ある人物は会社から帰ってきたある日、VTuberへと出会った。
そのVTuberは社畜となって忘れていた笑顔を、楽しさを、小さな日常をくれた。
…………あの、すいません。あらすじがこれ以上思い付かないので、詳しくは本編を見てください。

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サブタイトルの『縷々(るる)』は「細く長くとぎれることなく続くさま」と言う意味です。
まぁ、つまりはあれです。題名とくっ付けて「ココでの(楽しかった)思い出は途切れることなく記憶に残る」って意味で付けました。


縷々として残り行く。

 俺が『(彼女)』に出会ったのはいつだろうか。

 一ヶ月? 二ヶ月? それとも一年? もしかしたらもっと前かもしれない。

 だがそれはいつだろうと、変わることはない。俺は『その人』に救われ、推して、笑顔になっていた過去は。そして変わることはない、『(彼女)』が引退してしまう事実は。

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

 あれは……そう、木曜日の夜だったか。いつも通りクタクタになりながらも会社から帰ってきた俺。

 就職してからはや数年、なんだか「思ってた仕事と違う」と思いながらもグダグダと続けており、平日は日にちが変わるギリギリまで仕事をし、休日は体を休ませるためにずっと寝る。

 学生の頃を懐かしく感じようが、突然意識だけタイムスリップしてもう一度学校生活を送るなんてことは起きやしない。

 

「はぁ、昔に戻りたい」

 

 意味もなく口に出すが、当然何も起こりやしない。

 殆ど使っていない新品同然のスマホを開くと、ヤホーニュースから通知が来ていた。

 どうせ政治家が汚職した話や、どっかの誰かが自殺したことだろうと思い見出しを見る。

 

「ブイ……ツバー?」

 

 何やら「ブイツバー」なる知らない人がここ最近で人気なようで、それに関する記事であった。

 俺は海外かどっかのアイドルグループが日本に上陸したのかと思い、なんとなく記事を開くことにした。

 

「バーチャールユーチューバ、ねぇ」

 

 どうやら「ブイツバー」ではなく「ブイチューバー」と読むようで、バーチャル(作り物)の体を使って配信を主にしているYouTuber達のことを指すようで、記事の内容は『最近流行りのVTuber! その秘密に迫ってみたったwww』と言う題名と共にあるVTuberの絵が載っていた。

 

「へぇこの人がか」

 

 俺の好みを詰め合わせたような、まるで俺のために作られたようなVTuberの絵を見た俺は、どんな人物なのか気になり記事に張ってあるURLから動画に飛んでみた。

 

『──────』

 

「ブッ! ハッハッハッ」

 

 動画の内容はただの雑談のようだが、その人の話し方が上手いのと視聴者(リスナー)との掛け合いのテンポが良くて、ついつい吹いてしまった。

 

「やべ、画面が水浸しだ」

 

 飲み物を飲みながら見ていたため、口に含んでいた物を画面に放出してしまった。

 しかし気持ちが落ち込むどころか、不思議と顔は笑顔であった。俺にとっては画面のことなんかどうでもよく、『(彼女)』の事を考えていた。

 

「笑った笑った」

 

 動画を一時停止させ、近くにあったティッシュで画面を拭く。どうやら水浸しになったが、スマホが壊れてはないようである。

 一つ息を吐き、他にはどんな動画があるのかを調べることにした。

 その時からだろう、俺の生活の一部に『(彼女)』が入ってきたのは。

 

 

 

 

 

「たでーまー!」

 

 スマホで『その人』の事を調べたり、動画を見ていたら朝になっており、栄養ドリンクでなんとか乗り越えた夜。

 珍しく俺は定時で帰ってきた。上司がなんか言ってた気がするが、そんなのは知らない。どうせ追加の仕事の話とかだろうが、何も聞いてない。聞く気が無かったとも言うが。

 昨日調べてたら今日の18時に『(彼女)』が生配信をすると知って、定時で帰ればギリギリ間に合うと気付いて汗だくになりながら帰ってきたのだ。

 

「間に合ったぜぇ、はぁ……ぜぇはぁ」

 

 残り2分、俺は手を洗い冷蔵庫からビールを出した。カシャッと音を出して、喉にビールを流し込む。この感覚が堪らねぇなと、オッサンみたいな事を考えていたら生配信が始まった。

 

「コメント、コメントっと」

 

 未だに慣れない手付きでスマホを弄ってと挨拶をする。どうやらVTuberによって色んな挨拶があるようで、中には「草」とかの言葉も違う場合もあると昨日知った。

 

『─────』

 

「やっぱ面白いな」

 

 『(彼女)』ずっと忘れていた笑顔を思い出させてくれた。社会人になってから唯々働くだけの機械と化していた俺に人間(感情)をくれた、恩人と言ってもいいぐらいである。

 

「もっと見てみるか」

 

 生配信が終わったあと、俺はもっと『(彼女)』のことが知りたくなり、今までの動画を見てみることにした。

 ゲーム実況、歌ってみた、雑談、コラボ……ずっと見るだけでも一ヶ月は軽く越えるであろう量の動画であったが、不思議と辛くは感じなかった。

 会社で働いて感覚が麻痺したとかではなく、それは俺が「楽しい」と感じているからだろう。

 

 

 

 そうして全ての動画を見終わる頃には半年が立っていた。その間、転職したり、デカイ画面で見たくなってパソコンを買ったり、投げ銭機能(スーパーチャット)で最高金額を投げて驚かれたり、コメントが拾われたりといつの間にか『(彼女)』の生配信を見るのが当たり前となっていた。

 

「重大発表……?」

 

 休日、仕事が無くてゴロゴロとしていたら『(彼女)』が重大発表と言うタイトルの物を夜に配信することを知った。衣装を変えるのか、グッズが出るのか……その時の俺は何処か楽観視していた。

 

「…………え?」

 

 『(彼女)』が引退すると言うまでは。

 驚きのあまり一口しか飲んでいない缶ビールを床に落とす。中身が溢れてマットに染み込んでいくが、そんなことは俺にとってどうでもよかった。

 

は?え?

マジで?

嘘だろ、嘘だと言ってくれよ

what!?

なんで?

 

 事前情報が全く無い状態での引退宣言、俺以外の視聴者(リスナー)も突然のことで驚き、コメントが疑問で溢れる。

 

「……で、だよ」

 

 俺は掠れる声を振り絞り内側から溢れる感情を解き放とうとするが、どうにも上手くいかない。

 この気持ちはなんなのだろうか。引退してしまう悲しみ、『(彼女)』と会えなくなる寂しさ、何も言われなかった怒り、全てが当てはまると同時にどこか違うと感じる。

 

ブワッ

いつかはこうなるのは分かってたが

あれ、おかしいな。画面が歪んでるな

家の中なのに雨が降ってきた

そう、だな

 

 目から涙が溢れて視界が歪む。感情が爆発して何て言ってるか分からないほど泣くのに全神経が注がれた。たった半年、けれど俺は救われた。いつまでも支えてくれると信じていた、なのに裏切られた気分である。

 だけど俺は『(彼女)』に対して怒ろうとは一切思わなかった。

 なぜなら画面から聞こえてくる音で、顔がグシャグシャになるほど泣いているのが容易なほど想像出来たからである。

 

 

 

「……朝か」

 

 どうやら顔を伏せるように泣き疲れて寝ていたようである。時間としては仕事が始まる数分前、これは確実に遅刻だと感じて会社に電話して体調が悪いと説明して仕事を休むことにした。

 昨日飲んだ酒の影響で二日酔いになったわけでもないのに、フラフラとふらつく足で洗面所へ向かい鏡を見た。

 

「酷い顔だな」

 

 前の会社で働いていたとき、いやそれ以上だろうか。ウサギのように真っ赤になった目に涙を拭いて痛くなった頬、その顔を見て乾いた笑いを出す。

 

「結局昨日はどうなったんだ?」

 

 念のためにカレンダーを確認するが、今は6月。とっくにエイプリルフールは過ぎており、嘘だと言うことは無い。それでも信じられない俺はツクッターを開いた。

 昨日のことを調べてみると、俺と同じような反応をした奴らが沢山いた。

 嫌でも昨日のことが現実だと思い知らされ、一生分の涙を流したはずなのに、また目から溢れ落ちそうになる。

 すると、ある情報が俺の目に入った。

 

「引退配信?」

 

 今日から数えて一週間後、『(彼女)』が最後の配信をするようである。

 俺はカレンダーを見て一週間後の予定を確認する。今日が平日なので、当然その次の週も仕事である……が、ある問題があった。

 

「飲み会か」

 

 その日は定時を一時間早めて会社のみんなで飲みいこうと、部長が計画していた日でもあった。

 もし行かなければ職場内で気まずくなることは免れないだろう。

 だが、俺にとっては…………

 

「そんなの知らないな」

 

 この俺を拾ってくれた会社、転職したばかりで仕事に馴れない俺に一から教えてくれた上司、今の俺が居るのはそれらがあったからだろう。だが、それよりも、それ以上に優先にしたいモノがある、ただそれだけである。社会的地位よりも俺は恩人の最後を見ることにした。

 

 

 

「始まったな」

 

 引退配信があると知った翌日、俺は部長に飲み会に行けないと伝えた。朝からグチグチと文句を言われたが、上司が俺を庇ってくれた。本当に、ありがとうございます。

 そんなことがあったが定時よりも早く帰ってこれ、余裕を持って引退配信を見ることが出来た。

 

ぐすっ、うぐっ

泣きそう

笑顔で送り出すって決め……ぐああああーーーッ!

泣くのはえぇよw

一人だけ攻撃喰らってね?

 

 笑顔で見送る、それはツクッターで視聴者(リスナー)のみんなで決めたことである。「最後まで笑顔で見送る」と。

 だが涙を押さえきれないのが何人もいるようだ。俺も今にでも溢れそうだが、なんとか堪えてる状態だ。

 

『─────』

 

「…………」

 

 前から決まっていたからか、気持ちの整理が着いたのか。『(彼女)』はいつもの調子で話しており、見ている俺もこれが最後だと忘れるほど楽しい時間を過ごした。

 

分かる

うぅぅ

泣くんじゃない。笑え、笑うんだ

wwwwwwwww

違う、そうじゃない

 

「ハハハッ」

 

 視聴者(リスナー)のノリも泣いてる奴を除いてはいつもと変わらない。いつもと同じテンション、時間、ノリ。同じはずなのに、何故だろうか。心に穴が空いたように話が入ってこなく、とても悲しいのは。

 この気持ちに名前が付けられないまま配信は進んでいき、とうとう最後の話となった。

 

『─────』

 

「あぁ、そうだな」

 

 『(彼女)』は配信活動を始めた切っ掛けや思い出を振り返った。ある配信者に憧れてVTuberを始めたこと、最初はアンチばかりで精神的にキツかったこと。それらは何度も聞いた話であるが、頷いて話を聞く。

 

「うん、うん」

 

 そして、とうとう終わりが近付いてきた。

 『(彼女)』の涙声になりながらも、一言ずつ噛み締めるように喋っていく。

 

『ありがとう』

 

 その言葉を最後に動画のEDが流れる。

 コメントは「こちらこそ」や「今まで楽しかった」と言う感謝の言葉で溢れていた。

 

「……………………」

 

 配信が終わって数分立ち一人、また一人と同席の人数が消えていき、俺は最後の一人となった。

 流しすぎて枯れたはずの涙だったが、一滴だけ目尻から溢れ落ちた。

 

「ぐずっ、うぐっ」

 

 最後まで笑顔で見送ると決めた、その筈なのに壊れたダムのように涙が溢れて止まらない。

 自分の感情をコントロール出来ない子供のように、わんわんと泣き始めてしまった。

 

 

 

 

 

「っと、今日の仕事終わり!」

 

 『(彼女)』の引退配信から数年後、あの後俺は隣人から五月蝿いと怒られたり、上司から陰湿な嫌がらせを受けたが全て片付いたことなので置いておこう。

 それと『(彼女)』のことを忘れられないように、知ってもらうためにツクッターで毎日の絵を描いたり、魅了を語っている。

 最初の頃は小学生が描いた落書きのような絵だったり、「すげー!」とか「カッケー!」くらいの文章力しか無かったが、数年も立つと人様に見せられるぐらいには成長した。

 

「そっちも早く帰りな、あまり根を詰めすぎると体に悪いぞ」

 

 定時になり、家に帰ろうとしたがパソコンとにらめっこしている後輩に一言掛ける。それはVTuberを見始める俺と似ているように見え、無理をしてないか心配になったからである。

 

「おい、ちょっと待て」

 

 イヤホンをしながら作業しており、ソッとその場を離れるついでに画面を見たら、後輩はYouTubeを見ていた。

 

「先輩どうしました?」

 

 後輩はイヤホンを片方だけ外してキョトンとした様子で俺の方を見てくる。お前なぁ……はぁ、別にいいか。そんなガミガミ言うよりかは、無理してないってことが分かっただけ良いだろうし。

 

「何見てんだ?」

 

 それよりも俺にとっては後輩が見ている動画の方が気になった。偶然か分からないが、それはあるVTuberの配信であった。

 

「VTuberですよ、VTuber!」

 

 顔をグイッと近付けてペラペラと説明してくれるが、「転生した」だとか「あるファンがどうたら」とか色々と情報が多すぎて何を言ってるか分からなかった。

 

「お、おう……そうか。じゃあ無理するなよ」

 

 その場から逃げるようにしてそそくさと家に帰った俺。いつもの日課をしたあと寝ようとしたが、ふと後輩が言っていたVTuberのことが気になり、調べてみることにした。

 まだ活動を始めて数ヵ月のようで、名前を聞いたことがないことやチャンネル登録数が少ないことから無名なのだろう。

 後輩と話を広げられように、そしてどんな人物なのか思考を巡らせながら会社で見たとき時から続いてる配信を開いた。

 

「………………え」

 

 そのVTuberの声を聞いた瞬間、俺は間抜けなほど口を開いて声を漏らした。

 確かに後輩はそう言っていた、今さらながら話し半分に聞いていたモノをうっすらと頭に流れ出てくる。いやでも、そんな偶然みたいなことないじゃんかよ。有り得ない、そう考えたが目の前の現実は否定をする。

 

「ああ、そうだな」

 

 目に溜まりに溜まった水を振り払うように両手で目を擦り、画面越しに映る人物へと届かない声を掛けた。

 

 

おかえり、そして初めまして。




 ある「ドラゴン」が卒業すると聞いたとき、何かしら思い出を残したいと思ってこの作品も作りました。
 なのに、なのにさ……「女子大生」もってマジ? あっちは引退だけどさ。
 私はアイドル側のをよく見るけど、女子大生の方も少しぐらいなら知ってるよ。主に自称人間で体力オバケってことぐらいですけど。
 なんか「ドラゴン」の方で麻痺しちゃったのか、「女子大生」のを見ても何も思わなかったんだよね。引退するって知ってから少し立ったあとは気持ちが落ち着いたけど、さすがに悲しくてそれ関連の動画を避けてますけど。

 自分語りになるけど、最初に知ってるVTuberの中で引退したのは「たべかすくん」なんだよな。あの人の切り抜き見てVTuberにハマったから最初は実感が持てなかったんだよね。現実を受け入れられなかった、そう言った方が正しいだろうけど。
 一回目は実感が掴めないまま引退して、二回目はそういう実感があったからこそ辛くて、三回目は感覚が麻痺して受け止められない……ホント、どれが一番辛いかって聞かれたら、実感を持っちまった「ドラゴン」なんだよね。

 初めて「ドラゴン」が卒業するって聞いたときは、涙が出そうになったよ。知ってから一日目は知った悲しくてふて寝するように寝て、二日目は「ドラゴン」の顔を見るだけでも辛くて、三日目にしてようやく慣れて卒業に関係しない、「ドラゴン」が出てる切り抜きを見れる程度には復活をした。だけど、まだ心に突っかかりがあるのか卒業するって発表した動画はまだ見れてないんだよね。あぁ、まったく。クヨクヨしてても仕方ねぇのにさ。

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