トレセン学園の昔ばなし 〜TTGと呼ばれた世代〜   作:キングコングマン

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第九話

 

 「とりあえず、テンポイントは併せウマは初めてだったな」

 

 「え?、はい」

 

 その後、ターフに戻り、併せウマのトレーニングをする為に準備運動をしてたところ、沖野がテンポイントにそう話し掛ける。

 

 「じゃあ、まずは軽く、彼女の横を走ってくれ。テスコガビーもそれでいいか?」

 

「は、はい……」

 

 未だに沖野とテンポイントに慣れないのか、気弱そうにテスコガビーはそう頷く。

 聞くところ、彼女はもう何回かこのトレーニングをやっている様で、それならばと胸を借りるつもりでテンポイント駆け引きを覚えさせようというのが、沖野の狙いだった。

 レース中は逃げでも無い限り、他のウマ娘を気にしながらのレース運びになる。ここ数週間、沖野がテンポイントを見てきて逃げの体質では無い事は分かっていた。

 このテスコガビーがどの程度のウマ娘なのかは未知数だが、体格を見る限りスタミナはありそうだ。

 なのでテンポイントとしてもいいトレーニングになるだろうと言うのが、沖野の見立てだった。

 

 「よし、じゃあ、そろそろ始めるか!」

 

 各々の準備体操も終わり、沖野の掛け声と共に2人ともスタート位置に小走りで向かう。

 初めて実践形式に近い形でトレーニングを行うので、テンポイントも少しばかり緊張していた。

 

 「よ、よろしくお願いします。テスコガビーさん」

 

 そして、テンポイントが少し緊張気味に自分の前を走るテスコガビーに対して、再度挨拶をする。

 

 「よ、よろしくお願いします……」

 

 そしてテスコガビーも、固い表情のままテンポイントにそう返した。

 

 

 

 1本目の併せウマは、軽く行い、2本目3本目と、徐々にスピードを上げていった。

 やはりテスコガビーはその体格の良さから、スタミナも足も十分な様だ。本気は出していないとは言え、テンポイントのペースに楽々と着いて行っている。

 

 「ふっ、ふっ、ふぅ……結構慣れてきましたね……」

 

 そして、併せウマの3本目が終わり、帰って来たテンポイントが軽く息を整えながら そんな事を呟く。

 今まで一度も他のウマ娘と並んで走る事は無かったが、意外にも呑み込みが早かった。

 

 「どうだ?並走した感想は?」

 

 「意外と苦じゃ無いですね。寧ろ闘争心に火が着くと言うか……」

 

 沖野に感想を聞かれ、楽しそうにそう返すテンポイント。偶にこの併せウマが嫌いと言う子も居るが、テンポイントは中々に楽しんでいる様だった。

 やはり適正は逃げでは無さそうだ。

 

 「は、速いですね。テンポイントさん。私も少しペースを上げてしまいました」

 

 すると、テスコガビーがそんな事を言ってきた。彼女は驚く事に、息が全く乱れていない。鋭い加速は無いが、スピードが全く落ちないのだ。こんな無尽蔵のスタミナを持つウマ娘が、一体どこに隠れていたのか。

 

 「結構慣れて来ましたね。もう一本やりますか?」

 

 テンポイントは得意げな表情で、沖野に対しそう聞く。ここまで、軽く感触を確かめる様な併せウマのトレーニングをした。もう一本やっても良いと沖野は思ったが、確かトウショウボーイは、このウマ娘の事を"逃げ足の早い子"と言っていた。

 そしてその事を踏まえ、沖野はある事を思いつく。

 

 

 「……よし、じゃあ次はレース形式でやってみるか?」

 

 

 テンポイントの脚質は差し。テスコガビーの脚質は恐らく逃げ。なら異なる脚を持つこの2人で、好きに走らせてみようと考えたのだ。

 

 「れ、レース形式ですか?私は良いですけど……テスコガビーさんは……?」

 

 「わ、私は賛成です。テンポイントさん、かなり早かったですし」

 

 すると、意外にもテスコガビーはレース形式のトレーニングに乗り気な様だ。

 気弱そうな性格から、遠慮するかと思っていたのだが。しかし、それなら都合が良い。

 

 「じゃあ、やってみるか。俺がスタートの合図をするから、とりあえずぐるっと一周、走ってくれ」

 

 そして、沖野は再びストップウォッチをリセットし、2人に向かってそう言う。まだ少し早い気もするが、テンポイントにとっては駆け引きの勉強にもなるだろう。

 

 

 「ええ、よろしくお願いします」

 

 

 すると、先程の気弱そうな声から一転、何処か落ち着いた様な声でテスコガビーはそう返してくる。

 あれ?、さっきまでずっと気弱そうな声だった筈なのだが……

 

 「今度は全力で行きますよ?」

 

 そして、テスコガビーはテンポイントの方を向き、自信に満ちた声色で続けてそう言う。

 何だこれは?、これが本当にさっきまで常時眉毛をハの字にしていたウマ娘だろうか?さっきの気弱な態度とはまるで違う、あまりにも真逆な発言に、テンポイントは面を食らっている。

 表情は落ち着き、リラックスしている顔つきで、レースと言う言葉を聞いた瞬間、明らかに雰囲気が変わった。先程はそのグラマラスな体が見かけだけのものかと思っていたのが、今はそれがさらに大きく見える様な威圧感を。テスコガビーは放っている。

 

 「と、とにかく、始めるぞ。そこのゴール板から丸々一周、右回りの2000メートルだ」

 

 そんなテスコガビーの代わり様に困惑しながらも、沖野は説明をする。雰囲気だけでも、彼女が尋常じゃない走りを見せるのは直感で分かった。

 

 

 

 「……じゃあ、行くぞ」

 

 沖野がそう声を掛けると、テンポイントとテスコガビーはスタートの構えをする。そして「よーい」と、沖野が声をかけて一拍置き……

 

 

 「スタート!!」

 

 

 その掛け声と共に、2人は勢いよく走り出した。

 まずハナを取ったのは、テンポイント。やはりスタートが良い。坂路で最初に見た時から沖野は思っていたのだが、彼女は反射神経がズバ抜けている。

 先頭に立ち、このまま自分のペースでレースを進めようと言う魂胆だろうか。

 対して少し遅れたのは、テスコガビー。トウショウボーイから逃げのウマ娘とは聞いていたが、スタートはそれほど得意では無さそうだ。

 

 「!?、な!?」

 

 直後、沖野が驚きの声を上げる。スタートが遅れたテスコガビーが、かなりのハイペースで飛ばし始めたのだ。

 これからペースを作ろうとしていたテンポイントの横を、我が物顔で抜き去っていく。

 正に逃げウマ娘の正攻法であるのだが、それにしてはペースが早めだ。

 

 「逃げって聞いてたが、あれは……」

 

 早い。しかし後半には確実にスピードが落ちる。

 新人トレーナーである沖野の目から見ても、それが明白にわかる様なオーバースピードだった。

 

 問題はテンポイントがそれに釣られないかだが……

 

 「!?、こんのっ……!!」

 

 案の定、差を離されない様に、自分のペースを崩してまでテスコガビーに着いて行ってしまった。まあ、これはある意味仕方がない。テンポイントはまだレースを経験してないルーキーで、レース中の駆け引きなどは覚えてる筈もない。だが、逆にテンポイントに逃げの特性があるかを見極められるチャンスでもあると、沖野は睨んでいた。

 そして、第一コーナーから第二コーナーを、2人並んで抜ける。沖野がストップウォッチを確認すると、やはり平均よりかなり早かった。

 このまま刻めば、今日の芝2000メートルのトップタイムを大きく塗り替える速さだ。

 テスコガビーをの走りを見てみると、その大きな体を活かし、歩幅を大きく取る走り方をしている。所謂、ストライド走法と言うやつだ。

 だがそれ以上に、フォームに無駄がなさ過ぎる。

 一歩一歩しなやかに、それでいて飛び跳ねる様に走るその様は、彼女のグラマーな体躯と合わさって美しさを感じる程だ。

 

 全てを置き去りにする様な、圧倒的な"美"を感じさせる走り。

 

 テスコガビーと言うウマ娘に抱く感情は、正にそれだった。

 そしてバックストレートを超え、第三コーナーに差し掛かる。ペースは変わらない。悠々と逃げるテスコガビーに対し、テンポイントが必死に喰らいつく。

 真価が試されるのは、ここからだ。

 テスコガビーがこのペースをどれ程維持出来るのか、それにテンポイントは着いて行けるのか、それとも、2人同時に失速するのか。

 

 「ふっ……!!ふっ………!!」

 

 テスコガビーの表情を見ると、やはり序盤にハイペースで走ったからか、息が上がり始めていた。

 しかし、お見事と言う他ない。息が上がりつつもその美しいランニングフォームは崩れる事なく、視線も真っ直ぐゴール版を見つめている。まるで私の前に誰も居ない景色が正しい世界だと言わんばかりの、自身に満ち溢れている表情だ。

 

 「はぁ……!!はぁ……!!……っぐっ……!!」

 

 そして対照的なのは、テンポイント。息も大きく乱れ、疲れからかフォームが崩れ頭が上下し、苦しいと言う感情が顔にそのまま出ている。

 そんな状態のまま、第四コーナーを抜けて最後の直線。やはりと言うべきか、徐々にテスコガビーとの差が離れて行った。

 

  「やっぱり、逃げるタイプじゃ無いか」

 

 この事をある程度予測していた沖野が、苦笑いになってそう呟く。しかし、収穫はあった。

 やはりテンポイントは、差しの脚質なのだろうと。

 このレースを見ている人がいれば、誰もがテスコガビーの勝ちを確信しただろう。現に彼女は余力を残し、対する相手はグロッキー寸前だ。

 テンポイントをこれまで見てきた沖野でさえ、そう思っている。

 

 

 しかし、このテンポイントというウマ娘は、そんなフィジカル的な能力とは別に、"特別な才能"を持っていた。

 

 

 「……っらああああ!!!」

 

 

 甲高く、突き刺す様な叫び声がターフに響き渡る。何事かと、ずっと前を向いていたテスコガビーが、後ろを見やる。

 

 「誰が無理なもんかぁぁああああ!!!」

 

 そこには必死の形相でテスコガビーに追い付かんとする、テンポイントの姿があった。

 そして、一歩二歩と、動かなくなって来た足を無理矢理前に出す様に、テンポイントは極端な前傾姿勢を取った。

 

 「はあ!?あそこから加速すんのか!?」

 

 そんな叫び声を上げたのは、沖野だった。

 

 驚く事に、あの状態からテンポイントが盛り返して来たのである。

 

 このレース、実力で言うなら、テスコガビーの方が一枚も二枚も上手だった。生粋の逃げウマ娘である彼女に、テンポイントは無理矢理着いて行ったのだ。逃げウマ娘に対し相手の土俵で戦う程、無謀な事はない。

 現に、無理にペースを合わせた代償としてテンポイントは息も絶え絶え、残りの直線が持つとは思えない。

 

 しかし、その目はギラギラと、目の前を走るウマ娘を見据えている。

 

 「っ!!……ふぅっ!!!」

 

 そんなテンポイントを目の当たりにしたテスコガビーが、再び足に力を入れる。

 

 "このままでは抜かれる"

 

 他でもない彼女自身がそう直感したのだ。しかし、テンポイントは離れない。

 フォームはバラバラ。息も絶え絶え。しかし目は死んでいない。いつしか必死に逃げるようになっていたテスコガビーに、前傾姿勢を崩さず死に物狂いで追い縋る。

 

 「はっ!!こりゃあ良いものを見た!!」

 

 そして、そんな光景を見て喜びの色を隠そうともせず、沖野が歓喜の声を上げる。

 彼にとってテンポイントというウマ娘は、確かに才能のあるウマ娘だ。しなやかなトモ。ロケットスタートを決めれる程の反射神経。

 これだけでも、G1を取れる素質は十分にある。しかし、それだけでは勝てない。

 

 レースは、"実力と運の世界"とよく言う。

 正直、実力が備わっているウマ娘は、このトレセン学園にはごまんと居る。

 

 ならば、もう一つの要素、"運"を味方に着けるには、どうしたら良いのか。

 

 

 「誰が負けるかああああ!!!」

 

 

 それは、闘争心だ。拮抗した実力、そこから勝利に繋がる"運"の要素は、神様がくれるものではなく、自身で手繰り寄せるものなのだ。

 自分は負けない。自分が絶対に勝つ。その信念の元に、どれだけ不利であろうと、どれだけ苦しくあろうと、最後までもがく。

 テンポイントの走りの本質は、ここにあるあのだ。

 

 「はぁ……、はぁ……!!!」

 「うおりゃあああああ!!!!」

 

 とうとう息が切れたテスコガビーに対し、破裂しそうになる心臓を奮い立たせる様に、テンポイントは叫ぶ。

 遂に並んだ。あの絶望的不利な状況から残り100メートル、正にデッドヒートだ。

 その場にいた誰もが、このレースに注目している。沖野も、その姿に釘付けとなっていた。もはやストップウォッチなどを確認するはずもない。

 そして、熱いものが込み上げるのを我慢できず、彼女に負けじと大声を張り上げた。

 

 

 

 「差せ!!!テンポイント!!!!」

 

 

 

 その直後に入線。勝ったのは___________

 

 

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