GUTSよ、ウマ娘世界へ   作:Mak

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ウルトラシリーズとウマ娘のクロスオーバー
・・・・増えて増えて


GUTSメンバーの仕事

日本ウマ娘トレーニングセンター学園、通称トレセン学園は大都市(メトロポリス)のど真ん中に位置し、広大な敷地面積を有する全寮制の中高一貫校である。

ここでは日々2000人弱もの生徒が暮らし、またそれだけの数の生徒をサポートするために必要な学園スタッフも膨大な数に及ぶ。

 

今日もまたトレセン学園には門限の時間が迫り、校内に残っている生徒並びに職員に対して帰宅を促す校内放送が流れ始める。

まだ明かりが灯っていた施設の電気も次々に消え、人々はまばらに学校の正門からそれぞれの住居へと歩を進めていた。

 

しかしその集団の波に逆らうようにして外から正門へと向かっていく一人の女性がいた。

女性は門近くの守衛にIDを提示すると肩まである長い髪を靡かせ学校敷地内へと入っていく。

奇異な目でそれを眺める帰宅者たち。

一部気になった者が通過を許可した守衛に説明を求めていた。

 

 

「見慣れない女性でしたけど、どうして彼女を通したのかしら?」

 

「さっきの方ですか? あの人は隊長さんですよ、銀色クジラに乗ってやってきた。なんでもここしばらくは政府のお偉いさんと会議があったそうで3週間いらっしゃらなかったそうですよ」

 

「ああ、あの人がGUTSの……早いものね、あの怪獣が現れてからもう1か月も経つのか」

 

 

 

黒髪の女性はトラック周辺の土手をしばらくと歩くと学校には似つかわしくない巨大なオブジェのような物体、学生からは「銀色クジラ」とあだ名される物体のそのすぐ側で歩みを止める。

女性はハンドバッグから各辺の長さが不均等で構成された六角形状の白い機械を取り出し、折りたたまれた部分を開いて液晶モニターとなっているそれを壁の一部にかざすとスピーカーを介した合成音声が流れる。

 

 

 

『ID承認。声紋チェックを致します』

 

「アクセス。TPCコード0026CGG……イルマ・メグミ」

 

『声紋チェック完了いたしました。どうぞお入りください』

 

 

 

機械音を立てながら壁の一部が開くとタラップが伸びてくる。

イルマ・メグミと名乗るその女性はせり出てきたタラップを上り、その先にある扉から銀色クジラ、正式名称『万能戦闘母艦アートデッセイ号』の中へと入って行った。

 

空気圧の抜ける音を立てながら閉ざされた扉には二つのマークが横並びに印字されていた。

 

『TPC』と『GUTS』と……。

 

 

 

TPCとは地球平和連合の略である。

原因不明の怪現象や自然災害から地球人類を守るインターナショナルな組織であり、世界各地に支部と研究センターを持ち、月面基地と宇宙ステーションがある。

GUTSとは地球平和連合の中でも超常現象を専門に調査する7人のエキスパートからなる特殊編成チームだ。

優れた科学力と威力の武器を以って日夜地球の平和と人類の進歩のために戦っているのである。

 

だがそれは、あくまで彼らの世界での話だ。

なにせそのような組織はこちらの世界には存在しない……

 

 

イルマ・メグミ(36)はそんなエキスパートたちを束ねるGUTSの隊長である。

彼女自身も優れた科学者であり、また地球外生命体との交渉計画の責任者も務めたこともあるほどの聡明かつ勇敢な女性だ。

 

イルマはアートデッセイ号内に備え付けられた簡易の女性用ロッカールームへと行くと、先ほどまで着ていた灰色ビジネススーツから白をベースに赤・灰色の配色が施された特殊繊維製の制服、GUTSスーツへと着替え母艦上層部に位置するコックピット兼司令室へと入室する。

 

見慣れぬ機械や計器が集中しているその部屋には既にイルマと同様のスーツに身を包んだ6人の男女がおり、イルマが入室するとそれぞれ動作や作業を中断し、起立気をつけの体勢で彼女を迎え入れた。

だがそれは軍隊のような堅苦しいものではなく、くだけたものであり、迎え入れた側の6名は全員笑顔であった。

 

 

 

「三週間の出張、お疲れ様です隊長。政府との交渉はどうでしたか?」

 

「ありがとうリーダー。既に聞いているとは思うけどそのことは最後に話すわ。まずは私が留守の間の状況の報告をお願い」

 

 

 

イルマを迎え入れた6人の男女の代表格と思われる渋い面立ちの男性、隊長である彼女からも親しみを込めて「リーダー」と呼ばれるチームの副隊長兼前線司令官であるムナカタ・セイイチ(33)に感謝を伝えつつ、久々に皆の無事な姿を見ることが出来たことを感慨深く思いながらイルマは隊長席に着いた。

 

彼女が席に着くのに倣い、部下たちもそれぞれの席に腰を下ろしたところを見計らったところでまずはムナカタが口火を切る。

 

 

 

「まずはこの三週間、ここから観測できる範囲に限りますが時空の歪みも無ければ異常現象が発生したという報告はありません」

 

「例の怪獣については?」

 

「依然消息を絶ったままです。詳しい説明は‥‥ヤズミ、頼む」

 

「はい!」

 

 

 

ムナカタは簡潔に報告を済ませるとより詳細な情報をGUTSでもっとも若い隊員、コンピューター操作やプログラミングの天才であり主に分析を担当するヤズミ・ジュン(18)に説明するよう促す。

 

ヤズミは自席に備え付けられたコンパネを尋常ではない速度で操作すると前方の大スクリーンに様々なグラフを投影し説明を始めた。

 

 

 

「例の怪獣、コードネーム『ドーニュー』の放つ固有の電磁波パターンを解析し各種アンテナを使って反応をキャッチできないか試したのですが、やはり電磁波の多い都心部のせいか、それとも地中深くまで逃げたせいか位置を把握することは出来ませんでした」

 

「せめてあの時モンスターキャッチャーを撃てていればなぁ」

 

「仕方ないですよシンジョウさん。あの時は人々を避難させることが優先だったんですから」

 

「ダイゴの言う通りや。それにな? たとえ撃てたとしてもここは異世界や。モンスターキャッチャーはあくまでTPCが宇宙と全世界に張り巡らした人工衛星やイントラネットがあるから効果あんねん。この世界では役にたたん」

 

「それで対策は?」

 

 

 

隊長であるイルマは彼女の優秀たる部下たちを心から信頼していた。

彼らは自分が不在の間でも自らの頭で打開策を見出し実行していることは想像に難しくなかったからだ。

 

その信頼通り、先ほど関西弁を操るチョットだけメタボな体形の隊員、メカニック担当にして科学者であるホリイ・マサミ(28)がスクリーン前に立ち、新たに映し出された機械の設計図の説明を始めた。

 

 

 

「ヤズミの作ったプログラムを実行するためのセンサーを開発しました。一応こっちの科学力でも各地に配備しやすいように安くて丈夫で長持ちな設計にしてあります。とりあえずこれさえあれば怪獣が現れるよりも前に避難指示とか出せるはずです」

 

「しかし怪獣が現れたらどうするつもりだ? こっちの軍備じゃあ怪獣に対抗できないし俺たちだって自由に動けないんだぜ?」

 

「そうよね……2号の攻撃でやっと撃退できたぐらいだもん」

 

 

 

ホリィの説明の後に、より現実的な方向へと舵を切ったのはGUTS随一の射撃の名手にして元宇宙飛行士のシンジョウ・テツオ(26)とエースパイロットのヤナセ・レナ(22)だった。

彼らは科学者ではなくTPCの隊員養成所出身であり、GUTSが有する各種メカニックの操縦が担当である。

しかし現在はその行動に制限が掛けられており、怪獣という規格外の災害が発生しても動くことの出来ない現状に歯痒い想いを抱いていたのだ。

 

 

 

「そのことだけど皆に朗報よ。3日後の日付変更と共に法改正が行われてGUTSは特例で怪獣の捜索および撃退に動けるようになるの。もちろんウイングや他のライドメカも使えるようになるわ」

 

 

 

もちろん面倒な手続きが必要だと加えつつも、イルマのその言葉に隊員たちは色めき立つ。

こちらの世界に取り残されてから早1か月、それは彼らにとって我慢の日々であったからだ。

 

 

 

「そういえば私が出張の間みんなここでアルバイトしていたのよね? 引き続きアートデッセイ号は学園の理事長のご好意でここの敷地内を間借りすることになったし、その恩返しも込めて今やっている仕事は継続してほしいわ。みんなどんな仕事していたの?」

 

 

 

出撃に関する詳しい制限やルールは後日展開される資料に目を通すことを伝え、イルマは部下たちに彼女がいない間どの動向について質問した。

 

というのも、イルマが永田町へと3週間もこの世界の役人と交渉している間、出撃することも外出することも儘ならない部下たちは大いに暇を弄ぶこととなってしまったのだ。

 

そこで留守を預かるムナカタは、隊長と厄介になっている学園の最高責任者である秋川やよい理事長の許可を得て部下の士気を維持するために大胆な策へと出た。

 

それがトレセン学園でのアルバイトをするということであった。

 

トレセン学園には2000人弱もの生徒が通う巨大な学校だ。

それらの数の生徒を支えるスタッフも大量に必要であり、人手はいつでも足りないというのが現状であった。

 

幸いにして残された6名は全員優秀な人材であり、仕事は直ぐに見つかったのだ。

たとえその仕事に本人が納得しようがしまいが……

 

 

 

「まずは……レナ隊員? 貴女はどんな仕事していたの?」

 

「はい隊長。私はトレーナーの補佐をしていました。もうみんなすっごく可愛くて良い子ですよ! 今日なんてマヤノっていうウマ娘の女の子が自己記録を更新したんですよ!」

 

 

 

今日の昼間の出来事を思い出しながらレナが笑顔で答える。

彼女は当初用務員の仕事から始めたのだが、マヤノトップガンという人懐っこく、父親もパイロットという関係で航空機に非常に強い興味を持つウマ娘と意気投合し、とんとん拍子でマヤノが所属するチームのトレーナーの補佐という形に落ち着いたのだ。

 

 

 

「そう、それはよかったわね。次はダイゴ隊員、貴方は……気のせいかしら? 貴方…さっき光らなかった?」

 

「え、いや、これはその‥‥」

 

「だから言ったやろ! アイツには気を付けろって!」

 

 

 

レナからの微笑ましい報告に笑顔に答えたイルマだったがその次に質問したダイゴの異様な様相に顔を思わず顔をしかめる。

問い質され、何と答えたらいいのか悩んでいるダイゴにホリィが怒声を浴びせた。

 

イルマが目線でホリイに説明を求めると彼はその原因を説明し始める。

 

 

 

「ボクは学園で科学の先生をやらさせて貰っているんですが、そこにもうめっちゃくちゃな娘がいるんです。アグネスタキオンっていう子なんですがね、訳の分かんない実験ばっかりやっててまぁ~色んな人に変な薬を飲ませてきよるんですわ」

 

「それでダイゴ隊員の体が光ったわけなのね。体に悪影響は?」

 

「それが調べたんですが、心拍数が上がると人体が淡く光るだけで他に悪影響はありません。凄いんだかアホなんだがよぉ分からんのです」

 

「とりあえず問題は無いということね。それで、ダイゴ隊員は何を?」

 

 

 

呆れてため息を吐くホリィ。

とりあえず問題は無いことを確認したイルマは再度ダイゴに彼がどのような仕事をしたのか問う。

 

 

 

「僕は学校の庭の手入れの手伝いとかしています。ウマ娘って性別が女性しかいない種族なので実質女子校みたいなところですから結構花とか草木の管理には力を入れているみたいで、あと芝生のコースの整備も手伝っています」

 

 

 

マドカ・ダイゴ(23)は他の隊員とは異なり各種分野のエキスパートではないが単独でも発揮される高い判断力と行動力には他の隊員からも一目置かれている勇敢で心優しい青年だ。

最近は自分だけの得意分野を見つけようと任務の傍ら猛勉強を重ねるメンバー随一の努力家でもある。

そして彼はかつて光となって闇と戦ったこともあるのだがそれはもう過去の話……。

 

 

ダイゴの説明を聞き、一応次からは気を付けるようにと釘を刺したイルマは次にシンジョウにどうしていたのか聞く。

しかし当の本人はあまりいい思い出が無いのか、渋い面持ちであった。

 

 

 

「自分は警備員のバイトをしていました。けど‥‥」

 

「けど?」

 

「その‥‥ちょっとめんどくさい奴に噛まれてしまって‥‥」

 

「‥‥噛まれる?」

 

 

 

そう言ってシンジョウは制服の袖をめくると包帯で巻かれた左腕を見せる。

 

 

 

「ああ、隊長! 大丈夫です! ケガの方は大したことありませんし、先方とも折り合いは付いていますので」

 

「…わかったわ。でも何かあったら必ず報告すること。良いわね」

 

 

心配そうな目で見やる隊長が何か言う前にそうけん制するシンジョウ。

イルマもとりあえずは彼が独自で事態を収められるだろうと信頼しそれ以上の追求はしなかった。

そしてこんどはヤズミに彼がどのような仕事をしたのか訊ねる。

 

 

 

「僕は学校のサーバーのメンテナンスとか壊れた機材の修理とかしていました。いや~でも驚きました。並行世界(パラレルワールド)でもプログラミング言語や仕組みが殆ど変わらないなんて!」

 

「そう、それは良かったわね」

 

 

 

興奮気味にそう報告するヤズミ。

簡単そうに言ってはいるが実はこちらの世界のプログラミング言語は彼のいた世界には無い仕組みの物だったのだが彼はそれを1日で解読及び修得してしまっているのである。

寧ろ自分たちの居た世界との細かい差を日頃見つけることを楽しみにしている節があり、最近ではプライベート時間にこちらの世界のネットの住人達との有意義なやり取りをするのが日課となっていた。

若さゆえかGUTSのメンバーで一番この状況を楽しんでいるのは彼なのかもしれない。

そう感じ取ったイルマは言葉少なげに返答し、最後に残ったムナカタへと目線を向ける。

 

 

 

「自分はウェイトトレーニングのインストラクターのお手伝いをしています。彼女たちの体力や膂力は人間とは比較になりませんが正しい姿勢や方法でなければケガをしてしまうことには変わりありませんのでそれらの指導をしています」

 

 

ムナカタは典型的な現場たたき上げの男である。

彼にとって筋トレは趣味と実益を兼ねた数少ない娯楽なのだ。

そのためこちらの世界に飛ばされた後でも筋トレは続けていたのだがアートデッセイ号にはそのための機材は流石に積んでおらず、自重を使ったトレーニングに勤しんで居たのだがそれも限界があった。

 

彼は理事長に許可を貰いウマ娘たちが使用するトレーニングジムで筋トレを使用としたとき、基本的な筋トレの知識が不足のためか、無理な姿勢や過度な負荷をかけてトレーニングしようとするウマ娘を見かねて正しい方法を伝授したことがあった。

その評判が評判を呼んだ結果、たくさんのウマ娘が彼の元に集まり、最終的には学園の方から正式な依頼となってやってきたのだ。

 

 

 

「そう‥‥わかったわ。これからは本来の任務の方も忙しくなるけどそれ以外の時間は出来るだけウマ娘たちと交流を続けて。ただでさえあのような事件があったのだもの。怪獣と戦うのも大事だけど、それ以上に彼女たちの心に寄り添ってあげて欲しいの」

 

 

 

イルマがそう告げるとメンバー全員は同じ面持ちで頷いた。

それは彼らがこちらの世界に来た切っ掛けとなる1か月前の出来事にまで遡る。

 


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