それでは……
本編どうぞ!
「お待たせしました」
軽い音を立てお皿が目の前に置かれる。お皿には八目鰻がこんがりと焼かれて油とタレが混じり香ばしい匂いを漂わせて喉から手が出る程に美味しそうで実際に食べてみれば美味い。ここの店主であるミスティア・ローレライの出す八目鰻は最高の一品で、彼女も幼い容姿ながら屋台に立てば女将に早変わり、その雰囲気だけで酔ってしまいそうなほどに可憐であった。更にそこに熱燗を加えれば文句なしの100点満点であろう。
「んっ」
「あっ、ありがとうございます」
女将からぶっきらぼうに酒を受け取り、隣の客に手渡したのは藤原妹紅だ。彼女はここの常連で今日もここで飲んでいたところにやって来たのは博麗家の長女である博麗霊璃だった。妹紅と霊璃はひみつの共有者、あの日から度々ここを訪れ、こうして永遠亭への案内の感謝と心休めるくつろぎの場所となっていた。
「ふふ、お二人は仲がよろしいのですね?」
「別に、仲良くなったつもりはない」
「えっ?そう……なんですか……あはは……妹紅さんに嫌われていたのね……」
「……別に、嫌いじゃない」
「妹紅さん!!」
「触るな暑苦しい」
「ふふっ♪」
不器用な妹紅とネガティブ思考な霊璃とがこうして飲み交わしている光景は見慣れたものだ。口数も少ないが霊璃のネガティブな考えを不器用にもフォローする妹紅とは相性が良さげに見えた。
妹紅は酒と八目鰻、霊璃は酒にめっぽう弱いが、こういう場ではどうしても飲みたくなるのはお決まり事。コップ一杯の酒をゆっくりと味わいながら自身のペースで飲みながら雰囲気を楽しむ。ミスティアも頬をほころばせる二人を見ていると自然と笑みが浮かび上がる。
「お邪魔するわよ」
「いらっしゃいま……あっ!?」
しかしその楽しみもとある人物の登場によって終わってしまう。
「妹紅来て上げたわ」
「……輝夜か」
輝夜と呼ばれた女性の登場でただならぬ雰囲気が屋台を包み込んだ。
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いい気分で飲んでいた私と妹紅さんの前に現れたのは美しいお姫様だった。名前は蓬莱山輝夜と言って本物の月のお姫様みたい……って言うか本物のお姫様である。紫さんが私を足手まといと言ったあの時の異変時に霊夢ちゃんと知り合うことになって、永遠亭へと通うきっかけになった事件の主人。そして妹紅さんとは因縁の相手みたいだけど……私はこの人が苦手だ。永遠亭にお世話になっている身でもあるけど苦手なの。なんて言うか……見透かされていると言うか嘘はつけないような何とも言い表しにくい人なの。
輝夜さんはとても美しい人……「和」そのものの美を形にした女性でしかも本物の姫様なんだから全て私の上をいく。私自体大したことないから比べるのもおかしいことなんだけれど……見惚れそうになってしまう。隣に座っている妹紅さんは対照的に敵意むき出しにして睨みつけている。二人の間に何があったんだろう?
「何しに来やがった」
「私お腹が空いたのよ。いつも家で食べるのは飽きちゃったから庶民の味を楽しみたいと思ったのよ」
「ケッ!勝手に食ってろ!!」
そう妹紅は吐き捨てると残った酒を飲み干して八目鰻を口に放り込む。荒々しく席を立ち、勘定を済ませそのまま店を出て行ってしまった。霊璃を置いて……
「……あれ?」
ちょっと妹紅さん私を忘れていませんか!!?折角いい雰囲気での食事にありつけていたのにどうしてこうなったの!!?
急に不機嫌になった妹紅は霊璃を忘れてしまった。
「あら、いつも私のことを避けている巫女さんじゃない」
「ええっ!?あ、いや、その……」
「隣いいかしら?」
「えっ?あ、はい……どうぞ」
取り残された彼女は逃れる術を失った。輝夜が隣に座り、いくつか注文する。注文の料理が出されるまでの間ずっと霊璃のことを見つめており、静かな空間に異質な空気が漂う。
えっ?なんで輝夜さん私をジッと見てるの?私がずっと輝夜さんのこと避けていたから?それか私のことが気に入らないから無言の圧力でもかけているの?わからない……だからそんなに見つめて来ないでください!
ドキドキが止まらなかった。美を象徴としているかのような人物である輝夜にジッと見つめられている霊璃は同姓であっても心臓が高まるのを感じる。苦手意識があろうとも魔性の力があるのか魅入られてしまっていた。
「……ねぇ?」
「は、はい!?」
「そう緊張しないでもらえる?あなたに聞きたいことがあるのよ」
「聞きたいこと……ですか?」
「避けているのは……私のことが嫌いってことでいいのね?」
「えっ!?あ、あの、その違う……えっと……そ、その……」
品定めするかのような視線が突き刺さる。本人に自分のことは嫌いかと聞かれてあたふたしてしまう。霊璃自身は輝夜のことを嫌ってはいないが、苦手意識があるのは確かである。相手に納得できる理由でなければただ怒りを買うだけの刃物となる。言葉を選ぼうにも緊張と重圧で言葉にしようとしても言葉が上手くみつからない。重くなりつつある空気に店主のミスティアまでも緊張してしまう。
あわわわわっ!!?ど、どうしてそんなことを聞いて来るの!!?嫌いではないし、好きでもないし……それに輝夜さんのこと何にも知らないからどう言ったらいいの!!?
「クスッ♪」
「ふぇ?」
品定めしていたであろう視線が急に緩くなり、輝夜は笑った。突如のことに呆気に取られてしまう。
「ごめんなさい、あなたがどういう反応を示すのか見たかったから……遊んじゃった♪」
「あっ、は、はぁ……」
「あなたが私を避けているのは苦手意識があったから……そうでしょ?こう見えても長生きして来たのよ。あなたの行動を見ていたらわかるわ」
「え、えっと……ちなみにどれほど長生き何でしょうか?」
「ふふっ、女性に歳を聞くのは御法度よ?」
「す、すみませんでした!」
「もう緊張し過ぎよ、肩の力を抜きなさい。そうじゃないとこれからの人生に苦労するわよ」
「は、はぁ……」
「さぁ、まだ夜が明けるのは先よ。今日は私に付き合ってもらうからね」
「あはは……」
それからは色々と聞かれた。けれど意外とまともな会話をしていたと思う……日頃何をしているのか、どんな食べ物が好き、妹の霊夢のことが可愛いかとか聞かれたわね。勿論可愛いって答えたわ。霊夢ちゃんが可愛くないだなんてあり得ない。他人に対してはツンとしているけど、時より見せるあの笑顔……私には勿体ない位にデキた妹のことを途中から私が酔った勢いで自慢話のように語っていたみたい。女将さんも輝夜さんも気がつけばクスクス笑っていた……恥ずかしい。それから羞恥心と落ち着きを取り戻す為にお酒に頼った。女将さんから止めといた方がいいと言われた気がしたが、勢いのついた私は止まらなかった。お酒は苦手なのに煽るように飲んだ結果が……
「ずみまぜん……」
「いいのよ、私は止めなかったのだから」
輝夜さんに背をわれて、獣道を行く。輝夜さんは意外と力持ちだと気づいた。妹紅さんにいつも案内されていた人里を通らぬルートで博麗神社へと向かっている……永遠亭とは正反対の方向へと進む度に申し訳ない気持ちが私を支配した。お酒の飲み過ぎで気分も悪く下手をしたら……これ以上はよそう。輝夜さんに迷惑をかけてしまったら永遠亭へ出禁をくらってしまうかもしれない。
「あの……輝夜さん……ここまででいいので、後は歩いて帰ります」
「何を言っているのよ。酔っ払った女の子を放って置く程の畜生じゃないわよ私?」
「ですが……」
「いい?霊璃」
輝夜さんの優しさに甘えようとせず引き下がらなかった私に対して、輝夜さんの声の質が低くなった。その変化に体が自然と硬直した。
「生きることは辛いことよ。でも良いことだってある。寧ろ辛いことの方が多いかもしれないわね……あなたの場合は。今までそうだったんでしょ?」
「……なんのことですか……?」
「とぼける気?長い年月生きている私には筒抜けよ?」
「……だから、何をですか……っ!」
嫌な予感がした。博麗家の勘と言うものだろうかわからないが、霊璃の全身から汗が流れているような錯覚が引き起こされ、心臓が急に高鳴りだした。予感が違うと否定するかのように輝夜に対して口調が荒くなってしまう。そしてその予感は……的中してしまう。
「優秀な妹に劣等感を感じ、人里ではあなたが今までの異変を
「――ッ!!?」
一気に酔いが醒めた。これは妹紅と霊璃のひみつだったはずなのに何故この人が!?霊璃は気が動転した。気分が急に酷くなり胃の中が湧き上がる感触が伝わって咄嗟に口を押さえこんだ。
「――うぅ!!?」
だが、我慢が限界に達しそうになった。その時、自身が持てる力をめいいっぱい使って輝夜の背を突き飛ばす。幸いなことにこれで彼女に被害は及ばなくなった。安心したのも束の間、その際に地面へ落下した衝撃で胃に負担がかかり霊璃はみっともない姿を見せることになってしまった。汚い音を立てながら
霊璃は死にたいと思った。人前でこんな姿を晒し、挙句ひみつがバレていたなんて……彼女の精神はズタボロの状態だった。
「ゲホゲホ……おえっ!!」
先ほどまで楽しかった談笑の思い出など綺麗事になっただろう。その最中味わった食事もお酒も今や醜い汚物となって眼下に広がっていたのだから。
「大丈夫!?」
「ゲホ……近づか……近づかないでください。汚いから……」
「何言っているのよ。そんな状態のあなたを置いておけないわ。ちょっとジッとしていなさい」
服まで汚れてしまった霊璃、飛び散った
「な、なにしているんですか!?」
「見てわからない?汚いから綺麗にしているのよ」
「でもそれだと輝夜さんが……!」
「霊璃」
この行動には驚かされた。慌てて止めようとしても彼女はまるで耳を貸さなかった……寧ろ霊璃をジッと見つめている。その眼力から放たれる威圧と呼べばいいか、霊璃は言葉を紡ぐことができなくなってしまった。
「ここは私に任せて頂戴。いいわね?」
「――ッ!!」
首を縦に振ることしかできず、されるがままの時間……数分はたまたどれほど経ったかわからないが、一通り霊璃は綺麗になったと言えるだろう……だが、代わりに輝夜を汚してしまった。
折角汚さないように逃れたのに……これじゃ意味がないじゃない。どうして私にそこまで気を使うの……?
霊璃にはわからなかった。苦手意識があると言う理由で避けていたのに輝夜の方から色々と寄って来る。今もこうして嫌がらずに後始末の処理をしてくれたことに違和感を感じていた。そして同時にあの時の光景と重なった。
人里での霊璃のひみつ……純粋な悪意がない視線、期待、尊敬に恐怖し、耐えられず全てを吐き出したあの日、妹紅と偶然出会うきっかけとなったあの場所が見えた。妹紅がそこに居るかのように……だからこそ霊璃は。
「妹紅さんと似ている……」
呟きは輝夜に聞こえたのだろう。先ほど店で見せた妹紅の態度から仲が悪いと予想される。輝夜がもし自分と妹紅が似ていると言われたら嫌であろうと既に呟いた言葉を後悔したが……輝夜は笑顔になっていた。
「ふふっ、私と妹紅が似ているって?そうなの……」
「……嫌じゃないんですか?」
自分でも何を言っているのだろうと思ったけれども、私は気になった。妹紅さんと一体何があったのか……そしてなんで毛嫌いされているのかを。
「別に、私と妹紅は同族嫌悪みたいな関係なの。……昔に色々とあってね」
「お二人の間に何があったのですか?輝夜さんは妹紅さんにどうして敵視されているのですか?」
「うん?聞きたい?そうね……それじゃあ……」
「内緒よ♪」
「……えっ?!」
てっきり今の反応だと語ってくれると思ったのに……揶揄っているの?
霊璃は面食らってしまう。お茶目な顔でお預けを言い渡されてしまった。
「ふふ、他人の昔ばなしを聞くにはちょっと好感度が足りないわね」
「え、ええっと……」
「どうしても知りたければ……私と友達になりましょ?」
「……えっ!?」
またもや面食らってしまった。一体輝夜は何がしたいのだと言う疑問で困惑する状況に陥っていた。
「知りたくないのかしら?」
「知りたいですけれども……輝夜さんの服を汚したり、私は噓つきです。そんな私と友達になって嘘がバレた時……永遠亭の方々の信頼性を失うことになるかもしれません。迷惑をかけてしまいます」
「あら、妹紅は良くて私はダメなの?差別?そこまで私が嫌い?あなたの介護をしてあげたのに?」
「い、いや……そ、その……」
次々に押されどう返すべきかわからず慌てふためく霊璃に輝夜は言った。
「あなたが私のことをどう思おうと構わないわ。苦手意識があるのは相性の問題だし、あなたが嫌だと断言するなら私はこれからあなたに関わらないわ。でもね、これだけは言っておくわよ」
「例えあなたが噓つきでも
「あっ……!」
似ている……あの時の妹紅さんと!
苦手意識はある。しかしそれで彼女のことを知ろうとしなかった。彼女はこんなに優しい人なのに……自分が恥ずかしくなった。でも、まだ間に合う。
「あの……輝夜さん!」
「ん?なにかしら?」
「……これからは、よろしくお願いいたします」
「ええ、こちらこそよろしくね霊璃」
ひみつの共有者がまたここに生まれた。都合の悪い嘘、罪悪感の塊に過ぎなかったひみつが、縁となり結びついた。先ほどまでの苦手意識も今は身を潜め、竹林に浮かぶ夜空がただの友人としての二人を見守っていた。
「……帰る前に何とかしなくちゃね。これ」
「そ、そうですね……すみません……」
なんでも偶然迷いの竹林に住む狼さんと出会い、そのままお宅にお邪魔して(強制)着替えを貸して(強制)もらったとか。
「……本当にすみませんでした」
狼さんに頭を何度も下げる巫女が居た。