トレセン学園の昔ばなし 〜TTGと呼ばれた世代〜   作:キングコングマン

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第四話

 

 唖然。会場は沸き立つどころか静まり返っていた。

 グリーングラスは驚異の末脚で確かにトウショウボーイに迫っていた。この時は接戦、もしくはグリーングラスが勝つと誰もが思っていただろう。

 事件が起きたのは残り100メートル。もう伸びる余力もなく、何処まで粘れるかとの勝負だと思っていたトウショウボーイが、突然加速した。前半にかなりのペースで飛ばしていたのだ。誰だってスタミナが残っているとは思ってもいない。しかしグリーングラスに並ばれた時、まるで赤子の手を捻るかの様に、再び突き放して行った。レース運びとしてはグリーングラスが一枚上手だった。しかし、それすらも嘲笑うかの様にトウショウボーイは最後の100メートルで信じられないショーを見せたのだ。

 

 「はっ、はっ、……っふぅーーー」

 

 軽くランニングしながら、呼吸を整えるトウショウボーイの姿が見える。なんと、あれだけタフな走りを見せておきながら、まだ余力がある様に見えた。

 

 「_____ぜぇ、、っぜぇ、、っっはあっ……!!」

 

 対してグリーングラスは満身創痍。全力を出し切ったと言った感じだ。その対比も、トウショウボーイの異常さを強調しているように見える。

 ある程度ランニングを終えると、トウショウボーイは踵を返し、グリーングラスへと歩いて近づいて行った。

 

 「速かったねー、あなた。私、そのまま逃げ切れると思ったんだけど……」

 

 グリーングラスの前に立ち、まだ膝に手を付いて呼吸も整っていない彼女に向かってそう言う。

 

 「はぁ、はぁ、、……うるさいっ……っはあ、はぁ、……勝者が敗者なんかにっ……はぁっ……声を掛けんなっ………っはあ、はぁ……」

 

 膝に手を付きながら上目遣いでギロリと、グリーングラスはトウショウボーイを睨め付ける。

 

 「まあ、そう言いなさんなって。私も"多少"は焦ったんだから」

 

 しかしトウショウボーイは怯むどころか、笑顔でそう返す。それを見てグリーングラスは舐められたと思ったのか、一層表情を険しくする。

 

 「っ!!はぁ……多少!?何よ、まだアンタには余力があるって言いたいわけ!?っ……はぁ……」

 

 「ちょっと、まだ息整って無いんだから無理に喋んなさんなって」

 

 トウショウボーイから出てくる言葉の一つ一つが、バカにされているものだとグリーングラスは感じる。

 自分はこんなにも息が上がっているのに、相手は余裕を持ってこちらに話しかけて来る。

 勝者が敗者を労う行為は、行きすぎると侮辱にも取られるのだ。

 

 「……あっち行ってよ……」

 

 屈辱に塗れたグリーングラスは萎む声でそう言い放つ。トウショウボーイもこれ以上何も言うまいと思ったが、ただ一言、グリーングラスに伝えたい事があった。

 

 

 「分かったよ。でも、あなたが来た時、私が焦ったのは本当よ」

 

 

 トウショウボーイはそれだけ言うと、グリーングラスの横を通って去って行った。

 グリーングラスは悔しさが堪え切れないのか、右手を挙げて自分の太腿を思いっきり叩く。

 

 

 「………っクソぉっ!!!!」

 

 

 

 選抜レース 結果

 

 1着 トウショウボーイ

 2着 グリーングラス

 

 

 

 ___________

 

 

 

 「想像以上だったな。トウショウボーイってのは」

 

 外野では男が良いものを見たと言う風にそう言い放つ。あれだけの走りを見て少し興奮しているようにも見えた。

 

 「………」

 

 対してテンポイントは固まったまま。呆然とトウショウボーイの方を見つめていた。

 言葉にならないほどの衝撃。それをここで体験するとはテンポイント自身も思っていなかった。

 

 「あんな走りを見せられちゃあ、これからはスカウトの嵐だろうなぁ……」

 

 自分はあの少女に勝てるのだろうか?勝負するとしてどのようにすれば良いのだろうか?考える程、トウショウボーイと言うウマ娘に勝てるビジョンが見えない。

 

 「………」

 

 「……おーい、聞いてるかー?」

 

 男はテンポイントに話し掛けるが反応がない。彼女の前に立ち、目の前で手を振ってみてもビクともしなかった。

 

 「……しょーがないな……」

 

 男はテンポイントの背後に周るとその場にしゃがみ込む。そして彼女のふくらはぎに両手を伸ばして……

 

 「いひゃいっ!?!?」

 

 「ぐうぇっ!!!!」

 

 またしてもテンポイントに後ろに吹っ飛ばされた。さっきの倍以上は飛んでいる。

 

 「なんで2回も触るんですか!?」

 

 「いや、話し掛けても反応が無かったから……」

 

 今度は鼻血のおまけ付きだ。しかし、もっとやり方と言うものがあっただろうに。

 

 「……それで、レースを見た感想は?テンポイントさんよ」

 

 男は立ち上がるとヘラヘラとした顔でそう聞く。対してテンポイントはナーバスになったのかペタンと、耳が萎れてしまった。

 

 「……正直、勝てるビジョンが、全く……」

 

 「まあ、あんな走り見せられちゃあ、そう思うわな」

 

 まるで他人事の様にそう言う男に、テンポイントは少しムッとする。自分から聞いておいてその態度は如何なものだろうか。

 

 「……って言うか、なんで私の名前知ってるんですか?」

 

 「そりゃあ、俺はトレーナーだからな。入学や編入して来たウマ娘の名前くらい頭に入っている」

 

 「……最初からそう言ってくれれば、トレーナーって信じたのに……」

 

 随分と遠回りになったがテンポイントは彼の事をトレーナーだと認識した様だ。ジトっとした顔を男に向ける。

 

 「お?ようやく信じてくれたか」

 

 「……まあ、そりゃあ、あれだけ的確に当てられたら……」

 

 グリーングラスの追い込み。彼女その足があるのを見抜いてこの男はあんな事を口走ったのだろう。

 なんだか認めたくは無いが事実なのでテンポイントは不服そうにそう言う。

 

 「ほぉー、そりゃあ嬉しいこって」

 

 こんな軽薄そうな男がトレーナーで大丈夫なのだろうか?テンポイントが彼に抱くトレーナーとしての印象はそれしか無かった。

 

 「じゃ、俺も行きますかな……」

 

 すると、男は踵を返し、その場を去ろうとする。

 

 「?、何処に行くんですか?」

 

 「決まってるだろ?スカウトだよ、スカウト。早めに唾は付けたほうが良い」

 

 悪い笑みを浮かべると、そのまま男は何処かへと立ち去って行く。やっとトレーナーらしい姿を見せたと、テンポイントも苦笑いになる。

 

 「あー、次の選抜レース、多分来月になると思うから、それまでには仕上げて来いよー。」

 

 「い、言われなくても分かってますー!」

 

 男は振り向かずに、最後にそれだけ言ってテンポイントの視界から消えて行った。

 

 

 

 ______________

 

 

 

 「お疲れ様ー、凄かったね!トウショウちゃん」

 

 あの後、直ぐにトウショウボーイの元へと向かったが、数多のトレーナーに囲まれていてテンポイントは話すタイミングを失ってしまった。

 どうにもならないのでしばらく待っていると肩を落としたトレーナーが次々と去って行くのが確認でき、トウショウボーイにフラれたのを察する事が出来た。

 因みにあの変態トレーナーは居なかった。

 そんな事もあってテンポイントがトウショウボーイに話しかけられたのは、レースが終わってから実に30分以上経っての事だった。

 

 「おー、テンちゃん。私の走り見てくれたー?」

 

 精一杯のドヤ顔をしてトウショウボーイはそう聞いて来る。先程異次元のレースを披露したとは思えない気の抜けっぷりだ。

 

 「うん!最後グリーングラスって子に抜かれるか心配だったけど」

 

 「へぇ、あの子、グリーングラスって言うんだ」

 

 「知らなかったの?」

 

 「いやー、レース終わった後、名前を聞きに行こうとしたら拒否されちゃってさー」

 

 たはは、とトウショウボーイは朗らかに笑う。明らかにタイミングが悪かったので自業自得なのだが。

 

 「ま、負けた直後に聞きに行くのはちょっと……」

 

 テンポイントも苦笑いになる。遠目から二人が何か話しているのは見えたが、そんなやり取りがあったとは知らなかった。

 

 「じゃあ、あの子はこれからグリちゃんだねー。あ、グラちゃんの方が良いかな?」

 

 まだあだ名で呼ぶのはよした方が良いのでは無いか?テンポイントはそう思ったがグリーングラスがどの様な性格のウマ娘なのか、彼女はまだ知らないので乾いた笑いだけを返した。

 

 「そう言えば、トレーナーさん達からたくさん誘われたみたいだけど、入るチームはもう決めたの?」

 

 テンポイントは話題をスカウトの方向に変える。あれだけの走りを見せたトウショウボーイがどのチームに入るのか、気になるところだった。

 

 「うん、決めたよ。何てったかな?えーと……そう!!"リギル"ってところ!!」

 

 「リギル?」

 

 「うん、女の人のトレーナーだったんだけど、なんか良さそうだったんだよねー。それに立ち上げたばっかって言ってたから、やり易そうだったし」

 

 「えー、良いのー?そんな適当で?」

 

 テンポイントとしてはもっと良いチームもあるのでは無いかと思ったが、生憎彼女自身、転入して来たばかりで何処のチームが強いのかがイマイチ分からない。チームの事でトウショウボーイにあれこれ言える立場では無いのだ。

 

 「うん、良いの。……実はその人ってね、模擬レースをする前から私に目を付けてくれた人なんだ」

 

 テンポイント以外誰も居ないのに彼女に近づいてトウショウボーイはそう耳打ちをする。本当に外見とは裏腹にお茶目な性格だ。

 

 「へぇー、運命ってやつ?」

 

 テンポイントもそれに乗っかって揶揄う様にそう言う。彼女自身もノリが良い。

 

 「はっはー!!運命かー、それも良いね!!そう言う事にしておこう!!」

 

 トウショウボーイも乗っかって快活に笑い飛ばす。まだ出会って2日目のはずだが、やり取りが何故だか小慣れていた。こう言うのを、"ウマ"が合うと言うのだろう。

 

 「テンちゃんは次の選抜レース、出るんでしょ?」

 

 「うん、そのつもりだけど……」

 

 「じゃあ、それまでに話し掛けられたトレーナーさんが居たら、捕まえておいた方が良いかもねー。……運命かも知れないし」

 

 ニシシと、悪戯に笑って冷やかすトウショウボーイ。……どうやらターフからあの男トレーナーとテンポイントが並んで話しているのを見ていたらしい。

 

 「うぇー!?やっぱあれ見てたのー!?」

 

 「さあ、どーかなー?」

 

 まだ模擬レースは先の話だ。これから色々勉強して、どのチームに所属するかテンポイントは決めるつもりでいる。

 

 

 しかし、あの男だけは無いと、テンポイントは内心思うのであった。

 

 

 

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