ちょっと時間が空きましたね。
読者の皆さん、おまたせしました。
3日間にわたる体力テストが終わり、最新ランキングを促すアナウンスが流れ、俺たち一同はチームZの部屋に集められた。
「迅さん!! 俺めっちゃ順位上がってるっす!!」
そう興奮した様子ではしゃぐ七星の肩には"275"と表示されている。俺も自分の肩を見るとそこには"274"と表示されていた。
不満はない。体力テストの結果を加味した順位と言われれば、俺には何も文句を言う権利はないからだ。
重要なのはここから。そう自分に言い聞かせる。
"やあやあお疲れ、才能の原石どもよ。
久しぶり聞く絵心の声。その口から今の俺たちの現状が説明された。
この施設は5つの棟で構成させれており、BからZの全25チームが5チームずつに分かれて、俺たちはそれぞれ同じ棟で生活をしている。
オニごっこで各部屋1人ずつが既に脱落しており、残り人数は275人。順位が上がったからと言って浮かれている状況ではない。
チームはランキング順で分かれており、上からBからZまでと並んでいる。つまり、俺たちチームZは5つの棟の中でも最低ランクということらしい。
そして次なる一次選考の内容が発表される。
その内容は、同棟内5チームによる総当たりグループリーグマッチ。
全試合終了時の勝ち点上位2チームが勝ち残り、下位3チームは敗退。
ただし、敗れた3チームにも復活ルールとして全試合終了時点でのチーム内得点王だけが勝ち上がれるシステム。
チームが負けても、自分一人の実力さえあれば上に行けるということか。いかにも
「ポジションとか作戦はどないする?」
ここにいる11人チーム全員がストライカー。それでも誰かがDFやGKをやる必要が出てくるこの試合。話し合いは必要不可欠と判断した氷織が仕切り始める。
「ハーイ。あるぜ? 作戦。それも
ここまで喋ることのなかった士道が、珍しく手を挙げた。
嫌な予感がする。
「一応、聞いておこうか」
「①お前ら全員がオレにボールを集める
②俺が決める。以上♪」
ほら、やっぱりな。
「それ……作戦だべか?」
「というか、士道クンがFW確定なんやね」
「つか何勝手に決めてんだよ!」
「そーだそーだ!!」
七星と氷織もこれには苦笑い。さすがのチームメイト達も、ここだけは譲らないと士道相手に強気で出る。がしかし、やはり相手が悪い。
「ゴメーン聞こえなかったわ。なんか言った?」
容赦なく、チームメイトの顔面を殴りつけた。
「な、何しやがんだテメェ!!」
「
尻もちをついているヤツ目掛けて、踵を頭上高くまで振り上げる士道。
マズイな、コレは止めるべきだ。
「死ね♪」
「や、止め───」
「さすがにやりすぎだ」
すんでのところで踵落としを受け止める。
重いな。コレが直接頭に当たったらと思うと冷汗が出てくる。
「お、ヒーロー気取りか? 天パ」
「今の食らってたらコイツ
「1人や2人いてもいなくても変わんねぇよッ」
俺の顔面目掛けた後ろ回し蹴りを、咄嗟にしゃがんで避ける。
「俺にいい作戦がある」
「ヘェ、聞かせてみろよ」
「あぁ。名付けて───
その場の空気がシーン、と静寂に包まれる。
おかしいな。面白いことは1つも言ってないはずなのに。
「えっと……具体的にどんな?」
「簡単だ。全員が全員自分が点をとるために、勝つために動く。それだけだ」
「あーそうっすね。ハハハ」
(士道さんはわかってたけど、
七星は頭をかきながら笑ってごまかし、何とかしてくれと氷織の方を見るが、お手上げ状態だと首を横に振る氷織。
「つかそんなんで勝てんのか? 作戦でもなんでもねぇじゃねぇかよ」
「サッカーは結局11人の誰かが点を取ればいいスポーツだ。そう意味では元々11人全員がFWだろ? 言ってしまえば、ただそこに役割がついただけだ」
サッカーとは何もFWだけが点とるスポーツではない。フリーキックではMFが、コーナーキックではDFがゴールを決めることなんてザラにある。
「賛成♪ 異論反論があるなら相手になるぜ?」
「……ないみたいだな。とりあえずはこれで行く」
これまでの士道の振る舞いを見てからか、そこから反論するものは現れなかった。
フォーメーションは前線から士道、俺、すぐ後ろに七星と氷織の1ー1ー4ー4。俺と士道がツートップでも良かったが、あちらからしてもこちらからしても邪魔という判断の元、ワントップに落ち着いた。
こちらが入場すると共に、向かいのゲートからも続々と入場してきた。
あれがチームXか。心なしか、1人1人から緊張とも興奮ともとれる顔が見て取れる。貴重な1試合。勿論ここで活躍することが出来れば、
「なんか緊張するっすね」
「大丈夫、大丈夫。リラックスしぃ。リラックス」
「安心しろ。一人一人がやることをやれば必ず勝てる」
お互いのチームがそれぞれ自分のポジションに着く。フィールド全体にピリッ、とした空気が張り詰める。
「やーめた」
「ん?」
この張り詰めた空気の中で間の抜けた声が響く。その声は敵チームにも、こちらのチームにもよく響いた。
「コイツらじゃ俺は全く爆発しねぇ」
「……そ、そうか」
「譲ってやるよ、風早 迅。ただし、負けたら殺す」
「そこは安心しろ。そしてこの試合でもうお前の出番はない」
ハッそうかよ、と士道は笑うとフィールドの外にはけていく。事態の異常さに気づいた両チームがガヤガヤと騒ぎ始めた。
「おい、何やってんだよアイツ!!」
「おい、風早!! アイツ戻らせ───」
「黙ってろ」
迅の一声で、先程までの喧騒が嘘のように場内がシン、と静まり返る。
「俺たちだけでやるぞ。日頃からアイツにはイライラしてんだろ? ここでお前らが点を取りまくって見返してやれ」
その言葉にハッ、とし表情を引き締め直すチームメイト達。もう彼らに雑念はない。頭にあるのは、己がゴールを決めることただ一つだけ。
◇◇◇
"それでは第伍号棟第1試合45分ハーフ
「行くぜぇ!!」
真っ先に飛び出したのはチームZのこの男、
(一番点とったやつが勝つなら
チームのことは二の次。まず自分が上に上がらなければなんの意味もない。
「おい、何やってんだお前!」
「バーカ。よそ見してるお前が悪いんだろ?」
(!……なんだ?仲間割れか?)
相手チームも必死なのだろう。自分が自分がと二、三人がボールをめぐって争っている。
幸い、そっちに夢中でこちらの気配には気づいていない。
「いただき!」
「あ、テメェ!! 返しやがれ!!」
「よそ見してる方が悪いんだろ?」
「そうだな、その通りだ」
運良く転がってきたボールをかっさらい、ドリブル開始しようとするも誰かに阻まれる。
それは紛れもない味方のはずの
「よそ見している方が悪い」
「コノ野郎……!!」
その間にも、敵味方関係なく続々と人がボールに集まってくる。こうなってはもう誰が誰の足かも分からない。
(チッ……邪魔すんじゃねぇよ!!)
その瞬間───櫻井は見た。
(この密集地帯を後手で突破したのか……!?)
そのまま真っ直ぐドリブルで突き進んでいく。後ろに残ってるDFは三人。
まず、1人目。
(右……? いやコッチ──)
遅い。素早いボディフェイントで相手を躱す。生半可な予測と瞬発力ではマッチアップすることすら叶わない。
「仕方ねぇ!! 2人で止めるぞ」
「おう!!」
1人よりも2人が確実と判断したのか、2枚で潰しに来る。1番近いやつが左前に1人とやや右後方に1人。もう少しでぶつかる距離。変わらず彼はスピードを落とさない。
(まさか……突っ込んで来るのか!?)
「
彼が1度重心を左に傾けたかと思うと───2人の間を稲妻が走った。
(
あのスピードからは全く予想がつかない、角度がほとんどないジグザグドリブル。
完全に抜け出したかと思うと、足を大きく振りかぶりそのまま
(コイツ……やべぇ!!)
その男の名を────風早 迅。