そこは見知らぬ世界でした……なのorz 作:dslprojecter
「普通にスルーしてましたけど、ボスから魔石を貰ったって何ですか?」
よく見ると受付嬢は怒りの沸点を超え、一時、ミュウ達に冷静に訊ねてきた。
懇切丁寧かつ謙りながら説明したのが功を奏したのだろうか、受付嬢は眉間に指を添えながらもなんとか対応仕切って見せた。当然、周囲には冒険者達が集まっていたので、一連の流れを受付嬢と一緒に聞いていたのだが、ミュウ達を化け物でも見ている様な雰囲気を醸し出していた。ミュウ達は可愛い女の子です、危険は(多分)無いの〜。
「レベル1という事を置いておくにしても、ゴライアスから魔石を貰ったというのは前人未到ですね。コレは昇格に値すると思いますよ、しかもたった二人だけでの偉業ですので、レベル上昇も早いと思いますよ」
「レベルアップするの〜」
受付嬢からの多大な賞賛を受けたミュウではあったが、上げて下げるのがこのオラリオ(デザート→じゃが芋、神の恩恵→ショボイ)。
「ええ、規定の経験値を稼いだらレベルも上がりますよ」
受付嬢はニッコリ笑い、ミュウは愕然としていた。日本でRPGゲームをやり込んだミュウである、規定の経験値と聞き呆然になるのは当然だろう。なにせ神の恩恵がアレなのだから、しょっぱいのだショボイのだ。
「はい、ミュウはレベルアップ頑張りますなの」
肩を落とし今までの威勢の良さが成りを潜めていた。優香はそんなこととは知らず更に追い打ちをかけた。
「大丈夫だよ、ミュウちゃん。ボスを討伐はしなかったけど、かなりの魔物も倒してるんだし、直ぐにレベルアップするよ」
「はいなの、ミュウは頑張りますなの」
壊れたラジオの様に繰り返すミュウ。
傍から見たら、かたやがっくりと肩を落とし呆然とするミュウ、かたやレベル早く上がると良いね、と笑顔の優花。対象的な二人であった。なんだコレ?
「とりあえず魔石を換金したいのでお願いします」
「それではあちらの換金場所で換金して下さい」
優花はミュウの気配に気付くことなく受付嬢の案内通りに換金場所へと向かう。ミュウも肩を落としつつも優花と逸れたくは無かったのでついて行った、背中が泣いているのは何故だろうか。
「コレを換金お願いします」
優花は魔石を指差し換金係を呼び出す。ミュウは換金中、暇だったので辺りを見回し何か面白いモノでも無いか、と物色し始めた。ピコーン、とふと目に止まった人物が居た。ミュウは護衛の1体を引き連れ目標に向かう。
ミュウが向かった先には神ヘファイストスが居た。知り合いが未だに少ない中での知り合いかつ片眼眼帯という出で立ちは、ミュウに親近感を覚えさせていた。
「お姉さん、久しぶりなの〜、オハナシするの〜」
「あら、誰かと思ったらミュウちゃんじゃない」
神に対して気安過ぎるかと思われたが、ヘファイストスにしてもヘスティアの件もあり無視は出来なかった。
「お姉さんはコレから何処へ行くんですか、なの」
「私は用事を済ませて自分のファミリアへ帰るところよ」
「神様達の帰るトコロ、なの?」
「違うわよ、ヘスティアもそうだけどホームとも言われているわね」
「お姉さんにもホーム在るんですか、なの?」
「ええ、そうよ」
「ベッドは在るんですか、なの?」
ーピシィ
何か可笑しな会話になった。ヘファイストスは笑顔を貼り付けている。
「ちゃんとご飯は食べられるんですか、なの?」
確かに今のヘスティアではマトモな食事が期待出来ないだろう。あまつさえ今にも潰れそうな廃教会だ。寝場所にも事欠く始末。詳細を知っている(自分が追いやった)だけにヘファイストスは二の句を告げなかった。ヘファイストスは暫く笑顔を貼り付けながらミュウの話を聞いていた。
暫くして、苛酷なミュウの言葉責めに合い、ヘファイストスが笑顔を絶やすことが出来ない中、優花が換金を終えミュウと合流した。
「はじめまして、こんにちは。すいません、ミュウちゃんの知り合いですか?」
ヘファイストスにはその時、優花が天使に見えただろう。笑顔が次第に柔らかくなっていった。
「私はヘファイストス、鍛冶神よ。武器とか防具を販売しているわ」
やっと自己紹介がマトモに出来たヘファイストス。優花も武器、防具と聞き丁度良かった、と喜んだ。
「ホントですか?実はちょっと武器とか補充したかったんです。良かったら案内お願い出来ますか?」
「良いわよ、付いて来て」
ココまで優花とヘファイストスは二人で意気投合していた。ミュウの事を忘れた訳では無いが、疎外感は別物である。
「優花お姉ちゃん、ミュウにも武器下さいなの」
「大丈夫、ミュウちゃんの分も一緒に買おうよ。そして衣服や下着、あとヘスティア様と一緒に食事もね。換金したら3億5千万ヴァリスだったよ。多分だけどかなりお金持ちだから。ミュウちゃん、無くすと困るから宝物庫に入れてくれる?」
「ハイなの〜」
ミュウは左手薬指を光らせ多額のヴァリスを仕舞い込んだ。その光景を見ていたヘファイストスの眼が輝いた。
「ミュウちゃん!それもっと見せてみて。お願い」
ミュウは左手を翳し宝物庫見せた。
マジマジと宝物庫を見ているヘファイストス。何が珍しいのだろうか?この人、神だよね?このくらい造れるはずなの〜、とヘファイストスの現在の力量を大幅に上昇させていた。
言わずともこの世界の神々は神生に飽きて外界に降りてきており、神の御業を使う事を禁じられていた。また、ヘファイストス自身も鍛冶神という事で鍛冶は得意なのだろうが、錬成というモノとはかなり方向性が違う為、神の御業であっても成し得ない事もあった。それが今、目の前にある宝物庫である。
「何が珍しいの?神、なの?」
このくらい簡単に造れるよね?とミュウは自然にヘファイストスの自尊心を潰しに罹った。ヘファイストスにミュウは宝石の山に見えていた。異世界の技術、意志のある護衛達。しかし自らの自尊心を削り続けてくる言葉の棘だけは耐えられそうも無く、ミュウの左手を握り締め覚悟を決める。
「ここではなんだから、とりあえず私のホームへ来なさい。お茶やお菓子も出してあげるわ」
と、平然を装いつつヘファイストスは告げた。周囲の冒険者達の視線を躱す行動を取る事に決めたのだ。このままでは鍛冶神としての信頼が揺らぐ、と。有無を言わせぬヘファイストスの笑顔にミュウは頷く事しか出来なかった。