029 a Day in Our Life
リー、リー、リー、と鈴虫の鳴き声が響き渡っていた。
これはある深夜のこと。
いつの深夜かという注釈を加えるとすれば、これは遊郭での一件が終了した2日後のことである———甘露寺蜜璃が死亡してから2日後のことである。
俺———我妻善逸と球磨川禊、冠石野胡桃の一行は未だ疲れが取れず(まぁ球磨川はこっそり「無かったこと」にして疲れているフリをしているだけなのだろうが。そこら辺の彼の性格は分かってきた。)、療養を続けていた。
勿論、蟲柱の胡蝶しのぶの家である。まさに至れり尽くせりと言って申し分ない扱いなので個人練習に努めなければ堕落人間になってしまいそうだ。
堕落。
球磨川のように———とは流石に言うまいが、堕落するというのはとても恐ろしいことだ。
もっとも、堕落してしまえばそんな怖さは感じなくなるだろうけど。
でもだからといってそれを許す理由にはならない。死んだら何も感じ取れなくなるから死んでもいいと言っているようなものだろう。
俺の中では堕落は、死ぬことと同義だ。
ベッドの上で俺は「あぁ今いい言葉言ったな」などと思考していると(言っていない)、突如のこと。
『なぁなぁ善逸ちゃん。起きてる?』
ガサガサと音がしたかと思えば何者かが俺の肩をユサユサと揺さぶってきた。
まぁこの場合は何者か、なんていうぼかしは何の意味も持たないだろうが。
球磨川禊である。
出来ることならば起きているか聞くだけにしてほしい…揺さぶったらそりゃあ寝ていても起きるだろうに。このアンポンタンはそれが分かっていないのだろうか。
分かってないだろうなぁ。
「はいはい起きてますよ…で、何だよ」まぁ幸いにもまだ起きていたので今回ばかりは許すこととしよう。僕は頭を掻きながらそう尋ねた。
『いや、する事ないから雑談しようぜ』
予想以上に下らない用件だったので(これなら一緒に便所に行こうのほうがまだマシだ)、怒鳴りそうになったが冠石野ちゃんがいることを思い出してそれをグッと堪える。
ナイス冠石野ちゃん。後で褒めなくては。
「…寝ればいいんじゃねぇの?」と、気怠げに言ってみる。
喉が渇いたので棚の上に置かれているコップに手を伸ばす。
んー、あとちょっとなんだけどな。
届け、届け、届け。
うん無理だこれ。ここは潔く諦めよう。
『なんか眠りにつけなくてさぁ』『恋バナでもしようぜ』『善逸ちゃん誰が好きなの?胡桃ちゃん?』
唐突の衝撃発言。
水を飲んでなくて良かった、と安堵———なんて出来るわけがない。
「わっ馬鹿…!」大慌てで冠石野が就寝しているベッドを見る。スースーと寝息を立てているのを確認してから静かに球磨川を見る。
「ぶっ殺すぞ」
『怖いって善逸ちゃん…落ち着けよほら。』『どうどう、どうどう…あはは、冗談だってば』『それとも図星かい?』
う。
「…まぁ、そうだけど」今鏡を見たら真っ赤になっていそうだ。黄色の髪の毛とも相まってかなりファンキーな姿になっていることだろう。
今が深夜であり、相手の顔色までは見えない状況であるということに感謝した。
今何に感謝したんだろう、俺。
『へぇ…これは面白…』『げほっげほっ』『愉快なことになってるね』
「何も訂正出来てないぞ」
『ていうか、普段の善逸ちゃんなら速攻告ると思うんだけど、どうしてそんなに渋ってるんだい?』
確かにそうかもしれない。普段なら確実に告っている。
しかも出会って数秒で。いつもそうだ。
そう思いながら彼女との出会いを振り返る———無限列車。
あ、そうか。
「俺さ、今まで『女ッ!』って感じの女の子としか話したことなかったわけよ」
『ほう、で?続けたまえ』
「ムカつくな、それ…で、冠石野みたいな、なんていうか…男っぽい?な感じの女の子…あ、悪口じゃねぇぞ。あぁいう子に会ったことなかったからどうしたらいいのか分からなくてさ」
『ふむふむ』『つまりあれだね』『殴られたら嫌だってことだよね』
「いや、そこまでされるとは思ってないし女の子に殴られるのは慣れてるけどさ…まぁでも反応が想像できないんだよな、要するに」
…って、コイツにここまで話してよかったかな。
いや駄目だ。絶対に駄目だ。
最悪本人に暴露してくる。
それだけは防がなければ。
『ふーん、そっかそっか』『…でもさぁ善逸ちゃん』『———お前、明日死んだらどうするんだ?』
急に、本気っぽい語り口調になった。
明日死んだらどうするのか。———当然思いは伝えられなくなる。
『もしかしたら冠石野ちゃんだって、甘露寺さんみたいに死ぬかもしれねぇぜ』
恋柱———甘露寺蜜璃。
彼女が死んだのは、記憶にもまだ新しい一昨日のことだった。
伊黒さんは今何をしているのだろうか。話そうにも朝目覚めたらいなくなっていたし。
いつかまた出会えることを祈っておこう。
「…そうだな。ま、あとちっとだけ待ってくれよ。今はそういう気分でもないしさ」
『ん、どうしてさ』『人間、年中無休で発情期だろ』球磨川が不思議そうに聞いた。
「嫌な言い方だな、それ…実はさ、今探してる奴がいてさ」
そう言いつつ、自分のベッドの横の棚を開け、紙の束を球磨川に見せる。
『ん…』『これは?』
「俺の、兄弟子の行方を追ってまとめたものだ」
俺の兄弟子、すなわち師匠の弟子———元弟子、
「コイツ、雷の呼吸の使い手のなかで一番優秀で、爺ちゃんにも随分と褒められてたんだ。なのに。」
なのに。
———どうして鬼になんかなったんだ、お前。
「
凄く、痛かったと思う。心も体も。
それを思うと、今だって居ても立っても居られなくなる。今すぐに首を切りに行きたい。
『へぇ…それで、復讐したいってことね』
「そうだ」と言いながら紙束をまとめて元の棚に戻す。そしてため息。「でもさぁ、まだ正確な情報はあんまり手に入れられて無いんだよな」
『そうなの?あんなにいっぱい紙あったのに』
「噂話も多いんだよ。正確なのは、アイツが鬼になって———上弦の下っ端になったってことだ」
上弦の鬼。
それは即ち、彼が堕姫ほど強いと言うことだ。
今回だって、芥川さんが居なければ勝てなかっただろう。
『えっと…それってすっごい強くない?』
「あぁ、だから今こうやって訓練しているんだ。いつか、アイツを倒すために。」
『意外とちゃんとした目標があるんだね』『頑張れよ、善逸ちゃん』『僕は陰で笑ってるから』球磨川が片目を閉じる。どういう仕草だろう。
「笑うな笑うな。折角いいこと言ったかと思ったのに」一応俺も右目を閉じてみる。なんだこれ。
『まぁけどさ』『時には休養も必要だよね?』『だからさぁ、折角だから明日———』
「断る」
『えっ何で!?』
「ろくでもないことを提案するのは目に見えてるからな」
『おいおい』『相手が僕だからって言っていいことと悪いことがあるんだぜ?』と言って球磨川は肩をすぼめる。
毎回思っていたけど、なんだその気に触るポーズは。
「…これはどっちだろうな?」
『言わなくちゃ分からないのかい?』『まぁいいや、それでさ善逸ちゃん。良かったら———』
———うちに来ない?
そう言った。
それはそれで衝撃発言だった。俺はその申し出に空いた口が塞がらなかった。
そもそも家族とかいるのか、こいつ?
もっとも、この後更なる衝撃事実公開によってそれ以前の驚きは全て「無かったこと」になったに等しいのだけれど。
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次の日の朝。
俺らは球磨川家に出かけることになっていた…昨晩の会話を知らない冠石野は困惑一色だろう。
あの後僕が聞かされた事実もまた衝撃的なもので、同じように俺も困惑していたけどな。
「…なぁ、冠石野ちゃん」
「あっごめんちょっと待って…。はい、なんです?」クルッとまわってこちらを振り返った、可愛い。
じゃなくて。
「えっと…昨日アイツに聞いたんだけどさ」
「はいはい」
「球磨川が未来から来たって本当なのか?」
「うん、本当だよ。マジと書いて本当って読みますよ」
「それは逆だろう」
凄く自然に言われた。
…え、これって結構当たり前のことだったの?
知らなかったの俺だけ?
「はい。日本国民なら皆知ってますよ、球磨川さんが未来人だなんて話」
「そっか…それは済まなかった…」
…。
ん?
いや、流石にそんな訳なくない?
「まぁそれは嘘にしても———服装とか所持品、言葉などで気付かなかったんですか?馬鹿すぎませんか?」と、久々に辛辣な言葉をかけられた。つい「うぐっ…」と唸ってしまう。
「でも大丈夫ですよ善逸さん。無知は罪だけれど、馬鹿は罪じゃないんですよ。馬鹿は罪じゃなくて、罰ですからね」
「何の!?ねぇ俺何やったのぉ!?おい無視しないで!」
暫く話しかけていたらニヤッと笑って「化物語ジョークです」と言った———言ったらしいがそれが何かは分からないのでもしかすると聞き間違えかもしれない。
あとで聞いておこう。
それはともかく、確かに時々気になる部分はあったのだが「まぁ球磨川だもんな」と自分の中で解決させてしまっていたのだ。
例えば———と、机の上に置かれている球磨川の所有物を見る。
四角い箱のようなもの。
ガラケー、と言うらしい。
球磨川によると「時間を凍結させる道具」らしい…信じられなかったが、球磨川が実際にやってみせると「パシャ」という音の後にその画面の中に俺の姿が現れた。
いやぁあれは驚いたね。…ていうか最近の俺は驚きすぎている気がする。あれ、いつも通りかな?
むしろ成長したことで自身のそう言う部分(球磨川風に言うならばマイナス?)がより一層際立っているのだろうか。
綺麗な場所にあるほこりほど目立ちやすいものだ。
閑話休題。
「ていうことは今から行くのは球磨川の先祖ってことだよな?なぁ球磨川、大丈夫なのか?」
『大丈夫大丈夫。いくら時代が流れていても血は繋がってるんだからさ』『顔パスさ顔パス』と、軽めの返事が返ってきた。
とても信憑性が薄い返答だった。
にしてもどうしていきなりそのようなことを言い出したのだろうか…まぁいつもの適当かな。
恐らく変な企みなどは無いだろうし、今回は鬼と戦う展開にはならないはずだ。
そんなことを考えているうちにいつの間にか全員の準備が終わっていた。
というわけで出発———
「あ、皆さん!良かったらこれをどうぞ」
出発する寸前で声をかけてきたのは、いつぶりの出演だろうか、しのぶさんだった。
家に泊まらせてもらっているのにこの出演量は可哀想だなと思う。今度からは出来るだけ出していくこととしよう。
まぁそれはともかく、彼女の手にあったのは大きく膨らんだ笹の葉だった。
温かそうな湯気が出ており、それに乗って美味しそうな匂いが鼻に届く。
「お、これはもしや…」
「はい、おにぎりです。加熱した藤の花を混ぜておいたので道中にでも召し上がってください」
なるほど。そういえば藤の花は鬼にとって有毒なんだ。だとするとそれを食べるのは鬼避けとして有効…
有効なのか、この少量で?
「別に効果があるわけではありませんよ。一種の願掛けみたいなものです」
『ふーん、美味しそうだねぇ』『ありがとね、しのぶさん!』と、いくら願掛けをしても無駄に終わりそうなほど不幸な男が感謝の言葉を述べた。
「えぇ、いってらっしゃい」と球磨川の失礼なタメ口をサラッと受け流せるしのぶさんは、やはり心が広いのだろう。
凄くモテそうだ。実際俺もお嫁に欲しい。
まぁそんな感じで、俺らは球磨川の家を訪れることとした。
…あれ、今と昔じゃ家の場所違うんじゃないのか?
グダグダになりそうだ…。球磨川家どんな感じなんでしょうか…「禊がば祓え編」も是非よろしくお願いします。
クロスオーバー作品としてそれぞれのキャラに違和感はありますか?
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ない
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ちょっとある
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めっちゃある