風になる   作:猫タクシー

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祝 ブルーロックアニメ化決定 
待ちきれないっすね!


第9話

 

 

 

 

 勝利の余韻に浸る間もなく、チームメイトが一斉に抱きついてくる。

 勝負には必ず勝者と敗者がつきものだ。勝ったものは雄叫びを上げ、負けたものは地に這い蹲る。

 

「礼を言うぞ、氷織」

 迅は氷織の目を見つめて言う。

 

「最後のプレーができたのはお前のアドバイスがあったおかげだ。ありがとう」

「もう…いちいちええよ。改まって言われると照れるやん」

 頬をポリポリ、とかきながら照れを隠す氷織。

 

「思った通りだ、風早迅」

「!」

 

 1人の男がニヤニヤとしながら近づいて来る。士道だ。

 

「最高だったぜ♪お前の爆発。少なくとも今回はお前が主役(スター)だ」

「そりゃどうも」

 それだけ言いたかったのか、スタスタと彼は足早に去ってしまった。

 

「嫌な予感しとったわ、ボケ」

 

 額から垂れる汗を拭いながら、烏は立ち上がる。顔に笑みはない。だが、負けてはしまったものの、彼にはまだ次のチャンスがある。

 

 

"第伍号棟全試合終了。ただいまより一次選考結果発表を行います。"

 

 そうアナウンスが鳴り、最終結果が発表される。

 一位は言わずもがなチームZ。二位はチームV、そして脱落する下位のチームの最多得点者3名の計25名が一次選考突破となった。

 

 

 

 

 

 その日俺たちは勝利を祝した宴会を開いた。数日間とはいえ、ともに生活し、ともに死線をくぐり抜けた間柄だ。そこにはかすかな友情が芽生えていた。相変わらずその輪の中に士道はいなかったが。

 

 チームメイトは緊張の糸が切れた反動なのか、うるさいくらいにはしゃぎ回っている。食事を用意するもの、枕投げをするもの、つまみ食いするものと様々だ。

 とはいえ今日ばかりはこの勝利を噛みしめるのも悪くない。

 

「迅さん、食堂に飲み物あるんでよろしくっす」

「おう、了解」

 

 俺は立ち上がり、食堂へと向かう。

 食堂へ向かう途中である集団とすれ違う。敗退が決定したチームだろう。その誰も彼もが悔し涙を流していた。

 

 思えばここ数日間は目まぐるしい程の展開の連続であった。

 鬼ごっこから始まり、11対11のゲームマッチ。勝てば生き残り、負ければ消える。至極単純明快で、それでも今まで経験したことのない日々に俺は心踊っていた。

 

 だがチームとしては勝ち上がったものの、最多得点スコアでは惜しくも士道に負け越している。心の底から負けだと認めたのは一体いつだっただろうか。

 

 今日の試合を振り返ってみれば、どちらが勝っても本当におかしくはなかった。烏旅人に乙夜影太。彼らのキバ(才能)は確かに俺の首元に届き得た。

 ここにはそんな俺のちっぽけな世界の常識を超えてくる天才たちがまだまだいるのだろう。

 

 食堂に着くと、腕を組み誰かが柱によりかかって立っている。烏だ。

 

「よう天パ、待っとったで」

「こんなところでか」

 

 まぁそれはえぇやんけ、と腕を解きこちらに向かって歩いてくる。

「オマエに1つ聞きたいことがあってん」

「何だ」

 

 体に触れる距離まで来ると、目と鼻の先まで顔を近づけ、途端に真剣な表情になる。

 

「確かにオマエはこれまで左でしか蹴ってへんかった。でも今日の最後の右足の蹴弾(アレ)。単刀直入に聞くわ───手ェ抜いてたやろ?」

 

 嘘をつくことは許さないというかのように、顔を覗き込んでくる。その雰囲気はあの戦場で感じたものと何ら遜色ない。

 

「忘れてたんだ」

「なんやと?」

「元々右利きだったんだが、ある日左足でしか蹴らないっていう縛りをつけたんだよ。そしたらいつの間にか左で蹴るのに慣れてな。右利きっていうのをあのタイミングで思い出した」

 

 これは事実だ。あの局面、あの激しい戦いの中で烏に左のコースを切られたことにより、ふと自分が右利きであることを思い出した。

 だから、蹴った。

 

(俺の勘違い、か?)

 そういうと烏の剣呑な雰囲気は元に戻り、彼は身を引いた。

 

「まぁええわ。聞きたいことは聞けたし、俺はもう帰るで」

 そう言いたいことだけ行って、彼は背を向き歩き出した。

 

「次戦う時はお手柔らかに頼むぞ」

「アホか、こっちから願い下げや」

 

 シッシッ、と追い払うように手を振ると烏は闇の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 翌日。すぐに二次選考が始まるかと思いきや、開始するまでの待ち時間でフィジカルトレーニングを行うこととなった。なんでも俺たちより上の壱号棟では最新のフィジカルトレーニングを行っているらしい。大して俺たちはボールは一切使わず、ただただ体力をつけるために己を痛めつける。それはまさに、体力の少ない俺にとって地獄と言ってもいい。

 

 しかし、これをこなしきることができれば俺の体力は全盛期近くまで戻るだろう。『全力』で走ることが出来る。それが何よりの楽しみだ。

 

 何日続くかも分からないトレーニングに必死になって食らいつくチームメイト達。時に争い、時には助け合いながら彼らは努力し続けた。

 

 そして地獄の日々はようやく終わりを迎えた。

 

"只今をもちまして、青い監獄一次選考全棟終了となりました。クリアした者は速やかにトレーニングスーツ着用のうえ、各棟中央エリアへへ集合しなさい。繰り返します──…"

 

「終わった…」

「やっとかよクソが!」

 

 続々と体を起こし始める彼らはまさに満身創痍といった様子。かく言う俺も睡眠をとったとはいえ、完全に体力を回復しきれてはいない。

 

 しかし俺たちにとってそんなことは些細なことでしかない。

 俺が勝つ。俺が生き残る。

 それ以上に次にせまる二次選考にみな期待が膨らんでいた。

 

 中央エリアへと足を運ぶと、もうそこには既に別の棟からのクリア者達が集まっていた。しかし、彼らの様子がおかしい。

 

「なんか、バテバテじゃないっすか?」

 

 最高の環境でトレーニングし続けていたはずの彼らが、ヘトヘトになっている。彼らの腕に表示されているランキングを見て、迅はすぐに合点がいった。

 

「…やられたな」

「みたいやね」

「どういうことだべ?」

 

 勝手に納得する迅と氷織に七星が疑問を投げかけようとしたところで、アナウンスが入る。

 

"やぁやぁ才能の原石どもよ。フィジカルトレーニングおつかれ"

 

 そして絵心の口から、この青い監獄には元々伍号棟しか存在しておらず、壱・弐・参・肆号棟など存在していないという衝撃の事実が伝えられた。

 俺たちはありもしない上の存在を目指して、バカみたいに戦っていた。全ては絵心の手のひらの上だったというわけだ。

 

 当然、そのことに怒りと不満をぶつけるクリア者達。しかし、すぐに絵心は彼らを黙らせた。

 

 世界一になるための"饑餓(ハングリー)"。日本という生ぬるい国で、それを手に入れるための施設がここ、青い監獄だと。それが世界を変えるためのエゴになると彼は言う。

 

"さぁ、二次選考と行こうか"

 

 絵心の口から、次なる試験の内容が言い渡される。

 

"お前らがここまで戦った一次選考はストライカーとして『0』を『1』にする戦いだった。ここからは最新鋭のトレーニングで己の『1』を『100』に変える戦いだ。"

 

 彼によると、どうやら二次選考は全部で5つのステージからなっており、クリアした者のみが次のステージにあがることができるらしい。そして最終ステージに到達したあかつきには、彼が選抜した世界トッププレイヤーとの強化合宿に参加する権利を得るとのこと。

 

「世界か」

 

 これまで考えたこともなかった、世界との会合。膨らむ期待を抑えきれない。一体、どんなヤツらが待っているのだろうか。

 

"ウォームアップは自由にしろ。心の準備ができたものから1人でその門の先へ進め。1stステージは個の戦い。1度入ったらもう戻れない"

 

 ステージが5つまであるのだとしたら、その難易度は徐々に上がっていくと見ていいだろう。

 だが、この1stステージすら突破できないようでは、2ndステージに進まなければ、隣のライバルとの再会はない。これ以上サッカーを楽しむことも出来ない。

 俺の未来(サッカー)は、ない。

 

 説明が終了し、1stステージは開始の合図がなる。しかし、躊躇して誰もゲートに向かおうとはしない。

 みな、ほかの挑戦者の様子を伺っているのだろう。数分の膠着状態が続く。

 果たして、それは1人の男によって破られた。

 

「あ、誰か行くみたいだべ」

 

 七星の見る方向へ目をやると、彼はボールをカゴから2つ取り出した。どうやらウォーミングアップをしようとしている。

 足の裏でボールの感触を確かめたかと思うと、助走をとり、そして蹴った。

 

 ボールの下をすくい上げるようにフワリ、と球が浮いた。空高く放たれた球は柔らかく高軌道を描き、そして落下を始める。

 そして、もう一度助走をとると───蹴る。

 

 ボールの芯を捉えた音が耳に飛び込んできた。先程の優しいキックとは違い、今度は低軌道の曲軌道(スピンカーブ)

 後から放たれたはずのそれは、空中で落ちてくる真っ最中の1球目に見事直撃した。

 

「上手い」

 

 思わず声が漏れた。周りのライバル達も只者ではない芸当に圧倒させれている。

 

「開けろ。準備運動は終わりだ」

 

 予想通りと言うべきか、美男子な見た目にぴったりな少し高めの声で彼は宣言した。門が開きスタスタ、と入って行く。

 扉が閉まるとモニターには『糸師 凛』という名前が表示された。

 糸師…か。さすがの俺でも聞いたことがある名前だ。まさか、そういうことなのだろうか。

 パン、と背中を叩かれた。

 

「震えてるで、迅くん。大丈夫や、なんも心配せんでえぇ」

「そうッスよ。予選一位で突破した俺たちなら、なんとかなるべ!」

「…そうだな」

 

 二人は俺を勇気づけるよう、そう声をかけてくれる。震える拳を見つめながら、ギュッと握りしめる。

 だが氷織。俺は別に"緊張"しているわけじゃない。

 

 そうこれは───武者震い。

 

 いた。やはりいた。彼の全てを見なくとも、ひとつのプレーではっきりとわかった。そしてあの綺麗なキックフォーム。

 彼もまた、その部類の1人だ。

 この先に進めば、彼のような天才たちとサッカーができる。

 

「よし、行こう」

 

 胸のワクワクを他人に知られないようにしながら、続々と挑んで行く挑戦者の後に俺もつづいた。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「何言ってんだよ、イガグリ。思い出せよ。チームV戦のこと」

 

 同時刻。ここにもまた、ひとつの戦場を生き残った男たちがいた。

 1人の天才の実力を目の当たりにして、自信がなくなりかけていた男たち。

 そんな彼らに、潔 世一(いさぎ よいち)は呼びかける。

 

「ヤベェのは俺らだって同じだろ」

 

 そうして彼らのひとりが自分の熱いプレーを語り出すと、それに同調するかのように皆、己がプレーの凄さを訴えだした。

 彼らの中に、もう先程までの迷いはない。手と手を組めるのはここまで。

 ここから先は正真正銘、一人きりでの勝負。

 

「青い監獄の先で会おうぜ」

「「「オオオォォ!!」」」

 

 円陣をといて、1度周囲を見渡す。ウォーミングアップをしている者、ゲートに入っていく者がちらほらといる中、1人の男が潔の目に止まった。

 

 言葉にどう表せばいいのだろうか。

 まるで───檻から野生の獣が解き放たれたかのような、そんな感覚。

 

「早くしよーよ潔」

「鉢楽。アイツ、どう見える?」

「んー?どれどれ」

 

 彼の足元にはボールが2個。そして、動き出した。1発目に左足で放たれたのは()()()()()()()()()()()()()。これで終わりかと思いきや、すぐさま二発目の助走をとる。彼の目線の先にあるのは、未だ落下途中のボール(1発目)

 

「まさか…!」

 

 次いで放たれたのは、()()()()()()()()()。そして、2つのボールは当たり前かのように直撃し、地面に落ちた。糸師凛と全く同じ芸当をしてのけたのだ。

 

「見てたか?」

「えぐいね…しっかり狙ってた。しかも気づいた?さっきの凛ちゃん(アイツ)は2発とも右足だったけど、あの天パ。1発目は左足で、2発目は右足だった」

「!?」

 

 つまり、彼は両足とも糸師と同じくらいの正確無比なキックを放てるということ。

 改めて痛感させられる、この施設(青い監獄)のレベルの高さ。

 

「風早 迅、か」

 

 ゲートにそう表示された名前を、潔は強く頭に刻み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 






やっと主人公君たちに追いつきました…。
まぁでも一緒にプレーするのはまだ先かも?
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