僕と俺のかえりみち   作:丸焼きどらごん

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僕と俺のかえりみち【1】

 ほんの気まぐれだった。

 毎日続く違うようでいて実のところ代わり映えのしない日常に、小石でも投げ込めたらいいなという冒険心。

 

 塾の帰り道、いつもならそのまま通り過ぎてしまう雑居ビルの前で立ち止まる。視線を向けた先の一角に、半地下へ通じる階段があった。

 少し前まで階段入り口脇にタイ料理屋の立て看板が置いてあったのだが……今は何もない。おそらく潰れたのだろうなと思いつつ、僕はなんの気なしにその階段を降りた。

 冒険なんてしょうするのもおこがましいほどの、些細な寄り道にすぎない行為。

 

 

 しかし僕の呼吸は途中から興奮で荒くなる。

 

 

 半地下の階段なんて短いものだ。降りる前にはもう終着地点は見えていたわけで。……なのに。

 

「……! ……!」

 

 スタミナ切れではなく未知を前にした高揚感でだんだんと早くなる呼吸。そんな僕の視界からは、もうとっくに終着地点は消えていた。元タイ料理屋の入り口も横目に通り過ぎている。

 目に映るのはひたすら下へ、下へと続くコンクリートの階段だけ。

 

 引き返すことも出来た。少し体をひねり反転させて戻れば、そこはいつもの日常のはずだった。

 だけど僕の体は振り返らない。熱に浮かされたように向かう先は、何処へ続くともしれないほの暗い闇がわだかまる階下。カツカツとお気に入りのブーツがコンクリートで音を奏でる。

 

 ふいに音が変わった。

 

 ガツンっとブーツの踵で踏み鳴らしたのは、経年劣化と黒い煤で汚れた鉄板。そんなに厚くない物なのか、たわむように足元が揺れて一瞬焦る。……が。たたらを踏みかけた僕はすぐ目の前に現れた光景の方に心を奪われた。

 霧が晴れるように不自然に暗がりそのものが後ろへ遠ざかっていくのを、気にも留めず視界の端で見送る。そんなものより僕の目を、心を縫い留めてしかたがない光景が……そこに広がっていたからだ。

 

 

 どこかでリンゴンという、鐘の音らしきものが鳴っている。

 その音が、非現実へダイブする決定打。

 

 

「すっ、」

 

 すっげー! そう叫ぼうとした声は大口を開けた瞬間、肺に吸い込まれた煙にむせてかき消えた。どうやら風で流れてきたらしい。……それがどこからわいた煙なのかは、目の前の景色にまんまアンサーが示されている。

 息を整えると、床の鉄板と同じく劣化してさび付いている手すりから身を乗り出した。

 

「なになに、ここ! はぁ~? どうなってるんだ!?」

 

 我ながら浮かれた声が出たものだ。明らかに異常事態だというのに、困惑なんかより歓喜が勝っている。やれやれ、中身はこんなにクールだっていうのにどうして僕はこう、表面上明るくて親しみ易くてノリがいいんだろう。

 まったく、この場に居るのが僕一人なんてもったいないね! ああもう、誰かとこの感動をすぐに分かち合いたい! 異常事態に不安がる友人が居たならば、僕がエンターテイメントへ変えてあげるのに!

 

 おっとと。クール、クール。冷静に。

 こんな時こそ落ち着かなければ。

 

 大興奮する僕の目の前に広がった光景は、寂れたビルの半地下などではなかった。それどころかたどり着くにしても屋内だろうという矮小な予想を、実に大胆に裏切ってくれている。

 風で煙が流れてきた。つまりここは外である。

 流れてきた煙を堂々と吐き出しているのは、歪に鉄パイプが繋ぎ合わされた無数の煙突。煙と同じく真っ黒だ。それらは町の各所から無造作で雑多に、ぽこぽこつくしの様に生えている。

 

 

 そう、町! 町なんだ!!

 

 

 僕の眼下にはレンガや石造りの建物が、ぎゅうぎゅうと所狭しと詰め込まれるように並ぶ町。建築方面に明るくないので雑に「ヨーロッパっぽい!!」という感想しか出てこないんだけど。

 だけどヨーロッパっぽいだけじゃ適切ではないか。僕が今いる場所みたいな、鉄で出来た武骨な建物もちらほら見える。特に目を引いたのは時計塔だ。石と鉄が組み合わさった独特の風貌で、町のシンボルのごとく堂々とそびえている。時刻は十二時過ぎ……ううん? 

 首を傾げてスマホと腕時計の両方を見る。スマホは僕が元々認識していた時間、午後八時半を示し腕時計は時計塔と同じ時刻となっている。ちなみに電波は圏外。

 でもそんな違和感はすぐに頭から吹き飛んでいく。こんな不思議なことがあるのなら、時計が少しくらいずれていたって些細なことだ。

 

 僕が階段から降り立った場所は結構な高所にあるらしく、町を一望できた。

 結構な……というには通常なら足が震えるほど高いのだけど。これ、ビルの五階やそこらって高さじゃないな。その分風もやたら強くて横から下からとせわしなく、せっかくセットした髪が台無しだ。今さらといえば、今さらだけど。さっき思いっきり浴びた煙の煤で、お気に入りのジャケットもみすぼらしくなってしまったわけだし。

 

 だけど見かけが情けなくなっても、きっと僕の顔は今! 最高に輝いている!

 だって。だってだってだって!

 

「うっわ。うっわー! なんだこれー! すっごい! というか僕のボキャブラリ貧弱ー! 演劇部員の名折れー! あっはっは! でもすごいしか言えねー!」

 

 くしゃっと前髪をかきあげて笑う。だって笑うしかないだろ、こんなの! なんだこれ!

 

 訳が分からなかったけど、なにかもう上を見上げたら更にどうでもよくなった。

 僕がここまで降りてきた階段が無くなっていたけど、それを「些細な事」として思考から放り投げてしまうくらいの衝撃が、僕の頭をガツンと揺らして胸をズバンと撃ち抜いていく。

 

 

 空を見上げた僕の視界を迎えたのは、恐ろしいまでに澄んだ群青だった。

 

 

(わぁ、空と宇宙だー)

 

 我ながらアホ面で見上げてるんだろうなーと思いつつ、それしか感想が出てこないのだから仕方がない。

 

 日常感というものを真っ二つにぶった切ってくれた異国感増し増しな町は、空まで凝っているらしい。

 一面に広がる昼の青空と見紛う群青色は、雲と共に無数の銀で飾られていた。腰をもう少し反らせてその先を辿れば、空へ落ちてしまいそうなほどの純粋な黒。しかし群青と混じりながらそちらも銀の星屑で洒落込んだ装いで、怖くはなかった。

 この色は……夜の世界だ。

 体を起こして町の空に視線を移せば、こちらはちゃんと昼間面している空色と、赤と紫の中間のような夜明けの色、空と地上の境からハイコントラストで世界を照らす夕日のような山吹色、橙色。

 かなり欲張りセットだが、それらがなんら違和感なくグラデーションを生み出していた。

 

 圧巻である。

 全ての時間の空が、そこにあった。

 

 未知の場所に対し、僕の興奮は恐怖に勝った。

 どうしたら帰れるだろうと考えるよりまず、この町を、この空の下を歩いてみたい! ここには何があるんだろう! どんな人が生活している!? ……そんな感情が頭をもたげ、立ち上がってジャンプとステップまで決めた。好奇心の従順なる下僕である僕はそれに従い、足を一歩踏み出す。

 

 さあ、戻る階段なんて今はどうでもいい。下へ降りる階段はどこだ。僕はあそこへ、あの町へ行きたいんだ。

 だがそんな僕のうきうき愉快冒険気分に水を差すように、なにかが頬をかすめる。

 

「? 虫?」

 

 どこぞのやんちゃなカナブンでもぶつかってきたかな~と、にこにこ笑顔のまま何の気なしに頬に触れる。すると予想しなかったぬるりとした液体を撫でてしまい「え、ぶつかってきておいて勝手に潰れた!?」と見当違いな予測を立てた。だが遅れてきてやってきた痛みに、僕はそれが虫の体液などでなく自分の血液だと知る。

 そして顔に傷、という僕的には奇妙な町に迷い込むよりよほど重大な大事件に悲鳴をあげるよりも早く……それらはやってきた。

 

 

「どけ!!」

 

 

 短い怒号の直後、どんっと胸元に何かがぶつかる。それが女の子だとわかったのは、尻餅をついてその真紅と金が翻る背中を見上げてからだ。

 

 

 布の真紅と空の群青、その境界に散らばる金糸。

 

 

 一瞬で目を奪われた。

 その間に受け身も取れず倒れた勢いで、錆びついた手すりに頭をぶつける。

 

「いった!」

「ぼやぼやしてたら痛いじゃすまないぜ、お坊ちゃんよォ!」

 

 可愛いくせに妙にどすのきいた声に呼びかけられた直後、轟音と共に鉛の雨が降り注いで悲鳴を上げた。

 鉄の床や手すりに勢いよく無数の弾丸がぶつかっては跳弾し、テレビ越しにしか聞いたことのない銃声が束になって僕の耳になだれ込む。

 幸い体に直接被害をこうむる様子は今のところないけど、ここから一ミリでもずれたらもしかして僕って蜂の巣デビューしちゃう? 嫌だよそんなデビュー! するならモデルか舞台俳優がいいよ!

 

「わわわわわ!?」

「ダッセェ声出してるんじゃねぇぜ!! オラ! 逃げねぇなら頭抱えて縮こまってろ!」

「はいいぃぃ!!」

 

 言われるままに頭と膝を抱えて小さくなる。が、直後……後退したらしい件の人物に蹴られた。この感じ、多分踵はピンヒール。痛い。

 

「邪魔!」

「理不尽!?」

「守ってやってんだから贅沢言うな!」

 

 守ってやっている?

 その言葉に恐る恐る膝にくっつけていた顔を上げれば、目の前には先ほどよりずっと近い背中。左右にわけて三つ編みにされた柔らかそうな金髪の束が、荒々しく風に舞っている。よく通る声だけどこの恐ろしい銃声の嵐の中で言葉が耳まで届いたのは近さのおかげか。それにしても「どけ」「縮こまってろ」「言うな」と短い間に命令されすぎである。

 フードがついた赤いポンチョ? マント? のような上着に覆われた華奢な肩からのびる腕が、なにかを構えているようだ。それを視線でたどってみれば奇妙で無骨な鉄色。

 あまりの音に感覚がマヒして気づかなかったけど、銃声はその物体からも現在進行形で鳴り響いている。杖みたいな柄があるけど……銃? 微妙に表現に困る見た目しているな。

 銃らしきもの、くるくる回って勢いよく薬莢を落としていく筒は太いけど、他は全体的にすらりと細いシルエット。ひどくアンバランスだ。

 

 ……って! ちょっと待て!

 

「腰かけるな腰かけるな僕の頭に! うぷっ」

「うっせ、そこにいるお前が悪い! せめて台座になれ!!」

 

 近いな~とか思っていたら、いつの間にか手すりとその子の間にサンドされて頭に腰かけられていた。スカートのレースが鼻をくすぐってくしゃみが出そう。

 こちらを銃撃している何者かに対抗してくれているのは分かるけど、さっきから言動行動すべてが横暴じゃない!? 視界の隅で鉄の床にへこみを作り、何かを砕いてガラス片を派手にまき散らす銃撃が恐ろしすぎて文句言えないけども!

 うん、この位置じゃなきゃ僕死んでる! 文句はお口チャックしとくか! オーケー! 賢い選択できる僕えらい!

 

「……チッ、きりがねぇな。ずらかった方が得策か」

 

 そんな声が聞こえたと思ったらぐいっとジャケットの襟が引っ張られて、僕の体はいともたやすく手すりをのり越えていた。

 

(うん? 手すりのむこう……むこう!?)

 

 知覚と同時に襲い来るのは浮遊感。胃が浮くような気持ち悪さと、パノラマに広がる町と空を全身で味わう贅沢に感動……してる場合じゃないが!!

 異なる二つの感覚を味わいながら、僕は一瞬の間に本能で「終わった」と結果を叩き出す。だって僕が居た場所、体感でスカイツリー展望台くらいの高さあったもんさ!! 手すりの向こう側? フリーフォール一直線だよ!! 死んだよ!

 

 あああ、十四の若い身空でこの僕が。この僕が! この僕が世を去るなんて世界にとっての損失。お母さん、お父さん、妹の明美、犬のコロ、猫のミヤコ、セキセイインコのピョイちゃん、ジャンガリアンハムスターのサラミ、チンチラのぽこぽこ、ウサギのるんるん。僕が居なくなっても元気で…………。

 

 などと、そろそろ走馬灯のターンかな? なんて考えていた僕の予想は裏切られた。…………良い意味で。

 

「大丈夫。死なねぇから」

 

 強く腕を引かれ気づけば僕は小脇に抱えられていた。

 それも、とんでもない美少女の。

 

「あばよ!」

 

 起き土産とばかりに銃を景気よくぶっぱなした彼女。飛びだしていった弾丸が眉間を貫いたのは、黒いマネキンのような奇妙な生き物だった。人の形をしているけど、決定的に違う何か。

 ……黒いマネキンって言うより、棒人間進化系、みたいな? 僕がノートのはしに書いたパラパラ漫画の主役に似ている。

 

 わらわらと無数にうごめくそれらにゾッとする間もなく、謎の敵はあっという間に遠ざかる。重力に引っ張られているのだ。

 

 

 

 

 

 高所からのダイブ。自殺と言うにはあまりにも堂々となされた行為に、不思議と恐怖は感じなかった。

 金色の長い睫毛に縁取られた、空とも海とも例えられそうな透明なようで深い色。水平線の境界に留まる日の光を反射し、軽やかな煌めきを放つ瞳から目を離せない。

 そこに満ち満ちた自信に、問答無用に「大丈夫」だと思わされてしまったのだろう。

 

 そして事実大丈夫だったわけだけど……まあ、その。予想外ではあったかな。

 

 

 

 

 僕はその日、初めて空を飛んだ。

 

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

 

「死ぬかと思った!」

「その割に楽しそうだな?」

「だってだって、君! 空を飛んだんだぞ!?」

「飛んだっつーか浮いただけなんだが……」

「十分すごい!」

 

 興奮気味に話す僕を向かいの席で呆れっぽく見ているのは、先ほど劇的な逃亡劇を共にくぐり抜けたお嬢さん、かっこ"仮"だ。

 ま、共にくぐり抜けたといっても僕は抱えられていただけなんだけど!

 

 現在僕たちは小洒落た喫茶店の一席に落ち着いていた。空中ダイブ着地からまだ五分も経っていないが、とりあえず路上で話すのも味気ないじゃない? ってことで、僕が彼女(仮)を引っ張って入った形である。

 昭和レトロと外国映画に出てきそうな雰囲気が合体した喫茶店は、実に僕好みだ。

 

 店主や店員は先程僕らを銃撃した真っ黒棒人間そっくりだったから一瞬驚いたけど、彼女が「ここの住民はみんなこんなだ」と言うので安心して席に着いた。「なんですぐ信じるし安心するんだよ、お前」と呆れられてしまったけど、今僕はとてつもない興奮状態にある。はやく話したくて、質問したくてたまらないし、どうせ最初から訳のわからない状況だもの。だったら命の恩人の言葉なら信じるさ。

 それも空中落下を"空を飛ぶ"、なんてミラクルで助けてくれたとびっきりに素敵な恩人さんなら、なおさらね!

 

「あ、僕はブレンドとミックスサンドを! ……え、ホットサンドにも出来るんですか? じゃあそれで!」

「俺はカフェオレとクロワッサンサンド。ハムと卵多めで……ぎっしりな。カフェオレには蜂蜜たっぷり」

 

 注文を取りに来た店員さんにオーダーを告げると、パリッとノリの効いたシャツと黒いベストを着込んだまっ黒棒人間は丁寧にお辞儀をして下がっていった。

 ここの住民は言葉を発さない。ただ何が言いたいのか意志的なものが伝わってくるので、コミュニケーションには困らなさそうだ。

 

「さてさて。注文も済んだことだし、色々聞きたいけどまずは自己紹介をしよう! 円滑な人間関係のための第一歩だね!」

「元気だな、お前」

「ありがとう! そんな元気な僕の名前は立花奏多(たちばな かなた)。気軽に奏多って呼んでよ。で、君は?」

「…………」

 

 数瞬の間。

 

「……アイちゃん、って呼んでいいぜ?」

 

 頬杖をついて悪戯っぽく笑う様は、妖艶というに相応しい色香を発している。僕はそれにうっとりと見惚れながら、感嘆のため息をついた。ああ、感嘆のため息っていうのはこういう時に出るのか。心のメモ帳に記しておこう。

 

「……アイちゃん、君って素晴らしく可愛いね。でもさすが男の子というか、腕力あってびっくりしたよ。そんな細腕で僕のこと軽々投げちゃうんだもの。可愛くて力強いなんて、惚れ惚れする。僕、君のこともっと知りたいな!」

「………………」

 

 ずるっとアイちゃんの顔が頬杖から落ちた。

 

「…………あー」

 

 姿勢を正しすらりとした脚を組んで、こめかみに人差し指をあてるアイちゃん。そんな姿も絵になる。

 

「よくもまあ歯の浮くセリフがすらすら出てくるなって突っ込みは、まあ置いておく。けど、お前その……いつ気づいた? この完璧な美少女を前にしておいて。言っておくがこの話し方程度でかすむ美少女具合じゃないだろ? 俺」

「自分で言っても様になるんだから本物だよね! えーと、いつ気づいたか? いやだって、あんなふうに密着して抱えられたら体格とかさ」

「え、マジ? 俺あんま筋肉とかないぜ」

「んー。でも、女の子にはよく抱き着かれるから、さすがに比較するとね」

「うわ」

「うわってなにさ! 僕、かっこいいだろ!? もてるんだ!」

「うーわ」

「また言った! 自分だって自分のこと美少女とか恥ずかしげもなく言ってるくせに」

「俺はいいんだよ。事実だし」

「僕だって事実だ」

 

 アイちゃんは深く溜息をつくと、ぼそっとしたトーンで一言。

 

「アイザック」

「ん?」

「名前」

 

 ぶっきらぼうに告げられて、ようやく本名を教えらえたのだと気づく。

 アイザック……なるほど、それでアイちゃん。

 

「かっこいい名前!」

「何か言う前に褒める癖でもあんのか?」

「僕、本心を素直に口にできるところ自分の長所だと思ってる」

「そうかよ……。なんか、お前ちょっと疲れるわ」

「ええ~? そんな、ひどいよ」

 

 眉尻を下げて抗議すれば、犬でも追い払うように「しっし」と手を振られた。ううん、つれない。

 ……まあ、一応基本の自己紹介はすんだかな? そしたらさっそく気になってることを片っ端から聞いてみよう。

 

 そう話題を変えようとした時だ。アイちゃんは僕を胡乱な目で見つめると、今度は逆に僕へ問う。

 

「お前はなんで女なのに男の格好してんだよ」

「あ、それ聞く?」

 

 僕側が気づいたんだから相手が気づいてもおかしくないけど、初見だと結構ばれないんだけどな。まだ女性らしい丸みには乏しいし。

 そう、僕はアイちゃんとは真逆で女の子だけど男の子の格好をしている。

 ファッションに加えて、よく「キザ」だの「わざとらしい」だの「仰々しい」だの「暑苦しい」だの「でも似合う素敵♥」と言われる口調も普段から徹底しているのだ。

 だから出会ったばかりとはいえアイちゃん……アイザックには、命の恩人というだけでない親しみを覚えたのだけど。

 

「だったら僕も聞くけど、君は何で男の子なのに女の子の格好をしているの?」

「先に俺が聞いたんだからお前から言えよ」

「じゃあ、せーの! で言う?」

「ガキか?」

「え、うんガキだな……。僕まだ十四歳だし」

「…………。あー、わかったわかった。じゃあ、同時な。せーの、な。はいはい」

 

 僕の相手が疲れたのか雑に了承された。少し勢いが強すぎただろうか? しまったな。クールを忘れていた。

 

「せーの」

「!」

 

 少し反省しているうちに、さっさと終わらせたいらしいアイちゃんが合図を口にする。

 

 僕は慌てて立ち上がった。

 何故かアイちゃんも立ち上がった。

 

 そして示し合わせたわけでもないのに、お互い鏡合わせの様にターンを決める。更に自分の胸に手を当て、もう片方の腕は羽ばたくように前方へ!!

 

 

「僕は美しい! そしてかっこいい! 似合うものを着るのは当然でしょう?」

「俺は可愛い! そしてかっこいい! 似合うものを着るのは当然だろ?」

 

 

 同時に口にした言葉に、しばし見つめ合う。そしてどちらともなく握手をした。

 

 

「君とは生まれる前から親友だった気がするよ」

「おいおい、それは言い過ぎってもんだぜブラザー」

 

 

 とりあえず、仲良くはなれそうだ。

 

 

 

 

 




※氷陰様主催のボーイミーツガール杯参加作品です。
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