私だけのトレーナー   作:青い隕石

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ピクシブからの移植第一弾。
ベルトレ超短編2本立てとなります。

グラライが始まりましたが、ライトハローさん良いですよね・・・・・・。
彼女のイベントを見て真っ先に思いついたのが、

『勇気を出してトレーナーをお出かけに誘うために事前調査のため街に赴いた所、彼が見知らぬ成人ウマ娘(ライトハロー)と並んで歩いている+今まで自分に一度も見せたことがない笑顔で会話をしているのを目撃してしまうメジロドーベル』

というシチュエーションでした。

近いうちに私に天罰が下ると思います。


一口ドーベル詰め合わせ

 

 

 【アンタの好きな食べ物】

 

 

 

 平日の食堂は、大勢の人、ウマ娘でごった返している。

 

 いつもはブライトと一緒に食べるのだけど、本日彼女はメジロ家の用事で屋敷に戻っている。

 

 ライアンは見かけなかったし、マックイーンは既に所属しているチームのメンバーと楽しそうに食事を取っていたため、邪魔するのも悪いと思い誘わなかった。

 

 (1人で食べるのは久しぶりかも……)

 

 そんな事を思いながら、パスタとサラダが乗ったトレイを置く。

 

 昔は1人の方が楽だったし、今でも偶にはゆっくりと食べたい時もある。それでも、気の置けない相手と会話をしながら食事をするのも、嫌ではない。

 

 窓近くの席に座り、手を合わせる。

 

 「いただきます……」

 

 フォークを持ち、食べ始めようとした瞬間、ふと顔を上げた。

 

 ウマ娘は嗅覚が発達している。その能力が、とある匂いをとらえた。

 

 これだけ多数の人がいる中でも届いた匂い。間違えるはずがない。

 

 アタシの視線の先には、果たして予想通りの人物が見えた。トレイを持っている事から、少し前までの自分同じように席を探しているのだろう。

 

 周りを見渡していたその顔が、アタシのところで止まった。互いの視線が合わさり、お互いがお互いを認識して……

 

 

 

 一瞬だけあった視線がすぐに逸らされた。

 

 

 

 「……は?」

 

 思わず漏れた声は、この喧騒にかき消されて届かなかったようで。

 

 その人物は建物の隅付近に空席のテーブルを見つけて着席した。

 

 ……フォークを置き、席を立つ。一度座ってすぐに立ち上がったことで隣に座るウマ娘から怪訝な表情をされたが、そんなの知った事ではない。

 

 つかつかと歩き、視線を逸らした彼……トレーナーが座るテーブルにトレイを置いた。力がこもっていたのか、少し大きな音が響く。当然ながら、彼も気づいて顔を上げた。

 

 「ドーベル?」

 

 驚いた様な、困惑した様な声を出す。前の席で、食事をする体勢に入っているのを見ただろうから、その反応は当然だ。

 

 それを無視して、隣に座る。気持ち分、少しだけ椅子を近づけて。

 

 2度目のいただきますを口にして、今度こそ昼食を食べ始める。

 

 トレーナーの事だ、アタシに気を遣ってとかそんな理由ですぐに目を逸らし、離れた場所に座ったのだろう。

 

 ……普段からのアタシの態度を考えれば、当たり前の反応だ。面倒臭い性格であると自覚している。それでも、アタシの隣に座らなかった事に少しだけムカムカした。

 

 彼は最初こそアタシの奇行(?)に対し何か言いたげな表情を見せていたけど、すぐに止めて昼食を取り始めた。

 

 必要以上に干渉してこない彼。アタシの事を思ってくれての事だとは分かっている。少し前まではありがたかったその行為が、今はもどかしい。

 

 会話も無く、黙々と食べ進めるアタシたち。そんな中で、彼の昼食をチラッと見る。

 

 彼が持ってきたものは、生姜焼き定食。日替わりのラインナップには無かったものだ。つまり、何となくで選択したものではないと言う事。

 

 今まで、何度か共に食事をしてきた。記憶の中の、彼の食べるスピード。それと比較すると今日のは心なしか早く感じた。

 

 「……ねぇ、アンタって、生姜焼きが好きなの?」

 

 知りたくて。口に出したそんな言葉。

 

 「え?……ああ、うん。好きな食べ物だよ」

 

 「……そう。えっと、……ありがと。ただ聞いただけだから」

 

 突然の質問に、戸惑いながらも答えてくれたトレーナー。それに対してお礼を言い、また食事に戻る。

 

 再び会話が途切れ、無言が訪れる。パスタを食べながらアタシの頭を占めていたのは、先ほどの返答。

 

 (……生姜焼き、か)

 

 また一つ知った、トレーナーの好み。

 

 今週末にレシピを調べてみようかなと考えながら、トレーナーと一緒の時間が過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ネコの嫉妬は突然に】

 

 

 

 普段から見慣れた相手であれば、たとえ人混みの中でも一瞬で認識できるらしい。

 

 休日トレーニングのない昼下がり。アタシは身をもってその知識を実感した。

 

 午前中で気になっていた映画を見終わり、近くのお店で昼食を終えた。

 

 このほかの予定はないので、そろそろ学園に戻ろうかと考えが固まりかけていた時、その人物が視界に入った。

 

 普段のスーツ姿とは違う、ラフな私服姿。それでも、見間違えるはずがない。

 

 声を掛けようとして……タイミングが良いのか悪いのか、彼は歩道に接しているお店の中に入っていった。

 

 トレーナー、と言い掛けた言葉はそのまま口の中に引き篭もった。

 

 2年以上、苦楽を共にしてきたアタシのトレーナー。そんな彼だけど、趣味とか休日は何をしているだとかはあまり知らなかった。

 

 彼自身があまり話さないし、プライベートな事には干渉してこない。

 

 というより、心なしか避けられている気までする。ブライトから遊園地のペアチケットを貰った時に、努めてさりげない形で相談をするも、

 

 「了解。ここの所トレーニング漬けだったし、友人と楽しんできてね」

 

 と即答された。自分が誘われているとは微塵も考えてない返答だった。誘い方が悪かったというのもあるけれど、取り付く島もない回答に二の矢が継げず、「え、ええ……」と相槌を打って退室することしか出来なかった。

 

 ……過去の苦い記憶は置いといて。これはチャンスだと思った。普段の生活からは分からない、彼の素顔を見れるチャンス。

 

 ブライトが彼女のトレーナーと毎週のように出かけてて羨ましいとか、そんな気持ちは断じてない。断じて。あくまで、トレーナーと担当バとしての関係を深めていきたいだけ。そう言い聞かせて、歩みを進める。

 

 トレーナーが入店した店。その看板を見て、少しだけ顔を顰める。

 

 『猫カフェ』

 

 そう呼ばれている店。こじんまりとした外観からは、清潔な印象を受ける。

 

 顔を顰めたのは、嫌悪感とかではない。彼がこの店に入店する姿がすぐに想像できなかったのだ。そもそも、猫好きという事を今初めて知った。

 

 元々、お金は余裕を持って持ち歩いている。念の為、スマホでお店の検索をした所、仮に閉店時間まで居座っても十二分に手持ちで足りる。

 

 意を決して、店内に入る。

 

 お店の中は落ち着いた雰囲気となっており、受付室の奥に、更に部屋があるのが見えた。恐らくはそこが猫の部屋なのだろう。

 

 入店までに少し躊躇ったせいか、トレーナーの姿は既に無かった。

 

 (こういうシステムなんだ……)

 

 初めての利用ということで、店員の女性から詳細な説明を受ける。ペットボトルのお茶と、猫のおやつを貰って、いよいよ部屋に入る時が来た。

 

 知らない彼の素顔。変に意識しない様に心を落ち着けつつ、扉を開いた。

 

 入ると同時に、耳に届く猫の鳴き声。見渡すと、部屋の中央に猫に囲まれた1人の青年……トレーナーがいた。時間帯のせいなのか、他に利用客はいない。

 

 彼にもドアが開く音が聞こえたようで、ちらっとコチラを見て猫に視線を戻し……綺麗にこちらを二度見した。

 

 「え、ドーベル?」

 

 面を食らった様な声。ここで顔見知りと会うのは予想外、といった表情だ。確かにその通りではある。アタシも、トレーナーを見かけなければ入店しようとは思わなかったし。

 

 まじまじと見られて、少し恥ずかしくなる。

 

 「な、何よ。アタシが来たら悪いとでも…」

 

 「ドーベル、猫が出て行かない様に一旦扉閉めてね」

 

 「あ、はい」

 

 照れ隠しの言葉を言おうとして、トレーナーの指摘に慌てて扉を閉める。猫全員が扉から離れているとはいえ、確かに開けっ放しは拙かった。

 

 「奇遇だね。ドーベルも猫好きなんだ。よく利用するの?」

 

 「えっ、いや、利用は初めてよ。猫は好きだけど……」

 

 嬉々とした彼の質問に、要領を得ない返答をしてしまう。

 

 猫は好き、という言葉を聞いた彼の瞳は、まるで仲間を見つけた時のようにキラキラと輝いた。

 

 (いや、嫌いではないし可愛いとは思っているけど、特別好きかと言われると……)

 

 と、今更訂正するわけにもいかず、そのまま話を合わせる事にした。

 

 その後話を聞くと、小さい頃から猫が好きで将来は絶対に猫を飼うと決めていたと。現在は寮暮らしなので飼えないけど、今後引っ越す先は絶対にペットOKのアパートにするとワクワクした表情で言っていた。

 

 ……その心から嬉しそうな表情は、今までアタシに見せた事がないもので。もやもやした感情が心から湧き出てくる。

 

 そんなアタシの心境を知ってか知らずか、のんびりとした声でトレーナーが声を掛けてくる。

 

 「ほら、ドーベルも折角来たんだし猫の事も見ようよ」

 

 と言われて、辺りを見渡す。

 

 部屋の中にいる猫は10匹近く。その半分はトレーナーに引っ付いていて、残り半分は思い思いの場所にいた。

 

 ……確かに、入店したからには楽しまなければ損である。

 

 (ええと……)

 

 初めから物で釣るのはどうか、とは考えたけど、いつまでも持っていては嵩張るので猫のおやつを開けることにした。

 

 びりっ。

 

 と袋を破いた瞬間、猫が一斉に近づいてきた。

 

 「わっ!?」

 

 予想外の事態に、慌てておやつを入れた袋を持ち上げる。その中身を手に入れようと、数匹の猫が身体を登ってこようとした。少しだけ、こそばゆい。

 

 パニックになり、無意識の内にトレーナーに助けの視線を求めたけど、当の本人はただただ笑っているだけだった。

 

 「ちょっと、こうなるの分かってるんだったら教えなさいよ!」

 

 「ははは、モテモテだね。ドーベル」

 

 抗議の声も、どこ吹く風。と、彼に意識を向けてしまった瞬間、袋を猫に持って行かれた。

 

 「あっ……」

 

 と口にした時には、袋からおやつが散らばり、私の身体を登ろうとしていた猫達は一目散にお菓子を咥えて去っていった。

 

 わずか1分にも満たない出来事である。

 

 「……ねぇ、トレーナー。あたしのモテ期、一瞬で終わったんだけど」

 

 「うーん、追加でおやつを購入すればどうかな?」

 

 「完全におやつ目当てで群がってるじゃないのそれ!」

 

 既に退散した猫を見つつ彼に突っかかるも、のらりくらりと躱される。

 

 更には、彼の視線はずっと膝の上の猫に固定されていた。担当バの抗議よりも、猫の方が重要らしい。

 

 

 

 ……あれ、ちょっとまって。

 

 

 

 「ねぇ、アンタはおやつを持っていないのに何で猫が集まってるのよ?」

 

 今更ながら、当然といえば当然の疑問にたどり着く。

 

 部屋に入ってから10分ほど経っているけど、トレーナーが猫のおやつを与えた場面を見ていない。それなのに、数匹の猫が彼にべったりとくっついたままだった。

 

 肩に乗っている猫。背中や足に寄りかかっている猫。膝の上で丸まっている猫。

 

 猫は気まぐれ、と聞いているのにずっとその場から動いていない。

 

 あたしの疑問を解消する様に、ああ、と彼が応える。

 

 「僕、かれこれ2年以上の常連だからかな。懐いてくれたのかどうかは分からないけど、今では近くに来て寛いで来るんだ。」

 

 膝で丸くなっている猫を撫でながら、優しく微笑む。頭を撫でられたその子は目を細め、ニャアと鳴き声を出した。……本当に気持ちよさそう。

 

 すると、それを見たのか他の猫が一斉に彼に擦り寄った。ニャアニャアと鳴く猫を、トレーナーはぐるっと見渡す。

 

 「ははは、ちょっと待ってね」

 

 と笑顔で1匹1匹優しく撫でていく。撫でられた猫は、例外なく最初の子と同じ様な仕草をした。

 

 2年間、通い続けた事で彼の優しさに触れて懐いたのだろう。2年間共に……

 

 …………

 

 (……待って。2年間?)

 

 そう彼は言った。確かに、それだけの月日があれば懐いても不思議ではない。頭を撫でても不思議ではない。

 

 しかしである。

 

 (……アタシ、トレーナーと契約して2年経つのに、頭撫でて貰った事ないんだけど)

 

 のちに振り返れば、完全に思考が暴走していた。でもその時は、ちょっと冷静では無かった。

 

 これだけ近くにいるのに、アタシに構ってくれないトレーナー。何の遠慮も無しに、彼に甘える猫達。そんな猫達を、アタシも見た記憶がない笑顔で迎え入れる彼。

 

 気づけば、唯一猫が陣取っていなかったトレーナーの右隣に腰を下ろしていた。

 

 「……?ドーベル?」

 

 突然のアタシの行動に、困惑した表情の彼。アタシはそのまま少しだけ、頭を彼に寄せた。

 

 嫉妬とかではない。断じてヤキモチとかではない。

 

 「えっと……」

 

 「……ねえ、アタシもトレーナーと会って2年くらいなんだけど」

 

 「え、うん。そうだね……?」

 

 「……」

 

 疑問系の返答を無視して、更に頭を近付ける。あとちょっとで、彼の肩に触れてしまいそうな距離感。

 

 撫でてほしい、と言えば一発で伝わるのに、言葉にする事が出来なくて。

 

 無言のまま1分近くが経過しても進展が無かった。

 

 (……言葉にしないのに、分かるはずないわよね)

 

 バレない様に、ため息をついた。いきなりの行為に、トレーナーも驚いたはずだ。いつもアンタに突っかかっておいて、今だけ察しろなんて我儘もいい所である。

 

 ごめん、と頭を離そうとして。

 

 『ポンっ』

 

 と、優しい感触が降ってきた。そのまま、じんわりと暖かさが広がる。

 

 (あっ……)

 

 視線を向けると、戸惑いながらも笑みを絶やさないアンタの姿。

 

 「えっと……こういう、ことかな?ごめん、間違ってたら謝るから……」

 

 「……別に、間違ってはないわよ」

 

 初めて撫でられたことによる嬉しさや気恥ずかしさがごちゃ混ぜになって、そのまま目を閉じる。

 

 ぎこちなく頭を撫でてくれるその手が、本当にアンタらしかった。

 

 

 

 

 

 

 その日、トレセン学園のトレーナーが猫カフェに居座ったのは1時間ほどだったが、頭を撫でる事を要求し続けるネコが、いつもより1匹多かったという。

 

 


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