博麗家の姉として   作:てへぺろん

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ちょっとした救いを彼女に。


それでは……


本編どうぞ!




ひみつの共有

 「ありがとうございました永琳さん」

 

 「患者の容体を定期的に見るの仕事だから気にしないで頂戴」

 

 

 この人は八意永琳さん、凄腕の薬師の方なんだけれども医者としても怪我人や病人を分け隔てなく診察してくれる。永琳さんと知り合うきっかけが生まれたのは妹とのんびりと美しい月を眺めてお月見していた時、いきなり紫さんが現れた……月を背に微笑む紫さんはいつにも増して綺麗に見えて頬けていたところお尻を妹につねられた。不機嫌な視線で私を見つめてくる妹は何がしたかったのだろう?と疑問に思ったが、紫さんが異変だと教えてくれた。折角のお月見が台無しだなと感じたけれども、あの時の月そのものが異変だった。初めは理解できずにいた私と薄々教えられる前から偽物だと気づいていた妹……それなら教えてくれてもよかったのにと思っていたわね。早速異変解決に向かおうとした……でも紫さんはそんな私を止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あなたが居れば霊夢の足手まといよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……紫さんにハッキリと言われた。今回の異変は時間が惜しいみたいで、そこに私が介入すれば妹の邪魔をするだけ……事実であるから何も反論できない。わかっていたことだけれども直接言われるとやっぱり心に来るものがある……けれども受け入れるしかない。

 

 

 空を飛ぶことができない私は自身の足で異変の元へとかけていく。他の皆は空を自由に飛べて障害物なんて関係なく一直線に向かうことができるし、弾幕の撃てない私に攻撃手段はあるにはあるが……でもそれは今の幻想郷の在り方とかけ離れたものとなる。暴力で解決だなんて少し前ならば多少有効であっただろう……私だってその当時はお祓い棒を振り回していたんだから。でも結局は私が無能だから何の成果も出せなかった……だからと言って何もしない訳にはいかない。霊夢ちゃんが頑張って私が楽をしていたのでは申し訳が立たない。でも暴力は振るいたくないし、妖怪相手に勝てる気がしない……だから私は話し合いでことを収めてくれないか交渉する。そのほとんどが受け入れて貰えないのだけどね。

 どちらにしても私のやり方では時間がかかり過ぎるし、効率が悪すぎる。それに付き合ってくれていた妹の優しさに甘えていたみたい……紫さんの言葉に含まれた意味がよくわかった。

 

 

 私は受け入れた。でも妹は受け入れていなかった……不機嫌さが増しているのが表情に出ていて紫さんを睨んでいたし、言葉も棘のある言い方だった。でも紫さんが悪いわけじゃない、悪いのは私で霊夢ちゃんの足手まといになるのは嫌だから今回は家で大人しくしていることを伝えると渋々了承してくれていたっけ。あの後、紫さんと霊夢ちゃんが一緒に異変解決に向かった時は心配だった……お互いにギスギスした空気の中で協力できるのかなと思っていた。結果は無事に帰って来てくれて良かったけれども、既に帰ったであろう紫さんのことを聞いても「知らない」で口を閉ざすのだから大体想像がついた。

 それで翌日、私は霊夢ちゃんに手を引かれ、人里から迷いの竹林の案内人……その人とは実は前から知り合いでまさか竹林の案内人であったことは知らなかったから驚いた。それでその人に案内されて竹林を抜けた先にある『永遠亭』なる建物へと連れて来られた。こんな竹林の奥深くに立派な建物があるだなんて誰が気づくのか。ともあれ事前に何も聞かされずに連れて来られたものだから戸惑った私を出迎えたのがこの永琳さんだった。

 

 

 永琳さんの腕前は薬だけでなく医療全般に万能らしく、ある程度のことなら治せるそうだ。そのことを異変を通じて知った妹が勝者の特権として無料で私の体を定期的に診察してもらうことを約束をしたのだとか……そのことを言わなかったのは恥ずかしかったからだろう。そっぽを向いて私の視線から逃れるように中へ勝手に入って行ってしまったのだから……

 

 

 「ありがとう」と感謝を伝えたのは結局帰ってからになってしまった。

 

 

 そのような経緯があって度々永遠亭を訪れている。

 

 

 「あなたの体を何度か見たけど無茶をしていたのね。骨格が変形している箇所もあって下手に触ると神経などの関係で新しく問題が生まれるかもしれないのよね。もっと早く出会えていたら難なく治療できたでしょうけど、今となっては……ね……」

 

 「構いません、もうこの体に慣れましたから。治そうと見てくださってこうして定期的に診察してくれますし、私のために時間を割いてくださっているのですから永琳さんには感謝してもしきれません」

 

 

 体を晒すこと初めは躊躇した。けれども永琳さんは約束で診察しないといけないから渋々巫女装束を脱いだ私の体を見て眉を顰めたのを見逃さなかった。不憫だと思ったのか、それとも哀れんだのか本人には聞かなかったけれども見ていていいものではないだろう。傷だらけで骨が陥没し骨格が変形している(いびつ)な肉体、女性としては美しいとは感じさせない寧ろ不快感を覚える。永琳さんもそう思ったのかも知れないけど口に出さないことが優しさだと感じられた。

 

 

 私の体は既にこの状態が()()となり、当たり前な体となっていたから永琳さんの腕なら治せないことはない。けれども私は断らせてもらう。霊夢ちゃんはこの体に罪悪感を感じてしまっているため、素肌を晒さないのは妹に辛い思いさせたくないから。でもこの肉体は私の証でもあるの。母様が亡くなり、望まぬ形で博麗の巫女となって母様と妹を繋ぐために私がいた。

 私は()()()で母様の意思を継ぐには器が足りなかった出来損ない、そんな私でも我が儘を言いたかった……

 

 

 弱い私でも……巫女に相応しくなくても……母様の……()()()()()()()()()()になりたかった。

 

 

 この体の無数の傷と歪みの痕は母様の意思を継いでいるのだと形だけでも感じたかった……

 

 

 だから霊夢ちゃんには悪いけれども、手術しようとかどうこうしようとかは思わない。霊夢ちゃんにそのことを伝えると了承してくれた。診察は定期的に受けることを条件にだったけれど。

 

 

 肉体に刻まれた一つ一つの痕は弱い私自身に向けた罪の証でもあり、母様を継ぐことができなかった私の憧れでもあるのだから……この肉体こそが我が儘の証明であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 診察が終わって博麗神社に帰るためにはこの迷いの竹林を抜け出ないといけない。しかし名前通り一度入ってしまったら滅多に抜け出すことができない程に迷いやすい。同じように見える辺り一面竹だらけ、方向も見失えばわからなくなる。それが永遠亭まで入り組んで組み上がったのがこの竹林、私一人では確実に迷ってしまいそのうち餓死してしまうのがオチ。そこでいつも案内役として見た目は不良っぽい人を改め藤原妹紅さんに付き添ってもらっている。妹紅さんはこう見えてお強いらしく妖怪を退治していたこともあるみたいで頼もしい。ぶっきらぼうだけれども落とし穴に落ちた時とか心配してくれる辺り根はいい人のようだ。

 

 

 「……それで、無事に異変解決できたのかよ?」

 

 「はい、ほとんど妹とその友人の皆がでしたけど」

 

 「ふん、お前じゃ無理だとわかりきっている。()()で解決できたことなんてないだろうがよ」

 

 

 意外と妹紅さんは私が黙っていると喋りかけてくれる。元々それほど話すのが好きではない人みたいだが、気遣ってくれているのだろうか?でも途中で変に会話が途切れたりすることもしばしばあるから気まずくなる。でも今回はそうはいかないようだ……

 妹紅さんは真実を知っている。私が人里で博麗の巫女として認知されているのは藍さんや紫さんの手助けがあったからであり、()()で解決したわけではない。人里でその事実を知っているのは少数で、大半の人達は私が自分の力だけで解決したと思っている。そして私はその()を真実と偽って振舞っている……嘘つきだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「()()巫女様だ!」

 

 「()()()()()()()()んだな!」

 

 「姉妹揃って()()()わ!」

 

 「「「みこさまは()()()んだね!」」」

 

 

 ……褒められて罪悪感に押しつぶされそうになったことなんてある?私はある……ある日、人里に買い物するために立ち寄った時のことだ。

 力持ちのお兄さん、居酒屋の亭主さん、仕立て屋の女将、寺子屋の子供たち……私を取り囲んで純粋な感想を思い思いに伝えて来る。何の悪意のない褒め称える言葉が毒針のように心臓に深く突き刺さり猛毒を注入していく。言葉を聞いているだけで気分が悪くなっていく。私は断ってその場を速やかに逃れ裏路地に入って……

 

 

 胃の中の物を全部吐きだした。

 

 

 汚い音を立てながら吐瀉物(としゃぶつ)が地面を汚す。全て吐き出した後はしばらく放心状態が続いていた。汚れた地面を視界に入れているとまるで自分の内面を映している鏡に見えてしまった。

 

 

 人里へは用のない時は行かない……行きたくない。

 

 

 怖い……純粋な悪意がない視線、期待、尊敬……それらがあそこに詰まっている。

 

 

 嘘だと今更真実を語るのが恐ろしい……軽蔑する視線、噓つき、失望……それらに変化してしまうことが。

 

 

 だから必要最低限でしか立ち寄らない。本来ならば案内役の妹紅さんに人里へと連れて行かれるのだけれど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ほら、博麗神社への道だ。後はわかるだろ」

 

 

 見慣れた道……妹紅さんはわざわざ博麗神社への道まで送ってくれる。人里を経由せずに少し離れた獣道も通って案内してくれるのだ。

 

 

 「ありがとうございました妹紅さん!」

 

 「……じゃあな」

 

 

 さっさと背を向けて来た道を戻って行く。姿が見えなくなるまで見送るのは感謝の証だ。

 

 

 私は妹紅さんと話をするのは苦ではない。この人は私の真実を知っているから……出会いは偶然だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吐瀉物(としゃぶつ)を処理していた時に運悪く遭遇したことが出会いだ。なんとも最悪なタイミングだと思ったけれども今思うと幸運だった。

 こんなところを見られて動揺してしまう私だったが、何も言わずに妹紅さんはその場を去った。嫌なものを見せて耐えられなくなったのだろうとその時は思ってしまって、去ったのだと認識していた。当然こうなったのは私のせいだから甘んじて受け入れたが、少しして戻って来たその手には水の入ったバケツとモップが握られていた。唖然とする私を尻目に何も言わずに吐瀉物(としゃぶつ)を処理し始めた。お互いにその時は何も語らずに後始末を済ませて別れた。

 

 

 でもそれではいけないと思い、妹紅さんだと当時知らなかった私は探し見つけることができた。

 

 

 竹林近くで妖怪が店を開く。そこに度々現れる……妖怪が店をやっているのかと半信半疑ながらもその場を訪れた。時刻は夜、もし妖怪に牙を向かれたら終わりで内心ビクビクしていたのをよく憶えている。そしてあの背中を見つけることができ、声をかけた。妹紅さんはそこの常連だった。そこでちゃんとしたお礼と名前を伝えることができたし、妹紅さんも名前を教えてくれた。どうして何も聞かずに手伝ったのかと聞くと……

 

 

 「……気分だ」

 

 

 それだけだった。それでもあの時はそれで良かったのだと思う。口を開ければいいと言うことは決してないのだから。

 

 

 お礼としてお酒と酌をしたいと伝えるとぶっきらぼうに返事をして次から次へと追加で注文していく様に少々焦った私がいた。そして妖怪の女将……名はミスティア・ローレライさんに勧められて私もお酒を飲んだ。妖怪にしては愛想も良くて心から安堵できたことですぐにお酒が回ってしまい、足取りもおぼつかない私を妹紅さんが背負って博麗神社へと続く道まで送ってもらっている途中に私はこぼしてしまった。

 

 

 私が()()で異変を解決したことなんてない……お酒の力で思考も低下して、お口が軽くなってしまったことで暴露してしまったみたいで妹紅さんにばれてしまった。私は血の気が引いた。背負われているから視線が合わさることはないが、急に怖くなって逃げ出したいと思ったけれどもお酒に酔っている体ではまともに動けない。その拍子にバランスを崩して二人で倒れ込んでしまった。

 

 

 もうお終い……かと思った。

 

 

 妹紅さんは軽く服についた砂を払うと何も言わずに向こうを指さした。その指さした先には石階段が見え、更にその先には鳥居が見えて博麗神社は目と鼻の先であることを理解する。私が理解したのを見届けると妹紅さんはそのまま去って行こうとした。当然私は引き止めた。「どうして?」ときっと無意識に聞いたのであろう……

 

 

 「知らん、私には関係ないことだ」

 

 

 ぶっきらぼうな態度がその時の私を救ってくれた。人里の噂の中では妹紅さんは化け物なんだとか……でも私には関係ないことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妹紅さんは妹紅さんだから。私にとっては絡みやすい相手、私の罪を知る一人……だから話をするのも苦でないし、気軽に話ができる……会話が続かずに気まずくなることはあるけれども。

 ちょっとこの日の私は気分が楽だったのだと思う。まだ酔いの冷めない状態で博麗神社へと帰った私を見て妹は……

 

 

 「姉さん……なにか良いことでもあったの?」

 

 

 不思議がっていた。その時の私は笑顔だったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ただいま、診察受けてきたわよ」

 

 「おかえり姉さん……どうしたの?なにか良いことでもあった?」

 

 「ん?う~ん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ちょっと思い出しただけよ」

 

 

 ……ちょっぴりこの世界が好きになったような気がした。

 

 

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