、2分が経ち・・・・・・無言が場を支配する。

 

 時折顔を上げ、口を開こうとしてそのまま固まる。何度も何度も、その動作を繰り返す。言葉を発しようとして、躊躇って留めるような・・・そんな仕草だった。

 

 本当なら助け舟を出すべきなのだろう。だが、今何度も言うように、今後の方針に関わる決め事となる。曖昧なまま事を進めて、後で後悔はしたくない。自分のために。そして、ターボのために。

 

 だから俺は待った。彼女が本心を打ち明けてくれることを。

 

 「・・・・・・トレーナーはさ」

 

 長い沈黙を破り、ぽつりと彼女が口を開く。

 

 「あのレースを見て、ターボがこの後続ければ勝てると思った?」

 

 「ああ」

 

 じっと目を見て質問をしてきたターボ。その瞳は、俺の言葉を全て見通そうとする動きだった。

 

 俺も嘘をつくつもりなんてないため、思ったままの心情を述べる。勝てる、という俺の言葉を聞いてターボは喜ぶ・・・・・・ことはなく、更に質問を重ねてきた。

 

 「うん。じゃあさ・・・・・・

  

 

 

 『どこまで』勝てるって、トレーナーは思った?」

 

 力のこもった声が、俺に届いた。

 

 一字一句も聞き逃さない。俺の心情を一欠片も取りこぼさない。そのような声音だった。

 

 『やっぱりな』と感じた。ターボは、俺の想像通りの想いを抱いていたのだ。

 

 ターボは悩みつつも本心を打ち明けてくれている。だからこそ、俺も正直な想いを答えた。

 

 「ターボの実力は学年でも上位だ。大外も大外を回る多大なタイムロスを差し引いても、あの末脚を出せるなら・・・・・・オープン戦までだったら十分に勝算はある」

 

 「うん。高川トレーナーからも、同じことを言われた。だから、同じことを聞くね。・・・・・・重賞レースは、勝てると思う?」

 

 「厳しいだろうな」

 

 彼女の問いに、恐らくは彼女自身も予想している言葉を即答で返す。

 

 「実力の離れている相手ならいざ知らず、重賞レースともなればコンマ数秒が勝敗を分ける。委縮しない距離まで離れて・・・・・・なんてやってたらいくら強力な末脚があったとしても、追いつけないだろうな」

 

 簡潔な事実のみを伝える。

 

 上記の作戦を続けた場合、ターボはジュニア期のうちに勝利を収めていただろう。きっと、そのままあのチームに居続けることだって出来ていたはずだ。

 

 オープン戦までならタイムロスを補える。そのまま努力を続ければ、引退までにGⅢレースまでなら狙えるかもしれない。

 

 ・・・・・・しかし、ターボは目先の勝利を望まなかった。

 

 「分かってはいるんだ・・・・・・分かってはいる」

 

 小声で、それでいて意思が籠った声。ターボは今度こそ、握り締めた手を開いて止まることなく言葉を紡いだ。

 

 「この方法だったら、今頃勝てていたと思う。高川トレーナーにも、迷惑をかけずに済んだ。勝手な思いだって、感じている。1勝も出来ていないターボが身の程知らずなのは、分かっている!・・・・・・それでも、ターボは勝ちたいんだ!レースの頂点、GⅠレースで!!一番上のレースを目指したい!頂点を取りたい!!負け続けても、この気持ちからは、逃げたくない!!」

 

 初めて聞いたターボの叫びだった。彼女の目には、少しだけ涙が溜まっていた。

 

 これが、初めて向き合うことが出来た彼女の本心。少し物静かな雰囲気を纏っていたターボの、秘めたる想い。

 

 目の前の、喉から手が出るほど欲しい1勝に背を向けてまで、掴み取りたいものが彼女にはあるのだ。

 

 ・・・・・・なら、彼女のトレーナーとしてやることは一つだ。

 

 「ターボ。話してくれてありがとう」

 

 ウマ娘が、目標に目指して走り続けるのなら、それを支えるのが俺の役目だ。その方法を見つけるのがトレーナーの役目だ。

 

 「GⅠを目指せる方法は、俺が探す。ま、今は今日分のトレーニングを消化することから始めていこう」

 俺の明るい声を聞いたことで、ターボが纏っていた雰囲気も軽いものになった。

 

 分かった、と早速ストレッチを始める彼女を見ながら、ターボの想いをかなえる方法を考え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 練習後、購買で購入した夕食をつつきながら、トレーニング中に考えた思考を押し進める。

 

 ターボは心からGⅠという大舞台での一位を、更にその先を目標としている。つまり、俺はターボをGⅠで勝たせる方法を考えなければならない。

 

 ターボの武器は加速力のある末脚だ。トップスピードに達すれば、最後方にいたとしても一気にちぎることが可能だ。

 

 しかし、今の状態ではその武器を活かすことが出来ない。高川トレーナーとも話し合ったが、現状有効な手段を見つけ出せない。

 

 バ群に近付くことさえ出来れば、近々のGⅢレースにでも自信をもって送り出せる。同時に、それが出来ないからこそ、ターボは苦しんでいる。

 

 『どうやって、委縮しないようにするか?』

 

 今の俺の頭は、その解決方法、克服方法を見つけられないでいた。

 

 精神面の改善を本格的にするのであれば、長期的な期間が必要となるだろう。ほぼ一年間、高川トレーナーの元で指導を受け、多少なりともよくなったのが今の状態だ。ここからレースで支障が出ない状態まで持っていくのに、いったいどれほどの時間がかかってしまうのか。

 

 いやそもそも、改善をすることが可能なのかどうかすら不明瞭である。

 

 仮に克服できるまでよくなったとして、それは何年後の話になるのか?ウマ娘のレース生命は決して長くはない。恐怖に打ち勝った時には、もう全盛期を過ぎていましたではダメなのだ。

 

 GⅠで輝かせたいが、そのためには何年かかるか分からない精神面の克服が必要となる・・・・・・パッと見、手詰まりの状況だ。

 

 「うーん・・・・・・」

 

 頭を抱え、元々ほとんど無い知恵を雑巾のように絞り出す。1人で悩んだときは、周りに助けを求めるのも一つの方法だ。

 

 先日は、トレーナーとしての意見を聞くために、高川トレーナーの元へと。

 

 なら、今度はどうするべきか?

 

 今、悩み苦しんでいるターボは、当然ながらウマ娘だ。それならば・・・・・・

 

 一つの解答が頭に浮かんだ俺は、顔を上げてポケットからスマホを取り出した。

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・・で、久しぶりにもらった電話の内容が他のウマ娘の相談、ってどういう事なんですか?トレーナーさん」

 

 「いや、その・・・・・・ほんと申し訳ありません・・・・・・」

 

 若干棘のある口調が電話越しに聞こえてくる。反論しようにも、10:0でこちらが悪いので二の矢を継げない。

 

 「電話できなかったことはすまなかった。色々と・・・・・・いや、何を言っても言い訳になってしまうな。返す言葉もないよ。レナ」

 

 「もぅ・・・・・・いいですよ。トレーナーさんが忙しいことは重々承知していますから」

 

 ため息と共にやや呆れ声を届けてきた彼女。その声は、まだ離れて一か月程しか経っていないというのに、少しだけ大人びたように聞こえてきた。

 

 ラインセレナーデ。新人トレーナーだった俺が3年間、二人三脚で共に駆け抜けたウマ娘であり、現在は地方トレセン学園のサブトレーナーとして第一歩を歩み出している。

 

 卒業式から今まで、連絡をするタイミングはいくらでもあったのに、仕事を言い訳にしてずるずると後ろ倒しにしてしまった。こちらが忙しいと推測して気を遣ってくれたのか、レナからの電話はなかった。元トレーナーとして、もっと気にかけなければならなかったと反省している。

 

 散々引っ張っておいて、ようやく連絡が来たかと思えば会話もそこそこに違うウマ娘に関する相談を口にする・・・・・・レナでなくても、蔑ろにされているようだと思われるだろう。

 

 こういう所、前々からダメだよなと自省する。

 

 「それで、ツインターボちゃんでしたっけ?問題を抱えているというウマ娘は」

 

 「ああ・・・・・・」

 

 ひとしきり謝罪した後、今回連絡した目的・・・・・・ターボに関する相談について、改めてレナの方から質問を受けた。

 

 「最初に聞きましたが・・・・・・小柄ゆえ、バ群に近づけないと。成程・・・・・・・」

 

 「ああ。3年間、レースを駆け抜けた君に問いたいんだ。レナはどうやって、恐怖心に打ち勝って走っていたのかを」

 

 思案の口調になった彼女に、俺も言葉を重ねる。

 

 今回、元担当バに連絡を取った理由。それは、彼女がどうやってレース本番、接触・転倒の恐怖を克服していたのかを聞くためだ。

 

 新人トレーナーとして試行錯誤の連続だった3年間。トレーニングやレースでの作戦を考えることで手一杯で、メンタル的なサポートは余り出来なかった。幸いなことに、レナは下手すれば俺よりも精神面が成熟していたことで、大きな問題は起きなかった。

 

 情けない話だけど、つくづく彼女が最初の担当バで良かったと感じている。

 

 ・・・・・・閑話休題。ともかく、メンタル面ではほとんどノータッチだったため、レース時の精神、感情の持ちようなどは彼女に任せきりだった。

 

 レナは平均的な体格である。ターボみたいに小柄ではないが、大なり小なり事故への恐怖心は抱えていていたはずだ。当事者として、どんな克服方法を試したのか。そこにヒントが隠されているかもしれないと思い、質問をしてみたわけだ。

 

 願わくば、ターボが飛躍する要因となることを祈って。

 

 期待を込めた彼女からの回答。しかし、レナの口から最初に発せられたのは、ばつの悪そうな声だった。

 

 「あ~・・・・・・」

 

 「・・・?どうしたんだ、レナ」

 

 「あのですね、トレーナーさん」

 

 「ああ」

 

 「・・・・・・特に克服することなく、走ってました」

 

 ・・・・・・

 

 「・・・え?」

 

 一泊の間をおいて、自分の口から気の抜けた素っ頓狂な声が出た。

 

 「いえ、確かに恐怖心はありましたよ。ただ、克服しようとまでは思いませんでした。レースに支障が出るほどではなかったからという理由もありますが、どう頑張っても完全に無くすことなんて出来なかったので・・・・・・」

 

 慌てたように取り繕うレナ。その言葉を聞いていくたびに、一定の理解を持ってこちらの頭に入ってきた。

 

 克服するのではなく、完全に恐怖心を無くすのは不可能なため抱えたまま走る。確かに、レースに支障が出ないのであれば、無理に何とかする必要はない。

 

 「ただ、ターボちゃんは抱えたままだと走れないんですよね・・・・・・」

 

 「いや、まあ走ることは出来るぞ。バ群に近付くと委縮してしまうだけだ」

 

 「それじゃあどの道末脚が活かせませんからね・・・・・・難しいです。うーん・・・・・・お役に立てなくてすみません・・・・・・」

 

 謝ってくるレナに対して、慌ててそんな事はないと訂正する。ターボの弱点を改善できるかは分からないが、ウマ娘当人からの話は必ず役に立つ。

 

 「いや、助かったよ。ありがとうな、レナ。今度、時間があるときにまたゆっくりと話そう」

 

 「本当ですよ~。話したいことはたくさんあるんですからね。また休日にでも『え、セレナーデさん電話相手誰?もしかして彼氏さん!?』ばっっっっ!!違うわよ!トレーナーよ元トレーナー!!違うから!!そんな関係じゃっ・・・・・・」

 

 ・・・・・・最後らへん、非常に騒がしくなったまま電話が切れた。内容がだだ聞こえだったが、深くは触れないでおこう。

 

 スマホを机に置き、ふぅと息を吐いた。

 

 ともあれ、レナも元気そうで何よりだ。今日は時間も遅いので切り上げたが、最後に話した通り、また休日にも連絡をしよう。トレーナー業の道を歩み始めた彼女に、アドバイスできる部分があるなら力になりたい。

 

 さて、と呟いて彼女との会話を頭で反芻する。

 

 レナは恐怖を無理に克服せずに、抱え込んだままレースに挑んでいた。向き合いながらというべきか。委縮しないのであれば、それも一つの回答だろう。

 

 しかし、ターボは現状向き合うことが難しい。どうしても、委縮の感情が勝ってしまうだろう。

 

 (また手詰まりか・・・・・・いや、まだ早い。会話を何度も反芻しろ。何気ない会話にヒントが隠されている時だってある)

 

 落ち込みかけた感情を、再び奮起させる。諦めるのは簡単だ。誰でも、いつでもできるし楽になれる。

 

 しかし、ターボの想いを面と向かって聞いた以上は、俺が先に折れるわけにはいかない。

 

 レナとの会話を、初めから想起させる。近況報告もそこそこに始まった、ターボの分析。ターボの抱える弱点を打ち明け、その後レナに克服方法を聞いた。有効な手段を見つけるまではいかず、最後は騒がしくなりながら電話が終わる。

 

 (ターボを委縮させない方法・・・・・・そうすれば・・・・・・ん?)

 

 会話内容を頭に浮かべたまま繰り返す。そのうちに、俺の頭には一つの疑問が静かに浮かんできた。

 

 いや、正確には一つの言葉だ。レナではない、俺が何気なしに言った言葉だった。

 

 

 

 

 

 『いや、まあ走ることは出来るぞ。バ群に近付くと委縮してしまうだけだ』

 

 

 

 それは、ターボの現状をそのまま表現した平凡で当たり前の内容。それが再び俺の頭を駆け巡った時、一筋の光が差した。

 

 (そうだ・・・・・・何もターボは走れないわけではない。近づけば本来の実力を発揮できなくなるだけだ)

 

 克服できないからと言って走れないわけではない。克服できないからと言って勝てないわけでもない。ターボは、克服できないから末脚を活かせないだけだ。

 

 最終的な目的は、勝つことだ。精神面の改善は、そのための手段の一つに過ぎない。

 

 (ならば・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレーナー棟の一室、とある若手の男性トレーナーに充てられた部屋。翌日は平日だというのに、その日、夜遅くまで部屋の明かりが消えることはなかった。

 




ヴァルゴ杯、なんとかAグループ決勝に行けました。
スズカ、ウォッカ、デジたんに全てを掛けます。

予選では地固めウンスに嫌というほど泣かされました。水マルとウンス相手に逃げを入れないと文字通り勝負にならないので、スズカが終盤まで1位をキープできるかでどうかですべてが決まりそう・・・・・・。

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