博麗家の姉として   作:てへぺろん

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男キャラ登場……まさかのあの人物です。


それでは……


本編どうぞ!




名乗らぬ巫女と名乗らぬ妖怪その壱

 「はい、これおにぎりです。あまりおいしくないですけど……」

 

 「い、いや……食べ物を提供してくれるだけで助かる」

 

 「そう……ですか。それは……よかったです」

 

 

 ここは博麗神社の裏手から少し離れた場所にある洞窟内部に簡易に取り揃えられた傷んだ机と布を何枚も敷いただけの寝床という殺風景な空間に巫女装束の少女と袴の上に大きな襟を立てた外套を羽織り、頭には宗匠頭巾の男性……にしては異常だった。眼窩は落ち(くぼ)み、口は大きく裂け、耳は尖っていた。明らかに人間でない……空気が重苦しいと感じられる。お互いに会話も弾まず落ち着きがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……あの……水もありますのでよかったら……」

 

 「す、すまない……」

 

 

 そっと水の入った竹水筒を差し出すとぎこちなくそれを受け取った。だが受け取った側の男性は今だおにぎりにも竹水筒にも口を付けていない。警戒している……巫女装束の少女こと霊璃は自分が居れば気が気ではないのだろうと思い不安は残るが帰ることにする。

 

 

 「……それじゃ私は神社に帰りますので……何かあっても多分来れないと思いますので、ここに予備の水も置いておきますね」

 

 「う、うむ……た、たすかったぞ」

 

 

 洞窟から抜け出た霊璃は重苦しい空間に居たからか酸欠状態のようになっていた。深呼吸を何度も繰り返してようやく肺が正常にリズムを刻み込む。

 

 

 道端で人が倒れていたと思ったら人じゃなかった。妖怪(?)さんが倒れていた。私は初めは警戒したけど、苦しそうなうめき声をあげていたその妖怪さんを放っておけなかった。博麗神社へ連れて帰ろうとしたけど、その妖怪さんが何やら「みこ……こわい」と呟いていたから思いとどまった。帰ったら妹がいる……何かこの妖怪さんとトラブルでもあったのだろうか?考えていても仕方ないから私は妹に見つからないように博麗神社の裏手側、あそこなら妹も私も滅多に行かないから隠れるのに丁度いいと思った。どうして隠れなきゃいけないのか……この妖怪さんを見ていると何となくそう思っただけ。深い理由はなかった……もし理由があるとするならば「見捨てておけなかった」が理由になるのかな?

 それでとりあえず洞窟に連れてきたのはいいけれども、妖怪さんはまだ目が覚めない。でも硬い石の上に寝かせておくのも可哀想だったから一度博麗神社へとコッソリと帰って見つからないように倉庫から使わなくなっていた古い机と布を数枚拝借し戻った。すると妖怪さんが丁度目を覚ましたところだった……恐ろしい妖怪ではありませんようにと我ながら情けないことを願いながらから恐る恐る挨拶すると悲鳴をあげられた。

 

 

 何度も「みここわい!!!」と怯えてガタガタと震える姿にこの妖怪さんを恐ろしいと思えとは思えなくなっていた私だ。なんとか語り掛けて落ち着きを取り戻したら妖怪さんが恥ずかしがっていた。うん……怯えている姿を人に見せてしまったのは恥ずかしいわよね。でも怖いものは怖いのだから怯えても仕方ないじゃないですか?っと伝えたら気持ちを持ち直してくれた。

 どうしてあんなところで倒れていたのかと聞いても本人もわからないみたいだった。なんでも巫女に退治されて消滅したはずなのに何故かここにいたのはどうしてか?と逆に質問された。けれども私にもわからない……結果お互いにもわからなくてちょっと笑ってしまった。でも笑ったら妖怪さんが怖がっていた……そう言えば私も()()だったわね。巫女事態にトラウマを持っているみたいでちょっと可哀想だった。

 

 

 お互いに名前は語っていない……この妖怪さんは事情があるようで、もしかしたら妹と何か関りがあるのかもしれない。だから私と妖怪さんは自分のことを語らないことにした。知れば知るほど逃れられない運命が待っているかもしれないから……

 ともあれ、妖怪さんだってお腹は減る。立派な音を立てて腹が減ったぞ!と抗議の主張し、妖怪さんはまた恥ずかしがっていた。そんな妖怪さんのために私が作る美味しいとは言えないおにぎりと安心と信頼のただの水を密かに持って差し入れてあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ただいま……霊夢ちゃん?」

 

 「……姉さん」

 

 「な、なに……?」

 

 「お米と水をどこへ持って行ったの?」

 

 「――ッ!!?」

 

 

 心臓が飛び出そうになった。何食わぬ顔で帰ったつもりだったけど、妹にはバレていた。

 

 

 ジト目でこっちの様子を窺う妹……どうしよう……素直に事情を説明する?でもあの妖怪さんは巫女が怖いようで、トラウマを刺激したくない。それにもし霊夢ちゃんと関連がある妖怪さんだったら……もしも妖怪さんを消滅させたのが霊夢ちゃんだったなら……

 

 

 「……姉さん?」

 

 「野良猫たちにあげていたのよ。時々この辺に迷い込んでお腹を空かせていたみたいだったから餌をあげてあげたのよ」

 

 「猫ね……」

 

 

 私は知っているのよ……妹が猫好きなのをね。可愛い猫に対して優しさでお米と水を使用したのならば文句は言わないはず……言わないよね?言わないでよ!?

 

 

 心臓の鼓動がうるさく感じるのは気のせいなどではない。霊璃は必死に笑顔を作る……自然に笑うという動作を行ってみたが、霊夢はこの作り笑顔を見抜いているのか?それとも納得してくれたのか?相変わらずジト目で様子を窺う視線に冷や汗が流れ出そうになるが気合いで我慢した。

 

 

 「……そう」

 

 

 踵を返して台所へと向かう……もしかしてバレたのかと今度こそ冷や汗を我慢できずに流れ出る。

 

 

 「なにしているの姉さん?ご飯の用意するけど?」

 

 「えっ……あ、ああ!そうだったわね!もうすぐ食事時だもんね用意しないといけないわよね!!」

 

 「姉さんどうしたの?」

 

 「どうもしないどうもしない!ささっ、ご飯パパっと作るから台所へ行きましょう!!」

 

 「ちょっと姉さん押さないで」

 

 

 幸運なのかはわからないが、今は気にしないでいてくれるようだ。しかしあからさまに態度がおかしい姉に疑問を持ったに違いない。このまま霊夢がこの件について気にしないでいてくれることを願うしかないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はむはむはむはむ!」

 

 「あうん、もう少しゆっくり食べなさい」

 

 「ごめんなさい、霊夢さんのご飯が美味しくて」

 

 「そう」

 

 「霊璃さんのご飯もあうんは好きですよ!」

 

 「う、うん……ありがとう」

 

 「はい!」

 

 「……」

 

 

 あうんちゃんを加えての楽しい食事時になるはずだったのに……妹の視線が苦しい。私は嘘を付くのは苦手みたい……あうんちゃんは事情を知らないから疑わないけれども霊夢ちゃんは私の態度がおかしいことに気づいているみたいって言うか絶対に気づいている。夕食作り中も何度も視線を感じた……今も感じている。チラチラと時よりこちらの反応を覗き見ている。なんで私はあの時あんな態度を取ってしまったのだろう……嘘がバレバレで妹が疑うのも無理はないのに……

 

 

 「……姉さん」

 

 「――は、はいなんでしょう!?」

 

 

 ……私はやっぱり無能だ。こんな反応すればおかしいって誰でも気づくのに……

 

 

 妹の視線が突き刺さって痛い……槍で心臓をえぐられているような感覚に襲われる。もうこれはバレた……そうに違いない。ごめんなさい妖怪さん、出来れば既に洞窟から逃げていてください……

 

 

 この空気に取り残されるあうんは霊璃と霊夢を何度も見比べて首を傾げていた。無言で姉を見つめる霊夢と妹に見つめられて目が泳いでいる霊璃……しばらくこの空気が流れていたが、口を開いたのは霊夢の方だ。

 

 

 「……猫にお米を与えるよりも肉や魚を与えた方がいいわよ」

 

 「……へっ?」

 

 「腹持ちはいいけど栄養が取れないわよ?猫はお米は消化しずらいから体に負担がかかって下痢になってしまうこともあるみたい。それに中にはお米を食べるとアレルギー反応を起こす猫もいるから注意して」

 

 「えっ……あっ、はい」

 

 

 霊夢ちゃんの口から追求の言葉が放たれるのかと思っていたけど予想外のことに呆気に取られてしまった。妹が猫に詳しいとは思わなかった……どこからその情報を入手したの?いや、それよりもバレていない……でいいのかな?私に対して揺さぶりをかけてきているのかも……

 

 

 「姉さん、さっきから挙動不審よ。猫が心配なら明日会いに行けばいいわ」

 

 「え?いいの……?」

 

 「何言っているの?姉さんが心配そうにしていたじゃない……もしかして違った?」

 

 「い、いえ……心配しているわよ。妖怪に襲われたりしていないか心配で心配で……!」

 

 

 どうやら妹は勘違いしてくれている……よかった!嘘がバレるところだった!けれども心配しているのは本当なの……猫じゃなくて妖怪さんだけれども。

 とにかく時間が空いている時に妖怪さんに会いに行けるみたいでひとまず安心か……

 

 

 ホッと内心で息をつく。それでも心臓の鼓動が今も高鳴っていることが伝わって来ていた。

 

 

 「霊璃さん猫さんを飼っているのですか?」

 

 「い、いえ違うわ。偶々お腹を空かせた妖怪さん()を見つけて食事()を与えただけよ」

 

 「おお!霊璃さんは優しいのですね!」

 

 「あ、あはははは……」

 

 

 うん……霊夢ちゃん、あうんちゃん……今だけは私の嘘に騙されてくれてありがとう。そしてごめんなさい……必ずお詫びするからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日は運よくお茶の葉を切らしていたことに気づいた霊夢が人里に買い出しに出かけた。あうんは狛犬らしく博麗神社でお留守番、それをチャンスと見て霊璃はまだ居るかもわからない洞窟へと向かって辿り着いた。中をそっと眺めてみるとそこには……

 

 

 「………………………………………………」

 

 

 ボケっと岩肌を眺めていた妖怪さんがいた。黄昏ているなと思いながら中へ入ると気がついたのかこっちを振り返るとまた悲鳴をあげた。洞窟は暗いから入り口の光が逆光となって私の顔が影になっていたことでわからなかったのだろう。ガタガタと昨日と同じく震える姿を視界に入れながら私だと声をかけると顔が明るくなった。

 思ったほど昨日よりも重苦しい空気にはならなかった。時間が経って気持ちに余裕が生まれたのか定かではないけれども、空気が軽く感じられた。ふっと視界に入ったお皿は空となっていておにぎりを食べてくれたみたいで安心した。竹水筒の中身も確認すると空っぽになっており、食事を堪能してくれたみたいで何故か嬉しくなってしまった私……でも妖怪さんが「美味いとも不味いとも感じないおにぎりを食べたのは初めてだった」と感想を述べたときはちょっとガッカリした。わかっていたことだけれども……言葉にされると心に来るものがあった。

 

 

 気を取り直して昨日霊夢ちゃんに言われた通りに博麗家では貴重な肉と主食である焼き魚を持って来た。するとゴクリと喉を鳴らしていた……妹のアドバイスが役に立った……猫じゃないけど。勿論追加の水も忘れずに用意した。差し出すとすぐさま箸を使って口の中にかき入れていく。こうしていると本当に猫を飼っているみたい……妖怪さんに失礼だけれどもそう思ってしまったのは仕方ないことだと思う。

 食べ終わるまでその光景を眺めていた。そして魚を隅々まで身を残さずに食べ終わるとごちそうさまと手を合わせて食材に感謝する妖怪さん……その光景に満足する私だが、最後の一言が「美味しいとは言えない味だったが腹は満たされたぞ」と感謝された時はやっぱり複雑な気分だ。

 

 

 ともあれ腹の満たしになって良かったと思う。そしてこれからどうするのかと聞くと沈黙が返って来た。反応からどうすればいいのかわからないみたいだった。ならばと思い私が色々と案を出してみた。

 

 

 妖怪ならば外で人間を襲ってみたら?と案を出せば「私は人を襲ったりしない」と主張する。

 

 

 妖怪ならば他者を支配してみたら?と案を出せば「そんな力はない」と主張する。

 

 

 妖怪ならば……巫女にもし恨みがあるのならば……巫女である私を殺してみる?と自分でも恐ろしい案を出してみたけど「みここわい……みここわい……」と呟きながら縮こまってしまった。

 

 

 巫女である私が何を言っているんだか……人間を守るのに人間に害を与える案を出すなんてどうにかしていた。でもこの妖怪さんもどうかしているかもしれない。妖怪なのに人間を襲ったりしないとか……もしかして今まで悪さをしていたけれども、巫女に懲らしめられて反省したとか?答えは語らないからわからない……けれども身の安全と人間に危害を加えない妖怪だからだろうか安心している私がいた。

 

 

 だから私は新たに提案してみた。

 

 

 「よかったらここでしばらく暮らしませんか?狭くて暗くて雨が降ったら多分ジメジメしますし、住み心地は悪いですけども」

 

 「……いいのか?お前は巫女だろ?その巫女が()()()()()()俺を匿っていいのか?」

 

 

 その時は特に気にならなかった。私は妖怪さんが悪い妖怪でないことに安心していて気づく余裕すらなかったのだろう。

 

 

 ()()()()()()と言った妖怪さんの言葉に……

 

 

 「私は()()()()()()()()ですから大丈夫じゃないですけど大丈夫です」

 

 「……よくわからんが……感謝するぞ」

 

 

 こうして霊璃は密かな秘密を抱えることになった。

 

 

 しかしこの秘密が禁忌(タブー)に触れることになるとは彼女はまだ知らない。

 

 

 ただの巫女とただの妖怪ならばちょっとした出来事で済んだのであろうに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の出会いの序章である。

 

 

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