私だけのトレーナー   作:青い隕石

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トレーナー×マンハッタンカフェ短編です。

過去1短いです。3000文字ありませんでした。短編の形をした何かです。

実装前から考えていたネタあるのですが、カフェの育成をした際急にこのシチュが浮かんでしまい、気づけば書いていました。多分『お友達』のせいです(違

実装前のネタは、また今度執筆する予定です(多分)。


マンハッタンカフェ短編
静寂の時間


 練習後に訪れたトレーナー室。いつもならパソコンとにらめっこしながら私を迎え入れるトレーナーさんが、今は仮眠用ベッドの隣に立っている。

 

 定期的に訪れる『この日』は、時間をかけて行いたいという彼の希望で、重要な伝達事項がない限りはミーティングは行われない。

 

 彼に促されるまま、ぽふっ、とベッドに腰掛ける。その衝撃か、わずかにトレーナーの匂いが舞い、鼻腔をくすぐったきがした。

 

 コーヒーと同じくらい、いや、それよりも安心する匂い。堪能したい気持ちをぐっと抑えて、靴とニーハイソックスを脱いだ。

 

 ・・・・・・いくらトレーナーさん相手とはいえ、男性の目の前で素足を晒す行為に対して、初めから抵抗がなかったかと言えば噓になる。1度目の時は、無理はしなくていいと説得するトレーナーと、ニーハイソックスに手をかけたまま固まる私という奇妙な構図が数十分続いた。正直に言って、忘れたい記憶である。

 

 「お願い・・・します。トレーナー、さん・・・・・・」

 

 「ああ」

 

 それが今では、言葉を一言交わすだけ。私のお願いにトレーナーさんは返事をし、私の足に手を触れた。

 

 ウマ娘にとって、命と同等の重みを持つ箇所。心の底から信頼する相手でなければ、絶対に触れさせない場所。

 

 そのままトレーナーさんは、じっと私の足の一部・・・・・・爪を見つめ、形状を念入りに確認していた。

 

 爪切りとヤスリを取り出して、以前より伸びた爪を少しずつ切り、削っていく。その表情は真剣そのものだった。私は身体から力を抜いた状態で、そんな彼の表情をじっと見つめていた。

 

 生まれつき、私は爪が薄かった。日常生活を送る分には問題ないが、レースを走るウマ娘としては、重すぎるハンデ。以前までは無理をして走り、割れてしまった事も一度や二度ではない。

 

 加減が分からず、普段の練習にも小さくない影響を与える始末。それが、彼がトレーナーとなってからは一気に改善した。

 

 今みたいな、定期的な爪のケアに加えて、適正なトレーニングと挑戦するレースの選別。莫大な負担を瞬間的に掛ける短距離、マイルを完全に切り、中距離及び長距離に標準を定めての特訓。

 

 ・・・・・・偶然の産物ではあるが、私にはステイヤーとしての素質・適性があったようで、長距離レースに限っては全戦全勝という結果を収めることが出来ている。

 

 私は、ずっと彼を見つめている。トレーナーさんは、右足の爪のケアから始めている。どこまでもまっすぐな瞳。私の金色とは違って、永遠に吸い込まれそうになる黒色。その瞳が、私の身体の一部を捉え続けている。

 

 その事実が不思議と、私に高揚感をもたらす。彼の視界が、思考が、ずっと私に向き続けている。

 

 勿論、今でも気恥ずかしさはある。手入れをしてくれる日は、練習後のシャワーを浴びる時間が倍になる。・・・・・・増加時間分のほとんどは、彼に触ってもらえる足を丹念に、特に念入りに洗っている時間だということは、私だけの秘密にしている。

 

 真剣にケアをするトレーナー。私が話しかけても視線を動かさないまま返事をすることが多くなった。

 

 ・・・・・・多くなったというのは、ある時期からである。

 

 数か月前、お互いに無言の空間は苦ではない性格ではあるが、二人きりということで彼の声を聞きたいと思って何気ない話題を振ったのだ。

 

 それに対して、彼は笑顔で顔を上げて応えようとして・・・・・・バッと顔を逸らした。

 

 突然の奇行に、『お友達』が何かをしたのかと思ったが、よく見たら彼の頬が非常に赤みがかっていたことに気づく。

 

 そこまで認識した瞬間、私も首を折る勢いで下を見た。爪のケアの最中は、彼が手入れをしやすいように若干足を開いている。そして、トレセン学園の制服はスカートだ。そんな状況で目線を上げた彼の視界に入るものといえば・・・・・・

 

 「・・・・・・と、トレーナー、さん・・・・・・」

 

 「・・・・・・その・・・・・・ごめんなさい」

 

 ぎゅっ、とスカートの裾を握った私の問いかけに対して、ものすごく申し訳なさそうにトレーナーさんが謝罪をした。

 

 ・・・・・・これは、一種の事故ということにした。それだけで済ませていい問題ではない、しかるべき処罰をと尚も謝ろうとする彼を半ば強引に丸め込んでの決着となった。

 

 流石に今回の件は、不可抗力である。元はと言えば、原因となったのも私が話しかけたからであって・・・・・・

 

 あの日以来、トレーナーさんは絶対に顔を上げなくなった。あれからは私もケアの際、インナーを付けるようになったため大丈夫と言っても頑として視線を固定し続けている。

 

 普段は優しいのに、こういった所は頑として受け付けなくなる。

 

 「・・・・・・ふふっ」

 

 笑みをこぼす私。その声が聞こえたのかトレーナーさんの耳が動いたが、それ以上の反応を示すことはなかった。

 

 私のトレーニングだけではなく面倒な書類仕事もあるはずなのに、嫌な顔一つせず、定期的に手入れをしてくれるトレーナー。

 

 だからこそ、こんな日くらいは彼にお礼がしたいと申し入れ、結果として定例となった行事がある。

 

 ソファの近くにあるテーブルに視線を移す。そこには、私が持ってきた鞄が一つ。中身は、大きめの魔法瓶で占められている。

 

 ケアをしてくれた後に開かれる、ささやかなお茶会。お菓子などはなく、ただ二人でゆっくりとコーヒーを飲むだけ。言葉はなく、静かに過ごす静寂の時間。それが、たまらないほどに愛おしい。

 

 彼がコーヒーに口を付け、一瞬見せる表情が好きだ。今まで淹れてきた全部のコーヒーにおいしいと言ってくれるのだけど、そのおいしさの『度合い』を顔から推し量ることが出来る。

 

 前に淹れたものより、おいしいと思ってくれたのかどうか。今までの中で、一番あなたに合う味だったのかどうか。

 

 豆を変え、ブレンドの割合を変えつつ、彼が最も好きな味を探す行為。豆の種類だけで100種類以上あり、そこにブレンド配合、割合もとなれば、文字通り一生かけても辿り着けない可能性が高い。

 

 ・・・・・・でも、探したい。彼の『一番』おいしいと感じる味を。ずっとずっと、傍にいて見つけていきたい。・・・・・・私だけの、秘密にしている夢だ。

 

 右足のケアを終え、左足に移っているトレーナーさん。そんな彼を見て、お茶会に想いを馳せつつ再び静かに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『お友達』を追いかけ、追いかけ・・・・・・気づけばこの場所まで来ることが出来た。私の理想、超えたい壁・・・・・・私が成長するごとに理想は高くなり、今では遥か遠くまで離れてしまった、静かなる影。

 

 でも、悲壮感はない。たどり着くべき目標は、確かに遠くなっていく。それでも、私は、私たちは前に進んでいる。立ち止まることもある。少しだけ、引き返してしまった事もある。

 

 しかし、その『目標』は、しっかりと見えている。見えているのなら、追いかければいい。一歩ずつでいい。

 

 

 

だって、あなたと一緒なら、どこまでも進んでいけるのだから。

 

 

 




次は、またドーベル短編になりそうです。

メジロドーベル推しの人物にドーベル実装という劇薬を与えた○イゲが悪い(暴論

今からの執筆になりますが、筆が乗れば近日中に投稿します。

別投稿の沖スズはもう少しお待ち下さい・・・・・・。すまぬ。
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