トレセン学園の昔ばなし 〜TTGと呼ばれた世代〜   作:キングコングマン

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第二話

 ダービーの翌日、前日の興奮も冷めやらないまま、テンポイントはたづなさんに栗東寮と言う場所で生活をする様に言われた。栗東寮はトレセン学園の向かいに道路を跨って存在する。寮の部屋は二人で一室。同室の相方はもうそこに居ると聞かされていたので、少し緊張しながらテンポイントは、自室になる部屋の扉をノックした。

 

 「いいよ、入りな」

 

 中から声が聞こえてきて、扉を開ける。中には漆黒の髪を短く切り揃えたウマ娘が椅子に座ってこちらを見つめていた。目付きが少し悪く、睨まれているような印象を受ける。

 威圧されたと、テンポイントも少し萎縮してしまった。

 

 「は、はじめまして。今日からお世話になります。て、テンポイントです……」

 

 「……」

 

 対して黒髪のウマ娘は挨拶を返す訳でも無くジッと、黙ったままテンポイントを見つめていた。

 一向に喋り出す気配が無い。

 

 「あ、あのぅ……」

 

 沈黙に耐えられなくなったテンポイントは恐る恐るそう尋ねる。

 

 「あ?ああ、悪いな。余りにもどっしりとした体だったからな。ちょっとボーッと見てた」

 

 すると、カラカラ笑い出して黒髪のウマ娘はそう言う。笑った顔は年相応の少女に見えて、テンポイントもそれを見て少し安心する。口調は男勝りだが、どうやら悪い人では無さそうだ。

 

 

 「アタシはクライムカイザー。よろしくな」

 

 

 短く一言、黒髪のウマ娘は簡潔に自己紹介をした。テンポイントも慌ててクライムカイザーに挨拶を返す。だが、彼女は一つ間違いを犯してしまった。

 

 

 「よろしくお願いします。"クライム"さん」

 

 

 「……は?」

 

 

 テンポイントの挨拶を聞いた瞬間、先程まで笑っていたクライムカイザーの表情が一瞬にして険しくなった。やはり上手くやれなさそうだ。

 

 「……テメェ……今アタシの事何って言った……?」

 

 余りの表情の変わりっぷりにテンポイントの表情が固まってしまう。別に何も下手な事は言って無いはずだが……

 

 「え…?わ、私、何かしちゃいましたか?」

 

 固まった表情が焦りの表情に変わって行くテンポイント。自分が何をしでかしてしまったのか分からない様だ。そんな事は御構い無しにと、クライムカイザーはテンポイントを睨みつける。

 

 

 「……アタシはなぁ……その"クライム"って呼ばれ方が大っ嫌いなんだよぉ……!」

 

 

 そう言いながらクライムカイザーは立ち上がってユラユラとテンポイントの方へ近づいて行く。

 あまりの覇気にテンポイントは泣きそうな顔になっていた。どうして名前を呼んだだけでこんなにも凄まれなければならないのだろうか?

 そしてテンポイントが入って来たドアまで詰め寄ると、右手をドンっと扉に叩きつける。壁ドンならぬ、ドアドンだ。

 

 「ひぃっ…!!」

 

 「アタシを呼ぶ時は今度からカイザーって呼びな!!今度その名で呼んだらただじゃおかないよ!!!」

 

 「は、はいぃぃっ!!!」

 

 「はいっ!!じゃあよろしくうぅぅぅ!!」

 

 クライムカイザーに凄まれてこれでもかと言うくらいに縮こまるテンポイント。まるでスケバンだ。これからと言う寮生活、益々不安になって行くのだった。

 

 

 

 _________________

 

 

 

 

 「はあ……散々だった……」

 寮室の件から少しした後、お昼の時間になりテンポイントは食堂に来ていた。いつ怒りのスイッチが入るか分からない彼女とこれから生活をして行くと思うと、テンポイントの気持ちもだいぶ沈んでしまっていた。

 こう言う時は美味しい物でも食べて、気を紛らわすのが一番だ。

 

 「うーん、何にしようかなー……」

 

 色とりどりの食材の前で唸りながら何を食べようかと悩むテンポイント。トレセン学園の食堂はビュッフェ形式で様々なメニューが存在する。ビュッフェを経験した事が無いテンポイントにとって、何から手を付けていいのか分からない様子だった。

 その後も食材の前で右往左往とウロウロしていると、ドンっと、肩に誰かがぶつかる感触がした。

 両手に持っていたお盆を落としそうになってしまう。

 

 「あっ!す、すみません!私、よそ見をしてて……」

 

 やってしまったと思い、慌てて頭を下げて謝るテンポイント。

 

 「いやー、ごめんごめん!こちらこそ悪かったねー」

 

 対して溌剌とした声が返って来た。ゆっくり頭を上げると、目の前に立っていたのはテンポイントより少し身長の高い、高身長のウマ娘だった。少し濃いめの鹿毛の髪は腰まで伸ばしており、ガッシリとした体格。それからか、バンカラとした印象を受ける。

 

 「ん?あなた、見ない顔だね?……もしかして新人さん?」

 

 高身長のウマ娘はそう言うと覗き込む様にテンポイントの顔を見やる。

 テンポイント自身、自分より高身長のウマ娘とはあまり会ったことがなかったので、多少の威圧感を覚えた。

 

 「は、はい。今日からトレセン学園の中等部に編入して来ました、テンポイントって言います」

 

 「へぇ、中等部って事は私と同じだね。テンポイントちゃんかぁ……じゃあ、あだ名はテンちゃんだね」

 

 出会って1分も経たないうちにあだ名を付けられた。しかし悪い気はせず、人当たりのいい彼女の性格にテンポイントも居心地の良さを感じていた。

 威圧感もあるが、それと同時に抱擁感も持ち合わせている様なウマ娘だ。

 

 「よ、よろしくお願いします!」

 

 そう言って再度頭を下げるテンポイント。

 

 

 「うん、よろしく。私の名前は"トウショウボーイ"って言うの。同じ中等部。気軽にトウちゃんで良いわよ。あと敬語もなしで」

 

 

 対して高身長のウマ娘は気の良さそうな笑顔でそう返して来た。しかし何だろうか、その父親を呼ぶ様なあだ名は。

 

 「あ、あははトウショウちゃんで良いかな?」

 

 流石にトウちゃんは抵抗があったのでテンポイントは苦笑いになってそう返す。少し不服そうだが、トウショウボーイもその呼び方で納得してくれたようだ。

 先程の黒鹿毛のウマ娘とは随分と対応が違う。

 

 「それで、テンちゃんは何をしてるの?」

 

 すると、トウショウボーイからそんな質問が飛んできた。テンポイントは恥ずかしそうに頬を掻く。

 

 「それが、私ビュッフェって初めてで、どれを選んで良いか迷っちゃって……」

 

 「あー、分かるー!!私も初めて食堂に来た時は何食べようか迷ったわねー」

 

 テンポイントの悩みに全力で同意して来る。どうもトウショウボーイと言うウマ娘は感情の豊かなウマ娘の様だ。バンカラとした外見とは裏腹に、内面は人から好かれる性格をしている様にテンポイントは感じた。

 

 「そう言う時は全部取っちゃえば良いのよ!少しずつ、自分の好きなのをこうやって選んでねー……」

 

 ビュッフェでの食材の取り方を嬉しそうに語るトウショウボーイ。このトレセン学園に来て初めて友達が出来たと、テンポイントは感じた。

 

 これが二人の最初の出会い。この二人が後々、互いにライバルとしてしのぎを削って行く事など、誰にも想像が付かなかった。

 

 

 

 トウショウボーイにビュッフェでの食事の取り方を教えてもらった後、二人は同じテーブルで昼食を取っている。2人共食べる量が尋常では無く、その山盛りに積まれた皿を、他のウマ娘達が唖然とした表情で見ていた。

 

 「テンちゃんは選抜レースにはいつ出る予定なの?」

 

 食事をしながらトウショウボーイがそう尋ねて来た。

 

 「うーん、まだ分かんないかな?一回トレーニングを積んで仕上げてから出ようとは思っているけど……」

 

 彼女達の会話はいつ選抜レースに出るのかと言う話題だった。年に4回。トレセン学園では"選抜レース"なるものが開催される。専属のトレーナーを持たない。チームに所属しないウマ娘のみが出れるレースで、自分の実力を試す為、またはウマ娘を導いてくれる存在であるトレーナーに目を付けてもらう為など、色々な思惑も重なるレースだ。

 ここで良い成績や光る走りを見せるとトレーナーからスカウトされて晴れてチームの仲間入り。と言う流れである。

 チームと言うのは各トレーナーが持っているウマ娘達の所属する団体で、"チームリギル"や"チームアンタレス"など星の名に因んだ名前のチームが多い。かく言うテンポイントも、このチームに入る事が最初の目標だった。

 

 「そっか、私は明日の選抜レースに出るんだ。良かったら見に来てよね」

 

 そして、どうやらトウショウボーイは明日の選抜レースに出るらしい。そのレースがどう言ったものなのかをテンポイント自身も知りたかったので観に行かない理由もなかった。

 

 「明日?……うん、それじゃあちょっと見に行こうかな?」

 

 「うんうん、私の走りを見て存分に学ぶが良いぞー?」

 

 「あはは、期待しておくよ」

 

 軽口を飛ばすトウショウボーイに対し、テンポイントは笑って返す。しかし次の日に魅せるトウショウボーイの走りに、テンポイントは衝撃を受ける事になるのだった。

 

 

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