「何だコイツは?」
四方をパネルで囲まれ、一面に芝生が敷き詰められたその部屋の中には、自分以外に人を模したナニカがたっていた。
直後、背後のパネルが起動しゴールゾーンが表示される。
ふむ。
どういう仕組みか知らないが、あのGKはこちらのシュートを阻むことができるとみていいだろう。
ピコン、という子気味良い音と共に自分を中心として同心円状に広がった光る円のゾーンが、縮まっていく。どんどんと縮まっていくそれは、やがて俺の足元のボールまで集まると、ブブー、という危険音がなった。
なるほど。この円が縮みきるまでにシュートを打てというわけか。このゾーンが縮む理由はいわば
ストライカーがボールを持つ時間は限られている。その限られた僅かな時間で、得点を生み出すのが俺たちの役割。
助走を取り、体制を整える。何度も練習してきた基本的なシュート練習。今更この距離で外すわけもない。
迅の左足から放たれたシュートは、見事に枠の左上隅を直撃した。
そして、すぐに感じた。
「いい反応だな」
自慢ではないが、俺の打つシュートは並のGKでは反応することすらできない。それでも目の前の
これはうかうかしてると止められるだろうな。
ガシャッ、とパネルが開き次のボールが射出される。
ストライカーというものは、いつどこからボールが飛んできても対応できなければならない。常に予想通り足元にボールが飛んでくるとは限らないからだ。
「そこか」
そう、例えばGKとの一対一。2人のちょうど中間にボールが飛んでくることだってゼロではない。
大事なのは、距離感とタイミング。相手が突っ込んでくるのか、しっかりと間合いを詰めつつシュートコースを切ってくるのか。ボールと相手とを俯瞰で見ながらそれらを一瞬で判断する。
シュートを打つと見せかけ、フワリとループで浮かせる。ボールはホログラムの上を越してゴールパネルに当たった。これで2点目。
それにしてもこの二次選考、絵心の言った通りかなり『個』の力に注視している。求められるのはゴール前の駆け引きに、正確なキック精度。今まで他人のゴールでのし上がってきた奴らを試す機会でもあるんだろうな。
そして気づけば得点は30まで達していた。
しかし、このステージではおそらくゴール前の状況を再現してるとみていい。ならばこの難易度で終わりとは考えにくい。
あと求められるのだとすればそれは───
「だよな」
ランダムに出現したそれは、コールに吸い込まれるはずの俺のシュートを阻んだ。
よし。仕組みがわかってしまえばあとは簡単だ。ボールが射出され、その数秒後にホログラム数体が出現するならば、こちらが少しタイミング・角度を調整してやればいい。
要領を掴んだ迅はそれから数本外したもののゴールを決め続けた。しかし60本目のゴールを決めたあたりから異変が起き始める。
「(足の方は問題ないが、息が上がってきたな…)」
即ち、『体力不足』。幾度となく彼を苦しめたそのカベはまたしても彼の前に立ちはだかった。
サッカーは90分走り続ける競技とは言うものの、常に動き続けている訳では無い。立ち止まったり、リラックスするシーンはどのポジションの選手においても多々ある。
彼にとってこのトレーニングは頭をはたらかせながら、マラソンを走り続けるようなものに等しかった。
当然集中力も長く続くはずはなく、徐々に迅のプレーに乱れが生じ始めた。ゴールが決まる本数が少なくなっていく。
さらにここに来てまたしても難易度は上がる。ホログラムは実際の選手かのように動き始め、射出されるボールも不規則な回転がかかるようになってきた。
途端に彼は足を止めた。
「うん…落ち着こう」
ゆっくり大きく息を吸い、そして吐く。足りていなかった酸素を身体中に巡らせ息を整える。
その間にも左右からボールが射出され、危険音がなるものの気にしない。
そうだ、慌てる必要は無い。まだ十分に時間はある。
相手は人ならまだしも、プログラムされた機械だ。俺がここでであった天才たちとの勝負に比べれば、なんてことは無い。こんなところで立ち止まっているヒマなんかない。
できるさ。今の俺なら。
「さあ、いこうか」
「3人1組か…」
2ndステージのゲートをくぐり抜けた先には、俺より先に1stステージをクリアしたもの達が集っていた。
大きなモニターには『3人1組でチームを作って先へ進め』と表示されている。
部屋の中には、不幸にも知り合いはいない。また人見知りである彼に初対面の相手に話しかける勇気は持ち合わせていなかった。
仕方ない、待つか。
当然、俺が待つのは氷織と七星だ。彼らとの連携はかの時点ではここ青い監獄へ来た中で1番の出来だったと言っていい。
そこまで焦る必要も無い、ここは気長に待つか。
「来ないな…」
10分、いや20分たっただろうか。あの二人のことだから突破できないなんてことはないとは信じてはいるが、いかんせん遅い。
「仕方ない」
何も必ずしも彼らと組む必要は無い。できることなら互いの武器を知っているほうがやりやすいとは思ったが。
それならどんなヤツが味方であろうとも、俺は勝ち上がらなければならない。
ちょうど近くにいた2人組に声をかける。
「誰か待ってるか」
「ん? いや待ってないよ」
「なら俺と組まないか?」
こうして迅は無事3人組を作り、2ndステージへと歩みを進めた。
◇◇◇ 4th ステージ
「お前ら、ごめん」
2ndステージから4thステージまでのトレーニングは
「凛はお前を選んだ。黙って先行ってろ」
「マジそれな。さっさと行けヘタクソ」
「次会うときは潰すよ、
逆に負けた方は2人組となり、また別の2人組と勝負をし、最終的に選ばれなかったものはリタイアとなる。
「お前無しで這い上がるから」
くどいようだが何度も言おう。勝負には勝者と敗者がつきものだ。上に行きたければ、生き残りたければ、彼らは勝つしかない。
「絶対来いよ、また
ゲートが閉まり、潔の姿が見えなくなると彼ら三人は一斉に地面にへたり混んだ。
諦めた訳では無い、むしろその逆。彼らには未だおさまぬ闘志の炎がくすぶっていた。
「クソ…クソぉ…」
「このまま終わるかよ…!」
「うん、
その頃、モニタールームでは二人の人物が選手たちのことを観察していた。
「凄くなかったですか!? 今の試合? もう私どっちが勝つかハラハラしましたよ」
「エンリちゃん、少し落ち着いて」
確かに今の試合には俺が求めるピースがいくつも転がっていた。勝った方も負けた方も、俺が理想とするサッカーを繰り広げてくれた。
「それに比べて、
彼、とはおそらく俺が見つめているモニターに写っている人物で間違いないだろう。
「元々アイツにはここを勝ち抜くだけの能力だけならあるよ。でも、今のあいつは勘違いをしている」
「勘違い、ですか?」
「そ」
決着が着いたようだ。どうやら、今回は上手く上に上がれたようだが果たして次はそう上手くいくだろうか。
「早く気づけ、風早迅。でないとおまえは
今回は少し短めです。