私だけのトレーナー   作:青い隕石

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・・・・・・・すみません、またあとがき詐欺です。

カフェを書くといいながら、またドーベルという重力に魂を惹かれました。次こそは書きます。

ドーベル×トレーナー短編です。過去一短いです。

それと、申し訳ありませんがあとがきにアンケートを設置しました。目を通していただければ幸いです。

Q.何か似たような展開や描写多くない?
A.作者の力量


魔法の時間

 

 どうか、一つだけ願いが叶うのであれば。

 せめてその鐘が鳴るまでは、アンタの傍にいたい・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・・トレーナー?」

 

 トレーナー室の前で、アタシは疑問を含んだ言葉を紡ぐ。

 

 扉をノックして、十数秒が経過。いつもであればすぐに返答が来る部屋から、今は何の音沙汰もない。

 

 会議があるのかな思い、念の為にドアノブに手をかけたら、予想していた抵抗が起こらずにすんなりとドアが開いた。

 

 (ちょっと、部屋を留守にするなら鍵くらいはちゃんと・・・・・・)

 

 と心の中での愚痴は不意に止まる。

 

 穏やかな日差しが照らす、無人だと思っていた部屋。しかし、人の気配がある。耳を澄ませると、小さな、それでいて確かな息遣いが聞こえてきた。

 

 定位置である窓近くの机に姿はない。呼吸音の発生源は、もう少し手前側。ゆっくりと近づくと、想像していた場所にアンタはいた。

 

 ソファに寝そべるアンタの姿。仰向けで寝ているその顔には、普段の余裕を感じる笑みが無く、ただただ穏やかで無防備だった。

 

 そんな彼に歩み寄るアタシの足音は、呼吸音よりも静かで、慎重で。起こしてはいけないという意識を最上かつ中心の想いとして抱えたまま彼の傍まで歩を進めた。

 

 彼は、ずっと目を閉じたまま。今日は何の予定もない休日。アタシのトレーニングも無いため、休日出勤ながらもどこか気が緩んでいたのだろう。何の警戒心も抱いていない表情で、静かに瞳を閉じていた。

 

 まあ、彼は一旦眠り始めたらちょっとやそっとのことでは起きないのではあるが。今までに何度も状況はあった。声掛けしても、身体を揺すっても起きない。

 

 寝相もあまり良い方では無いみたいで、アタシが居る時に一度ソファから落下したこともあった。

 

 地面に当たる鈍い音。慌てて彼の所に駆け寄ったのだが、当の本人はどこ吹く風で夢の世界の住人のままだった。あれにはさすがにアタシも呆れた記憶がある。

 

 ともかく、彼の眠りは深い。なので、別に忍び足をせずとも起きる心配はないのだが、念には念を入れて、だ。

 

 深呼吸を一つ。ゆっくりと息を吐きだして、彼と向き合う。

 

 彼の寝顔を何度も見てきたのは、偶然ではない。それだけ、休日にアンタの元を訪れ続けているのだから。

 

 トレーナー業は完全週休二日制とは言われているけど、彼が土曜日にトレーナー室を不在にしている所を見たことがない。レース間近となれば、日曜日も居座っているのを目撃したことがある。驚異の週休0日である。

 

 「ドーベルに勝ってほしいからね。それを思えば、疲労なんて感じないよ。それに大丈夫。僕って悪い意味で要領が良いからさ。君の見ていない所でしっかりサボって休んでいるよ」

 

 一度、心配になってさり気なく聞いてみた時に返ってきた言葉がこれだ。担当バに対する無償の奉公。打って変わって後半のおちゃらけた態度。アタシの心を何処までもかき乱すその言葉に恥ずかしくなり、そっけない態度で部屋を退散してしまった。

 

 本当に、アンタは・・・・・・

 

 そう思いつつも、彼はどんな時でも嘘を言わない。サボっているというのならどんな時だろうと気になったのが半年前。彼が休日、アタシのトレーニング予定が入っていない時にトレーナー室で休むのを知ったのが3ヶ月前。

 

 ・・・・・・それからは機会があれば必ず、アタシは彼の部屋を訪れるようになった。

 

 「・・・・・・トレーナー」

 

 静かな声で、彼を呼ぶ。アタシみたいなウマ娘を信じてくれる、真っ直ぐな瞳。その瞳が閉じられている時のみ、アンタの顔を正面から見ることが出来る。

 

 普段は無理だ。変に意地張って、突っかかって。一度も見つめ合えたことがない。

 

 だから今だけは、素直になれる特別な時間。

 

 そっと彼の頬に触れる。くすぐったかったのか僅かに身じろぎしたけど、それ以上の反応は示さなかった。息遣いとともに、暖かな体温が伝わってくる。

 

 

 

 『彼は、よほどのことがないと起きない』

 

 

 

 その事実が、アタシに邪な想いを抱かせる。

 

 ごくりと唾を飲み込んで、更に一歩踏み込んで。

 

 仰向けの彼の胸に、そっと耳をあてがう。ピトッとくっつけると、彼の鼓動が直接伝わってくる。

 

 トクン、トクン・・・・・・。

 

 彼が生きている証。その音が、何よりも嬉しくて。

 

 この距離で聴いているという事実が、それ以上に恥ずかしくて。

 

 でも、離れたいだなんては微塵も思わなくて。

 

 「トレーナー・・・・・・」

 

 再び、彼を呼ぶ。先程よりも、熱がこもっている声音になっているのは、気のせいだろうか。

 

 ドクン、ドクンと鳴るのは、アタシの鼓動。その速さは、彼のものより遥かに速くて。止めようとしても、止められるものではない。

 

 (トレーナー。その・・・・・・寝相が悪いんでしょ?)

 

 だって、今のアタシは、期待しているから。

 

 (漫画で見たシーンがあるの。ヒロインの子が、寝ぼけた彼に抱きしめられる所・・・・・・)

 

 寝相が悪いアンタだったら、あるいは。

 

 彼に身を寄せて、そのまま動かずにいればいつかは・・・・・・。

 

 寝ている彼を目の前にして、それでも自分からは踏み込めないヘタレっぷり。こんな時でも、不可抗力という形でいいので彼から抱きしめられたいという想いが心を埋め尽くす。

 

 そして、こういう時に限って妙に寝相のいいアンタのせいで、アタシはずっと悶々とした時間を過ごすこととなる。

 

 (トレーナー、寝相悪いんだったら、動いてよ・・・・・・抱きしめてよ)

 

 いくら寝ているとはいえ、彼の目の前では流石に口に出せないセリフを心の中で呟く。

 

 (トレーナー。アタシ、抵抗しないよ?多分、そのまま・・・・・・受け入れるよ?)

 

 自作自演の、どうしようもない願い。それでも、もしもの可能性に縋ってしまう。

 

 

 

 彼の匂いを吸い込んで。彼の鼓動を聞いて、彼の暖かさを堪能できる。まさに、魔法のような、幸せな時間。

 

 でも、魔法は解けるもの。眠り続ける人はいない。彼は、、時間が経てば起きてしまう。どれだけ静かにしていても、どれだけそっとしていても、告げる12時の鐘が鳴り響く時、彼は夢の世界から現実へと舞い戻る。

 

 だから、せめてその鐘が鳴るまでは。

 

 「トレーナー・・・・・・」

 

 (アタシは・・・・・・アンタの事が・・・・・・)

 

 不器用で、そっけなくて。約束のガラスの靴はないけれど、どうしようもないアタシに訪れる夢の時間を、1秒でも長く・・・・・・。




今までのドーベル短編での中で、どの作品が一番好きかをお尋ねしたいと思い、アンケートを設置しました。今後のベルトレ♂短編の参考にしたいと思っております。

回答していただければ幸いです。よろしくおねがいします。
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