018
「この話から見始めた!」という奇異な読者がいなければ、今何が起こっているのかは分かるだろう。
時間帯は午前10時。
百熱の太陽とは対照的に、俺らは絶望の真っ只中だった。
俺こと
昨日から「その痛みは努力の証です!」と言って「疲労」を「無かったこと」にしてくれていなかった冠石野ちゃんがようやく慈悲で能力を行使してくれたのが唯一の救いだ。
うんうん。
流石冠石野ちゃんだよね。
球磨川とは真逆の心優しい子だ。
頭を撫でてやりたくなるね。
だが、それでも絶望的な状況であることには間違いないため、少しでも負担を軽減するために、球磨川には傍観してもらうことにした。
『おいおい、発案者の僕が参加しないとは何事だい?』『それに椅子に縛りつけたりなんかしてさ。』『悪いけど、あいにく僕は縄抜けのプロとしてサーカス団では一躍人気者になったこともあるんだぜ?』
「はいはい、分かった分かった。...で、どうすりゃ良いかな?冠石野ちゃん。一応材料はこれなんだけどさ...」
「ふむふむ、なるほどですね...まぁ、大丈夫でしょう。なんたって私は天才料理人として時の人となったこともある女ですからね。」
「冠石野ちゃんもあの馬鹿と同じ属性なのか...まぁいいや。やってみよっか。ここまで来ると俺も完成させたくなってきた。」
「了解です」
『了解です』
「お前は本当に黙ってろ」
『おいおい、そんなに怒るなよ』『善逸ちゃんは元気がいいなぁ、何か良いことでもあったのかい?』
「お前は廃墟を転々とするアロハシャツのおっさんにでもなりたいのか?」
いや、誰だそれは…。
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というわけで(どういうわけで?)俺と冠石野ちゃんが本気でナシゴレン作りに取り掛かり、そして完成した。
うんうん。匂いも良いし、見た目も最高の出来栄えだ。
我ながら惚れ惚れする。
...いや、飾り付けに関しては俺にセンスが全く無かったから冠石野ちゃんに任せたんだけどね。
ナシゴレンの正解は分からないけど、料理としては割と成功なんじゃないだろうか?
球磨川が縄抜けして塩をまぶしていない限りは。
...うん、まぁ大丈夫そうだ。ずっとさっきから座ってニヤニヤしているのは事あるごとに確認している。
何であんなに人の神経を逆撫でできるのだろうか、球磨川の笑顔は。
軽く論文を書けそうだ。
そして、チラチラ見る俺の視線を感じ取ったのか、球磨川がようやく完成に気付き、
『お、もう完成したのかい!?』『流石胡桃ちゃんだね』『もうさっきからお腹がペコペコでさぁ...』と言った。
「俺も作ったんだけどね...まぁいいや。そんな球磨川に朗報だ。ほら、冠石野ちゃん。」
「了解です」
そう言って冠石野ちゃんは縛られている球磨川の前に料理を置き、そして箸で掬った。
そして少し照れながら———
「はい、あーん」
と、かなり破壊力のある台詞を放った。
その瞬間、小さな部屋に電撃が走る!
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…ちなみにこれは俺の作戦だ。
何のって?
ははは、決まっているだろう。
早く
まぁ簡単に説明すると「可愛い女の子に『あーん』された後『美味しい?』って聞かれて『美味しくない』って答える人いないだろ」っていう作戦なんだけど...
ちょっと浅はか過ぎたかな。
もう完成したんだからあとはどうだって良いんだよね、正直。
早く葵ちゃんの美味しい昼食を食べて落ち着きたい。
そう思ってしまうと、なんか球磨川の思いなんてどうでもよくなってしまった。
冠石野ちゃんも同じ心情だったらしく、易々と俺の作戦に乗ってくれた。
...いや。
俺が言えることではないけど、ここに球磨川の味方はいないのか。
ちょっと可哀想になってくるわ。
いつもごめんな。
改めることは無いよ。
閑話休題。
『もしかして僕のこと好きなのかい...!?』とか一通りの漫才をしたがそこは本編とはどうでもいいので割愛しよう。
というわけで試食だ。
『よっし、じゃあ頂いちゃうぜ』『いただきまーっす!』
食べた。
すげぇ嬉しそう...なんだかこっちが羨ましくなってきた。
くそっ...策士策に溺れるとはこのことか...。
恐ろしい限りだ。
「お、美味しい、かな…?」
———よし来た!
そしてこの後の答えは男として一つに決まっている!
決まっているよな!
信じてるぜ球磨川!
『ふむふむ、なるほどねぇ...』
『美味しいよ』
『うん、たしかに美味しい』
『これはこれで』
『…でもね』
『まぁなんというか、あのさ』
『なんか足りないんだよね...』
俺と冠石野ちゃんがズルッと盛大に転けた。
さながら漫才だ。残念ながら夫婦漫才ではないけどね!
冠石野ちゃんなんて座っていたのに。
いや、問題はそこじゃなくて。
「嘘だろお前!!!!女の子に!!あーんされて!!!!美味い以外のことを言うなよ!!!馬鹿なの!?」
「ちょっと、あの、改めてあーんしたという事実を突きつけられると恥ずかしいんだよね...」
「あっごめ...」
『おっと、善逸ちゃんが冠石野ちゃんを悲しませた!』『日本男児としてあるまじき行動だぜ、全くもう!』
「最低だなお前!?」
最低だった。
♦︎♦︎♦︎
「まじか...まじか球磨川...」
『え、今の僕が悪いの!?』
「あぁ、お前が悪い。お前以外誰も悪くない」
なんてことだ。
抜け目なんてないと思っていたのに。
球磨川が空気を読めないことを完全に忘れていた。
「えっと...じゃあどうするの?足りないって何がかな?」
『んー...なんだろうな...ちょっと2人も食べてみなよ』
「良いけど、俺らナシゴレンがなにか分からないから不足はわかんねぇぞ。...いただきます。...うん、まぁ美味いと思うけど」
「はい、なかなか美味しいですよ?」
『いやいやいや』『本物のナシゴレンにはまだ程遠いぜ』『別物といってもいい』『これじゃカキゴレンだ』
「訳わかんないけどムカつく...」
一回殴ってやろうかな、こいつ。
にしても。
多分、ナシゴレンの「完全体」を食べさせなければ、球磨川の
行き過ぎた愛って、恐ろしい。
とすると、どうするべきか———
「...試行錯誤、かな?」と、冠石野ちゃんが首を傾げる。可愛い。
「それしかないよなぁ...あーもったいねぇ。失敗作は全部食えよ、球磨川」
『あはは、それは面白い冗だ「わー!何やってるの皆!そしてなんで君は縛られてるのかな!?格好良い..
あ!美味しそう!もしかしてこれって!」
———ナシゴレンじゃない!?
「『「あ。」』」
僕ら3人は、綺麗なタイミングで言った。
いや、というか。
誰だ、この人。
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この美女は一体全体何者かと思ったのだが、このピンク色の髪と巨乳は。
間違いなく「恋柱」———甘露寺蜜璃である。
…なんだか、この言い方だと俺が女性を髪と胸で判断しているように思われてしまいそうなので、そこは否定しておこう。
違うぞ。本当だ。
「あの、甘露寺さん、どうしてナシゴレンを知っているんですか...?」
「私ね、料理が好きでねぇ!あ、食べるのも作るのもだよ?それで海外の料理も色々作ったりしてるんだよね!最近はパンケーキ作りにハマっててさ、自家製の蜂蜜で食べたらもうほんと天国なの.....」
なるほど。
パンケーキについてもっと詳しく聞きたいところではあるが、それはまたの機会があることを祈ろう。
今回は、そこじゃない。
『へぇ、じゃあ蜜璃ちゃん、もしかするとナシゴレンを作れたりするのかい?』と、球磨川は馴れ馴れしく聞いた。
「えぇ、もちろん!」と、怒ることなく笑顔で返す甘露寺さん。
器が大きいなぁ。
いや、胸の大きさの比喩とかじゃなくてね。
本当だよ?本当。
信じてくれ。
♦︎♦︎♦︎
で、甘露寺さんがご好意でイチからナシゴレンを作ってくれたんだけれども。
びっくりするぐらい違う味になった。
馬鹿みたいに美味しい。
何が足りなかったのか。
おそらく辛味が強いせいで「辛いだけの」料理となっていたのだろう。
甘みが必要だった。
そう、例えば———卵。
目玉焼きを乗せて食べるだけで格段に美味しくなったのが目に見えて分かる。
流石に材料忘れてたらどうにもならねぇよ、球磨川。
「へぇ、美味しいんだね、これ」と、冠石野ちゃんもあまり表情に出ないなりに美味しそうに食べている。
か、可愛い…。
そして当の球磨川も、
『うわっなんだこれ...』『今まで食べたナシゴレンの中で一番美味しいんだけど...?』
と嬉しそうに、困惑しながら食べていた。
か、可愛くねぇ…。
「あらもう、お世辞が上手いなぁ禊ちゃんは!」と、甘露寺さんも体をくねくねさせて嬉しそうにしていた。
可愛い…ッ!
ちなみにお世辞ではない。
本当に、めっちゃくちゃ美味しいのだ。
俺らが最初に作ったものとはまさに月とスッポンだった。これは形が同じだけの別物だ。
食レポとか苦手だから「美味しい」しか言えないけどさ...。
『ふぅ』『いや、これは大満足だぜ』『ありがとう、蜜璃ちゃん』『良かったらあとでレシピを書いておいてくれないかい?』と球磨川。だから敬語を使え。
あと多分、作るのは僕か冠石野ちゃんだよな?
「お安い御用よ!いやぁ気にいってくれて嬉しい!」と満面の笑みの甘露寺さん。
可愛い。
台所に、笑顔が溢れる———
———ちなみにその日の夕食は、球磨川が作ったナシゴレンだったのだが。
びっっっっくりするくらい不味かった。
なんでだよ。
なんでレシピ通りにやってこうなるの、と俺と冠石野は泣いた。
『え!?そんな泣くほど美味しいのかい!?』と喜ぶ球磨川の声が本当にウザかった。
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———と、まぁ。
そんなこんなでナシゴレンを巡った何かしらは終わった。
あ、そうそう。
勘違いする人もいそうなので言っておくが、これは制作2回目の話ではないということも話しておこう。
これ以前にも何回か行っており、一度は球磨川の「却本作り」で俺の「ナシゴレン愛」を球磨川と同等にしたり(強制)してみたのだが、ナイフの扱いが下手になりすぎたため断念した。
本当に、長かったと、振り返ってみると感動すら覚えるね。
まさかあのクソ不味い料理から、あそこまで美味しいものに辿り着けるなんて。
他力本願だけど...
まぁでも暫くは球磨川も大人しくしてくれるだろう...おっと。
球磨川が2階で僕を呼んでいる。
嫌な予感がするぜ。
けど、今回の話はここまでだな。
球磨川のことは無視することにするよ。
仕方ない仕方ない。
じゃないと長くなりすぎて今ですら少ない読者が去ってしまうもんな。
まさに僕は悪くない、ってやつだ。
そういうことで、お相手はこの俺、我妻善逸でした。お疲れ様!ここまで読んでくれてありがとう!
《Make Make Make!》is nasi “goal”eng.
Delicious!
はい、と言う訳です。次回からついに遊郭編です。よろしくね。
感想、評価等も宜しければ。
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