トレセン学園の昔ばなし 〜TTGと呼ばれた世代〜 作:キングコングマン
トレセン学園の一角、西陽の差す生徒会室の机上で、一人のウマ娘が書類に目を通しながら業務をこなしている。
座っていながらも背筋を伸ばした乱れない姿勢。茶褐色ベースの髪の色に、三日月の様な白い前髪がトレードマークのウマ娘だ。
生徒会室には彼女以外誰も居ないと言うのに、彼女は気でも張っているかの様に凛と佇み、隙を見せる素振りをしない。
それは彼女、シンボリルドルフが"皇帝"と呼ばれるその生き様を、そのまま映している様だった。
「……そろそろだな……」
ふと、ルドルフの口からそんな独り言がポツリと出る。時計の針は丁度16時を回ったところであり、彼女は今やっている書類業務を一旦切り上げて席を立った。
今日は客人が来る予定なので、書類を片付けて迎え入れる準備をしなければならない。
書類を片し、客人の為にお茶と茶菓子を用意する。すると、生徒会室の扉が3度、ノックされた。まるで図ったかのようなタイミングだ。
「どうぞ、お入り下さい」
ルドルフが入室する様に促すと扉はゆっくりと開かれる。彼女の目の前に現れたのは黒のスーツを着た、スラッとしたまるでモデル体型の様な女性だった。明るい栗色の髪の毛に、ルドルフと似た様な白い前髪を持っている。
そしてその頭には、一目でウマ娘とわかる様なピンと立った耳があった。
「やほー。久しぶり、ルドルフ。元気にやってた?」
スーツの女性は、朗らかに笑って軽く挨拶をする。
トレセン学園の後輩から常に畏敬の念を抱かれているルドルフにとってこの様にフランクに話しかけて来る者など限られて来る。普段から他の者と堅苦しいやり取りになる事が多いルドルフにとって、彼女の軽い態度は少し心地の良いものだった。そう言うこともあってか、ルドルフから笑みが溢れる。
「ええ、おかげさまで。"先輩"も元気そうで良かったです」
ルドルフから先輩と呼ばれたスーツの女性は少し恥ずかしそうに頬を掻いた。
「先輩はやめてよ。もう私も卒業したんだしさ」
「私がそう呼びたいんです。迷惑ですか?」
ルドルフの直接的な言葉に、スーツの女性は堪忍した様な顔になる。
対してルドルフは余裕綽々。どうやら一本取られたらしい。そう言われては断り辛い。
「……そう言うところは相変わらずな様ね。私としては嬉しいけど」
そう言ってお互いに笑う。そのやり取りは旧知の仲がやる様な、遠慮の無いものに見えた。
「お茶とお菓子も用意しました。長話になりそうなのでどうぞ、席に座ってください」
ルドルフにそう言われて、スーツの女性は生徒会室に設けられた来客用のソファーに腰掛ける。何もかもが完璧な準備。スーツの女性はそれを目の当たりにして苦笑いになる。
「……ホント、隙のない後輩ね」
普段の生徒会長としての激務をこなしながらこの対応の良さだ。それだけでもシンボリルドルフと言うウマ娘が、要領の良い娘なのだと実感出来る。
スーツの女性は彼女の生徒会長としての想像以上の実力に内心、驚嘆していた。
自分が生徒会長だった頃は、もっと慌しくやっていた記憶がある。
「ふふっ、褒め言葉として受け取っておきますよ。"テンポイント先輩"」
ルドルフはスーツの女性に対して、薄く笑ってそう言った。
シンボリルドルフへの来客、それはテンポイントと言う名のウマ娘だった。ルドルフから先輩と呼ばれている彼女だが、もうこのトレセン学園を卒業し、現役を引退している。学園に所属していたと言う事は無論、彼女もルドルフと同じ様な競技者であったということだ。
そして皇帝と呼ばれるルドルフが尊敬する、数少ない女傑の1人でもある。
「この生徒会室も懐かしいわねー」
ソファーに座り、室内をぐるりと見回したテンポイントからそんな言葉が出る。
「先輩が生徒会長だった頃からほぼ変わってないですよ」
テンポイントがトレセン学園を卒業してからまだそんなに時は経っていないが、それでも母校に来た時は懐かしさを感じるものなのだろう。感慨深そうにあちらこちらを見回している。
「それで、良いウマ娘は見つかりましたか?」
すると、ルドルフから真面目な口調でそんな言葉が出た。テンポイントが生徒会室を訪れた理由。本題に入るのだ。
「うん、3人ほど」
対してテンポイントも真面目な口調でそう返し、バッグの中から書類と3人のウマ娘であろう写真を取り出した。
「二人は未デビュー、一人は地方の娘よ」
彼女、テンポイントの今の仕事はウマ娘のスカウトだ。まだどこの学園にも所属していないウマ娘や、地方で燻っている原石を見つけ出し、中央のトレセン学園に誘う。その報告にテンポイントはルドルフの元へと訪れたのだ。
彼女が引退した際、ルドルフの強い要望により今の仕事に就く事になった経緯がある。
テンポイントの報告を聞くと、ルドルフは薄く笑顔になった。
「そうですか。先輩の目利きなら、間違いは無さそうです」
「もう、褒めすぎよ」
「それで、どんな娘たちなんですか?」
「ああ、まずこの娘は……」
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その後も会話が続く。一通りスカウトして来た娘達の話を終えると、テンポイントは少しぬるくなったお茶を一口飲んだ。
「まあ、こんなものね」
「……良いですね。3人共磨けば良くなりそうです」
「それはトレーナー次第ってところかしら?とりあえず報告は終わりよ」
時間はまだ16時20分。テンポイントが入室してから15分と経っていない。元々長話をするつもりでいたルドルフにとっては少し拍子抜けだった。
もう少し尊敬する先輩と喋っていたいと言うのが、ルドルフの本音だ。
「話は変わるんだけど、エアグルーヴちゃんとブライアンちゃんは元気?」
すると、テンポイントの方から現生徒会の名前が出て来た。彼女もまだ喋り足りないと言った感じだ。
「ええ、二人とも少し頭が固い部分はありますが、上手くやってますよ」
「そう、良かった。グリーンとトウショウみたいに毎日喧嘩って事はなさそうね」
「……あれは喧嘩というか、グリーングラス先輩がトウショウボーイ先輩に突っ掛かっていただけだと思いますけどね………」
ルドルフが苦笑いになってそう返す。グリーングラスとトウショウボーイ。その2人も、トレセン学園を卒業している。
ルドルフの言葉にテンポイントも色々と思い出したのか、楽しそうな口調になる。
「そうそう!あの二人ったら中等部の頃からそりが合わなくてねー。私も苦労したんだよー」
まるで昔話を嬉々と語るお母さんの様だ。しかしルドルフにとっては初耳の単語が出てきた。
「へぇ、中等部の頃からですか。かなり付き合いが長いんですね」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「ええ、私がトレセン学園に入学した時は、もう三人とも高等部に居ましたから」
テンポイント、グリーングラス、トウショウボーイ。3人共ルドルフが尊敬する先輩のウマ娘達であるが、中等部の頃からの付き合いだとは知らず、驚いた表情を見せる。
「あー、そっかー。まあルドルフが生徒会に入った時はあれでも大分大人しくなった方なんだけどねー」
「あれでですか……」
テンポイントの昔話に、ルドルフも興味津々に耳を傾ける。
ふと、ルドルフは気になった。このテンポイント、トウショウボーイ、グリーングラスは学園内でも有名な3人だ。彼女達がまだ現役であった時、3人のイニシャルをそれぞれ取って"TTG"と呼ばれ、当時のURAをかなり盛り上げていた。それに彼女達は3人とも生徒会に属していたのだ。ルドルフが生徒会に入った時、テンポイントが会長でトウショウボーイが副会長。グリーングラスが書記と言った感じだった。
どの人もルドルフがお世話になった先輩。今でこそ皇帝と呼ばれている彼女だが、最初からそうだった訳ではなく、この3人から学んだ事も多い。しかし、彼女達の過去についてはルドルフも余り知らない。
TTGと呼ばれ、3強と謳われた彼女達の"過去"に、興味が湧いて来たのだ。
「……先輩、まだ時間は大丈夫ですか?」
「ん?大丈夫だけど、ルドルフはいいの?」
「ええ、あと少し書類仕事をこなせば終わりですから」
「そう。それで、まだやる事あったっけ?」
テンポイントは何かやり残した事があったかと腕を組む。
「いや、そんな大した事では無いんです。ただ……」
「ただ?」
そこでルドルフがひと息つくと、何かを期待する様な目線をテンポイントに送った。
「ちょっと、昔話を聞きたくて」
これは、TTGと呼ばれた、3人のウマ娘の昔話。
敬語のカイチョーって、違和感半端ない