夜が明け、カーテンの隙間から部屋に木漏れ日が入る。
まだ布団に潜っていたいけど今日はそうはいきません。ベッドから這い出し母が用意してくれた目玉焼きをパンに挟み頬張り、肩下まで伸びた黒髪を整え着替える。前日までに用意しておいた鞄を肩からかけ箒を手に取り
「よし、準備完了!」
そうして見慣れた自分の部屋を後にしました。
「ほんとうに行ってしまうのかい?」
今日、私アイリスは自分の生まれ育った家を離れ旅にでる。でるのだが、、、父親がめっちゃ引き留めてくる。
「あなた、そんなに言ったらアイリスが出づらくなるでしょ?」
「だが、だが!かわいい娘がこんなにも早くわしのもとを離れるのは、うわあぁぁぁぁぁん!」
最近歳のせいか腹周りが豊かになってきた父が私の服の袖にすがりながら大泣きしはじめてしまいました。
「お、お父さん、、。別に金輪際会えないわけじゃないし、たまに帰ってくるから」
「ほんとだな?ほんとに帰ってくるんだな?」
「う、うん。お土産、期待しててね?」
そんな父の後ろからヒョッコリと顔を覗かせながら
「おねえちゃん、、」
「マリーも?まったくもー。マリーにもちゃんとお土産持ってくるから。それまでお店のお手伝い、がんばりなさいよ?」
「うん!絶対、約束だよ!」
我ながらよくできた妹だ。
私の家は街道沿いにあるそこそこ大きい町の雑貨屋を営んでおり、よく私と妹が店主である父の手伝いをしていました。
「忘れ物は無い?病気や怪我に気を付けなさいね?」
「うん!大丈夫だよ、お母さん」
家族と言葉を交わした私は箒に取り付けてある椅子に股がり、ハンドルを両手でしっかりと握る。自分が空へ引っ張られるのをイメージしながら浮遊魔法を発動。ふわりと上昇しながら
「じゃ、行ってきます」
そうして、私の長い旅は始まりました。
実家を飛び立ってから半年が過ぎた。最初はいろいろ勝手がわからず戸惑ったりしたけれど、今じゃ立派な旅人です。
そんな私は今、見渡す限り木しかない森林の上を飛んでいます。目印になるようなものは一切無く、森の真ん中を突っ切り次の街へとつながる道がなければあっさり迷子になるところです。
時計に目をやるとそろそろお昼時。ビスケットを頬張り水を飲みほしながら日暮れまでに森を抜けたいので少し速度を上げます。このたりは夜になると魔獣の楽園と化すらしく、到底野宿にはできません。なのでなんとかして次の目的地の街である「イワノイ」で宿屋に入りたいです。
あとどれくらいで辿り着けるかな?
そんなことを考えながら進んで行くと路上に人影が見えました。よくみてみると女の子で歳は同じくらいでしょうか?ぶっ倒れています。まだ生きているでしょうか。もう死んでいるでしょうか。とにかく近づいてみましょう。このままでは生きてるにしろ死んでるにしろ獣の餌になっちゃいます。
とりあえず近くに着地し声をかけてみましょう。
「あのー、大丈夫ですか?」
意思はありませんが息はしているようでしす。めだった外傷もないようです。
「大丈夫ですか?こんなところで寝てると魔獣の餌になっちゃいますよ?」
揺すりながら声をかけてみましたが動きません。とりあえず何かこの子が誰なのかわかる物は無いでしょうか。
とりあえず女の子を木陰に運び、辺りを見渡すとリュックサックと先端が地面に突き刺さり真ん中でへし折れた箒が転がっています。この子も旅をする魔法使いなんでしょうか。どうやら墜落してこの子は放り出されたようです。
「失礼しまーす」
そう言いながらリュックを開けると中には水筒や着替えが入っていましたが名前などがわかるものは入っていないようです。
他にも何か落ちてないか探していると女の子が目を覚ましました。起き上がりキョロキョロと周りを見渡しています。
「あ、気がつきましたか?」
こちらをしばらく見つめた後彼女は血相を変え後ろえ後退りします。が、すぐ木にぶつかり痛めた頭を抱えうずくまってしまいました。
「イタタ、、。あっ、あなたとっ、盗賊ですか!?許してください私お金とか持ってないですー!!」
「oh、、」
私が手に彼女の鞄を持っていたので盗賊と間違えられてしまったようです、、、。
「と、盗賊じゃありませんよ?私は旅人でたまたま道端で倒れていた貴方を見つけたので助けに、、」
「そんな嘘には騙されませんよ!」
そう言いながら手のひらを前に出して何かを掴もうとしたみたいですが、、
「あれ?私の箒は?あ、、、。」
「たぶん落ちた時に変に力が加わって折れt」
「いやあぁぁぁぁ!私の箒があぁぁぁ!」
そのまま膝をついて頭を抱えてしまいました。
「と、とにかく!とくに怪我もしてないみたいですし、元気そうで」
「こうなったら、、」
彼女は立ち上がり、腰の後ろから大きなナイフを取り出しこちらに向けながら
「これで、、」
「ちょっ、危ないからっ!とりあえず話を」
「問答無、よぉ、、、」
バタッ
えぇ、、
そのまま前のめりに倒れてしまいました。
理由は聞くまでもなく彼女のお腹がぐぅーとかわいらしい音を立て教えてくれました。
お腹が空いていたんですねー。
どうやら空腹でフラフラになり墜落したようです。
「とりあえずこれ食べてください。」
先ほど私が食べていたクッキーを一枚、口元まで持っていくとカプッとくわえモグモグと食べ始めました。
一枚目が終わったら二枚目、三枚目と口元に運んでいき次々とモグモグしながら飲み込んでいきます。
なにこれカワイイ
まるでウサギのような小動物に餌を与えているようで、とても楽しいです。
「み、水~、、」
「あ、はいはいお水ね。」
彼女の鞄から水筒を取り出したが中身は空だったので仕方なく自分の予備を渡しました。
「ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ぷへぇ。生き返りました~」
「それは何よりです」
「あの、本当に盗賊とかじゃないんですか?」
「そうですよ、さっきからそう言ってるじゃないですか
」
私は一通り説明しました。
「そうでしたか。助けていただいたのに、たいへん失礼しました。あっ、私ガーベラって言います」
「私はアイリスです。ガーベラさんはお腹が空いてて倒れていたんですか?」
「はい、お恥ずかしながら路銀が底をついてしまいまして、本当に助かりました。何かお礼を‥」
「いえいえ。たいしたことじゃないですし、それにこのクッキーも私のお昼の残りですから。それよりも…」
私は辺りを見渡しながら
「どうやら本物の盗賊に囲まれてしまっているようですよ?」
「え?」
「いるんでしょ?出てきなさい!」
すると森の中からゾロゾロとざっと10人程でしょうか?
ニヤニヤとこちらを見ながら出てきました。
その中の頭にバンダナを巻いたリーダーぽい男が
「ホウ、よく気づいたじゃねえか」
「そりゃあんた達臭いんだもん。すぐわかっちゃったわ」
「こ、この小娘がぁ、、痛い目みたくなかったら金と荷物を寄越しな!」
男達は各々ナイフやら棍棒をちらつかせながら少しづつこちらに歩み寄ってきます。
「あ、アイリスさん!どうしましょう、、」
「どーせ荷物渡しても帰してくれないんでしょ?」
こーゆーとこで捕まった女の人がその後どうなるかは容易に想像がつきます。
なので私は箒に飛び乗りながらガーベラさんの手を掴んで
「逃げますか」
箒は地上に賊を残して空へ飛び上がりました。
私を後ろから抱きつくようにガーベラさんを乗せ直したら次の街へ進路をとります。
しかし箒一本に2人乗せてるので速度がでません。当然奴らに追い付かれます。
盗賊の中にも魔法使いはいるものでバンダナ男を先頭に5人程が箒に乗って追いかけてきました。
[イワノイ]まで行けば衛兵がなんとかしてくれるしょうが、あいにくとまだ距離があるため辿り着く前に盗賊に追い付かれてしまいます。
「ど、どうしましょうアイリスさん…‥」
「うーん、次の街まで道中何もないから…やるしかないかなー‥…」
このままガーベラさんを乗せたままでは空中戦は無理です。かと言ってガーベラさんを放り出すわけにもいかないので、とりあえず一気に彼らから距離をとるなり隠れるなりしないといけません。
そこで私は一つの作戦を思いつきました。
「ガーベラさん!箒の操作変わってもらえますか?」
「箒ですか?いいですけど‥」
「ではこのまま真っ直ぐ垂直に上昇してもらえますか?」
「え、上にですか?でもそれだと追い付かれちゃいますよ?」
「大丈夫です。私に考えがあります」
そのままガーベラさんは箒に魔力を送りながら垂直に上昇させていきます。もちろん盗賊も後を追ってきます。
「あとどのくらい昇るんですか?」
「もう少し、もう少しだけ…」
だんだんと高度が高くなるにつれ盗賊との距離は縮まっていきます。
「合図したら箒に魔力を送るのを止めてください」
「えぇっ!それだと落ちちゃいますよ!?」
「えぇ!あいつらめがけて落ちるんです!いきますよ!3!2!1!今!」
直後、ふわっと一瞬の浮遊感のあと、
「キャーーーーーーーーッ!!」
というガーベラさんのアホ見たいにうるさい悲鳴とともに魔力が途絶えた箒はただの箒となり私達とともに落下し始めました。
むろん悲鳴を上げたのはガーベラさんだけでなく私達を追ってちょうど真下にいたバンダナ男達もです。
「か、頭!あいつらが落ちてきますよ!」
「避けろー!」
慌てふためく彼らとすれ違う時、
「えいっ!」
私は何人かの箒めがけて魔力の塊を投げつけ、それに被弾しバランスを崩した男達は空中で
「覚えてろー!!」
とか叫びながら吹き飛ばされていきます。最後まで三流な人達でしたね。
それを横目に箒に再び魔力を流し、そのまま降下しつつ森の中に逃げ込みました。
盗賊達はそれ以降追っては来ませんでした。怖じ気づいたんですかね!なのでその後は順調に[イワノイ]に向け進むことができました。
あと、
さっきからなんか静かだなーと思いふと後ろを振り返ると、ガーベラさんが私にしがみついたまま失神してました。どーしましょ…
空に浮かぶ雲を赤く染めていた日が完全に隠れ、代わりに無数の星々が空を埋め尽くそうとする頃。私達は目的地である「イワノイ」に到着しました。
「こんばんは。観光ですか?入っていいですよ」
門の前で動き安そうな鎧を身にまとい、槍を携えている門番さんからにこやかな笑顔で声をかけられました。
「ご苦労様ですー。」
「ところで、、後ろの方は大丈夫ですか?」
「はい。道中疲れて寝ちゃって…」
「あぁ、そうでしたか。では近場の宿をご案内しましょうか?」
「いいんですか?ありがとうございます。」
「では手すきの者を呼んできますね」
案内された宿は門から近く、よく旅人が利用するそうです。値段は少し高いかなと感じましたが、お財布はまだ暖かいので2人部屋を借りることにしました。
ガーベラさんを布団に寝かせた後、近くのレストランで夕食です。店内は私のように旅をしているであろう人や、仕事終わりに作業着のまま酒を口に運ぶいかついおじさんの集団やらでごった返していました。
私は一人なのでカウンター席に座りメニューを眺めていると
「ご注文はお決まりでしょうか?」
うーむ。 メニューに書いてある料理の名前や他のお客さんの前に広がる料理はどれもおいしそうで悩んでしまいます。
こーゆー時は…
「おすすめのメニューはありますか?」
「そうですね、では当店自慢の手作りケチャップを使用したナポリタンはいかがでしょう。」
「じゃあそれと、おにぎりを2つほど持ち帰りたいんですけどできます?」
部屋に戻るとちょうどガーベラさんが目を覚ましたようです。
「あ、気がついた?」
「ここは…確か盗賊に追われていたような…」
「ここはイワノイにある宿ですよ。盗賊はなんとか振りきれたから今はもう安全だと思います」
「そうでしたか、また助けられてしまいました。」
「いいですよ。困ったときはお互い様。それよりお腹空いてません?おにぎりありますけど」
「何から何まですみません…。実はお腹と背中がくっつきそうで…いただきます。」
「それと今日はこの部屋に泊まっていってください」
「えっ!?それはさすがに申し訳ないです!」
その後しばらく押し問答が続きましたが、ご飯を食べるお金も持ってない彼女を外に放り出すことはできません。
なので無理やりにでも泊まってもらうことにしました。
「そういえば、ガーベラさんはどこを目指して旅をしているの?」
「私は自分の生まれ故郷を探しているんです。実は私、小さい頃の記憶が無いんです。」
「記憶が?」
「はい。気がついたら知らない教会の椅子で横たわっていました。」
私は教会の椅子で目を覚ました。
自分が教会にいる、それは理解できたが自分がいったい誰なのか、ここに来るまで何をしていたのか、分からなかった。そのあとすぐ修道士に保護されいろいろ自分に関する質問を受けたが、ほとんど答えることが出来なかった。
そのあとはしばらく教会でお手伝いとして働いた。やはり道具や動物等の名前はわかるが記憶だけが無い。
ある日教会に来た医者がこう言った。
「記憶は刺激を与えれば直るかもしれない。殴ったりでもいいが、実際に見たことのある風景を見たりするのがいいと思う。そうだ、旅をして自分の故郷を探してみては?何か発見があるかもしれない。」
以来私はそのこで頭がいっぱいになった。旅に出れば自分のことが何か分かるかもしれない。
私はすぐに牧師に旅に出たいと言ったら快く承諾し、旅で役に立つであろう魔法や身を守る術を教えてくれた。
出発当日、牧師は私に旅をするのに名前が無いのは不便だろうからと赤い髪の色と同じ、ガーベラという名を貰った。
以来ひたすらまっすぐ西へ日雇いの仕事や獣ら退治で得た報酬を糧に旅をつづけてた。
しかし途中仕事が見つからず
「おなかすいた…」
財布は空、食料も水もない
「やばい‥なんかフラフラしてきた…」
だんだん高度が下がっていく。
「あっ‥…」
目の前が真っ暗になった。だんだん高度が下がっていく。
「あっ‥…」
目の前が真っ暗になった。
直後箒に強い衝撃が走り、一瞬だけ見開いた瞳には美しい青空が広がっていた。
そして今度は全身に強い衝撃を受け目の前は再び闇に包まれた。
「そして、倒れているところを私に拾われたってわけですね」
「はい。そして…」
彼女は胸元から(私より大きい??)1つのペンダントを取り出しました。
「私が目を覚ましたときからつけていたもので私に残された数少ない手がかりの1つです。」
「少し見てもいいですか?」
「どうぞ」
差し出されたペンダントは淡いブルーの卵形の石。大きさは親指ぐらいでしょうか。表面には☆の模様が刻まれています。
「キレイな石ですね。それに…」
なにか少し暖かみを感じます。おそらく魔力が流れているのでしょうか。
「これ、魔力が流れていません?」
「はい。よく気づきましたね。そうなんです。少量ですが魔力が込められているそうです」
「そうです?」
「ここに来るまでに何度か、魔道具屋で見てもらったんです。最初はただの魔石じゃないかっていわれたのですが、どんな力を込めてもうんともすんともしないんです。だから何かの鍵じゃないかって言われました」
魔石とは魔法を発動するのに使う道具、例えば箒や杖に埋め込まれる石のことです。石の品質によって発揮する力の差はありますが、効果としては基本的には発動する魔法を安定させたり、増幅したりできます。
中には意思のようなものを持っている危険な石もあります。イシだけに。
まぁ、そんなものは伝説とかにしか出てきませんし、市販されてるものは大したことありません。
私は旅に出る前、師匠から頂いたちょっといいやつを使っています。
そして今回のガーベラさんのペンダント。普通の魔石ならなにかしら力を与えると反応するのですが…
「何も起きませんね…」
「はい。でも私に関係あるものかもしれませんし、失くすのは嫌なので首からさげてお守りにしてるんです」
とりあえず石をガーベラさんに還して今後のことを考えることにしよう。
それにしても自分の故郷を探す旅かぁ。私にはとくにこれといった目的はありません。だからどんなものであれ目的があるガーベラさんは羨ましいです。
「あ、あの!」
「ひゃっ!ひゃい!?」
突然ガーベラさんがベッドの上で正座はして大きな声を出すものだから変な声がでてしまいましたお恥ずかしい…
「あの、私を。私を弟子にしてくれませんか?」
「は、はい?」
「私を弟子にしてください!」
「と、唐突ですねぇ!?」
「私、もっと強くなりたいんです」
「強く、ですか?旅をするのに強さはいらないはずでは」
「今のままじゃダメなんです!魔物が倒せないとお金が稼げません。ゴブリンやスライムを倒せたとしても、貰え額はしれてます。もっと強い魔物を、倒せないと旅を続けられません。
現に私は今、お金に困っています…。
それにまた今日みたいに盗賊に襲われるかもしれません。もし今日アイリスさんが助けてくれなかったら私、今頃どうなっていたことか…。
だからせめて、故郷が見つかるまで自分の身は自分で守れるようになりたいんです!」
「ふむ…」
弟子ですか…。 今まで考えたこともありませんでした。確かにこのままアイリスさんを放っておくわけにはいきません。それに1人旅にもそろそろ飽きてきましたし、共に旅をする仲間を増やすのもありかもしれません。
「どうでしょう」
「私はあなたに魔法を教えられるほど優秀ではありませんよ?ただ私の師匠に教わったことを実戦してるだけです。だからたぶん、大したことは教えることができません。それでもいいんですか?」
「はい!一緒に旅をしてくれるだけでもこころづよいです!」
「では今日からよろしくお願いしますね、ガーベラさん」
「ガーベラと呼び捨てで、あと敬語もいりません師匠」
「ガーデンさん師匠は、」
「ガーベラと!お呼びください」
「が、ガーベラ?師匠はやめて?恥ずかしいです」
「わかりました!師匠」
やめる気ないのね…
そうして、私とガーベラの旅は始まったのでした。