トレセン学園の昔ばなし 〜TTGと呼ばれた世代〜   作:キングコングマン

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第八話

 

 「よし!、もう一本!!」

 

 「はぁ、はぁ……はい!!」

 

 選抜レースまであと1週間。テンポイントの状態は、日に日に良くなって行った。沖野がつきっきりで指導しているお陰もあるが、テンポイント自身、レースが近づくにつれて集中力を高めて行ったのだ。

 恐らく選抜レースでは大下手をこかない限り、勝てない事は無いだろう。新人トレーナーである沖野にも、それは分かった。

 

 「おー、がんばってんねー、テンちゃん」

 

 すると、二人の背後から、そんな声が聞こえる。テンポイントにとっては聞き覚えのあるその声に、ゆっくりと振り返った。

 

 「あ、トウショウちゃん。やっほー」

 

 「やっほー」

 

 なんとも気の抜けたやり取りをする二人。テンポイントとトウショウボーイとは同じクラスな事もあり、かなり仲良くなっていた。

 

 「あれ?テンちゃんもうトレーナーさん付いたの?」

 

 「えーっと、……正式にはまだなんだけど、選抜レースまで見てもらう事になって」

 

 「へぇー、……ふぅーん?」

 

 すると、トウショウボーイが値踏みする様な目つきで沖野を見つめる。どこか面白がる様な、そんな表情も混ざった顔だ。

 

 「有名人のトウショウボーイ様が、何の用かな?」

 

 そして、茶化す様に薄く笑って、沖野はトウショウボーイにそう聞く。

 

 「いーや、友達が居たからちょっと見学をしようとね。……あれ?あなたって、選抜レースの時の……」

 

 「いやー!、今一番注目されてるウマ娘に来てもらえて、光栄だなー!!」

 

 トウショウボーイに選抜レースの時の瞬殺玉砕を触れられ、沖野は強引に話題をずらす。

 沖野にとっては、今思い出すだけでも恥ずかしい。

 

 「あははっ、そりゃこっちも光栄だねー。それで?今は芝でタイム計ってんの?」

 

 「あ、ああ。次でラストだ」

 

 沖野がそう言うと、トウショウボーイは納得した様な顔になった。

 

 「ふーん、タイム計測も良いけど、"併せウマ"はやらないの?」

 

 「併せウマ……?」

 

 トウショウボーイの提案に、テンポイントが疑問の声を上げる。聞き慣れない言葉だ。対して沖野は困った様に笑った。

 

 「まだ新人でコネクションが無くてな。お前がやってくれるならありがたいんだが……」

 

 「あはは、私はデビュー戦に向けての追い切りがあるからパス。……代わりに、面白い子を紹介してあげるよ?」

 

 すると、言葉通り面白がる様な表情で、トウショウボーイはそんな事を提案してきた。

 

 「「面白い子?」」

 

 テンポイントと沖野の声が重なる。

 

 「うん、この前私も併せウマで一緒に走った子なんだけどね?もうすっごい"逃げ足"が速いの。私も着いていくだけで精一杯だったよー」

 

 「へぇ、トウショウボーイが必死になる程のウマ娘か、……そんな子、トレセン学園に居たかな?」

 

 「うん、相当面白い子だから、私が話つけてあげるよ!」

 

 「ああ、是非頼む」

 

 そう言う事なら、トウショウボーイの提案に乗っかろうと、沖野もそう返す。ちょうど併せウマもやっておきたいと言うところだったし、彼女のお墨付きだ。実力的にテンポイントの不足になると言う事は無いだろう。

 

 

 

 _____________

 

 

 

 

 翌日、沖野とテンポイントはトウショウボーイに指定された場所に向かっていた。トレーニングコースの外、築堤があるその場所に、そのウマ娘は待っているらしい。

 

 「あのー……今更なんですけど、"併せウマ"って、何なんですか?」

 

 すると、テンポイントがおずおずと言った感じでそんな事を沖野に聞いてきた。

 

 「え?、ああ、説明してなかったな。併せウマってのは、2人以上のウマ娘同士で一緒に走るトレーニングの事だ。レースは一人で走る訳じゃ無いからな。一緒に走ってレースの駆け引きを覚えさせるって目的もあるんだ」

 

 「なるほど……」

 

 沖野の説明に、納得した様に頷くテンポイント。確かに今までは一人でタイムを出すだけのトレーニングだった。しかし本番は他のウマ娘との駆け引きもあるので、この併せウマは、レースに勝つ為にも重要なトレーニングなのだ。

 

 

 「それで、今からその併せウマをするってのが、あの木に隠れているウマ娘って事ですか?」

 

 

 そして、続けて前を指差し、何かを見つけたテンポイントがそんな事を言う。沖野も彼女が指差した方向に視線を向けると、木に隠れながら落ち着きが無い一人のウマ娘が居た。何かを警戒する様に、首を左右に、目線をキョロキョロさせている。

 

 「……あの子……っぽいな」

 

 トレセン学園指定のジャージを着て、頭から耳が生えているので間違いないだろう。

 しかし、それにしては挙動不審すぎる。……本当にあの子がトウショウボーイの言っていたウマ娘か?

 ともかく、周りにそれらしきウマ娘は居なかったので、沖野は近づいてその挙動不審なウマ娘に話し掛ける。

 

 「……こんにちは、君がトウショウボーイの言ってた、併せウマをしてくれる子かな?」

 

 「ひゃっ!!ひゃい!?!?」

 

 沖野がいきなり後ろからそのウマ娘に話しかけたからだろうか、該当ウマ娘であろうその挙動不審な子は、沖野の声に応じて大きく肩を跳ねさせた。

 そして、そのウマ娘は恐る恐るこっちに顔を向ける。

 

 「で、デカイ……」

 

 そんな言葉を漏らしたのは、テンポイントだった。そのウマ娘は、一言で言うならグラマラス。マルゼン的言葉で表すなら、ボン、キュッ、ボンと言った言葉がぴったりな、非常にスタイルの良いウマ娘だった。

 着ているジャージの上からでも、その胸の大きさが分かった。

 そして、そのグラマラスな体型を強調する様な整った顔立ち、その顔に一つ、色気を醸し出す様な左目の下の泣きぼくろ。吸い込まれそうな程に黒い髪は、腰の辺りまで伸びている。

 テンポイントと同じ中高生とは思えない様な色気を纏ったウマ娘だった。

 

 「えーっと、初めまして、俺は沖野。隣に居るテンポイントの……あー、付き添いみたいなもんだ」

 

 まだ正式なトレーナーでは無い沖野が、言葉を選んでそんな自己紹介をする。

 

 「は、初めまして。テンポイントです」

 

 そして隣のテンポイントは、その大人の色気全開なウマ娘に、何処か緊張していた。恐らく高等部の生徒だろう。中等部で、この学園に編入したてのテンポイントが緊張するのも無理はない。

 

 「あ、あなた達が、トウショウボーイの言ってた……?」

 

 相変わらず挙動不審に、そのグラマラスなウマ娘は恐る恐る2人にそう聞く。

 何というか、男にとっては目に毒でしか無い体型とは真逆の性格で、ギャップが凄い。

 そのウマ娘の問い掛けに沖野とテンポイントも頷くと、木に隠れるのをやめて、ようやく2人の前に立った。

 

 

 

  「は、初めまして。て、"テスコガビー"です……」

 

 

 

 この時は、このウマ娘まさかあんな走りを見せるなんて、沖野もテンポイントも全く想像してなかった。

 

 

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