託された世界の先で   作:デスイーター

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ユメ

 

 あの日々が、もう遠い昔のよう。

 

 そんな事は、まだとても思えない。

 

 ダイナゼノン(ロボット)に乗って、怪獣と戦う。

 

 そんなフィクションの中でしか有り得ない出来事を、現実に体験してしまったのだから。

 

 忘れる、なんていう方が無理な話だ。

 

 それに。

 

 ダイナゼノンに乗って、戦った日々は。

 

 南夢芽(わたし)が、蓬くんと共に歩んだ道筋でもあるんだから。

 

 麻中蓬。

 

 クラスメイトの、男の子。

 

 とは言っても人見知りの私は気まぐれから彼に話しかけるまで蓬くんがクラスメイトである事は理解していなかったし、その所為で初対面であるかのように自己紹介までやってしまった。

 

 まあ、クラスで他の人と話す事なんて無いに等しかったから初対面、というのもあながち間違ってはいないけれど。

 

 元々、人と話すのは苦手だ。

 

 外食は券売機の所じゃないと無理だし、服屋で店員さんに話しかけられたら逃げ出しちゃう。

 

 だって怖いのだ。

 

 人と話すのが。

 

 私の知る人同士の会話が、両親の諍う声の印象が強い事もあるだろう。

 

 それに、姉の香乃と結局上手くコミュニケーションが取れないまま死別してしまったから、なんて理由もあるのかもしれない。

 

 もう少し、姉とちゃんと話せてたら。

 

 そんな後悔が私の中に渦巻いていたのは、事実だ。

 

 だから、だろうか。

 

 そんな自分でも普通に話せる、鳴衣の存在に寄りかかっていたのは。

 

 友達なんて、鳴衣一人だけいれば充分。

 

 そう思うくらいには、私は鳴衣に依存していた。

 

 でも、鳴衣は私にもっとたくさんの人と友達になって欲しいと言う。

 

 その意思を汲んで、適当に目に付いた男の子に話をしてみようと呼び出した事はあるけれど────────────────結局、勇気が出ずに約束をすっぽかしてしまった。

 

 それ以降はすっかりそれが衝動的な癖になってしまい、結果としてただでさえ孤立しがちだった私の評判は地に落ちたと言って良い。

 

 まあ、落ちるレベルの評価さえ元からなかったのだけど。

 

 蓬くんもまた、そんな私の悪癖に巻き込んだ一人だった。

 

 少なくとも、最初は。

 

 あの時。

 

 蓬くんを待たせておいていつものように約束をすっぽかした私は、またやってしまったと自己嫌悪に沈みながら夜の街を歩いていた。

 

 あんな馬鹿な真似をしておいてなんだけど、私にだって罪悪感はある。

 

 けれど、姉の死に捉われていた頃の私は、衝動を理性で抑える事が出来ていなかった。

 

 もしかしたら、この人なら。

 

 そう思って呼び出して、結局話す勇気が出ずに約束をすっぽかす。

 

 その、繰り返しだったのだ。

 

 だって、考えてみれば人見知りの私が初対面の男の子相手にまともに話せるとは思えない。

 

 それに、男の子と二人きりで会うってのも怖い。

 

 そんな言い訳を自分の中で繰り返しながら、私はその日も一人の男の子の事を待ちぼうけにさせていた。

 

 けれど。

 

 そんな私の前に、ガウマさんが現れた。

 

 ガウマさんは約束をすっぽかした私の事を、本気で怒ってくれた。

 

 思えば、初めてだったのだ。

 

 誰かに正面から、叱られるという経験が。

 

 両親は、姉の事があって以来距離が出来てまともに叱られる、という事もなくなった。

 

 鳴衣は私の行動に色々と口を出してはいるが、感情任せに叱られたような事はなかった。

 

 だから。

 

 蓬くんの為に本気で怒って私を糾弾するガウマさんの姿が、とても新鮮に見えたのだ。

 

 そして。

 

 待ちぼうけをさせてしまった蓬くんと、ダイナゼノンという縁で結ばれる事になった。

 

 最初は、ロボットに乗って怪獣と戦うという非日常に逃げる事で嫌な事を忘れたかったのかもしれない。

 

 もしくは、私の存在が求められるという環境に、知らず依存していたのかもしれない。

 

 ダイナゼノンが全力を出すには私が必要で、私がいなきゃ怪獣には勝てない。

 

 自分が必要とされる、充足感。

 

 それが、人と関わる事を避けて来た私がダイナゼノンに乗る事に前向きだった理由なんだと思う。

 

 だから、その過程で同じダイナゼノンに乗る仲間である蓬くんとの交流が増えるのも必然だった。

 

 ガウマさんや暦さんは大人だし、ちせちゃんは年下だ。

 

 必然的に、同じクラスで尚且つあんな真似をしでかした私に普通に接してくれる蓬くんと話す機会が多くなった。

 

 普通なら、怒って罵倒してもおかしくない。

 

 けれど蓬くんはそんな事はせずに、私の謝罪を受け入れてくれた。

 

 だから。

 

 この子相手なら、普通に話せるかも。

 

 そう思って、私は蓬くんを鳴衣以外の友達第一号にする事にした。

 

 蓬くんと過ごす時間は、悪くなかった。

 

 あまり押しが強くなくて、私の意思を尊重してくれる。

 

 そして、私の話を聞いてくれる。

 

 そんな蓬くん相手に、好意的に見るなという方が無理な話だ。

 

 蓬くんは、私の姉の死に関する真相を知りたい、という目的に付き合ってくれた。

 

 姉の知り合いを訪ねて、当時の事を聞く。

 

 そんな行動に移れたのは、蓬くんがいたからかもしれない。

 

 同行を申し出てくれたのは蓬くんの方だけれど。

 

 もしかしたら私は、この話をすれば付いて来てくれるんじゃないか、と期待していたのかもしれない。

 

 それくらい、蓬くんが優しいのは分かってたから。

 

 無意識に、彼に甘えてしまったのだろう。

 

 彼がいなければ、人見知りの私が年上の男性に話を聞く、なんて真似が出来たかどうかは不明だ。

 

 そして。

 

 姉の死は、自殺だったのかもしれない。

 

 そんな可能性が見えて、加えて当時の姉の彼氏だった男性の話を聞いて姉が誰に助けられる事もなく死んでいったのだと思って。

 

 私は、自分の殻に閉じ篭もった。

 

 怪獣が出ていたけれど、私も行くように呼ばれていたけれど。

 

 どうしても、前を向く事が出来なかった。

 

 気付けば、私は水門の上にいた。

 

 姉が亡くなった、水門の上に。

 

 なんで、そんな場所に来たのかは自分でも分からない。

 

 ただ、一人になりたかっただけなのか。

 

 それとも、姉の後を追うつもりだったのか。

 

 今となっては、何を考えていたのかは覚えていない。

 

 でも。

 

 そんな私を、蓬くんは迎えに来てくれた。

 

 その時の事は、今でも覚えている。

 

 姉が、一人きりで寂しく死を選んだのかもしれない。

 

 そんな想像で塞ぎ込んでいた私の心を、蓬くんは強引に引き上げてくれた。

 

 きっと、その時だ。

 

 私の中に、本当の意味で蓬くんへの好意が芽生え始めたのは。

 

 多分、悪く思われてはいない筈。

 

 そう思って、勇気を出して自分から花火大会に誘ったりもした。

 

 ……………………その時は「じゃあ皆にも声をかける」と返事をされて、内心落胆した事を覚えている。

 

 皆じゃなくて、蓬くんと行きたかったのに。

 

 そんな不満を押し殺して、その場で彼を罵倒しなかった私を褒めて貰いたい。

 

 まあ、結局その花火大会も怪獣騒動の所為で行く事は出来なかったのだが────────代わりに、ガウマさん達と共に花火をする事になった。

 

 どうせなら、と思って浴衣に着替えて行ったのは、蓬くんとの思い出を印象深いものにしたい、という想いがあったからだろう。

 

 浴衣姿の私を見た蓬くんのびっくりした顔は、今でも忘れられない。

 

 後から話を聞いたところによるとあの時は私の姿に見惚れていたらしいので、浴衣を着て行った私の選択は間違っていなかったらしい。

 

 蓬くんは優しいから、こんな私の事を支えてくれてる。

 

 そう思って彼から向けられる好意に気付かなかったのは、我ながら鈍感が極まっていると思う。

 

 思い返せばそれらしい素振りは色々あったのだが、そういう機微に疎い私は全然その事に気付きもしなかった。

 

 どうやら蓬くんは私の姉に関連する行動に同行を申し出た時点で、ある程度私に異性としての好意を抱いていたようだ。

 

 年上の男性に一人で会う私を心配して付いて行った、という話を聞いた時には可愛いところもあるんだなあ、と知らず笑みを浮かべたのを覚えている。

 

 当時の私はその自分の感情の名前を理解していなかったけれど、それも時間の問題だった。

 

 蓬くんが私の話を聞いて泣いてくれた時は心が暖かくなったし、彼が落ち込んだ時は我が事のように心配して寄り添った。

 

 気付けば、蓬くんを目で追っていた。

 

 気付けば、蓬くんの事ばかり考えるようになった。

 

 気付けば、蓬くんが何より大切な存在になってた。

 

 そんな私の変化に、親友の鳴衣はいち早く気付いていた。

 

 「彼氏が出来たんだろー?」と揶揄して来た鳴衣は、何処か寂しそうだった。

 

 まあ、なんとなく気持ちは分かる。

 

 私も、もし鳴衣に私以外の友達が出来てたら同じ顔をするかもしれない。

 

 この子は、私がいなきゃ駄目なんだ。

 

 そんな想いを私は鳴衣に抱いていたし、きっと鳴衣もそれは一緒。

 

 お互いの傷を舐め合うような、共依存の関係。

 

 そんな関係に心地よさを感じていた事は事実だし、鳴衣が私の大事な友達である事に変わりはない。

 

 ただ、私の世界にいる人間が鳴衣だけではなくなったというだけの話だ。

 

 私の世界には、かつては私と鳴衣だけがいた。

 

 母親は私と二人きりの時は優しかったが、父親と会話すれば出て来るのは罵詈雑言ばかり。

 

 だから私が心許せる()()は鳴衣だけで、それ以外は必要ない。

 

 そう思っていた私の心に、遠慮しがちに蓬くんは入って来た。

 

 意見の押しつけも、男の子らしい身勝手さもない。

 

 ただ私の話を聞いて、私と一緒にいてくれる。

 

 彼がした事は、言葉にしてみればそれだけ。

 

 だけど。

 

 それが、私の求めていた関係だった。

 

 心の奥底で願っていた、私の夢。

 

 依存し合うのではなく、寄り添い、共に支え合う関係。

 

 それを結べた相手が、蓬くんだった。

 

 だから。

 

 あの日。

 

 彼から告白を受けた時、私は驚きと共に舞い上がった。

 

 ────────南さん、怪獣がいなくなっても、ダイナゼノンに乗らなくなっても、俺は南さんと会いたい────────

 

────────好きです。付き合って下さい────────

 

 まさか。

 

 彼からあんな、ストレートな告白を受けるとは思っていなかった。

 

 私だったら、あんな事は出来ないだろう。

 

 関係を壊すのが嫌で、いつまでも言い訳を繰り返して現状に甘んじていたかもしれない。

 

 けれど、彼は勇気を出して自分から告白してくれた。

 

 なら、応えなきゃ嘘だ。

 

 そう思って覚悟を決めた私の邪魔をしてくれたシズムくんは、本気で空気読めてないと思う。

 

 あんな一世一代の告白の場に、普通横から乱入する?

 

 お陰で、その場で答える筈だった告白の返事は保留になってしまった。

 

 私の恋路を、邪魔するな。

 

 最後の戦いで私が奮起していた理由の幾分かに、そういった私情が混じっていた事は否定出来ない。

 

 けれど。

 

 彼等との。

 

 怪獣優勢思想との戦いがなければ、蓬くんと縁を結べなかった事も事実だ。

 

 この世界を、人を滅ぼそうとしていた彼等だけれど。

 

 彼等を倒して、ガウマさんはいなくなってしまったけれど。

 

 忘れる事が出来ない存在だった、という事に変わりはない。

 

 そして。

 

 ガウマさんや、ダイナゼノンの事も。

 

 決して、忘れてはいけないと思う。

 

 ガウマさんが、そしてダイナゼノンがいたから、この世界はこうして平和が戻ったのだ。

 

 今のこの世界は、ガウマさんが命懸けで私たちに託してくれた世界だ。

 

 ガウマさんも、色々と思う事はあったのだろう。

 

 けれど、それでもガウマさんはこの世界を守り、託してくれた。

 

 託されたのは、世界だけじゃない。

 

 他者を思いやる、絆の在り方。

 

 それを、ガウマさんやダイナゼノンに教えて貰ったんだと思う。

 

 だから、私が幸せになるのは義務のようなものだ。

 

 論理の飛躍のように思えるかもしれないが、私は大真面目だ。

 

 ガウマさんはきっと、難しい事は考えていない。

 

 ただ、私達という彼の仲間が生きる世界を。

 

 そして、私たちの笑顔を守りたかった。

 

 だから、命を懸けたのだろう。

 

 ナイトさん達と一緒にこの世界から去って行った、ダイナゼノンと共に。

 

 それなら、迷う事なんてない。

 

 そう考えて、私は蓬くんの告白の返事をした。

 

 答えは、言うまでもない。

 

 私が蓬くんの告白を断るなんて、あるワケないんだから。

 

 

 

 

 顔を上げる。

 

 目の前には、私に手を差し出した蓬くんがいる。

 

 文化祭の最中、イベントに参加する事を忌避した私は一人クラスから抜け出していたのだが────────どうやら、蓬くんがクラスメイトに頼まれて私を連れ戻しに来たらしい。

 

 自ら触れ回ったワケではないが、私と蓬くんが付き合っている事は周知の事実らしい。

 

 どうやら蓬くんは「南さん係」なんて呼ばれて、クラスメイトと私の窓口になっているようだ。

 

 まあ蓬くん以外のクラスメイトの話なんて聞く気はないので、ある意味正しい対応とも言える。

 

 それでも蓬くんを通してならクラスメイトとやり取りが出来るようになった分、前よりはマシだと思っている。

 

 その事を話した鳴衣には呆れられたが、困ってるワケじゃないし構わないと思う。

 

 本当は行きたくはないけれど、蓬くんが連れてってくれるなら別だ。

 

 一人じゃ絶対ゴメンだけれど、彼と一緒なら大丈夫。

 

 蓬くんと一緒なら、苦手な事だってきっと出来る。

 

 弱音を吐いても、寄りかかっても。

 

 彼ならきっと、受け止めてくれるだろうから。

 

 だから。

 

 そんな彼に、ちょっとした意地悪をした。

 

 彼氏彼女の関係になったのに未だに「南さん」と名字で呼んで来る彼に、名前で呼ぶよう要求した。

 

 蓬くんは少し迷ったけれど、結局顔を赤くしながら「夢芽」と名前で呼んでくれた。

 

 名前で呼ばれた瞬間、心臓が跳ね上がったのは内緒だ。

 

 どうやら、思っていた以上に私は蓬くんの事が好きだったらしい。

 

 ただ名前を呼ばれただけで、こんなにドキドキするなんて思わなかった。

 

 でも、正直に言うのは恥ずかしいので口には出さない。

 

 代わりに彼の手を握り締めて、共に並んで歩き始める。

 

 距離を詰めて、蓬くんと密着するように近付いて。

 

 彼は拒まず、私と一緒に歩き出した。

 

 そのまんまの状態でクラスに戻ったものだから色々揶揄されたけれど、蓬くんの照れた顔が見れたので問題ない。

 

 鳴衣はそんな私の姿を見て、「寂しいけど安心したよ」と言ってくれた。

 

 「変な彼氏作るなんて許さないから」と前に言っていたが、そんな彼女の眼から見て蓬くんは「合格」らしい。

 

 蓬くんに聞いた話では「夢芽の事よろしく頼むよ」と鳴衣が言っていたそうなので、これは間違いない。

 

 なんだかんだ、鳴衣も私の変化は歓迎してくれているようだ。

 

 事あるごとに蓬くんとの仲をからかって来るのは困りものだが、今まで散々心配をかけていたのでこのくらいの意趣返しなら可愛いものだ。

 

 そんな事を考えながら、ふと隣に立っているミイラの仮装をした蓬くんと目が合って────────────────二人揃って、吹き出した。

 

 今の私は、満ち足りている。

 

 色々と、悩む事は多いけれど。

 

 それでも、私の世界(ユメ)は広がった。

 

 ガウマさんが、そしてダイナゼノンが託してくれた世界で。

 

 私は、これからも前を向いて生きていく。

 

 勿論、蓬くんと一緒に。

 

 ────────それが。

 

 私の願った、夢の形なのだから。





 SSSS.DYNAZENON最終回を見て情動のままに書き上げました。

 SSSS.GRIDMANの時も「神様のいなくなった世界で」というアフターを書いた私ですが、今回のアニメも面白かったです。

 あの男らしい告白と、最終回の夢芽ちゃんの甘えぶりが最高でしたね。
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