遊戯王 Sky Connect -スカイコネクト- 作:室星奏
――ジリリッ、ジリリッ。
慣れない朝に小言を漏らしながら、私は伸ばした手で喧しく鳴る時計を止める。小さく寝ぐせでハネた銀色の髪を手で直しながらベッドを飛び降りる。
カーテンを開けると、そこに広がるは私たちの世界。地上が謎の空間崩壊を起こした後の世界、天空に人類が住まうようになった場所。
周囲には様々な島が浮遊し、中央の巨島には管制塔がでっかく聳え立っている。
「……この島で起きるのは初めて、だなぁ~」
私はここ、南島サウスランドに昨日引っ越してきた少女である。名前は
父の仕事の都合でここに引っ越してきたという流れなのだが、ぶっちゃけ父が何の仕事をしているのか分からない為、終始私の頭上には?マークでいっぱいだった。
仲良しだった友達とも涙流しの別れを告げた時を思い出し、今も少し泣きそうになってしまう。果たして、私はこの島でうまくやっていけるのだろうか。
新しい制服を身に纏い、青色の装飾が施された羽の髪飾りを止め、階段を勢いよく駆け下りる。
その先では母が朝飯を作って待ってくれていた。私が起きてくるのをじっと待っていたようだった。
「先に食べててもよかったのに」
「最初の朝だもの、やはり二人一緒に食べたいじゃない?」
「父さんは早いんだね」
「仕事だもの、そりゃそうよ」
椅子に腰かけ、目玉焼きがのったパンに勢いよくガブりつく。やっぱ朝一番はこれが一番である。これの右に出る食べ物は早々ないだろう。
『相変わらず好きだね』と言ってニヤニヤ顔をしながら母は笑う。煙たそうにそれをあしらいながら、急いでそれを完食する。この島の学校は開始時刻がかなり速いのだ。
前いた島でさえ9:30だったのに、こっちは8:00と1時間30分も早い。どうなっているんだいったい。
「朝絶対起きれないと思ったのに、よく起きてこれたね~?」
「最初の朝くらい遅刻はしたくないもん。それに、なんか部活決めってのもあるし……」
「ああそれ聞いたよ? 何かやるの?」
「よくわかんない。見なきゃ分からないから」
私は手を叩いてご馳走様の合図をした後、バッと鞄を持って玄関方面へ駆け走る。
扉の先は雲の上、普通に走れば真っ逆さま雲の下へ落下待ったなしだろう。だけどこの世界、この状態が普通なのである。
じゃあどうするか? その答えはこの靴にある。
「飛べっ!」
私が靴の側方にあるボタンを一瞬だけタップし、決められた言葉を放つ。するとそこから緋色に輝く小さな翅を出現させ、私の身体をゆっくりと浮遊させる。
これがこの世界における常識の一つ、
翅を生やし、浮遊と飛行をし、雲上を駆け抜ける。その姿は、昔の人物からすれば憧れの光景の一つだろう。だが今となっては常識にすらなっているのだから、世界何が起こるか分からないものだ。
そのままビューンとゆっくり飛行し、南島の中央部に位置するサウスランド学園へと向かう。この飛行時間の間だけは、心地よい風に吹かれながらゆったりとした時間を過ごせる為、私のお気に入りの時間でもあった。
本当は鳥のようにもっと速く、もっと綺麗に飛びたいけれど、そんな技術を持った浮遊靴等、どこを探しても見つからないだろう。そんな夢物語、誰が聞いても笑うんだろうなあ。
でも私は、何時しかそれが夢となっていた。鳥と一緒に羽ばたき、この天空島の様々な場所を旅する。その為にも、今私は技術士としての勉強をしている訳なのだが。
(はぁ。この浮遊でも満足してるんだから、夢がかなった時の私は、どんな反応をするのかなあ)
ふふんっ、と笑顔を漏らしながらそんな妄想をしていると、私の眼前を素早い速さで飛び去る二つの影に遭遇する。
それが通り過ぎた瞬間、正に鷹が最高速度で飛び去ったが如く、衝撃風が吹き荒れ、私が今にも落下しそうになった。
「――うわっ!? な、なに?」
静止体勢を取り、周囲を見渡すと、通り過ぎた先で二人の人間が異様な浮遊靴を装備しながら何か叫びあっていた。傍から見れば変人そのものであるし、私もそう持った。
だけど、何故? 私以外の人間はそれが『あたかも普通』であるかのようにそれを見向きもしなかった。え? 何? 北島にはそんな早く走れる浮遊靴なんて存在していないのに……?
『まだ俺のターンは終了してないぞっ!』
『ならさっさとターンエンドしろよ。時間の無駄だ』
『んだとー!?』
何やら喧嘩みたいな会話をしています。止めるべきでしょうか? あとターンってどういう事? テレビゲームでしか聞いたことない言葉です。
……は、俗にいう中二病って奴なのだろうか? という事は、この場面ではスルーしておくのが正解なのだろうか? それならば納得である。
「あ、ちょっと貴方。何静止してるの? 巻き込まれるよーっ」
「へ? ……えっと、貴方は?」
「……あれ、同じ制服だけど見慣れない顔ね、新規生?」
「昨日引っ越してきた者です、
「あ、そう? 宜しくね~……って今はそんな会話してる場合じゃないよっ!」
突然現れた彼女はどこかを見て焦ったような表情をして、私の腕をつかみ勢いよく飛び立ちます。
浮遊靴をよく知る私なら分かる、それはこの靴が出せる最高速度限界でした。そこまでして逃げるものなのでしょうか?
「あ、あの。アレは一体?」
「え? 知らないの? あれは
「空中……決闘?」
よく見ると、飛びまわっている彼らの手には紙のようなものを持っており、反対の腕には機械のようなものを身に着けています。あれがその、
フライングの意味は分かります。ですが
「驚き。まさか
「は、はい。そうですけれど……」
「あー、あそこ
「な、成程?」
その言葉を聞いても疑問に思っている私を見て、彼女は本当に驚いたような表情をする。そんなに知ってて当然の代物だったのでしょうか? それならば知らなかったことに少しショックでした。
規制されていると言っていたように、恐らくその単語を中心に厳しい情報規制が敷かれていたのでしょう。寧ろそう言って正当化するしか、このショックを紛らわせる方法がなかったのです。
「召喚したモンスターと共に、戦略を練りながら雲上を鳥の如く縦横無尽に駆け回り、相手を倒していく綺麗で美しいゲーム。この世界では、そう呼ばれているわ」
「鳥の、如く」
まさかこんなにも早く、私の求めていたものが目の前に現れるとは思いませんでした。なんだか今までの勉強の成果が無駄になった気分です。
でも今は、そんな不機嫌な想いよりも、想像していたものが目の前に現れたことへの興奮がまさっていました。
『RR ―ブレイズファルコン―は、X素材を持っている時、相手に直接攻撃が出来るようになる。いけ! 奴を徹底的に引き裂け!」
『は? そんなのアリか――ッ、ぐああぁああぁ!?』
「あっ、危ないッ!」
「あ、ちょっと遊羽!?」
彼ら二人と同じく空中を飛んでいた機械のような何かが放つ衝撃波を受けた男は、勢いよく雲下へと吹き飛ばされていきました。
雲下がどうなっているかは、今の誰にもわかりません。ですが、空間崩壊を起こしたという歴史が語られた以上、酷いことが起こるというのは目に見えていました。
浮遊靴の最高速度を限界まで引き延ばし、私は落下する男の腕をギリギリの所で掴みます。彼もその気配を感じ取ったようで『え? 何? 何?』と連呼しています。
「よ、良かった。助かった……」
「た、助かったって? てか君誰?」
「遊羽~……別に助けなくてもいいわよ?」
「え?」
「それは同感だな」
「あ、霞! あ、お前も! それどういう意味だ!?」
後から話を聞いたのですが、どうやら空中決闘に使われる浮遊靴には特殊加工がされており、飛行速度もかなり引き延ばされ、それに対応する制御装置が取り付けられている為、雲下へと投げ出されそうになった場合、自動で装置が反応し、身体を支えてくれる仕組みとなっているらしい。
早とちりからの羞恥を受けてしまいました。恥ずかしい。
霞と呼ばれた先ほどの女性が、彼らに事情を説明してくれたおかげで、彼らは納得してくれたようです。お恥ずかしい。
「ま、知らねえんじゃ仕方ねぇな。でも助けてくれたことには、感謝しておかないとな」
「相当な衝撃波じゃないと落下何てしないわよ。ま、彼なら別に落下してもいいとは思うけど」
「冗談でも行ったいい言葉じゃねぇぞ?」
「ま、まあ……」
「ふっ。それよりも、
彼は私の方を見て小さく苦笑します。なんだか馬鹿にされたような気分です。あながち間違いではないのでしょうが。
「あ、ならさならさ。えっと、遊羽ちゃんだっけ? 今日の放課後、俺らの部室にこいよ。霞も説明係としてさー」
「何で私まで? アンタはともかく、遊二と一緒は少し躊躇いがあるんだけど」
「一度も勝てないまま引退したからか?」
「う、煩いな」
「えっと、部室、ですか?」
「おう、空中決闘部! そこで説明会してあげるからさっ!」
彼の勢いもあったのだろうか、私は思わずそれに承諾してしまいました。でも、後々思えば私はいずれ、どんな過程を経たとしても、その説明会を受けていたんだろうと思います。
故にこれは、早すぎる出会い、と言った物でしょう。そしてそれは、私にとっても好都合な話でした、他の部活を見る必要性が無くなったからです。
「良し決まりだ! 待ってるからなー!」
「……はあ、本当に良いのか?」
「私は大丈夫ですけど……」
「はあ、仕方ない。アイツだけに任せるのもヤバそうだし、私も行くわ。遊二も付き合いなさいよ?」
「どっちみち部室には寄らなきゃならない。嫌でも行くことになる」
「は、ははは……」
これが、人生で初めて