「今からするのは…鬼ごっこさ…」
と、特に特徴のないアフロ頭の外人———ロックは俺———我妻善逸に対してそう言った。
黙々と。
抑揚もつけずに。
ボソボソと。
細々と。
「へぇ、鬼ごっこね、なるほどね」
「…うん………」
「………」
「………?なんか俺おかしいこと言った……?」
「…あぁいや、なんでもないぜ…」
「………」
「………」
(き———気まずい!)
もっとはっきり喋れよ、とは流石に言いにくかった。
俺は人を思いやれる人間だからな。それに、爺ちゃんの稽古場でも寡黙な子はいたし。
なんて言ったっけ、あの男の子の名前…流石に覚えてないな。
だが俺がその昔会った少年よりも彼の声はあまりにも小さすぎ、更に言葉数も少ないため少しでも間が開くとなんとなく気不味くなってしまう。
やばい、どうしよう。
この人と遊ぶのか、今から。
大丈夫だろうか…?
まぁそこはとりあえず許容しておくにしても今から俺がする競技は鬼ごっこだそうだ。ロックが自らの口からそう言ったのだから彼が嘘をついていないのであればそうなのだろう。
鬼ごっこ。
それは。
それは、あまりにも俺の得意分野すぎやしないか———?
「…いいのか、それで?」と一応尋ねてみる。
「うん…そういう…ルールだから…」
ん?
何か引っかかるな、その言い方。
それはまるで自分で決めたルールではないかのようだ。
であれば一体誰が、こんな遊戯のための部屋を設けるのだろうか。
まぁ…球磨川家の頂点の人か。
本当に何者なのだ、ソイツは。
「あ、あのさ。お前の主人って何者なんだ?」別にタブーでもないと思ったので思った通りに尋ねてみた。
「それは禁則事項…いや別にそんなこと言われてないか…じゃあ教えるね…僕らの主人は…球磨川祓さん…イケメン…能力は…ルール作り…」
球磨川祓。
ロックはそう言った。
『禊』と『祓』。まるで兄弟のような名前の付け方だ。
時代を超えた兄弟のような…まぁそもそも人間どころか生物にそんな名前をつけるべきではないと思うが。
「なるほど。お前らはその能力で拘束されてるのか?」
「いやそれは自分の意思…給料が弾むからね…」
給料とか出るんだな、ここ。
時給なのだろうか、月給なのだろうか。
まぁわざわざ聞くほどの興味は持ち合わせていないが。
「あの、本当にただの鬼ごっこ?勝っちゃうよ俺」
「うん…まぁ、あやとりくらいはするけど許してね…」
「ん、ていうことは糸でも使うのか?」
「…そう言うわけだからよろしくね…」と、あまりにも簡単に武器の存在を知らせたロック。
戦術としても心配になるし———冠石野ちゃんと武器がかぶっているが大丈夫なのだろうか。
まぁそれはさておき、理解した。
恐らく、かなり硬い糸を用いるつもりであろう。
超スピードで触れれば大惨事になるような———だがそれでも光には敵わないはずだ。
はち切れるに決まっている。
勝てる、と。そう確信した。
———が油断は禁物。
なにせ僕だ。あのヘタレ野郎だ。
絶対何かやらかすに決まっているじゃないか。
「じゃあ…ルール確認しようか…制限時間は5分…棚とかなんとか、ここにあるものは好きに使って良いよ。刀は使わないでね…タイムアップした時….鬼だった人が負け…それ…だけだよ…」
つまりそれは、最後まで気が抜けない戦いだということ。
そして、部屋をぐるりと見渡す。
使えそうなものは———棚、本、椅子———それくらいだろうか。
「…まぁ、大丈夫だろ」
俺はあの女の子を思い浮かべながら
「どうせ勝つし」
括弧つけてこそいないが、冠石野ちゃんと同じようにそう言った。
球磨川とかぶっていないことを祈るばかりだ。
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「じゃんけんしようか…」
「あ?」
「え、何が…僕何か言った…?」
「いや、なんでもない。始めるぞ」
お前から鬼、とか言い出すのかと思っていたら、意外にも公正な鬼の決め方で驚いてしまっただけだ。
意外にも良い人なのかもしれない。———まぁ、ここでの壁であることに変わりはないけれど。
結果は僕がグーでロックがパー(ややこしい)で俺の負けだった。
相手の戦術が見えない以上、先手を取られてしまったことは痛いがまぁ5分もあれば大丈夫だろう。
勝てる筈だ。
「じゃ、始めるぞ」
「うん…」
そんな盛り上がりにかける合図によって鬼ごっこは始まった。
全力で走って距離を詰めていくロック。個性が薄いと思っていたが、なかなか足は速いようで普通の競走であれば負けてしまうのではないかと思われる。
「やるね、お前———っと危ねぇ」
「…ありがとう…」と彼は感謝を口にした。このタイミングでか。
律儀な人なんだなぁ、と感心する———いや、僕の方がこのタイミングですることかっていう感じだ。
さて、どうするか。
このまま逃げ切っても良いだろうが、糸の話を聞いたたばかりだ。油断はできない。
まぁ、勝てるんだけどね。
一応ってことだよ、一応。
にしてもなかなか糸を使わないな、と感じ始めた。既に開始30秒経過しているのに、これではただの鬼ごっこである。
言うならば時間の無駄遣いだ。
———と、そのとき目の前に何かが現れた。
糸かと注意して見ると、それは薄い本だった。
横を見るとロックが手当たり次第に本を投げている。
「…は?何のつもりだよ」
「こういう…ことさ」そう言ってロックは再び俺に猪突猛進してきた。
捕まるはずがない、そう思い走るために前方を向く———が。
俺はそこから先に進むことができなかった。
それは恐怖に身がすくんだから、なんて理由ではなくただ単に、そこに物があったからだ。
物。
物語———即ち、本。
「…はぁっ!?」しまっ———
「———『言われるままに信じるだけの知識は、ただの切れ端に過ぎない。切れ端としては立派でも、それを集める人の知識の蓄えを少しも増しはしない。』」
ロックが何かの名言らしき言葉を口にし、それと同時に俺は肩を触れられてしまった。
「君が、鬼だ」
時計を見ると残り4分。
大丈夫。
まだ勝てる。
「…それ、誰の名言だ?」
「俺」そしてロックは初めて俺に笑顔を見せる。
彼には悪いが少し不気味な笑顔だった。
夢に出てきそうだ。
いや、笑顔について語っている場合ではない———俺は本の壁(とはいえ抜け道はかなりある)を抜けながら考える。
彼の捕まえ方を。
恐らく———最初に説明した『糸』というのはブラフだ。
そんなもの使う予定は無いし、まして用意もしていないだろう。
何故かって?
自分にもリスクが大きいからだ。
見えない糸に当たってしまえば切り傷が生まれる———その一瞬を狙われるかもしれない。
それよりは明らかにこちらの方が使い勝手がいい。
「…頭いいな」俺は呟く。
問題はこの『本』だけだ。
俺は壁一面に張り巡らされた本棚を見る。
つまり今の僕について分かることは。
四面楚歌としか言いようがなく。
この部屋の生物も非生物も敵だと言うことだった。
次いで彼の能力についても考える。
「なぁ、お前の能力って何だ?」
「俺の能力は…『
ふむ、固定能力か。
浮いている本に触れてみると、確かにがっちりと固まっているのが分かる。初めは『浮遊』かと思ったが、これは『固定』。
最悪、俺の雷の呼吸でも動かせない可能性がある。
というか『固定』能力なのだからその可能性しかないだろう。
動かない。それ故に『固定』と呼ばれるのだから。動くのならばそれは固定できているとは言えない。
要するに、光速移動への期待は過度にしないようにしておこうという話だ。
いやはや、まさかこんなところでしのぶさんの家での訓練が生かされるとは。
毎日家の周囲50周はやはり無駄では無かった。…まぁ無駄じゃ無かっただけって感じはあるけれど。
むしろもっと効率の良い方法があったのではないかとさえ思えるけど。
さぁ、ここからどう展開していくか。
…あ、そうか。
とりあえず先程、霹靂一閃は使えないと言ったばかりだが…『固定』された本がまだ僅かである今ならまだ間に合うんだ。
つまり。
つまりは。
全集中の呼吸を使えるタイミングは、今しかない。
真っ直ぐ直進して、本がない場所を探す—————うん、やはりあった。
俺はいつもの慣れた
ここを、狙う!
「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃———!」
「———ッ!」
ロックは特に何もすることなく触れられた。
近づいてみると息が少し荒くなっていることが分かった。
…そうか。
分かったぞ。
こいつの弱点。
…いや、なんだそのダサい弱点は。
だとしたらどうして鬼ごっこを選んだんだ。
———能力への過信、か。
実に分かりやすい動機だった。
まぁとにかく。
「…つまりは能力を封じれば俺の勝ちって訳だ」
「それが出来れば今頃苦労してないよ」と言ってニッと笑うロック。彼は喋りながらも次々と本を投げては空中で固定していく。
先程までの怠惰な表情はとっくに消えている…こいつ、勝負事になると熱くなるタイプの人間か。
心なしか室内の気温も上昇しているように感じられる。
さて、ここからどう展開していこうか…。
悔しいが彼が言ったように、能力の無力化なんて出来るはずがない。
だったらもう、純粋な鬼ごっこをするしかないのか?
「考えるのも良いけど俺のこと忘れないで」と言って飛びかかってくるロック。
しまった。
思考してばかりで周囲の確認を怠ってしまった。
だが———やはり易々と避けられる。
本を投げつけてくるとはいえ、動きがあまりにも単調すぎるのだ。
能力を封じれば———だけど———!
あぁくそ、何も思いつかねぇ。
もっと座学に励んでおけばよかったと今更ながら後悔をする。
残り時間2分。
ここで捕まったらかなり厳しくなるぞ…?
「はは…なぁ善逸。気づいているか?もうお前に逃げ場はないってことに———」
「———っ!」と、少し油断した隙を突かれ、俺は触れられてしまった。
やってしまった。
本格的にまずい、と俺は焦り始めた。
それに加えて。
話し方は先ほどまでと変わらないトロトロした印象だ。
それが余計に不気味さを強調していた。
少しばかり怖い。
というかかなり怖い。
顔を見るだけで足がすくみそうになる。
実際、昔の俺であればすくんで動けなくなってしまっていたであろうこの状況。
「だ、けど。」
だけど。
だけど今は自然と笑顔さえ浮かんでくる。
何故なら———そんなのは。
「球磨川よか何倍もましだ———!」
いつも通りなのだから。俺はそう言い聞かせて自分を奮い立たせた。
「何それ普通に酷くない!?」ロックが初めて抑揚のついた言葉を発した。
そのタイミングここで良かったのか、本当に。
ここで残り1分30秒を切った。
既に本は大量に散りばめられており真っ直ぐに進める道は無い。
それどころか、屈まなければ進めない場所も多くなってしまった。
つまり雷の呼吸は使えない。
全力疾走だって不可能だ。
「はっ…俺だけ上がれなかったら面白いな…」
いや、全然面白くはないんけれど。
そのはずなのにどうして笑えてくるんだろうか。
自然と口角が上がった。
「てかそもそも…どうしてここまで本気になって上まであがらなきゃいけねぇんだ…?」
球磨川の祖先に会うため。
いや。
それなら俺必要なくないか?
それに———そこまで興味があるわけでもない。
どうぞご自由にと言いたいところだ。
ならきっと。
俺の目的は。
ここで勝とうとする理由は。
「———あいつらと一緒にいたい」
それだけのことだ。
だからここは。
「勝たせてもらうぜ」
俺が勝つ。
「なぁロック。別に俺が本を投げても良いんだよな?」
「…いいよ?まぁどうせ固定するから意味はないけどね」
「そっか。なら———とことんさせてもらうぜ」
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なんて大層に言ってみたは良いものの特に革新的なことはやっていないので結末から先に行っておく事としよう。
俺の勝ちだった。
いやぁ、準主人公補正ってすごいな!
なーんて奇跡が起きた訳ではなく。
そこにあったのは道理だ。
それ以外の何者でもない。
ここで当たり前の事実を確認しておこう。
例えば人間がギリギリ入るような小さな穴があるとしよう。
本当にギリギリのギチギチで入る穴。
そこには何であれば余裕で入るだろうか?
スマホやポーチ、リュックなどであれば余裕で通り抜けることができるはずだ。
なら———本ならどうだろうか?
これももちろん余裕綽々だ。
そう、俺が行った作戦とはただひたすらに『固定』されている本の隙間を縫ってロックに向かいまだ『固定』されていない本を投げつけることだった。
その結果、どうなるだろうか。
彼は投げつけられた本を見てつい『固定』してしまうだろう。
更に俺は投げ続ける。
まるで何も考えていないかのように。
無心かのように。
それを不思議に思いながらもロックは本を『固定』していく。
何冊目だっただろうか。
彼が気づいた時にはもうすでにあと30秒で。
もう取り返しがつかない事を悟ったロックは。
肩を落として清々しく負けを認めた。
「これが…鍵だよ」
「おう、ありがと…あれ、噛み合わせが悪…あ、開いた。いやエレベーターじゃねぇかよ。なんで鍵かかってんだ」
「まぁ細かいことは気にしないで…」
なんだそりゃ。
ていうか、いつの間にこんなに楽しく話せるようになったのだろう。
なぜかすごく嬉しい気分だ。
「じゃ…また…何処かで」とロックは笑った。
「おう、また会おうぜ」と俺も笑った。
さて。
あとは球磨川が上に上がれていることを祈るだけだ。
冠石野ちゃん?
大丈夫でしょ。
だってあの冠石野だぜ?
まさか一人脱落だなんて…。
…ないよな?
善逸 2F→3F!
次回胡桃ちゃんパート!!!
あ、そういえば最近また別作品書き始めてまして。よかったらこちらもついでにどうぞ。物語シリーズ×〇〇のクロスオーバーになっております。
https://syosetu.org/novel/263319/
クロスオーバー作品としてそれぞれのキャラに違和感はありますか?
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ない
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ちょっとある
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めっちゃある