過負荷の刃   作:角刈りツインテール

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「至公」というのは、「公平」と言う意味らしいです。僕も知りませんでした。



030 思考(至公)

猛暑と言って差し支えない太陽からの有難いことこの上ない日光の降り注ぐ昼間。

はっきり言って気が狂いそうだった———まぁ、こんな気温の中歩いている時点で既に気が狂っているとも言えるけど。

何が悲しくてこんなことをしているんだ、俺は。

そんな言葉を脳内でループさせていると突然、『しりとりしようぜ!』と球磨川が言い出した。

『人類は遊びと共に進化してきたんだぜ』『もしかすると、遊んでいれば強くなれる理由を知れるかもしれないよ?』

「今とんでもない理論の跳躍があった気がしたんだけど…」

しりとり。

知らない人はいないであろう、古典的な日本の遊びだ。まず参加者のうちの一人が、最初に適当な単語を言う(最初に言う単語は「しりとり」とするルールもある)。以降の人は順番に、前の人が言った単語の最後の文字(つまり『尻』=語末 である)から始まる単語を言っていく。

遠足なんかの道の途中ですることが多いよな?

球磨川が童顔であること、今歩いているのが土手であることも相まって、まるで遠足中の小学生のような印象を受けた。

本性を知っている俺からしたら微塵も微笑ましさなど感じないが。

「いいですよー」と少しもウザがらずに冠石野ちゃんがそう答えた。

冠石野ちゃんも参加するようなので俺も「分かったよ」と参加する事にした。

仲間はずれは寂しいからね。

あと冠石野ちゃんと話したいし。

『よっしゃ、じゃあスカートめくりの天才と恐れられた僕が君らの尻をもぎ取ってやるぜ』

「スカートめくりってそんな殺伐とした競技でしたっけ」

「いや、競技ですらねぇぞ…まぁけど恐れられてはいそうだな」主に女子に。

全く威張れる話では無い。むしろ恥に近いものだろう、それは。

それにしてもしりとりなんていつぶりにするだろうか。

爺ちゃん家にいたときは訓練ばっかで遊ぶ暇なんて無かったからな。

幼少期ぶりと言っても過言ではないだろう。

まぁけど、やるからには本気で…とはいえ、本気でしなくても球磨川には勝てるだろうけど。

敵は冠石野ちゃんのみだ。そしてそんな彼女もあくまで遊びとしてのしりとりをしようとしている。

うん、甘いな。

実に甘い。

今から行うのは本気の、大人のしりとりだ。

故に妥協はない。

俺の勝ちだ。

順番は俺→球磨川→冠石野となった。

さてさて。

俺のターンだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

どうも、冠石野です。

しりとりで先程圧勝した冠石野胡桃です。

いえーい。

おっと、ヒーローインタビューですか?ははは、照れますねぇ。

ちゃんと事務所を通してますか?はいはい、ならいいですよ。

そうですね、こちらに向けた殺意を感じたため高貴な私が早急に「ぷ責め」の体制を取ったのが功を期しましたね。

後期の彼の悩む姿は見ものでした。あれだけで白米3杯はいけるね。

流石に言いすぎましたね。精々2杯ってところでしょう。

ははは、私がのほほんっとしりとりをしているとでも思っていたか。

甘いな。

甘ちゃんだぜ、ほんと。———とか言うと禊っぽいのでやめておく。あれに似ているだなんて冗談でも言われたくはない。

私だってしりとりは本気なんだよ。どれくらいかって言うと…うーん、鬼狩りくらいかな。

…。

まぁ、流石にそれは冗談にしても、この遊びでかなり本気で思考していたため疲れてしまった。

 

なので2人に「あのー、休憩にしません?」と提案した。既に頭も体も困憊している。あとどれくらいの距離なのだろうか?と思い前方を確認する。

だが目の前には土手が広がっている———土手が広がっているっておかしいな。それはもう土手じゃない。まぁ自然が広がっていた。

ぶっ倒れたくなった。

何で私たちはこうまでして禊の家に向かっているのだろうか。

訳がわからないよ。

『いいよ。実は奇跡的に僕も同じことを思っていたんだ』と禊が肩を回す。『はぁ、疲れた』

お前の提案だろうが。

「何が奇跡的だよ。俺だって思ってたわ。よっしゃおにぎり食うぞ!」

そう言って善逸が笹の葉を風呂敷から取り出した。

おにぎりだ!

おにぎりだ…おにぎりだ?

おにぎり…。おに…ぎり?

鬼———

「あっ」

今凄いことに気がついてしまったかもしれない。

 

 

おにぎり———鬼切り。

 

 

うぉううぉう。

これはこれは…鳥肌がたった。

なかなか粋な事をするな、しのぶさんも…まぁ偶然かもしれないけれど。

どれだけゲン担ぎをしたら気が済むんだ。

『どうしたの?胡桃ちゃん』

「や、何でも無いですよー。」この発見はちょっとの間隠しておこう。

何故かって?…まぁ、優越感に浸りたいからですよ。

悪いですか!?

いいですよね、えぇ。人間というものですよ、それが。

仕方がないよね。私は悪くないんだよ。

「さて、じゃあ食べましょうか」

「そうだな…あ、あれ?なぁ冠石野ちゃん。おにぎりってもしかして鬼切りって意味じゃないか?」

光速でバレた。

嘘だろ。

あれ、そんなに凄くないのかな、この発見。いや、これも彼が雷の呼吸の使い手だからだろうか。流石善逸、と言う事なのか。

まぁでも、閃いたのは私が一番初めですから———

『———おおおおおお!凄いね善逸ちゃん!』『これはなかなか気付けねぇよ』『なぁ胡桃ちゃん?』

しまった。

さっき欲をかいて気がついた事を言わなかったんだった。

これはまずい。善逸が持て囃されてしまう。

嫌だ。

持て囃されたい。

それだけは避けなければならない。さて、思考だ。

 

至高で

志向な

嗜好を、思考しろ。

そして———最適解を試行する。

 

 

「いや、私が最初に思いついてましたけど???」

ゴリ押ししか思いつかなかった。

死にたくなるほどダサい…いや何をやっているんだ私は。

まぁそんな感じで僕私たちは一本道を歩いていた———。

歩いて。

歩いて。

歩き回った(回ってはいないが)———だが。

『ねぇ善逸ちゃん…』『土手ってこんなに長いっけ?』

「さぁ…なんか、景色が変わっていない気がするんだけど…」

「良くお分かりで」

「えぇ、流石私たち———あれ」

誰だ、今の人。

年配の男性の声が聞こえた気がしたのだが。

気のせいだろうかと思い他2名の顔色を伺い、ついでにその声について伺う。

「あの、皆さ…」

絶句した。

それも当然の話だ。何故なら———

その声の主は、善(・)逸(・)の(・)頭(・)の(・)上(・)に(・)自(・)信(・)の(・)頭(・)を(・)乗(・)せ(・)て(・)い(・)た(・)の(・)だ(・)か(・)ら(・)。

「え…なんのギャグですか、善逸」

「あ?何がだよ」

矢張りだ。

こいつは、頭の上のこの男の存在に気付いていない。

どういうことだ?と訝しみその男の風貌を確認する。

西洋風のタキシード。

真っ白に染まった、それでいて美しいとさえ思える年を感じさせない髪。

人の懐に入り込むのが上手そうな、清楚な笑顔。

行動だけが異常だった。慣れ親しんだ言い方をするならば、その男はまさしく異常(アブノーマル)だった。

もしくは———。

『…あのさ、胡桃ちゃん』『これ遊郭でも同じようなことあったよね?』

禊も気付いている…?

これは一体どういうことだろうか。

それに———遊郭で?

そんなことあっただろうか。こんな男、見たことないけど。

いっちゃ何だけどこんな行動をするヤバい奴を忘れる訳がない、と思う。

自分をそこまで記憶能力皆無な人間だとは思いたくはない。

私は鳥じゃない、人間だ。

いや、そんな訂正をしている場合ではなくて———本当に、何なのだろうか。

何も分からない。

「球磨川様、流石でございます。実の所、遊郭での鬼『堕姫』殿、そして『妓夫太郎』殿の『違和感』を『無くした』のは私めで御座いまして。もっとも、同じ過負荷(マイナス)の方には効果が薄いようですが」

「あぁ…」そういうことか。

道理で、「違和感操作」なんて使いようによってはかなり良い武器になる物を持っていながら戦闘で使わないなぁと思っていたのだ。

それはつまりあの兄妹の過負荷(マイナス)ではなく。

この男のスキルだったから、か。

かつて球磨川が言ったように、それを欠点(マイナス)と考えるならば———「見て見ぬ振り」といったところか。

非日常に気が付かないように、平凡な人生を謳歌する——たとえ目の前で人が倒れていても無視を無視をする。

そういう、人間なのだろうか?

「あの、一先ず、そのスキルを解除して頂けませんか」

「言われなくともそのつもりで御座いますよ」

そう言って男は顔を善逸の頭から離す。すると。

「———っはぁ!?なんだお前!?」善逸が、まるでその男が今そこに現れたかのようなリアクションをしてみせた。

「では早速参りましょうか」

『ん…』『何処にだい?』

「何処へって、ほっほ、中々ユーモアのあるお方ですね。決まっているではありませんか———」

彼は、一拍待って溜めた後、こう言った。

 

「———球磨川様のご自宅です」

 

爽やかな笑顔だった。

へぇ、それは願ったり叶ったりだ…って、いやいやいや。

 

罠の匂いしかしないんですけど…?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「私めの名前は名梨野権兵衛(ななしのごんべえ)で御座います。」

その後、彼は丁寧に自己紹介を済ませた。

土手を歩き、球磨川の家を目指しながらのことだった。

「……。」

『……。』

「……。」

名無しの権兵衛。

私たちは全員、それがツッコミ待ちなのかと思ったが先程までと変わらないにこやかな笑顔をこちらに見せていたため、恐らく本当なのだろう。とんでもない名前だ…是非とも親の顔が見てみたい。

まぁそれはともかく。

気になることは山ほどある、と質問をしようかと思ったら、心を読んだのではないかと思わせるようなタイミングで

「質問がありましたら何でもお聞きください」と言った。

この人は少し不気味だ。

キャラが薄いと言うか…何処にでもいそうな紳士。そのはずなのに何処か、何かがおかしいように———頭の螺子が外れているように感じてしまうのはどうしてだろうか。

外れていると言うか、元々無いかのような。

そう。まるで、球磨川禊だ。

『似ている』では足りず、もはや禊『そのもの』と言った方が近いこの人———権兵衛は、何者なのだろうか。

まずはそこかな、聞くことは。

「えっと…。権兵衛さん。貴方は何者なんですか?」

「いい質問ですね」先頭を歩いている権兵衛さんはこちらに顔だけ向けて言った。

勿論のこと、今世紀稀に見る最高の笑顔だ。

「私は球磨川家に勤める召使い(サーヴァント)でございます。球磨川家は由緒正しき血筋で御座いまして多くの私めのような者を雇っておられるのです」

『へぇ』『僕の家って金持ちだったんだね…』

「左様です。最も、禊様の時代では既に廃れているようですが…」

『じゃ、僕からも質問だ』『どうして僕が未来から来たって知っているんだい?』

「いい質問ですね」

もしかして全部の質問に言うんじゃないのか、それ。

私は褒められて嬉しかったというのに。

この野郎。やっぱり油断ならないな。

「それは私めのこの能力のお陰で御座います。私めの能力は『違和感操作』———そしてその過程で『何に』『どのような』違和感があるのかも全て分かるのです。例えば———球磨川様がお持ちのその電子機器」そう言って権兵衛さんは禊の服のポケットを指さした。

そこに何があるかなんて、知っている筈が無いのに。

油断ならないな、と思った。

恐らく他の2人も。

———と、ふと球磨川が権兵衛の後ろに歩み寄る。

『ふぅん…そっかそっか』『権兵衛さん』

そう言ったかと思えば———球磨川は権兵衛に螺子を刺していた。

『———うん、これならうちの召使いも務まりそうだ』

「———流石で御座います」

と思いきや、彼は人差し指と中指でその螺子をしっかりと受け止めていた。

力む事もなく。

汗もたらさず。

後ろを振り向くこともなく。

先ほどまでと寸分変わらない笑顔で。

余裕綽々、という感じで。

「球磨川様は血気盛んでございますな。私も戻れることならば皆様の歳に戻りたいですね」

ほっほ、と笑う。

そして再び歩み始める。

球磨川はどうかというと、彼もまた同じように悔しがったりすることなくいつものニコニコ顔で歩き出した。

「…こいつ」と善逸がぼやいた。「軸がブレない」

「はい?何ですって?」そう尋ねると、誰かに訊かれる予定じゃ無かったのか、驚いた顔を見せた。

それから、前方を見つめる。

前方の———謎の男を。

「いや、さ。こいつ、さっきから全然、体の『軸』が動かないんだ。ずっとまっすぐでさ———はっきり言ってバケモンだ」

めちゃくちゃ強いよ、こいつ。と言いつつ額に汗を流す。

強い。それは一体どれ程の強さを表しているのだろうか。

魘夢か、堕姫か、はたまた———

 

 

鬼(・)の(・)頂(・)点(・)、(・)鬼(・)舞(・)辻(・)無(・)惨(・)レ(・)ベ(・)ル(・)で(・)?

 

 

まさかな、と焦りを隠して小さく笑い、善逸にこう言う。

 

「えぇ、私もそう思っていました。私の師匠でぎりぎりってとこですかね」

「お前に師匠はいねぇよ」

 

 




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