「人の話を聞いてたか?負けてやると言ってるんだぞ?」
「関係ねェな、俺は俺のやりたいようにやる」
やはりそう簡単にはいかないか。なら話は早い。
「──―だったら
「言われるまでもねぇ、なッ!!」
お手並み拝見といこう。
「(ヒュー♪早ェ…高速シザースか)オラッ!」
高速で何度もボールを跨ぎ、左、と見せかけて相手が足を出してきたところを右に抜き去る迅。
「あーあーなんか始まっちゃったよ」
「ほっとけ。どっちが負けても変わんねぇよ」
いきなり始まった1対1に困惑するチームメイト達。各々足を止め、これがオニごっこだということも忘れて、2人の対決に注目する。
迅は顔を振り、後方からしっかりとついてきていることを確認。
しかし上手いな……。俺に行かせたくない方向をしっかりと潰しつつ、確実に
「そっちにはなーんもねぇよ?」
「問題ない」
俺は一層強く地面を踏みしめ、蹴っ飛ばす。
「(ここで加速だァ?)行かせるかよ」
左側はすぐ壁。ここで士道もすぐにスピードを上げ、即座に右側から抑え込むように逃げ道を潰す。
逃げ道はもう、どこにもない。
「もーらい」
俺はターンし、ヤツを相手に正面に向き直る。
狙うべきはヤツが飛び込んでくるこのタイミング。
「あ?どこ蹴って──―」
ボールを壁に蹴りだし、さらに自分はボールとは逆方向に
「"1人ワンツー"……!」
「あー、小学校の頃よくやったべ」
抜け出した後にすぐさま振り向くと、ヘラヘラした顔のまま、ついきている。
顔を正面に向き直すと、前方に何人か固まっていた。
「迅さん…上手いっすね!」
「七星、少し邪魔だから向こうの方に固まっててくれ」
「う、うっす!」
聞き分けが良くて助かる。七星の近くにいた数人もそちらの方へとはけて行った。
迅はターンして体を士道の方へと向き直し、体制を整える。
「カモーン♪」
「抜いてみろってか」
いいだろう、乗ってやる。
こういうタイプは純粋な実力で打ち負かして、諦めさせる方が早い。俺はいくつものフェイントを駆使して抜きにかかった。
「いいぞ、
フェイントというものは何もただかければいいというものでは無い。それではある程度の相手には通用しなくなる。
そこには一つ一つ、今から行くぞという強い意志がこもっていなければならない。
「(右と見せかけて左──―からの)こっちだろ!?」
強い意思が乗ったフェイントには
それ即ち、「
「は?消え──―」
足を出してきたところをまたもや一瞬のスキをつき、見後に抜け出す。
よし、次は──―…
「待てよ、オイ」
「!?」
近い。先程よりも明らかに近づかれている。スピードを上げたのか。
これでは追いつかれると判断した迅は、振り切ることを諦めもう一度士道を抜き去ることに目標を
左後方すぐ後ろ。追いつかれたことを確認。
「つっかまーえた」
ヤツの右手が俺の服をつかみ、凄い力で引っ張られる。
すぐさまヤツに背を向けるようにして体を入れ、ボールを1度右足で跨ぐ。
左足で踏ん張って、それまでの勢いを殺し、急停止。土や芝生のグラウンドと違って地面はコンクリ。裸足ということもあって完全には止まれない。
だが、それで十分。
左足をそのまま軸にして──―回転。
完全に抜け出した感触があった。
だが突如、
マズイ。
すぐさま受身を取り、勢いそのままに転がる。見れば士道の足元にはしっかりとボールが収まっていた。
俺はあの時確かに抜け出したハズ。それは間違いない。なのにボールはアイツの足元にある。
なるほど…そうか。
抜かれたと悟った瞬間、素早く身をかがめ、足を目一杯伸ばし、地面に着いた手のひらを軸として回転。根こそぎボールを奪いさる。
「おいおい、今の
「んーギリギリ反則やないよ。ちゃんとボールには行ってたし。それにこの
確かに反則ではない。
だがこんな荒業、たとえ思いついたとしても普通誰も実行しようとはしない。
「無茶をする」
「奪ったから結果オーライじゃん♪」
これで立場は逆転した。普通なら取り返さないところ。
しかし今の俺には明確な目的がある。
ボールを取り返すためヤツと
「くッ!」
「ホラホラ、どうした?取り返してみろよ」
…強い。先程服を掴まれた時から感じてはいたが、
俺も体幹は強い方ではないが、そこらの凡人には負けるつもりはない。
それが、ビクともしない。
仕方なくヤツの股から足を出し、ボールだけでも取ろうとするが、見計らっていたかのように球は蹴り出され、士道はドリブルを始めた。
逃がさない。
俺も後を追い、走り出す。スピードを上げたアイツと今の俺のスピードは
「ギアを上げるか」
地を踏みしめる足により一層の力を込め──―蹴り出す。
「速い!」
士道の背中にグングンと近づいていく迅。もう少しで追いつく距離。
が、ここで気づく。
それは、どこかで体験したことのある
「
意趣返し。見たところプライドの高いヤツのことだ、可能性はゼロではない。
だが、先程とは状況が違う。俺がした"1人ワンツー"は角だったからこそできた技。
今アイツが向かっているのは、壁のど真ん中。
そして士道は1段階スピードを上げた。
「決まりだな」
今ここでスピードを上げたのもそのため。
士道が大きく足を振りかぶるモーションを見せた。
壁当てと見せかけるためのキックフェイント。本命は重心が傾いている──―
「左!」
そうして俺は──―賭けに負けた。
「何…!?」
ヤツはボールをそのまま蹴りあげた。ボールは壁を跳ね返り、俺のはるか後方へ飛んでいく。それまでのスピードを殺し、減速しながらすぐに逆方向へかけ出す体勢へ。
ヤツと俺とでは俺の方がボールまでの距離は短い。もう一段階ギアを上げれば、必ず追いつく。
「あらよっと」
その瞬間、俺は目を見張った。俺の頭上を何かが通り過ぎていく。
壁を蹴って
体操でもやっていたのかは知らないが、明らかに素人に成せる技ではない。
まさに、
「何者だよ、お前」
「俺?最強♪」
◇◇◇
「なんて言うか、アレだよな」
「うん──―バテてきてるね」
1体1が開始してから1分弱。俺はまだ奪われたボールを取り返せていなかった。
理由は単純。俺のDFが
そもそも俺のボールを奪えるやつがほとんどゼロだったからだ。
そしてもう1つが──―
「体力だね」
「何がっすか?」
「迅のことだよ。今の彼には全力で動き続けられるだけの体力が少なすぎるんだ。大して日焼け君の方は少し息が切れた程度、これは勝負あったかな」
荒い息をなんとか落ち着かせようと、必死に酸素を取り込む。
「もうヘタったのか? 根性ねェの」
「……チッ」
返す言葉もない。今まで自分がサボってきたツケが回ってきただけ。
俺は両手を上げ、降参の意思表示をする。
「まいった。降参だ」
「潔良いヤツは好きだぜ」
俺はその場から離れ、壁に背を預けるようにして腰を下ろす。そして士道はそのままリフティングを始めた。
「結局、どーなったんだ?」
「日焼けのヤツが勝って、パーマが負けたんだろ?」
「でもボール持ってんだからアイツがオニだろ? 負けるの日焼けなんじゃね?」
観客となっていたチームメイトが、1体1についての感想を口にする。
「おかしない?」
「おかしい? 何がだべ?」
「(あれだけバチバチにやり合った2人が、はい終わりでこのまま納得するとは思えへん。何より──―目がまだ2人とも獣の目をしとる)」
それを不思議に思い始めたのは、この場で彼ただ一人。
「(思い出し……!この
タイマーが残り10秒を切る。そして、士道はリフティングを止め──―クラウチングスタートの体勢に。
「まさか……!」
やっと1人気づいたか。
息を整え終わった俺は立ち上がり、1度深く深呼吸をする。
「ちょっとマズイかもね……」
「みんな、今すぐ散らばり!!
ようやくヤツの狙いに気づく。
しかし、もう遅い。
「──―狙いは僕たちや!」
「レディ──―GO」
腰を落とし、全身を低く構え、足と同じく左手は前に、右手は後ろに構える。
それは一見すると、居合のような構えにも見えた。
後ろ足の足の裏でひんやりとしたコンクリの感触を確かめる。
「オイオイオイ、こっちきてんぞ!!」
「固まるな、散らばれ!!」
ようやく事態に気づいた選手達が動き出そうとするが、人がひしめき合って思うように動けない。
散らばり始めた頃には、すぐそこまで来ていた。
───残り、7秒。
息を大きく吐き、そして吸う。
感じる。全身に巡る血液を。血を寄越せとうるさい心臓を。
士道はすぐ近くにいた一人にぶつけ──―ることなく、抜き去る。
二人、三人と抜いた先には、遠藤 翼。
「ヒャッハー!!」
「僕かよ……!!」
「翼さん!! 逃げるべ!!」
───残り、4秒。
そのうち何も感じなくなる。
周りの音が消え、静寂が訪れる。
目を見開き、1歩を踏み出す。
必死に避ける遠藤。それを執拗に追いかける士道。
「しまっ……!!」
「1名様
体制を崩し、転んだ遠藤に向け、すかさず大きく足を振りかぶり放った
「あァ!?」
バチィン、という音ともに飛び込んで来た俺の足によって阻まれた。
ボールはフワリと宙に浮く。
────残り、3秒。
「迅ッッ!! ナイス──―」
「ごめんな」
俺は1度着地し、再び
────残り、2秒。
「バイバイ」
俺の放ったボールは、見事に遠藤の顔面を撃ち抜いた。
────残り、1秒。
プァ──────ン
───残り、0秒。