トレセン学園の昔ばなし 〜TTGと呼ばれた世代〜   作:キングコングマン

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第一話

 時は遡って数年前。トレセン学園の正門前には淡い紫の色を基調とする制服を着た一人のウマ娘が歩いている。学園の制服を着ているのでこの学舎の生徒な事には間違いが無いのだが、その面持ちはどこか緊張しているようで歩き方がぎこちない。

 

 「あ、待っていましたよ!貴女がテンポイントさんですね?」

 

 すると、そんな彼女に、緑の制服と、緑の帽子を被った女性が話しかけた。

 

 「は、はい!貴女が駿川さんですか?」

 

 テンポイントと呼ばれたウマ娘は緊張からか返事が少し裏返ってしまった。このウマ娘、テンポイントは憧れのトレセン学園からスカウトに掛かり、関西から上京して来たと言う娘だ。しかし中央の煌びやかな世界に自分も飛び込めると言う事実に、相当緊張してしまっていた。

 

 「はい。このトレセン学園を案内します駿川たづなです。ふふっ、そんなに緊張しなくて良いですよ?気軽にたづなって呼んでくださいね?」

 

 たづなさんにそう言われてテンポイントもいくらか心が落ち着く。編入手続きも終わり、遂に中央での闘いが始まると思えば気が気では無いと言うのもあったので彼女の優しさは心に染みた。

 

 この少し気が弱そうな身長の高いウマ娘は、今日から憧れの日本ウマ娘トレーニングセンター学園。通称トレセン学園の中等部の生徒となる。

 

 「あ、ありがとうございます。たづなさん。よろしくお願いします」

 

 テンポイントはペコリと、深く頭を下げる。素直で頭の良さそうと言うのが第一印象のウマ娘だ。

 しかし何処か遠慮があり、地に足がついて無いようなフワフワとした印象もあった。

 

 「はい、こちらこそよろしくお願いします。……早速ですが、ある場所に行ってみましょう。もうすぐ始まりますので」

 

 すると、それを見たづなさんは何を思ったのか、そんな提案をして来た。

 

 「ある場所?」

 

 たづなさんの提案にテンポイントは首を傾げる。

 

 「ええ、面白いものが見られますよ」

 

 対してたづなさんは含み笑いをして、テンポイントをある場所へと連れて行った。

 

 

 _____________

 

 

 「ここって……」

 

 テンポイントが連れてこられたのは学園内では無く、隣に併設された府中競馬場。言わずと知れた中央のレース場であり、数々の名勝負が生まれてきた、ウマ娘にとっての憧れの場所だ。

 メインスタンドには沢山の人が押し寄せ、皆自分の応援するウマ娘に声援を送っている。

 会場の熱気は最高潮に達し、独特な雰囲気を放っていた。

 そう、テンポイントがトレセン学園の門を叩いた時期は、これからレースが始まろうと言うタイミングだったのだ。

 

 「今日は年に一度の日本ダービーの日です。まずはウチの生徒達がどのような走りをするのか、見てもらいましょう」

 

 たづなさんの狙いはトレセン学園のウマ娘がどの様な走りをするのか見せると言ったところ。所謂"見て学べ"と言うものだが、それにしては舞台が大き過ぎる。G1という最高峰の格付けで行われる日本ダービー。それはこのトレセン学園に属する選ばれし者達だけが出られるレースであるのだ。

 

 つまり、中央で生き残るためには、今から出走するウマ娘達と同等の走りをしなければならない。 

 テンポイントは生唾を呑む。

 

 この中で私は活躍する事が出来るのだろうか?

 

 まだフワフワとした感情のままだった。

 

 『天気も良く晴れて、府中の上空は青々としています』

 

 すると、場内アナウンスから実況の声が聞こえて来た。

 

 『選ばれし数少ないウマ娘達、最も運が良いウマ娘が勝つと言われるこの日本ダービーですが、勿論実力も必要です』

 

 コースを見やると、ゲートに次々とウマ娘が入って行くのが確認できた。

 誰もかも、十分に気合の入った表情をしている。

 

 『各馬ゲートに入ります。注目はやはりこれまで10戦無敗のハイセイコー。地方から殴り込みを掛けて来た彼女。無敗の三冠ウマ娘への期待が高まります』

 

 "ハイセイコー"

 

 実況がそうアナウンスしたウマ娘の名前。テンポイントも彼女の名前はよく知っている。なんでも地方からやって来た怪物ウマ娘として、メディアでも大々的に放映されるほどの人気のウマ娘だ。

 スタンドから送られる声援も彼女への物が殆どであり、正にアイドルのような扱い。その熱気にテンポイントも少し参ってしまう。

 そんな彼女は、ゲートインする間際に、観客に向かって軽く手を振った。それだけで大きな歓声が沸き起こる。

 

 「相変わらずハイセイコーさんは凄い人気ですねー」

 

 隣に居るたづなさんは感心したようにそう呟く。そりゃあ、地方から颯爽と現れて連勝に連勝を重ねれば人気も出ると言う物だろう。

 

 「ハイセイコーさんもトレセン学園の生徒なんですか?」

 

 「はい、もちろん。彼女は高等部で、学園内でも人気が高い子なんですよ?」

 

 たづなさんにそう言われるがテンポイントとしては益々実感が湧かない。テレビやニュースでもひっきりなしに出ている彼女が同じ学園に所属しているなど、少し前なら考えてもいない事だったのだ。

 絶対に届かない雲の上の存在だと思っていた。

 

 「テンポイントさんは誰が勝つと思いますか?」

 

 「え?、うーん、そうですね……」

 

 次々とゲートに入って行くウマ娘を真剣にに見ながらテンポイントは考える。順当に行けばハイセイコーだろう。一番人気もさる事ながら、実力も確かだ。

 

 「……あ」

 

 すると、ある一人のウマ娘が目に留まる。テンポイントが注目したのはハイセイコーでは無く、7枠21番に入っているミドルロングの鹿毛の髪色のウマ娘だった。

 

 「……あの人、すごい速そう……」

 

 別にハイセイコーが遅いと言う訳では無い。遅ければそもそも10連勝なんて達成できないし、テンポイントもそれは十分承知の上でそのウマ娘に注目したのだ。外側の枠で静かにスタートを待っているウマ娘。何が速そうとは言えないが、オーラの様なものを感じる。テンポイントはそのウマ娘に釘付けになっていた。

 

 名前は知らない。実況も彼女の名前をもう読み上げ終わっているのか、遂にレースが始まるまで知ることは無かった。

 テンポイントはたづなさんにそのウマ娘の名前を聞こうとしたが、タイミング悪く、もう秒読みでレースが始まろうとしていた。

 

 「あ、もう始まりますね。取り敢えず見ましょうか」

 

 「……はい」

 

 テンポイントはターフに意識を集中させる。

 

 『各馬ゲートイン完了致しました。係員がゲートから離れて……』

 

 そして全馬ゲートインしてあれだけ大きかった歓声も段々と小さくなっていく。

 一瞬の静寂。今までお祭りムードだったスタンドに緊張感が一気に張り詰める。

 

 

 『今スタート致しました!!』

 

 

 ゲートが開かれ、ウマ娘達が一斉に飛び出すと、スタンドから耳が割れそうな程の歓声が聞こえる。

 

 『ハイセイコー、まずまずのスタートを切りました!!一番内からクロンワールド。直ぐ外からジュナイダイオー。ハイセイコーはその真ん中……』

 

 第一コーナーを周りそのまま第二コーナーに差し掛かる。ハイセイコーは6番手辺りをウロウロ。テンポイントが注目したウマ娘はそのハイセイコーの後ろに団子になっている馬群の中に居た。

 実況を聞いていてもそのウマ娘が呼ばれる事はない。人気のないウマ娘なのだろうか?少々贔屓気味なのもあるだろう。

 しかし虎視眈々と、前を狙うその姿勢には、確かな闘志を感じる。

 その後もハイセイコーはその順位をキープし、第三コーナーに差し掛かる坂の頂上にやって来た時、遂に仕掛けた。

 

 『ハイセイコー、坂の頂上から少しずつ仕掛けていきます。3コーナーから4コーナー。現在3番手、白の勝負服、紫色の袖が映えています』

 

 実況も観客も皆ハイセイコーに釘付けだ。誰もが彼女の勝利を期待している。そして4コーナーを周り最後の直線に入ろうかと言うところ。誰もがハイセイコーを応援する中、同じく3コーナーから仕掛けていた、大外から彼女に迫ってくる赤と黄色の勝負服を纏ったウマ娘に、誰も気付かなかった。

 

 「!!、来た!!」

 

 テンポイントの叫びと共に、そのウマ娘は大外から他のウマ娘を一頭。また一頭と、怒涛の勢いで抜かして行く。

 

 『最後の直線!先頭はネオサント、そしてハイセイコーは馬場の真ん中から来ます!』

 

 ハイセイコーが直線に入り残り500メートル。府中の直線は長い。そして件のウマ娘はハイセイコーとの差を直線で10馬身以内に捉えている。

 

 そして、そのウマ娘も直線に入った時、もう一つギアを上げるかの様にグンっと加速して行った。

 

 『そして大外からタケホープ突っ込んでくる!タケホープが突っ込んで来る!!』

 

 

 初めて実況から呼ばれたであろうその名前。タケホープと呼ばれたウマ娘は府中の坂道もなんのその。グングンとスピードを上げて行き、あっという間にハイセイコーとの差を詰める。

 

 直線も後半分と言うところ。並ぶ間も無く、瞬く間にタケホープはハイセイコーを抜かして行った。

 

 『ハイセイコーは3番手、タケホープが先頭だ!タケホープが先頭だ!ハイセイコーはちょっと届きそうにもありません!!!』

 

 実況の悲鳴を鼻で笑うかのようにタケホープはハイセイコーとのリードを拡げていく。3馬身から4馬身。そして5馬身。

 

 

 『先頭はタケホープ!先頭はタケホープ!!一人抜け出して優勝!!』

 

 

 後方から昇ってきたスピードそのまま、ゴールを突き抜けて行った。

 

 完勝。誰が見てもそう思うようなタケホープのレース運びだった。ハイセイコーの勝利を見に来た観客からどよめきの声があちこちから上がる。

 

 そして掲示板には、レコードの文字が記されていた。

 

 「す、凄い……」

 

 そんな中、テンポイントは目を輝かせてタケホープの事を見つめていた。最後の苦しい府中の上り坂であれだけの伸びを見せておきながら、ウイニングランを見ているとさほど疲れた様子はない。生粋のステイヤー気質なのだろう。

 それと同時に、中央の壁の高さを実感する。

 

 「凄いレースでしたね……」

 

 横に居たたづなさんからも驚嘆の声が出る。タケホープは9番人気。伏兵と言っても過言では無い。そんなウマ娘が見せた、驚異の末脚。

 そんな彼女に、瞬く間にテンポイントは強い憧れを抱く。人気とか、アイドルとかそんなものは関係ない。

 G1最高峰のレースを肌で感じたテンポイントは、えもいわれぬ興奮を覚える。

 

 会場の熱気、飛び交う声援、怒号。様々な人の感情が混じりあったこの場所は、特別感を一層強くしていた。

 

 これが中央のG1レース。私もあの舞台で闘うことが出来るのであろうか?そう考えるたびに、テンポイントの心臓は高鳴って行く。それが興奮から来る物なのか、不安から来る物なのかは分からない。しかし、彼女の中の静かな闘志は沸々と、確実に燃え上がっていた。

 

 

 

 「あの場所で、私も……」

 

 

 

 今までフワフワとした感情であったテンポイントだが、このレースを見て確かな決意に変わった。

 

 

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