016 番外編 「ナシゴレン」前篇
016
これは俺———我妻善逸が、胡蝶しのぶ邸で療養中に体験した、世にも恐ろしい出来事である。
早朝、四時。まだ鶏も鳴いていないこの時間帯。
『ところで恋と性欲って何が違うのかな、善逸ちゃん?』
「朝からする会話内容じゃねぇよ。」
冠石野ちゃんはまだ寝ているため、すでに目が覚めていた俺と球磨川で雑談していた。
球磨川曰く、これを男子会と言うそうだが、多分違う気がする。
やはりこういう話を球磨川とするたびに思うことなのだが、球磨川は確かに面白い人間だ。
でも、それ以上に掴みどころの無い男だと思う。
あぁそうそう、言うのを忘れていたけど俺はかなり耳がいい。
異常に———一般人以上に。
少なくとも「音」でその人の性格とか分かったりするくらいには。正直自分でも理屈は分かっていないのだが…。
でも。
球磨川だけは何一つ分からなかった。
———気持ち悪いくらい、ごちゃごちゃした黒だったんだ。
まぁ別にだから何だって話なんだけどな...閑話休題。
そんなこんなで暫くくだらない話をし続けていたのだが。
『...インドネシア及びマレーシアの焼き飯料理…か』
と、球磨川が突然言い始めた。
ほんともう、何の脈略も無しに。
……………???
えっと…。
何がだ、と一瞬かなり困惑したが、その目は虚ろで、もう救いようがないんじゃないかと思わせるような雰囲気だったので何かあったのかと少し心配になった。
...まぁ、こいつが俺の目の前でおかしいことばっかり言うのは普通なんだけどさ。
なんだか、今回はいつもと違う顔だったので一応尋ねてみることにした。
俺は優しいからな。
目の前のこいつとは違って。
「どうした?球磨川」
『インドネシア及びマレーシアの焼き飯料理』
「...?」
ついに気でも触れたか、こいつ。
うーん可哀想に。
「…で?まじでどうしたんだ?」
『いや、ちょっと今いきなり食べたくなった料理があってね...』『それのことを考えてただけさ。』
それであんな表情ができるのか、こいつ。
正気の沙汰ではない気がするんだけど。
「それがさっき狂ったように唱えてたやつか?焼き飯料理ならこっからちょっと行ったとこの店で作ってたぞ」
『いやいや、ナシゴレンをそんじゃそこらの焼き飯と一緒にしてもらったら困るぜ』『なんたって、インドネシア及びマレーシアの焼き飯料理だからな』
「あ?梨?まぁいいやとりあえずそんじゃそこらの焼き飯に謝れ。」
焼き飯に謝るって何だ。
『いや、ほんとこう言う時って無力だよね。人間って。』『もう届かないと分かっているのに、つい手を伸ばしてしまうんだ。』と、大袈裟な身振り手振りとともに話す球磨川。
なんで恋の物語みたいになってるんだ。
そこまで感動的な話にするつもりは毛頭無いだろうに。
『はぁ...ナシゴレン...現代に戻りたい...くそぅ、
「いや、ていうか、じゃあ作れば良いだろ」
『...』
突然ムクリと、球磨川が起き上がり、マジマジとこちらを見つめた。
気持ち悪いなぁもう。
『...もしかして善逸ちゃんって天才?』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
天才と言われ調子に乗った俺は、ナシゴレンとやらを作る羽目になったんだ。
今思うと馬鹿だな、自分って思わずにはいられないよ。ははは。
全くもう。お茶目だなぁ俺は。
まぁ、そういうわけで、しのぶ邸の台所の使用許可を葵ちゃん(何者かは不明だが、ここで働いているかわい子ちゃんだ。)に貰って、早速作ることになった。
料理開始。
「で、まずどうしたら良いんだ?」
『さぁ?』
終わった。
いやいやいやいやいやいや。
「なんでさぁ作ろうってとこで作り方知らない宣言するの!?!?ばっかじゃねぇの!?」
『へ?いやー、なんとかなるかなぁって。』『当たって砕けろってよく言うだろ?』
ならねぇよ。
砕けるほど材料ねぇよ。
『大丈夫大丈夫。材料ならなんとなく覚えてるからさ』
「信用はしてないけど、まぁ言ってみろ」
えっとね...
・ニンニク
・唐辛子
・牛肉
・生野菜
・ケチャップ
・塩
『...ってとこだったはず』『多分な』『多分。』
「了解。じゃ、作ってみるか。俺、料理は美味いからさ」
『へぇ』『それは期待のし甲斐があるってもんだぜ。』『じゃあ僕は応援してるね。』
「お前も手伝うんだよ」というわけでしっかり作った。
失敗したら準備した食べ物が勿体無いしな。
ケチャップなんてものは無かったのでトマトを潰して代用した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして様々な奇跡が重なりに重なって完成。俺はついそれを見て拍手をしてしまった。
意外にも、めっちゃ良い匂いする。
...。
いやまぁ。
正直、全く信用していなかったんだけどね。
球磨川を信用したら絶対に後悔する事になると、この数日でしっかり刷り込まれたからな。
『酷くね?』
「いや、当然の評価だわ。今までの行動思い出せよお前」
『悪いけど僕、過去は振り返らない主義なんでね』『ほんとごめんね!』『でも、僕は悪くない』
「あーはいはい」
俺はもうその辺りでめんどくさくなって会話を無理やり切り、料理を食堂へ運んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
てなわけで試食!
「『いやマッズ!?」』
良かったのは匂いだけだった。
球磨川でさえ『うっそだぁ…』みたいな顔をしているので、恐らく本当に不味いのだろう。なんつーもんを生み出したんだ俺たちは。
『なんだこれ...』『これが、これが本当に僕の故郷の味か...?』
「いや…さっきお前インドの料理とか言ってなかったか?」
『今まで内緒にしてきたけどさ』『実は僕———インド人なんだよね。』『あと、これはインドネシアおよびマレーシアの料理だ。』『そこんとこ間違えるなよ?善逸ちゃん』
「いや、だとしたら無関係じゃねぇか」
お前何者なんだよ、ほんと。
キャラが濃すぎて俺の個性が薄くなってんだよ。もうこれ以上濃くなるのはやめてくれ。後生だから。
「まぁそうだな、まずは問題点を洗い出そうぜ」
『え?なんかあったかな...』『善逸ちゃんのナシゴレンへの愛が足りなかったかな?』
「どっからどう考えても分量測ってないことだね」
ちょっとだけ。
ほんっっっっっっっっのちょっとだけ球磨川を信用してしまったのだ。
俺が目を話している間に球磨川が『調味料入れとくよ?』と言っていたことを思い出す。
その時に決まっている。
その時じゃないことがあるだろうか。
いや、無い(反語)。
きっと『ん〜多分これくらいだよね〜☆』と言って塩大さじ10杯くらい入れやがったのだろう。
この脳死野郎め。
過去の自分を殴ってやりたい...なぜこいつに料理の一端を担わせたんだ。
「はぁ」
...まぁ過ぎたことは仕方がない。とりあえず今回は一旦全て水に流して(本当に台所に流すなんて勿体無いことはしない。もったいないおばけが出ないようにしっかり球磨川に全部食べさせた)、また明日作ることとしよう。
匂いから察するに、しっかり作れたら美味しいのは確実っぽいしな。
ていうか、もう葵ちゃんに頼んでも良いかも…。
そのほうが安全だ。
そう思いながら、僕は冠石野ちゃんと一緒に葵ちゃんが作っためっちゃ美味い朝食を食べた。
どんまい、球磨川。
すげぇ美味いぞ。
という訳で後編へ続く。
え?どこが怖い話だって?
いやいや。
こっからだよ———あいつの狂い具合は。
追伸
冠石野ちゃん、めっちゃ幸せそうに鮭を食べます。
か〜わ〜い〜い〜!
か〜わ〜い〜い〜!
というわけで一話挟んで後半に続きまっす。
そろそろ胡桃ちゃんのキャラデザを考えたいお年頃ですがいかがお過ごしでしょうか。きっと白髪ジト目美少女だと思います。誰か描いてくれ…俺の画力じゃ無理…!
クロスオーバー作品としてそれぞれのキャラに違和感はありますか?
-
ない
-
ちょっとある
-
めっちゃある