忘れ去られた者の楽園……幻想郷、その楽園で一つの大罪を犯した者がいた。
それでは……
本編どうぞ!
太陽の日差しに照らされた地面をひたすら歩き続ける一つの影がある。その影は人が滅多に訪れることがない場所へと向かっていた。やがて辿り着いた影を歓迎するかのように洞窟が口を開けて待っていた。影の主は躊躇なく洞窟の入口へと足を踏み入れる。太陽の日差しは洞窟によって阻まれて中は薄暗いが見えないことはなく、そこに誰がいた。
影の主……霊璃を出迎えたのは身長の大きな男……いや、妖怪であった。人間の霊璃と妖怪の男は偶然の出会いよって知り合うことになった。人間を襲うのは妖怪の役目、初めはお互いに警戒したが今ではそんなことなど忘れてしまう程になっていたし、いつしかここを訪れることが霊璃の日課になっていた。
妖怪さんが洞窟に暮らしてから何日も経った。毎日食事を持っていくので、妖怪さんがペットのように思えてきた。失礼かもしれないけどやっぱりそう思ってしまうのは仕方ないこと。背が高く怖そうな見た目をしているけど、怖がりで小動物みたいに震える姿を見てしまっている私はそう感じてしまうのだ。
そんな妖怪さんとも今では普通に会話をする仲にまでなっていた。ある日の会話では……
「今日はなんとなんと……お饅頭を買ってきました!」
「それならば美味いと言えるだろうな」
「……まるで私の料理が美味しくないみたいじゃないですかって……美味しくないですよね」
「ああ、美味くはないと断言できる」
「はぁ……これから食事は買ってくることにします……」
「いや……小娘の食事も……あった方がいい」
「妖怪さん……!」
「か、かんちがいするな!果物や饅頭だけでは栄養のバランスが偏るからな!決して小娘お前の食事が食べたいとかそう言う訳ではないからな!!」
……だったり、ある日の会話では……
「暇そうなので本を持ってきました!」
「……どのような本だ?」
「なんでもアガサクリスQって方が書いている推理小説です」
「推理小説……ふむ、中々面白そうだな。感謝するぞ」
「いえいえ、読み終わったら私も読んでみたいので……あっ!犯人は言っちゃダメですからね?実は私も楽しみにしているんです」
「なら先に読めばよかろうに……まぁお言葉に甘えるとするとしよう。それに俺はそれぐらいのマナーはわかっているから安心しろ」
「なら安心ですね。それじゃまた後日……絶対犯人言っちゃダメですよ!」
「わかったからさっさと行け」
等々……妖怪さんとはいつの間にか仲良くなっていて、初めはお互いに警戒し合った雰囲気はどこへ行ったのやら時間が解決してくれたのかな?どちらにせよこうしてほぼ毎日訪れている。そして今日も妖怪さんの元へと向かうつもりだ。
「姉さんが大変そうだから……今日は私もついて行くことにしたわ」
ななななななななななななぁーーーっ!!?霊夢ちゃん今なんて言ったの私の聞き間違えよねそうだと思いたいのですけどそこのところどうなんですか!!?
霊璃は洞窟へと向かう手前妹である霊夢に呼び止められた。その瞬間嫌な予感が頭を
「どうしたの姉さん?早く行きましょう」
えええっ!?どうして今になって!!?今まで霊夢ちゃん私に任せてくれていたじゃないのよ!!?これって大ピンチの予感……ど、どうしよう……!
霊璃は大ピンチに襲われた。野良猫の餌やりだと霊夢には伝えているが本当は妖怪のしかも男に餌やりしていたなどバレたらタダでは済まされないだろう。しかもあの妖怪は何かと巫女を怖がっていたことから幻想郷の巫女と言えば霊璃を抜けば霊夢のみ……守矢のところにも緑髪の少女はいるが紅白色の巫女装束ではない。よって何かしらの関係があるのは確定的に明らかである。そんな妖怪と霊夢が鉢合わせすればどうなることか……
あうんちゃんなら上手く誤魔化せた。けれども霊夢ちゃんを誤魔化せるか?そもそもどうして今になって……もしかして挙動不審な私を今まで監視していたとか?そ、それなら妖怪さんを匿っていることがバレてる!?いや、落ち着け私よ、霊夢ちゃんの性格ならばバレたら即退治しに行くはず……ならまだバレていないと思う。今は疑っているぐらいか……でも今の状況はマズイ。このままじゃ妖怪さんの存在がバレてしまう……空っぽの頭を使え私……そ、そうだわ!あれにかけるしかないわね。
何かを決心した霊璃は霊夢を見つめる……悟られないように細心の注意を払って。
「姉さん……な、なによ?そんな仏顔して……顔に何かついているの?」
なにやら姉の周りにはただならぬ雰囲気に覆われておりいつもと違う様子にたじろいでしまう。
「霊夢ちゃん、私が一人で餌やりが大変だと言っているけど……本当は野良猫をモフモフしにいきたいのでしょう?」
「えっ?姉さん何を言って……」
「誰も見ていないところで猫さんの肉球をぷにぷに触っていたり、顔をすりすりしていたり、またある日には猫さんと猫語でお喋りしていたわよね?『こんにちは猫さん、霊夢だにゃ~よ♪』なんて言ってたわね。あの時の霊夢ちゃんを見れて私は満足だったわ♪」
「なーっ!!?」
霊夢の髪が逆立ち驚愕の表情を浮かべた。知られたくない事実を知られており、しかも姉に見られていたことを暴露されたことで羞恥心から驚愕の表情はみるみる恥じらう顔となり真っ赤に染め上げる。
「な、なな……なんのことかしら……べ、べつに私はそう言うのでついて行くわけじゃ……」
「そう言えばこうも言っていたわね『猫々さん、猫々さんはどうしてそんなにかわいい~にゃんよ~♪』って鼻歌を歌ってもいたこともあったわよね?霊夢ちゃんたらかわいいんだ~♪」
「――ッ!!?」
それが決定打となり、真っ赤な顔は限界を超えてしまい湯気が立ち上った。「姉さんなんて知らない!!」とそのままどこかへ逃げるように去ってしまった霊夢の背中を見えなくなるまで見送ると膝から崩れ去る霊璃の姿がある。
よ、よかった……妹が猫好きなことが幸いした。いつもは興味がないように振舞っているけれども本心では可愛がりたいのに人目を気にして可愛がれない。そんな時に私は見た。猫に夢中で私の存在に気づかない妹が猫と戯れる姿、あの時の霊夢ちゃんはいつにも増して可愛かった……語尾に『にゃん』とかずるい……破壊力抜群過ぎてカメラに収められないのが残念だったわ。こんな時に限って文さんいないから仕方ないけれども、まぁ私と二人っきりの時もだらけた甘えん坊さんの表情を見せてくれるのだから文句ないのだけれどもね。あの時のことを武器に羞恥心を誘うことに成功した。霊夢ちゃんが羞恥心に負けたことで私はこの戦いに勝利することができた。ちょっと卑怯だけれども許して……あなたと妖怪さんを会わせる訳にはいかないから……
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「妖怪さん!!」
「な、なんだいきなり?」
汗を垂らしながら勢いよく現れた霊璃に面食らってしまう。いつもと様子が違っていることは妖怪から見ても明らかであった。それに表情も優れない……一体何があったのだと疑問に思う。
「……あのですね……」
小娘に勢いがあったのも初めだけだった。急に口籠り黙り込んでしまった……言いにくいことなのであろうな。表情を見れば俺の目でもわかるぐらい辛い表情をしていやがる。小娘に何があったのだ?
「ゆっくりでいいから話してみろ」
「はい……実は……」
俺は年頃の小娘の悩みかと思っていた……がすぐにそれは間違いだと気づかされた。
言葉はぼかしていたようだが、どうやらこの小娘と
妖怪は体が硬直したかと思えば急に震えだした。何度も「みここわい……」と呟き始めてそれを宥める霊璃……しばらくしてようやく落ち着いた様子でこれからのことを考え始めていた。
俺の存在が知られる訳にはいかぬ!また
「……私のせいですよね」
「なに?」
逃げ出そうと動こうとした妖怪を止めたのは霊璃の言葉だった。その言葉に思わず聞き返してしまう。
「私が嘘を付くのが上手ければ……不審な行動だらけで怪しまれるのは当然です。薄々怪しいと思われていたと思います……私は料理も上手ではないですし、巫女としては欠落品なんです。私は何をやってもダメダメな人間……うまく立ち回っていたら妖怪さんに迷惑かけることはなかったのに……」
まるで懺悔するように後悔を吐き出す姿に妖怪はこう思った。
「お前はバカなのか?」
「……ふぇ?」
内で思ったことを妖怪は口に出してしまっていた。何故と当の本人も一瞬そう思ったがそんなことはどうでもいいとさえ思える。今は目の前にいる
「確かに小娘、お前の料理は美味いとは言えず、話によれば嘘を付くのも苦手で隠しごとは向いていない。お前の詳しいことは知らぬし、興味もない。お前の所業は話を聞いた俺でも怪しいと思える行動ばかりでお仲間は口に出していないがおかしいと思っているはずだ。だが元はと言えば俺が小娘に拾われてここへ住み着くことになったのが原因だ。小娘のせいではない」
「それは……私が妖怪さんに提案したからであって……」
「あの時に俺はここから出て行くこともできた。俺は
「……」
「お前は立派だよ。見ず知らずの相手……しかも妖怪にここまで親切にするなぞバカがすることだ。内心利用して後で始末してやろうなどと俺が思っているかもしれないのに、お前はそれでもここへとやってきた。お前はお人好しで妖怪の天敵であるはずの巫女でありながらも俺にここまで親切にしてくれたバカは小娘お前ぐらいだ。そんなバカだが思いやりがある自分を蔑ろに扱うな、小娘よお前は立派な人間だ」
「……妖怪さん!!!」
妖怪の一言でパァッと明るい表情を露わにする霊璃は喜んでいることであろう。
「――か、かんちがいするな!お前のバカ面を拝んでいるとこっちまでバカが移りそうだったから仕方なくであってだな……!!」
「……妖怪さんは優しいのですね♪」
「――ばっ!?バッカ野郎!!俺は決して優しくなんてないぞ!!小娘なんぞ利用して食ってやろうとしていたぐらいだからな!!」
「下手な嘘ですね、くっふふふ♪」
「笑うな!!!お前だって嘘が下手なんだろうがぁ!!!」
先ほどまでのしんみりした雰囲気はどこへ行ったのやら……ぷんすかと怒り心頭の妖怪とその様子にクスクスと笑う霊璃の姿があった。
柄にもないことを言ってしまって小娘に笑われた……今更恥ずかしくなってきたぞ。ちくしょうめ……俺が小娘に対してこんなことを言うのは間違っている。間違っていることなのだがこの雰囲気……嫌いになれない俺がいる。何故嫌いになれないのかと聞かれても俺自身もわからぬ。だが一つだけ確かなことがある。それは……
「どうしたのですか妖怪さん?私の顔に何かついてますか?」
「……いや、なんでもない」
「う~ん?変な妖怪さん」
この小娘の影響されたとだけ言っておこう。しかしこの小娘とはこれで最後……もう会わないでおこう。それがお互いの為であり、正しい人と妖怪の関係なのだからな……
妖怪は霊璃を帰らせた。妖怪の身を案じる彼女であってここから帰ろうとしなかったが翌朝ここを立つと伝えて説得した。初めは渋っていたが必ず見送りに来ると彼女は小指を出して……
「私に黙ってさよならはダメですからね。嘘ついたら針千本ですからね!」
妖怪と人間の少女は
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「小娘よ、妖怪の言葉を鵜呑みにするとは……やはりバカだな」
その日の真夜中、妖怪は洞窟から顔を出した。今宵は満月の光が地上を照らし出して夜にも関わらず夜空が綺麗だ。夜空に顔をつける妖怪は夜空の星々を眺めながらふぅっとため息を吐く。
「まんまと騙されよって……」
妖怪は嘘をついた。約束を破った。しかしそれがどうしたことだと妖怪は鼻で笑うだろう。
俺は
「これから先これではやっていけんな。まぁ、俺には関係のないことだがな!ハハハハハッ……」
無関係だと無責任な言葉を吐いた妖怪はまんまと騙されたと知った少女の顔を想像して嘲笑う……その笑い声はどこか空虚のようにも感じたような気がしたが……気のせいだろう……
笑い声が次第に鎮まって先ほどまでは気にならなかった虫の音色がメロディーを奏でていた。
妖怪はそんな時にふっと思い出す。長い間ではなかったが、少なくとも平穏に暮らすことが出来たのは間違いない。妖怪は洞窟をしばらく見つめていたがやがて背を向けて歩き出す。
「(……さてと……朝になる前にここから遠く離れなければな。しかしどこへ向かえばいいのかわからぬな。まぁ適当に気の向くまま行けばその内どうにかなるか?)」
行く当てがない妖怪は悩みながら適当に歩を進めていたその時だった。
「……猫だと聞いていたけど……まさかこれほど大きい
「――ッお、おまえ……!!?」
「博麗の巫女!!?」
これはただの夢であってほしいと思わずにはいられない。
満月の月明かりに照らされた二つの影……かつて博麗の巫女に退治された妖怪とその妖怪を退治した博麗の巫女である少女がこうして再び出会ってしまった。
怒号か悲鳴か、はたまたその両方か……様々な感情が入り混じった言葉が辺り一面に響き渡り、すぐさま静けさを取り戻す。虫の音色がメロディーを奏で、満月の光が地上を照らしながら星々の鮮やかさを自慢げに見せびらかす夜空の下で似つかわしくない驚愕の表情を浮かべていたのは妖怪だった。そしてその妖怪が目を離せなくなっている一人の少女……博麗霊夢の姿がそこにあった。
「「………………………………………………」」
へっぴり腰の妖怪と凛と佇む巫女はお互いに一言も声をかけようとしない、否、かけることができないでいるのだ。複雑な感情がこの二人の仲に渦巻いていることなのであろう。
だが、必ずしも平行線はない。沈黙を破ったのは霊夢の方からだった。
「あんた……姉さんに何かした」
「――ッ!?し、していない!!断じてなにも!!」
「……そう……」
この場合ならば大抵消滅したはずの妖怪にどうやって蘇ったのかと問いかけるだろうが、霊夢にとっては二の次のことだ。霊夢が問いかけたのは姉の霊璃の身の安全だった。自分の知らぬ間に退治した妖怪と一緒に居て、妹である自分にはそれを隠していたことに不満はあるが、もしも脅迫されていたならば霊夢は妖怪のことをただでは済まさなかっただろう。実際に手にはお祓い棒が握られており、軋む程に力が込められていた。
妖怪の慌てる様子に嘘ではないと判断するが力を抜くことも警戒心も消えることはない。退治した妖怪がこうして再び目の前に現れたのだから敵意を隠すこともない。しかし妖怪の方は今にも戦意が喪失しそうなほどにいつも以上に顔を真っ青にしている。
「どうして生きているの?あの時あんたを確実に退治したし、易書も処分したわ。それなのにどうやって……」
霊夢にとって考えられない事態だ。冥界とも繋がる扉になる可能性があった易書を目の前で燃やしたのを確かに確認している。なのに、なのにだ……
「わからない。俺は何もしていないし、目が覚めたら洞窟にいたんだ。あの小娘によると道端で倒れていたらしい……本当のことなのだ!嘘は言っていない!!」
霊夢の問いに妖怪は戸惑いを隠さずに返答した。
妖怪が嘘をついている可能性もあり、探るがどうもこれも嘘には思えない。それに巫女としての勘も同調していた。ますます訳が分からない……妖怪の方も何故生きているのか疑問だった。
「まぁ、あんたがどうやって蘇ったとか知らないけど、過程がどうであれ……結果は変わらないわ」
非情にもバッサリと切り捨てる。霊夢のお祓い棒が妖怪へと向けられ、彼女の瞳に映ったのは妖怪とは思えない情けなく怯える一人の男だった。
『殺される』
現実は無情で残酷な結末を迎えることになってしまったのだ。
霊夢は淡々と流れるようにお祓い棒を怯えて動けない妖怪の頭へと振りかぶった……
「待って!!」
「「――ッ!!?」」
霊夢は動きを止め、妖怪は体の震えが止まる。そして二人は驚愕の表情を浮かべて視線を移す。
もしかしたら運命が変わるかもしれない。この場に響いた声の主によって……