託された世界の先で   作:デスイーター

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メイ

 私の友達の夢芽は、一言で言うと「変な子」だった。

 

 不思議ちゃん系、とでも言おうか。

 

 基本的に人見知りなので口数はそう多くはなく、ペースが独特である為大抵の相手とは会話が嚙み合わない。

 

 人と合わせようとする努力も皆無だし、色々とズレた感性をしているので話も合わない。

 

 その所為もあって、クラスでは浮いている────────────────というか、遠巻きにされているらしい。

 

 まあ、気持ちは分かる。

 

 私も個人的な付き合いがなければ、そういった対応に右倣えしていた可能性は否定出来ない。

 

 だけど、私は知っている。

 

 確かに、夢芽は変わった子だけれど。

 

 とっても、良い子なんだって。

 

 前に、こんな事があった。

 

 私は石灰アレルギーで、校庭に引かれた白線なんかでもその症状が出る為体育はいつも欠席していた。

 

 そして当然の如くマラソン大会にも出られなかったのだが、それがクラスメイトの不興を買った。

 

 基本的に、学校という閉じたコミュニティは「皆と違う奴」を排斥する傾向がある。

 

 そして、その中で私は「マラソン大会への不参加」という格好の弱みを見せてしまった。

 

 人ってのは、数が集まれば集まる程思考が単純化し、品位が低下するものだ。

 

 一人だと何も言えないような輩が、集団の一員になった途端攻撃的になるのもその一環だ。

 

 「皆がやってるから」という免罪符は、思っている以上に人の罪悪感や良識を吹き飛ばす。

 

 結果として、私はクラス中から非難の声を浴び、孤立する事になってしまった。

 

 あの時の事は、今でも夢に見る。

 

 それだけ、あの体験は私にとって忘れ難いものだった。

 

 もう一つの、意味でも。

 

 夢芽は、彼女は。

 

 そんな、「私を攻撃するのが当然」という空気の中で。

 

 我関せずを貫き、私の傍に居続けてくれた。

 

 当然そんな事をすれば夢芽にも攻撃の的が向くワケだが、あの子はそんな事知った事じゃないとばかりに全スルー。

 

 何を言われようと、最後まで私の味方でいてくれた。

 

 それがあの時、どれほどの救いになったかは言うまでもない。

 

 そして。

 

 私のとばっちりのような形でクラスで孤立した夢芽を心配した私に対して、彼女は。

 

 「友達なんて、鳴衣だけで充分だし」となんでもないかのように言ってくれた。

 

 ……………………あの時、私が変な趣味に目覚めなかった事を褒めて貰いたい。

 

 私が男だったら、あれできっと落ちてた。

 

 それくらい、夢芽の殺し文句は強烈だった。

 

 きっと、本人にそんなつもりは全然ないんだろうなあと分かってはいてもあれは効く。

 

 だって、実質「貴方さえいればそれでいい」なんていう告白紛いの台詞なのだ。

 

 まかり間違って私がそっちの趣味に目覚めていても、全然おかしくなかったと言えよう。

 

 いやまあ、夢芽に対して他の友達と同列の感情を向けているかと言われると、否定しきれない所があるのだけれど。

 

 私は、夢芽は私がいなきゃ駄目なんだ、と思ってた。

 

 人見知りが極まってて外食は券売機のある所じゃないと駄目だし、服屋で店員に声をかけられたら逃げてしまう。

 

 そんな難儀な子だから、私がフォローしなきゃ、私がいなきゃ駄目なんだ、って思ってた。

 

 だって、どう考えても夢芽に私以外の友達が出来る想像が出来ない。

 

 人なんて早々変わらないんだから、夢芽に私が必要な事も変わりなんてない。

 

 そう、思ってた。

 

 けれど、違った。

 

 あの子は。

 

 夢芽は、変われた。

 

 それも多分、男の子のお陰で。

 

 夢芽は、男の子を呼び出してはその約束をすっぽかす、という困った悪癖を持っていた。

 

 どうやら私が「他にも友達を作ってみようよ」と言った事が発端のようなのであまり強くは言えないのだが、それでもこれまで被害者から何の報復がなかった事が奇跡に近い所業である。

 

 思春期の男の子に、女の子に呼び出された挙句約束をすっぽかされる、という体験は中々にキツイ筈だ。

 

 普通、そのシチュエーションなら告白とかそういう甘酸っぱい想像をしてウキウキになると思う。

 

 それをすっぽかすというのは思いの他ダメージが大きい筈で、多分これまで報復らしい報復がなかったのもそんなハニートラップに引っかかった情けなさが先行していたからなのかもしれない。

 

 まあ、そんなワケで夢芽の学校での評判は最悪に近い。

 

 根も葉もない、にしては本人の行動に擁護出来る部分がないのだが────────悪い噂も、それなりに広まっていた。

 

 だから、そんな夢芽に私以外の友達が────────────────まして、彼氏が出来るなんて夢にも思っていなかった。

 

 実際、金石さんに話を聞いた時は耳を疑ったものだ。

 

 あの夢芽が、クラスメイトの男の子と親密にしていた、なんて聞いた時には。

 

 しかもそれがその金石さんが密かに想いを寄せていた男の子、だってんだから色々と複雑な心境だった。

 

 でも、聞いた以上無視は出来ない。

 

 金石さんが想いを寄せ、そしてあの夢芽が親しくしている男子。

 

 気にならない、と言えば嘘になる。

 

 だから、色々と聞いた。

 

 どんな子なのかとか。

 

 夢芽とどういう関わりがあるのか、とか。

 

 まあ、金石さんに聞くのは少しばかりあれなので、他の友達の伝手を頼ってみたのだが。

 

 結果として集まって来た情報を纏めると、「人畜無害なお人よし」という評価となった。

 

 聞けば、困っている他人を放っておけないという何処の善人系主人公だ、という性格をしているらしい。

 

 本人の性格は奥手で、あまり押しが強いというワケでもない。

 

 でも、一度関わった以上は親身になって話を聞いて、出来る事なら悩みの解決まで持っていくという事が何度もあったそうだ。

 

 いや何処の聖人君子だよ、と最初聞いた時は思ったが────────────────金石さんに話を聞くと、どうやら誇張でもなんでもない実話らしい。

 

 そもそもとうの金石さんも、似たような経緯があって彼が好きになったらしい。

 

 確かに、此処まで聞くと彼氏にするには申し分ない人材であると言える。

 

 でも、実際に会ってみるまで判断は保留だ。

 

 それに。

 

 親密そうにしていたからといって、付き合っているとは限らない。

 

 何せ、あの夢芽だ。

 

 まかり間違って好意を抱いていたとしても、きっと現状維持を優先して告白なんてしない筈。

 

 だから夢芽に「彼氏のトコ行くのー?」とカマをかけた時も、それ以上の探りは入れずに放置した。

 

 夢芽が、自分以外の誰かを頼りにしてる────────────────なんて現実から、目を逸らしたかったから。

 

 白状すると、私はまだ見ぬ夢芽の暫定彼氏に嫉妬していた。

 

 夢芽の隣は、私の席だ。

 

 私の、私だけの居場所だった。

 

 その筈なのに、例の彼はいつの間にかその席に座ってしまった。

 

 その事を、認めたくはなかったのだ。

 

 だけど。

 

 私の彼氏になった子、と言って夢芽が紹介して来た蓬くんと会った時────────────────嗚呼、これは敵わないな、と思い知らされた。

 

 蓬くんは噂通り────────────────どころか、噂以上に出来た人間だった。

 

 内心の事もあって「夢芽が彼女で平気? あの子、重いでしょ?」と少々嫌みな言い方をした私に対し、彼は迷う事なく「そういう面も含めて、南さんが好きだから」と言ってのけたのだ。

 

 流石に、あれには参ったね。

 

 まさか、あんな臭い台詞を素面で言える奴がいるなんて思わなかった。

 

 隣で聞いてた夢芽がまんざらでもなさそうだったのを見て、ああ、こりゃ負けたな、と私は嘆息した。

 

 だって、どう考えてもお似合いの彼氏だ。

 

 むしろ、夢芽が付き合うならこの子しかいない、と言っても過言じゃない。

 

 性格は善人そのもので、理解もあって包容力にも溢れてる。

 

 正直、彼以上の優良物件なんて他にいないんじゃないか、と思える程の男の子だった。

 

 しかも、聞けば告白は蓬くんの方からしたらしい。

 

 相当にどストレートな告白だったらしく、その事を話した夢芽の顔はとても幸せそうだった。

 

 私はそんな夢芽を見て、嗚呼、私の役割は終わったんだな、って思った。

 

 夢芽の世界にいたのは、これまで彼女と私だけだった。

 

 私は他にも友達がいたけれど、それでも夢芽以上に親しい相手なんていない。

 

 そして、夢芽は私以外の友達が出来るとは思えなかったし、彼氏なんてまず無理だと思ってた。

 

 だから、私がずっと夢芽を支えていなきゃいけない。

 

 そう、思っていたのだけれど。

 

 どうやら、その役目は蓬くんが持って行っちゃったみたい。

 

 だから、少し意地悪をして「友情より男を取るなんて、夢芽も薄情になったもんよねー」と軽口を叩いてみた。

 

 もう、夢芽とべたべたするのは止めよう。

 

 夢芽には蓬くんがいるんだから、私がいなくても大丈夫。

 

 そう思って、私は夢芽と距離を置こうとしていた。

 

 だけど。

 

 私の言葉を聞いてキョトンとした夢芽は、「蓬くんは私の大切な彼氏だけど、鳴衣も大事な親友だよ? 優劣なんて付けるワケないじゃん」とまたもや素面で殺し文句を宣ってくれた。

 

 嗚呼、私は何を勘違いしていたんだろう。

 

 夢芽は何も、私を見捨てたワケじゃない。

 

 ただ、私がそうであるように、私以外にも人の繋がりが出来たってだけなんだって。

 

 これが他の子なら、社交辞令かなんかだと片付けただろう。

 

 だけど、夢芽はそんな事が出来る程器用な子じゃない。

 

 目を見れば分かる。

 

 夢芽は、本心からそう言っている。

 

 蓬くんの事も大切だけど、私の事も大事に思ってくれてる。

 

 それを理解した時、私は自分の独り相撲具合を振り返って苦笑した。

 

 何もかも馬鹿らしくなって、けれど。

 

 私の大切な親友に、これ以上ないパートナーが出来た事をようやく祝福する事が出来た。

 

 発破代わりに「夢芽の事を頼んだよ」と蓬くんに告げると、彼は「勿論、そのつもりだよ」と即答した。

 

 その姿を見て、この子なら大丈夫、と安心した。

 

 金石さんや夢芽が、好きになったのも分かる。

 

 彼は、底抜けの善人だ。

 

 それでいて、人の気持ちに寄り添う事が出来て、一途だ。

 

 自分から告白する男らしさもあるし、あの夢芽が心を許す程包容力がある。

 

 我が親友ながら、良い男を捕まえたものだ。

 

 金石さんには悪いが、私は二人の仲を応援させて貰う。

 

 とは言っても、この分だと二人が離れる事なんて想像も出来ないが。

 

 きっと、二人は私の知らない二人だけの体験をしたのだろう。

 

 夢芽がお姉さんの事を聞きに回っている時も同行していたという話だし、その時に色々あったのかもしれない。

 

 もしかしたら、私の知らない冒険でもしたのかな、なんて益体もない事を思う。

 

 でも、これまでフィクションの存在だと思ってた怪獣が実在したんだから、そういう事があってもおかしくないのかもしれない。

 

 だって、夢芽は物語のヒロインみたいな子なんだもの。

 

 影があって、儚げで、容姿はお姫様みたいに整ってる。

 

 それでいて、何より感情(あい)が重い。

 

 これ以上なく、ヒロインとしての属性を兼ね備えていると言える子なのだ。

 

 だから、私の知らない冒険を彼氏と二人で潜り抜けていても驚きはない。

 

 それが事実だとしても、「やっぱりね」という納得があるだけだ。

 

 もしかして、怪獣と戦ってたあのロボットに一緒に乗ってたりして、なんて馬鹿な想像もしてみるけれど、ホントのところはどうでも良い。

 

 夢芽は私の大事な親友である事に変わりはないし、その親友が良い男を捕まえたのだから歓迎しなくちゃいけない。

 

 ふと、思う。

 

 蓬くんもまた、夢芽の無自覚な殺し文句にやられたクチだろうかと。

 

 夢芽はなんでもないような顔をして、こちらの心臓(トキメキ)にクリティカルする発言を口にして来る。

 

 彼女のような美少女にそんな事をされては、落とされない方がおかしい。

 

 そう思って尋ねたら、笑って誤魔化された。

 

 でも、その反応だけで既に経験済みである事は察せられた。

 

 それに、気付かないと思った?

 

 いつの間にか、夢芽への呼び方が「南さん」から「夢芽」に変わってたって事に。

 

 聞けば、どうやら夢芽の方から名前呼びを要求したらしい。

 

 あの子にしては頑張ったな、と思いつつ、彼女の甘え癖を思い出して彼氏が出来るとこうなるのかあ、と納得した。

 

 夢芽は、親しい相手に寄りかかる癖というか────────────────割と、甘えん坊なところがある。

 

 蓬くんはそんな夢芽のお眼鏡に叶っただけあって、彼女が甘えたいだけ甘えさせているようだ。

 

 少し話を聞いただけでもコーヒーが飲みたくなる甘さだったので、詳しい話は避けた。

 

 砂糖を吐くような、などという経験を自分がするとは思っていなかった。

 

 流石夢芽。

 

 私が男じゃなかった事を、ちょっとだけ後悔させるとは。

 

 でもまあ、良い。

 

 色々あったけれど、今の夢芽はとっても幸せそうだ。

 

 夢芽と、蓬くん。

 

 二人がどのようにして知り合い、付き合う事になったかは聞かない。

 

 運命の赤い糸を信じてしまうような、二人だけの冒険があったのかもしれない。

 

 興味はあるが、それは多分私が立ち入って良い部分じゃない。

 

 重要なのは、今夢芽が幸せだって事。

 

 なら、私に文句はない。

 

 だから、蓬くん。

 

 いつまでも、夢芽とお幸せに。

 

 そして、夢芽。

 

 その子、離すんじゃないわよ。

 

 だって、きっと。

 

 彼以上のパートナーなんて、もう見つかる筈ないんだから。

 

 ふと、手元にある一つの写真が目に入る。

 

 それは夢芽が蓬くんを紹介して来た日、二人を並べて撮った写真。

 

 そういえば、題名(タイトル)を決めていなかった。

 

 我ながら完璧に近い出来の写真だし、名前を決めないのは勿体ない。

 

 丁度良い、今命名しよう。

 

 タイトルは、そう。

 

 ────────────────パーフェクト(完璧だ)、なんてどうだろう。

 

 完璧な出来だからそのまんまの名前だなんて、私でもどうかと思うけれど。

 

 でも、この写真を見せた時の反応を思えばそれも悪くはない。

 

 私の世界は、変わらないけれど。

 

 それでも。

 

 夢芽が幸せに生きられる世界があるなら、それで良い。

 

 私はそう信じて、今日も夢芽をからかい倒す。

 

 この幸せな日々を、噛み締めながら。




 なんとなく浮かんだので鳴衣ちゃんバージョンも追加です。

 ダイナゼノンと関わりのない第三者でありながら、夢芽ちゃんの唯一の友人であるという立場を活かした話作りにしたつもりです。

 夢芽ちゃんは無自覚で殺し文句を言うから素敵です。
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