博麗家の姉として   作:てへぺろん

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どうもなんとかキリのいいところまで書けました。次の投稿は……どうなるかわかりませんので気長にお待ちください。


……罪人は罰を受けなければならない……


それでは……


本編どうぞ!


名乗らぬ巫女と名乗らぬ妖怪 閉幕

 『「幻想郷では里の人間が妖怪になることが一番の大罪なのよ」』

 

 

 かつて一人の少女がとある妖怪に告げた言葉だ。

 

 

 妖怪は少女の手により消滅した……はずだった。

 

 

 しかし神様の悪戯か悪魔の洗礼を受けたのかわからないが、その妖怪は再び幻想郷(ここ)に存在していた。

 

 

 少女は大罪を犯した妖怪を許すわけにはいかない……それは理であり、役目なのだ。

 

 

 慈悲など大罪人には不要なもの。ただ洗濯物を干すように淡々と手にお祓い棒を振り下ろすだけで終わり、簡単な作業のはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「待って!!

 

 「「――ッ!!?」」

 

 

 少女の手が止まる。この場に居てはならない第三者の声が響き、その声の主に知られたくなかった……しかし遅かった。振り返ればこちらを見つめる見知った顔がそこにあった。

 

 

 「………………………………………………姉さん」

 

 

 愛する姉がそこに居た。

 

 

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 「た、ただいま……霊夢ちゃん……居る?」

 

 

 夜遅くなる前に帰って来ることはできたけれども、あんな誤魔化し方をしたのだし今も怪しまれているに違いない。そう考えるだけでも気分が悪くなりトイレに駆け込みたいが我慢しよう。そうなってしまったら余計に怪しまれるだけだからね。

 

 

 霊璃は恐る恐る博麗神社へと帰宅した。縁側から中の様子を窺いながら妹の姿をそっと探していると……

 

 

 「霊璃さんおかえりなさい」

 

 「ひぃやあああああああ!!?」

 

 

 いきなり声をかけられ前かがみに倒れてしまう。

 

 

 「あ、あうんちゃん!?もう脅かさないでよ……霊夢ちゃんかと思ったじゃないの」

 

 

 声の主はあうんだった。そのことにホッとしたが心臓がこれでもかとバクバクと音を刻んでいたが、更なる追撃が待ち受けていた。

 

 

 「私だったらなんだって言うの姉さん?」

 

 「どひゃぁああああああああああああああああああああ!!?」

 

 

 霊璃は縁側から転げ落ちた。その拍子に巫女装束が捲り上げられ下半身が丸出しに……はならなかった。生地で手先と顔以外の肌を隠していたので見えることはないので安心だが、転げ落ちた拍子にお尻を向けられている霊夢は気分が良くないだろう……寧ろ姉のこんな姿を見て恥ずかしいのか少し頬に赤みがかかっていた。

 

 

 「もう姉さん……そのお尻なんとかしてほしいのだけど」

 

 「あ、ごめん」

 

 

 サッと立ち上がり巫女装束についた砂埃を払う。

 

 

 「……ってそうじゃないわ!霊夢ちゃんいつの間に居たの!!?」

 

 

 自然な流れに流されそうになった霊璃は渾身の抗議を言い放った。心臓が飛び出そうになったのは言うまでもなく、今一番気になっている妹に突然エンカウントしてしまったのだからこの抗議は正当な訴えであると霊璃自身は思っている。

 

 

 「いつの間にって、ここは私達の家なのよ?居ておかしい?」

 

 「い、いえ……何もおかしくありませんねはい」

 

 

 正論に打ち負かされた霊璃は反論することができない。霊夢より身長は高いはずなのに小さく縮んで見てるのは気のせいだろうか?そんな様子の霊璃を怪しむ視線が突き刺さる。

 

 

 「霊璃さんなんだか挙動不審ですよ?」

 

 「そうね、いつもと様子が違うけど姉さん?」

 

 「――ふぇぇ!?べ、べべべ、べつに!?挙動不審とかありえないから!!私はいつも通りのダメなお姉ちゃん略してダメ()の博麗霊璃ですよぉおおお!!!」

 

 「「……」」

 

 

 ヤバイわ……完全に怪しまれている。その証拠にジト目で二人に見られている……そんな顔していたら可愛い顔が台無しよ?だから二人も一緒に笑いましょう!あはははは……ははは……だ、だからね……ワ、ワタシアヤシクナイヨーホントダヨー?

 

 

 二人の視線に対して愛想笑いで誤魔化そうとするがこれこそ挙動不審であった。笑い声も虚しく沈黙に変わっていく。

 

 

 「……あ、あのね……そろそろ晩御飯の準備しないと……いけないかなぁ~……なんて……」

 

 「……そうね。あうんお皿を用意して」

 

 「あ、わかりました」

 

 

 霊夢とあうんはこれ以上関わるのを諦めたのかご飯の準備をすることにした。

 

 

 「……一人ボッチ……」

 

 

 ポツンと残された霊璃の心境はとても悲しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 色々あったけれどもなんとか布団に潜り込めた。朝まで辛抱すれば……私の勝ち!

 

 

 食事を終えお風呂も堪能した。明日の朝には妖怪が立ち去ってしまう……霊璃は約束を守るためにも霊夢の行動に細心の注意を払い観察していたが、()()()()()()()()で少し安心していた。そして就寝まで辿り着いたわけである。

 しかしここでも気を抜かない霊璃はそっと隣は拝見する。そこには寝息を立て気持ちよさそうに丸まっているあうんとスヤスヤ夢の中に旅立っている霊夢の姿があった。

 

 

 二人共よく寝ているわね。明日朝一で抜け出して妖怪さんと別れを済ませれば何もかもこれでお終い……妖怪さんとももう会えないのかな?きっとそうね、妖怪さんにも事情があるし、会わない方がお互いの為だものね。だから明日は笑顔でお別れしないと。それまで霊夢ちゃんには悪いけれども私の我が儘に付き合ってほしいの。酷い姉だ噓つき大っ嫌いと思うかもしれないけれども……これは約束なの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ゆびきり(約束)』は破ったら針千本なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うぅん……冷えるわね……」

 

 

 頭がボーっとする……そうか、私はいつの間にか寝ちゃったのね。疲れていたのかも……そんなことよりも寒いわね。()()()()()()()()()みたい……

 

 

 霊璃はふっと障子の方を向くと月明かりが見える。少し障子が開いており外の夜空が寝床からでも窺えそこから風が入り込んでいたのだ。気づいた霊璃は寝ぼけながらも布団から身を乗り出して障子に手をかけ閉めると風はピタリと止んだ。そのまま再び寝ようと布団へと潜り込んだ。

 

 

 「………………………………………………っえ?」

 

 

 霊璃は体温が一気に低下するのを感じた。そしてみるみる表情が変化し、驚愕の表情を浮かべて布団から飛び上がった。この急な行動は一体何を意味するものなのか?

 

 

 先ほど障子が開いていたのだ。それが霊璃を驚愕させる要因であった。何故なら開いていたら寝る前に気づいたはずだ。一番近いのは霊璃であり、風に晒されるのも彼女だ。一番奥の布団にはあうんが今でもぐっすりと丸まって寝ており気付いている様子はない。気づかなかったのではなく、寝る前は開いていなかった。そして先ほどまで障子が開いていた……これを意味するのは誰かが障子を開けたことになる。一体誰が……その正体はすぐにわかった。

 

 

 霊璃は隣の布団に寝ているはずの妹の姿を確認しようと恐る恐る掛け布団をめくるが……そこはもぬけの殻だった。

 

 

 それから霊璃はあうんを起こさないよう部屋から飛び出し博麗神社内をくまなく探したがどこには霊夢の姿はなかった。居ればどれほど嬉しかったことか……だが現実は最悪な事態を招くことになろうとしていた。

 

 

 「――ッ妖怪さん!!」

 

 

 寝間着から巫女装束へと着替え駆け出す。まだ間に合う、間に合わせてみせると自身に言い聞かせて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走る……

 

 

 走る……

 

 

 走る……見えた!

 

 

 「待って!!

 

 「「――ッ!!?」」

 

 

 間に合った。今にも口から心臓が飛び出そうなぐらいに走ったから辛いけれども今はそんなことなんてどうでもいい。私の視線の先にはお祓い棒を振り下ろそうとしていた霊夢ちゃんと……妖怪さんがいた。やっぱりこうなってしまった……でもまだ終わっていない終わらせない!

 

 

 「はぁ……はぁ……霊夢ちゃん」

 

 「姉さん……どうして!」

 

 「目が覚めちゃった。霊夢ちゃんが居なかったから探したのよ?もう真夜中だし外は寒いわ。あうんちゃん一人で残して来ちゃったから帰りましょう……ね?」

 

 「……そうね。でもやることが済んでからよ」

 

 「それ、やらないとダメ?」

 

 「……」

 

 

 望みをかけて問いかけてみるが返してくれなかった。どういう思いが霊夢ちゃんの中で渦巻いているのかわからない……けれども私は止める!止めなくちゃ!!

 

 

 霊璃はもしもの時の為に自分のお祓い棒を持って来ていた。それを向けると霊夢の表情が強張る。

 

 

 「姉さん、やめておいた方がいいわ。わかっているでしょ?」

 

 「そんなことわかっているわ。私如きが霊夢ちゃんにどうあがいても勝てないことぐらいね」

 

 「やるだけ無駄よ」

 

 「でも……やめれない」

 

 「……どうして?これは博麗の巫女としての役目なの。真っ当な理由でこいつを退治するのよ」

 

 「それでも……よ。ねぇ霊夢ちゃん知ってるのね?ゆびきり(約束)を破ったら針千本飲まないといけないのよ。それってとても苦しいと思うし、痛いと感じるの……体だけじゃなく、心にも傷跡を残すことになっちゃうのよ」

 

 「……」

 

 

 それは望まぬ光景であった。お互いの心に宿るのは悲痛な感情が渦巻いているのだと思うが、霊夢は霊璃の言葉をジッと聞いている。

 

 

 「幻想郷は楽園よ。忘れ去られた者達の楽園……私達のような人間やはた迷惑な神様、悪戯好きな妖精達に人食い妖怪や無害な妖怪に至るまで誰もが生きていけるのに、この妖怪さんはどうしてダメなの?悪いことをした?」

 

 「ええ、こいつは()()……いえ、()()だったのよ」

 

 「でもそれなら知り合いにも……」

 

 「いるわね。でもね姉さん、()()()()()()になったことが問題なの」

 

 

 霊夢の言葉に霊璃は眉をひそめる。幻想郷では里の人間が妖怪になることは大罪であり、その罪をこの妖怪(元人間)は犯したのだ。

 

 

 「……そうだったの」

 

 「そうよ、私はその清算するだけだから姉さんは関わらなくていいわ。先に神社に帰って……」

 

 「嫌よ」

 

 「……」

 

 

 きっぱりと断った。そのことに霊夢は驚く様子を見せない……寧ろ答えがわかっていたようだった。

 

 

 「例えそうだったとしても……私は頷けない。この妖怪さんは大罪を犯したのでしょう。だけれども……人も妖怪にも危害を加えていないわ。それに妖怪さんは……悪い()じゃない」

 

 「……どうしても……やるの?」

 

 「私には引けない訳がある。霊夢ちゃんにも引けない訳がある。何を言われても私はうんと頷くことはない。ならば……やるしかないじゃない!」

 

 「……そう」

 

 

 霊夢はお祓い棒を霊璃に向ける。

 

 

 姉妹が対立する形となり、二人の心情を現すかのように暗雲が空に立ち込め大粒の雨が幻想郷に降り注ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもは仲良しの姉妹だと胸を張って言える……けれどもこうして姉妹喧嘩なんて初めてじゃないかな?

 

 

 ------------------

 

 

 「……はぁ……はぁ……やっぱり……勝てないや……」

 

 

 当然の結果と言える。汗水たらして膝をついているのは霊璃で呼吸が乱れており、喋るのもやっとのことだった。それに比べて霊夢はただ姉を見つめている彼女の額には一滴の汗すら浮かんでいなかった。

 最弱と最強のどちらが勝つかなんて決まっている。霊璃が負け、霊夢が勝つことなど初めからわかっていたことだった。霊力もほとんどなく、力もない。体力は霊璃の方が勝っていたが、それも同じ土俵に立てばの話だ。霊璃は空を飛ぶことなんてできず、弾幕も碌に撃てない性能に対し、霊夢は空を自由自在に飛び回り、弾幕や結界を扱うことが容易であった。

 

 

 「弾幕もダメ、空も飛ぶこともできない……はぁ……はぁ……体力だけは自信があったのにこの(てい)たらく……はぁ……情けないわね」

 

 「姉さん……」

 

 「どうあっても……霊夢ちゃんには勝てないのね……」

 

 

 何を勘違いしていたのかと霊璃は思った。これでは姉妹喧嘩以前の問題で、喧嘩にすらなっていなかった。覚悟を決めたつもりなのに霊璃は霊夢に手を出そうとすると力が緩んでしまった。妹を傷つけることなんて彼女にはできなかったのだ。覚悟を決めた……しかし結局はその覚悟も儚くも散る結果となった。霊璃は自分の弱さに情けなく感じつつ、限界だった肉体はぐらりと霊璃の体が雨で抜かるんだ地面へと倒れそうになる。咄嗟に近づく影があり、霊璃の体を支えたのは霊夢……ではなかった。

 

 

 「……妖怪……さん?」

 

 

 それは二人が対峙する原因の妖怪だった。

 

 

 「ありが……とう……ございます……妖怪さん」

 

 「う、うむ……無事ならばよい……ぞ?」

 

 

 へっぴり腰で情けない姿を晒していたのにも関わらず行動できたことが意外であり、一番驚愕していたのは本人である。自分自身でも何故動けたのか、咄嗟に動こうと思ったのかは本人にもわからない。しかし霊璃が雨で濡れ泥だらけの地面に倒れることがなく安心していたのは確かだ。二人の間に穏やかな空気が流れている。

 

 

 「ちょっと……姉さんから離れなさい

 

 「――ひっ!?」

 

 

 だがそんな空気を許さないと深淵から這い上がって来た鬼がいる。

 

 

 背にかけられた声に反応した妖怪は小さな悲鳴を上げて背筋が凍った。恐る恐る振り返れば光を失った瞳がそこにあり、妖怪を見下ろしていた。その視線に耐えられる訳もない妖怪はザっと残像が見えるほどの俊敏な動きでその場を霊夢に譲る。

 

 

 「姉さん……大丈夫?あいつに変なところ触られていない?」

 

 「え、ええ……あのね霊夢ちゃん……私……勝てなかった」

 

 「……」

 

 「でも……でもね!勝てなかったけれども妖怪さんだけは見逃してあげて!!その代わり私が罰を受けるからお願いよ!!」

 

 「……」

 

 

 何も言葉を返さぬ霊夢はただ姉の言葉を聞いていた。

 

 

 勝敗は既に決したにも関わらず霊璃は足掻いている姿はまさに滑稽で往生際が悪い。それでも霊璃はこの妖怪だけは救わなければいけないと決めている。幻想郷が理がなんだ、彼女は目の前の命も救えないなんて嫌だった。けれどもそれはこの妖怪に同情したからこんな感情を抱いてしまったのかもしれない。

 

 

 霊璃は甘く優し過ぎる。情に流され目先のことの方が最優先、後のことは後で考えるその場しのぎの欠点だらけの出来損ない、一つの異変もろくに解決できる力も持たないただの人間……それが博麗霊璃と言う人間だった。だからこそ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「もういい……もういいのだ小娘よ」

 

 「……妖怪さん?」

 

 

 必死に懇願する霊璃にため息を吐いた妖怪……その表情はどこか晴れ晴れとしていたのが不思議だった。それと同時に雨もピタリと止まり、ポツポツと雨粒が木々から滴り落ちる。

 

 

 「もういいのだ、見ず知らずの俺の為にここまでやってくれた。正直これほどのお人好しのバカに会ったのは初めてだったぞ?これで()()()でも笑い話には困らぬな、ハハハハハッ!!」

 

 「もしかして諦めたのかしら?」

 

 「それは違うぞ博麗の巫女よ。諦めたと言うわけではない、ただ……ただな、仲のいい姉妹が俺のせいで険悪な仲になるだなんてそんな後味の悪い幕引きは小説でも読者に受けやしないだろ?」

 

 「へぇ、あんた小説読むんだ」

 

 「ああ、特に最近読んだ推理小説が中々面白くてな……続きを読みたかったが叶わぬようだな。残念だよ」

 

 「……」

 

 

 いつか霊璃が持って来てくれた推理小説の続きを読みたいと思っていたが中々言い出せなかった妖怪が()()のように呟いた。

 

 

 ()()いや、()()になる。

 

 

 へっぴり腰のヘタレた妖怪はどこかへ消え失せ、ただ罰を受けるのを待っている人間のよう……霊璃はそんな男に声をかけようとするがそれよりも先に滴が落ちた。視界が揺らいだ……雨粒?違う。瞳から留めなく溢れる()()は彼女の頬を伝い一つ二つと地面を濡らし嗚咽が響く。

 

 

 「泣くな小娘、人間出会いがあれば別れは必ず来る。俺はお前に出会い、そして別れの時が来た……ただそれだけだ。だから……な」

 

 「……妖怪さん……!」

 

 「……小娘よ、俺()お前のことを忘れぬよ。例え()()()()()()()()()()()()()()()()()()……な!」

 

 「わ、わたし……も……妖怪さんのことを……忘れません!!」

 

 

 顔をぐちゃぐちゃにしながらもゆびきり(約束)する……そのゆびきり(約束)は永遠に果たされることなく散ってしまうなど霊璃は知らない。

 

 

 男は霊璃の涙を拭い、頭を撫でる。霊璃は抵抗することなくされるがままでしばらく撫でられていたが、やがて離れていく。彼女はそんな彼の背を見つめることしかできなかった。そして男に対して驚いた表情をしていた霊夢へと歩み寄る。

 

 

 「博麗の巫女よ……後は……頼めるな?

 

 「あんた……いいのね?

 

 「ああ……それで答えはどうなんだ?

 

 「癪だけど頼まれてあげるわよ、私の姉さんだからね

 

 「良い姉を持ったな

 

 「自慢の姉さんよ、誰にも渡したくない家族

 

 「博麗の巫女は平然と妖怪を退治する恐ろしい生き物だと思っていたが……意外な面を見たぞ?

 

 「お褒めの言葉と受けとっておくわ。それと……本当にいいの?そうしたら姉さんはあんたを忘れ……

 

 「博麗の巫女よ」

 

 

 男が会話を遮る。その時の男は今までに見せたことのない真剣な眼差して霊夢を見つめている。

 

 

 「……そっちの方が小娘にとって幸せ……だろ?

 

 「……わかったわ

 

 

 二人の間で何かのやり取りがあったようだが小声は霊璃の耳に届かなかった……否、届いてはいけない。事の真意を理解してしまえば彼女は無理にでも引き止めるだろう。そんなことをしてはいけない……別れなければならないからだ。

 

 

 そして時は来た。

 

 

 霊夢はお祓い棒ではなくお札を取り出した。それは情けの表れか同情かはわからない。ただ霊夢は淡々と取り出したお札を数枚投げつけると男を囲い周りだす。規則正しく乱れがないお札は徐々に霊力が膨れていき、男の足元に印が浮かび上がる。そして霊夢の手が印へ触れるとそこから天へと上る光が現れ男を包み込んでいく。

 男は背後がどうしても気になり振り返ればそこにはぐちゃぐちゃ顔の霊璃が見つめている。その胸には悲しみと後悔が渦巻いているのが見てわかった。このままでは罪悪感で押しつぶされてしまいそうな危機感すら感じさせる。そんな彼女に男は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ありがとう……さらばだ……小娘()よ」

 

 

 男は笑顔で逝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……姉さん」

 

 「……ぐすっ……霊夢ちゃん……は巫女としての仕事を……ぐすっ……したまでだから……霊夢ちゃんを……恨んだり……しないから……」

 

 「……わかった。姉さん……帰ろ?」

 

 「……ぐすっ……うん……」

 

 

 霊夢に肩を貸されて立ち上がるが、足に力が入らない。十分休む時間はあったはずなのに力が入らないのはきっと悲しみや後悔が体を支配しているからだ。それほど霊璃にとって短い間であったが、共に時間を過ごした友人を失った負担は大きかった。歩いて帰るのは無理だと判断した霊夢は霊璃を背負う。重さでは霊璃の方が重いはずなのにとても軽く感じた。霊夢は思う……今の彼女はあの日の霊璃によく似ていると。

 

 

 「(母さんが死んだ……あの日の姉さんにそっくり……)」

 

 

 霊夢にも強く焼き付いている思い出……母親を失ったあの日のことを今でも思い出せる。あの時の姉が背にあった。

 

 

 「……ねぇ霊夢ちゃん……」

 

 「……なに?」

 

 「私ね……妖怪さんのこと……絶対忘れないから……」

 

 「……」

 

 

 絶対に忘れるものかと妹の巫女装束を強く握りしめる霊璃。けれど霊夢は知っている。その想いも()()()()ことになるのだから……霊夢は何も返すことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、霊夢は人里のとある人物を訪れた。その建造物にはこう書かれていた。

 

 

 『寺子屋』

 

 

 戸を叩き、中から出て来た人物に何かを霊夢は伝える。そしてその人物は霊夢の申し出を引き受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ごちそうさまでした。さてと……」

 

 「あう?霊璃さん残したおにぎりを持ってどこへ行くつもりですか?」

 

 「どこへって……あれ?どこ行こうとしていたんだっけ?」

 

 「霊璃さんもしかして……ボケましたか?」

 

 「ええ!?あうんちゃん、私まだそんな歳じゃないよ!ねぇ霊夢ちゃん、私はまだボケてないよね!?」

 

 「……」

 

 「……霊夢ちゃん?」

 

 「どうしたんですか霊夢さん?」

 

 「いえ、なんでもないわ。それよりも早く食器を片づけて境内の掃除をするわよ」

 

 「「はーい」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あれ?何か大切なことを忘れているような……う~ん……まぁいいかな」

 

 

 知らないことが良いこともあるように、忘れた方が良いこともある。一人の男の願いにより、博麗の巫女は動かされた。大好きな姉が壊れぬように、最愛の姉を悲しませないように……

 

 

 「姉さん……ごめんなさい

 

 

 妹は胸の奥底へと真実を仕舞い込み、姉の背に届かぬ言葉を送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人の男が霊璃の記憶の中から消えた。

 

 

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