トレセン学園の昔ばなし 〜TTGと呼ばれた世代〜   作:キングコングマン

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第七話

 

 選抜レースまであと2週間。テンポイントの周りに幾つか変化が起きた。

 まずは自身のタイム。トレーニングを積めば積むほどタイムは好成績を刻み、元々のポテンシャルと努力により実力が付いて来た。

 そして注目度。トレーニングで他のウマ娘が目を見張る様なタイムを続々と叩き出したので、ウマ娘達のみならず、トレーナーも彼女に一目置く様になっていた。

 しかし、テンポイントにトレーナー達から声が掛かる事はない。何故なら……

 

 「うっし、いいタイムだ。今日は3本目だが上がりの1ハロンは今日のトップだ」

 

 「はぁ、はぁ。……もう一本走っていいですか?トレーナーさん」

 

 沖野と言うトレーナーが、テンポイントに付きっ切りで指導していたからだ。

 まだ正式なトレーナー契約を結んでいないのだが、それでも彼女の走りに惚れ込んだ沖野は、こうしてテンポイントのトレーニングする場所に目敏く現れ、好き勝手に指導をしている。

 最初は少し困り気味だったテンポイントも、沖野の指導を受け続ける内に、それが的確だと感じる様になった。

 現に彼女の調子はすこぶる良い。

 1週間もしない内に沖野に対して信頼を置く様になっていた。

 

 「うーん、そうだな。脚の何処か、筋肉に違和感はあるか?」

 

 「……ありません。まだ行けます」

 

 沖野からプイっと顔を逸らしてテンポイントはそう言う。

 

 「……本当に顔に出やすい奴だな。ほら、見せてみろ」

 

 「ちょ、ちょっと!?人前で何やってるんですか!?」

 

 有無を言わせないと言った感じで沖野はテンポイントのふくらはぎを確かめる様に触る。しかしそこにいやらしさは無く、沖野自身も顔が真剣なのでテンポイントも強くは言えない。

 顔を赤く染め上げ、沖野にされるがままだった。

 

 「……随分と張ってるじゃねーか。もう一本やったら明日に影響するぞ?」

 

 「わ、分かったから!!もう離して下さいよ!!」

 

 そこまで言うとトレーナーはやっとテンポイントの足から手を離す。

 こんなやり取りが、彼女が注目を集め出した頃から続いていたので、他のトレーナーはあまり彼女に声を掛け辛くなっていたのだ。

 現にもう沖野がテンポイントの専属トレーナーになっていると勘違いしているトレーナーも居る。

 

 「お前が嘘なんか吐くからだろう。オーバーワークで選抜レースがおじゃんなんざ話にならない」

 

 「わ、分かってますけど……」

 

 しかしテンポイントはまだまだ走り足りないと不満げだ。本当に顔に良く出るウマ娘である。どうしたものかと沖野は考えていると、ある事を思い出した。

 

 「物足りないって顔だな。……そうだな。お前、カラオケ好きか?」

 

 「へ?カラオケ?……まあ、嫌いじゃ無いですけど……」

 

 沖野の突拍子のない質問にテンポイントは目を丸くする。すると、沖野は自身の胸ポケットから、何かのチケットを取り出した。

 

 「何です?それ?」

 

 「カラオケの無料券だ。2枚ある。走れないフラストレーションがあるなら歌って発散すれば良い」

 

 沖野はそう言うと、少し萎れたカラオケの無料券をテンポイントに押し付ける様に渡した。

 渡されたテンポイントは少し頬を赤らめてジトっと、沖野の方を見やる。

 

 

 「……私、デートした事無いんですけど……」

 

 

 恥ずかしそうに、しかし何処か満更でも無さそうにそう言うテンポイント。男性からこの様に誘われた事など初めてなので、彼女自身も何処かぎこちない。

 しかし、今度は沖野がその言葉に目を丸くした。

 

 「……何言ってんだアホ。友達と行けって事だよ」

 

 

 「……へ?……あ……っ〜〜!!!!!」

 

 

 呆れてそう言う沖野に対し、自分の勘違いに気付いたのか、顔が真っ赤に染まるテンポイントであった。

 

 

 

 

 

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 「へぇー!テンちゃん、歌上手いんだねえー」

 

 「そ、そうかな?」

 

 とあるカラオケ店の一室、二人のウマ娘がカラオケを楽しんでいる。

 

 「うん、何って言うか、自分の勘違いに気付いた子がその恥ずかしさを誤魔化す様な、むず痒い感じ!」

 

 「は、あははー、やけに具体的ぃ……」

 

 トウショウボーイの感想に苦笑いになって返すテンポイント。上手いと褒められたのは嬉しいが、複雑な心境だ。

 テンポイントがカラオケに誘った相手は、沖野ではなくトウショウボーイだった。まだトレセン学園に来て日が浅いが、彼女は誘いに二つ返事で乗っかってくれた。

 

 「ウイニングライブの予習は完璧って事ね。流石テンちゃん。勝つ気満々ですなぁー」

 

 「も、もう、トウショウちゃん、揶揄わないでよー」

 

 いつもの軽口にテンポイントは困った様に笑う。レースに勝利したウマ娘はウイニングライブと言う特設のステージでセンターとして立てる。

 テンポイントとしてはライブよりレースで勝つ事の方が重要なのだが、歌う事も嫌いではないので、こうやって偶にカラオケで息抜きをする事は、程よくリラックス出来る結果にもなっていた。

 

 

 「そういやテンちゃん、今度の選抜レースに出るんでしょ?」

 

 ある程度歌ったところで、トウショウボーイから休憩がてらにと、選抜レースの話題を振られた。

 

 「うん、そうだけど?」

 

 「その中でさ、マークしてるウマ娘とかいるの?」

 

 「マーク?」

 

 聞き慣れない言葉にテンポイントは首を傾げる。

 

 「そそ。レースってただタイムを競うんじゃなくて他の子たちとの掛け合いでもあるの。だから速そうなウマ娘をマークしておくと、レースの後半で有利に進められる事があるのよ」

 

 トウショウボーイの説明に、テンポイントは納得した様に頷く。

 

 「うーん、あんましピンと来ないなぁ……」

 

 しかし、誰かと尋ねられてもピンと思い浮かぶウマ娘はテンポイントには思い付かなかった。

 自分の事で精一杯だった事もあり、他のウマ娘まではチェックしてなかったのだ。

 

 「テンちゃんはトレーニングでもかなり良いタイムを残してるから、多分色んな子にマークされると思うよ?」

 

 「え?わ、私が……?」

 

 テンポイントとしてはあまり実感が湧かなかった。確かに好タイムを出している自覚はあったが、他の子達からマークをされているなど思いもしていなかったからだ。

 

 「特にテンちゃんの同室のクライムカイザーちゃん。あの子は相当しつこいよ。私だって模擬レースで何回か走ったけど、やりにくい事この上ない感じだったし」

 

 トウショウボーイの発言にテンポイントの顔が引き攣る。今のところ彼女の苦手なウマ娘筆頭がクライムカイザーだ。普段から威圧的な彼女がレースになったらどうなるのだろうか?

 テンポイントはブンブンと頭を横に振り、余り考えない様にした。

 

 「まあ、それがクラちゃんのスゴいところなんだけどねー。一度目に付けた子には徹底的に研究するのよ?」

 

 「……そっか、だからカイザーさんはあんな熱心に……」

 

 テンポイントはクライムカイザーが四季報に登録されていたウマ娘をマーカーでチェックしている光景を思い出していた。

 あのチェックはもし今後同じレースで一緒になる場合、絶対にそのウマ娘を有利に立たせない様にすると言う、クライムカイザーの勝つための戦略なのだ。

 

 「まあ、一筋縄じゃ行かないかもねー」

 

 ニシシと、面白がるトウショウボーイ。しかしそんな事を言われたテンポイントにとっては溜まったものでは無い。

 

 「うっ……キンチョーして来た……」

 

 注目される。マークされると言う事はこんなにもプレッシャーが掛かるものなのだろうか?それにクライムカイザーだけでは無い。選抜レースに出ると言う事はそれ相応の実力者達が出ると言う事だ。

 自分の実力を出さなければ、あっという間に他のウマ娘達に足元を掬われる。

 そう自覚してしまうと、テンポイントの中の緊張がさらに高まってしまっていた。

 

 「もー、まだレースまで2週間もあるんでしょー?今から緊張しちゃってどうすんのよ?」

 

 カラカラと笑い、仕方が無いなと言った風にトウショウボーイはそう言う。こう言う物事を深く考えないのも、時には必要なのだろう。

 

 「はぁ……トウショウちゃんは気楽そうでいいなぁ」

 

 正直、今は彼女の豪胆さが羨ましい。テンポイントには彼女の様にレース前でニコニコ談笑する肝など持ち合わせては居なかった。

 レースまであと2週間。1着を取るため、やるべき事をして臨むのは変わりない。

 

 しかし一人、注意(マーク)すべきウマ娘が出来た事は確かだった。

 

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