トレーナーと喧嘩した。
アタシは伝説の超ゴルシちゃんだぜ?ちっとやそっとの事じゃ動かねーんだよ。
なのに突然トレーニングを休ませようと意固地になりやがって。そんなんじゃゴルゴル星に帰っちまうぞー?アタシのフラストレーション溜めるんだろー?
…それはそれとして、流石に胸部に飛び蹴りしたのはまずかったか?いや、普段顔面だから違う場所蹴ってやろーとは思ったけどよぉ。あんだけ顔面に蹴り入れられてピンピンしてるアイツも大概だがな。まぁ大丈夫だろ、なんてったってこのゴルシちゃんのトレーナーなんだからな!!
……けど、ちっとばかし胸騒ぎがしやがるぜ。なんつーか、階段を登っていたはずなのに気づいたら降りていたときぐれーの胸騒ぎが……。
んー、なんか気分が乗らねぇ。セミの抜け殻集めも興味ねぇしなー。仕方ないからお遍路3周でも行くか?
……おん?なんだ、トレーナーからの連絡じゃねぇか。わざわざ電話じゃなくて直接伝えりゃいいのによー。
「おっすアタシゴルシ!どーしたトレーナー!特性焼きそばでも食いたくなったかー?」
「『……ゴールドシップさん、ですね?』」
出たのはトレーナーじゃなかった。あの理事長の隣りにいる秘書?だったか。
「およ?トレーナーじゃねぇのか。なんだなんだ。朝チュンでもしたか?かーっ!にくいねぇ!!ヤることヤッてんのか!」
「『…落ち着いて、聞いてください』」
……茶化せる雰囲気じゃないと気づくのに少し遅れたアタシはきっと悪くはないだろう。
「『……あなたのトレーナーさんが、ご逝去されました……』」
こいつの言葉は、さしものアタシの天才頭脳でも理解できなかった。
◆
「……○○さん、肋骨が心臓に刺さったんですって」
「えぇ!?本当!?どうしてそんなことになっちゃったのかしら」
「なんでも、担当してたウマ娘の一人に思いっきり蹴られたんですって。普段から顔面も蹴られてたそうよ」
「……もしかして、トレセン学園のトレーナーって担当している子から暴力を日常的に振るわれてるのかしら?だとしたら怖いわぁ。あたしの息子もトレーナーになりたいって言ってたけど、こういうの聞いちゃうとつい引き止めたくなっちゃうわ」
「わかるわよ奥さん。私の旦那もトレーナーだったけど、相当つらいって言ってたわ。やっぱりあそこ怪しすぎるわよ。年端も行かない女の子たちを無理矢理走らせているんでしょう?可哀想だわ」
……周りの声が、とても痛い。
アタシだ。アタシのせいだ。アタシが飛び蹴りなんかしたから。なんで、なんで。
「……ゴールドシップさん」
「……なんだ、マックイーン」
「あなた、そんな人でしたのね」
「…っ」
「自分が何をやったかわかってるんですの!?このトレセン学園でも随一の育成手腕を持つ方が亡くなったんですのよ!?他ならない担当であるあなたのせいで!!一体何を考えてるんですの!!」
「……………………」
何も、言い返せねぇ。
そうだ、トレーナーが死んじまったのは、アタシのせいだ。何も、反論できねぇ。
「わたくしは、あなたは決して人を不幸にさせるつもりがあったわけではないことは知っています。しかし、限度というものがありますわ。あなたは、その超えてはならない限度を超えてしまいましたの」
「……マックイーン」
「…あの人は、最後まであなたの身を案じていましたわ。辛そうに走っているからやめさせようとしたら、喧嘩に発展してしまったと」
辛そうだった?アタシが?あの時ばかりは走りたくて走りたくてうずうずしてたアタシが辛そうに走っていた??
「それに、ゴールドシップさんを責めないでくれと言われました。ええ、あの人なら言うでしょうね。ですが、理解と納得は別物ですわ。…たとえあの人が許したとしても、わたくしはあなたを許せないでしょう」
「……」
「今回の一件で、トレセン学園に相当数の批判の声が相次いでいますわ。中でもトレーナーの勤務環境がおかしいといった意見や、ウマ娘のトレーナーに対する態度が問題視されていますわ」
「……」
「わかりますか?ゴールドシップさん。今、トレセン学園の評価は暴落していますわ。元凶はあなたですのよ?わたくし共は常々、悪ふざけは程々にしておきなさいと苦言を呈していましたのに、それを改善することなく今日の今日まで過ごした結果がこれですの!?怒りを通り越して呆れが出てきますわ!!」
「……」
「…こう言ってはなんですが、今回の件は明らかにあなたに相当量の責任がありますわ。少なくとも、あれだけの育成手腕を持っている他のトレーナーが、今後あなたの担当になってくれる可能性もほとんどありえませんわね。不祥事を起こしたウマ娘の担当なんて、誰も引き受けたがらないのは当然ですわね」
「……」
「トレーナーがつかなければトゥインクルレースへの出場はできず、URAにも出られない。あなたの競争バとしてのバ生は、ここで幕を下ろしてしまったと言っても過言ではないですのよ?」
「……」
「…何とか言ったらどうですの。普段あれだけ煩わしかったのに、なぜ何も言葉を発さないのですか?」
「……」
「答えなさいゴールドシップ!!」
「……アタシ、は……」
「………もういいです。あなたには失望しましたわ。さようならゴールドシップ。あなたには金輪際関わることはないでしょう。精々その罪悪感を抱えて生きていくことですのね」
「………っ」
◆
アタシは、どうすれば良かったんだろうなぁ。
なぁ、トレーナー。どうして死んじまったんだよ。100年後に宇宙行くって言ったじゃねぇかよ。嘘付きやがって。
「……違う、な」
…トレーナーが嘘をついたんじゃない。アタシがトレーナーを嘘つきにしちまったんだ。アタシが、アタシのせいで。
「……もっと、ちゃんと、向き合うべきだったのかな」
視界が歪む。目頭が熱い。アイツの葬式ですら出てこなかった涙が、今になって溢れてきやがる。
「………っ、ぐすっ……」
アタシは、怖かったんだ。みんなに責められる、あの視線が、あの言葉が、怖かったんだ。だからきっと、涙すら引っ込んでたんだろう。
トレーナーを不幸にしておいて、自分が泣けるなんて、自分勝手が過ぎるんだろうな。だから、これはアタシへの罰だ。
『君がゴールドシップ君?うん!快活でいい感じだ!今日から君のトレーナーになることにした者だ!よろしくね!』
『なるほど、シップ君は飽き性なんだね。普通のトレーニングだと味気ないかな。……そうだ!こんなのはどうだい!?』
『おー!皐月賞凄かったよ!!皆君の脚にびっくりしてたね!次は何のレースがいい?長距離かな?』
『まさかシップ君が日本ダービーに出たいって言うなんて想像つかなかったよ。フラストレーション?は溜まっているのかい?……うん、そうか。なら、楽しんでおいで!』
『いやー、シップ君の人気はダントツだったね!素晴らしい走りだったよ!やっぱり君の脚は素晴らしいね!』
『すごいよシップ君!!まさかの3冠バだ!やっぱり君の脚は長距離で最も活躍できる脚だ!!年末の有マ記念が楽しみだなぁ!……ん?やる気が無いのかい?じゃあしょうがないな、有マ記念は見送ろうか』
『まさか見送るって言ってた有マ記念に突如出たいって言うなんてね。どうしたの?…急に走りたくなった?あっははははは!!結構結構!それでこそシップ君だ!!』
『あ、シップ君!』
『おーい、シップ君ー!』
『シップ君ー?』
『シップ君』『シップ君』『シップ君』……………
『…シップ君。もう今日はやめよう。今の君は全然楽しそうじゃない。やる気が無いんだろう?そんな状態で走っても……ぐあっ!??し、シップ君!?ま、待ち給えシップく……がふっ!?』
……アタシ、最低だ。
アタシの事をどこまでもよく見てくれていたのに。
アタシは最大の理解者を、アタシ自身の手で無くしちまった。
「大切なものは無くしてから気づく……か」
……嫌だな
「…嫌だ。嫌だよ。こんな別れ方、嫌だ」
……トレーナーに、謝らなきゃ。
だけどもう、謝ることもできねぇや。
「…………」
なんだか、眠いや。
もういいや、寝ちまえ。
トレーナーの居ない世界なんて、退屈なんだろうなぁ。
☆☆☆☆☆
「……あー、最悪だな、こりゃ」
「起きたかい?……クククッ、中々どうしてひどい顔をしているな、ゴールドシップ君」
「そうだな。3日目のセミぐれーな気分だわ」
「しかし、まさか君のような娘がこんな薬を欲しがるなんてねぇ
。意外性の高いウマ娘が多いね、研究に役立つよ、クククッ……」
「……アタシは、破天荒ゴルシちゃんだからな。素直に物事を言うのは、あんまり慣れねーんだ」
「そうだろうとも。君のような性格の子は総じてそのような状況に陥りがちだ。……まさか、この私が他人のために薬を活かすなど考えたこともなかったがね」
「ありがとな、タキオン博士。…アイツには、もう少し素直になってやってもいいかなって思ったぜ」
「……彼のことだ、きっとそのままのゴールドシップ君がいいと言うだろうさ」
「あっはっはっは!!違いねー!…それならそれでいいさ。アタシは何にでもなれるスーパーゴルシちゃんだ」
「……クククッ、ククククククッ。やはり君は素晴らしい被験者だったよ、ゴールドシップ君。協力感謝する」
「彼女ほどの精神力の持ち主でも……か。いかんねぇ。ここまで来たらとことんやりたくなってしまうのは研究者の性か?だが無差別にやってはまずい。ちゃんと選ばねばな…」
ゴルシ曇らせるの難しすぎて俺が逆に曇った
ところでこれ短編じゃなくて連載にしたほうがいい?
失踪するから短編のままでいいか