ミドリが初めてシャーレの当番になる話   作:のりし炉

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01 新たなる冒険の始まり

 昨日の夜に確認した天気予報は無事に当たって、うららかな朝になった。

 

 世間的にはお休みの日だからか、それとも通学で使う路線とは違う方面に向かうからか。この時間にすれ違う人たちもいつもより少なくて、座席のぽつぽつと空いた地下鉄の車内が、もの珍しく映った。

 コンクリートに包まれた暗闇を、電車が突き進んでいく。目当ての駅名が読み上げられると、私はゲーム機の電源を切って、忘れ物がないかしっかり確認してからホームに降り立った。

 改札を抜けた先の、知らない街角の空気を胸いっぱいに吸い込んで、

 

「――はあぁ〜……」

 

 全部丸ごと、(なまり)のような嘆息に変換した。

 

 早朝に家を出てからこの連邦生徒会(かん)(かつ)(がい)(かく)地区に来るまで、もう何度こうしてため息をついたかもわからなかった。……ユウカ先輩辺り、こういうのもきっちり数えたりしてそうだな――なんて考えまで浮かんでしまい、余計に気が()()る。

 

 ここ最近は何となく()(ふで)の乗りが良くて、つい徹夜でお絵描きしちゃってそのまま登校、なんてこともままあったけれど。昨日は単純に不安と緊張であまり眠れなくて、にも関わらず素知らぬ顔で熱視線を投げかけてくる太陽が本当にうっとうしかった。お前さえ昇らなければ。ぐぬぬ。

 

 ……そうしてとぼとぼと歩いていても、進んでさえいれば目的地にはたどり着けるもので。

 

(……着いてしまった)

 

 ナビアプリを閉じて、目の前にそびえ立つ白い建物を(にご)った眼差しで見上げる。

 ――連邦(そう)()()、『シャーレ』。以前お世話になった先生の職場で、今日の私の、アルバイト先だった。

 

「うう……」

 

 肩を落とす。どんな場合でも集合時間だけはしっかり守れる自分の性格が、この時ばかりは恨めしかった。なんなら指定の時間より少し早いくらいだ。

 

 あまりにも中に入りたくなくて、ガラスの反射で念入りに身だしなみを整えて遅延を図る。

 (えり)よし、ネクタイよし、アウター……と尻尾も、よし。前髪よし、ネコミミの角度よし――あ、一応安全装置(セーフティー)も……うん、よし。

 

「……」

 

 決して、先生に会いたくないわけじゃなかった。むしろ先生には改めてお会いして、私たちの居場所を守ろうと一緒に戦ってくれたお礼を、ちゃんと伝えたいと思っていた。

 

(けど……)

 

 問題は先生じゃなくて、他のメンバーにあった。

 

 シャーレでのアルバイト……いわゆる『当番』のお仕事は、その日ごとに内容や拘束時間もまちまちになると聞かされていた。『連邦捜査部』という肩書きはあっても、実情としては猫探しから地域の清掃、果ては宅急便の配達まで引き受ける、まさしく『何でも屋』と呼ぶに相応しい活躍ぶりで。

 だからこそ、当日のスケジュールに沿って呼ばれる生徒や人数もまた様々に変わる――という理屈なら、まあわかるんだけど。

 

 今日の当番は私を入れて四人と、比較的多めな日になっていた。その中に以前、とある事件で一度だけ顔を合わせた……本当に、凄まじく、できれば二度と会いたくない人物がいて。こうして往生際悪くうじうじと、二の足を踏む羽目になっていたのだった。

 

 ……ごそごそとポケットから取り出した、ICカード型の入館証を見つめる。先生から勧誘を受けて二つ返事で入部を了承した、シャーレの一員としての証。

 

 ――いつでも、みんなで遊びにおいで。

 

 そう言ってくれた先生の優しい声と笑顔を思い返して……胸の奥に湧いた暖かなものを確かめるように、カードの表面をなぞる。

 

(……うん)

 

 会いたくない人はいるけど。それより、もっと会いたい人がいるから。

 きゅっ、と構えた両手でこぶしを作り、

 

「『今日も一日がんばるぞい!』――なんてね。ふふ」

 

 笑って、ゲート前に立つ。ひと呼吸置いてから、カードをタッチパネルに押し付ける。

 認証音とともに開く自動ドアを見つめながら、

 

(もしかしたら、案外急な用事とか病欠とかでいないかも知れないし)

 

 ……()()()()に限ってそんなのありえないでしょと、冷静な自分がツッコんできてはいたけれど。

 私――(さい)()ミドリはようやく、長い独り()(もう)を終えて、シャーレに足を踏み入れたのだった。

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