怪物たちと,バケモノと。   作:パセリセリ

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バケモノ思う皇帝と

トレーナーと話した後に,登ってきた山道を降り終えると既に陽は傾いていた。

 

まだ登れないこともないが,慣れていない山道を暗い中進むのは危険だという理由で今日の練習はお開きとなった。

 

「しばらくはこの登山トレーニングを加えていくつもりだ。このあと自主トレしたくなったら声をかけてくれ。」

 

「併走でもしてくれるのか?」

 

「バカ言え…流石に他のウマ娘やトレーナーにお前と併走しているところを見られてみろ。それこそ何言われるか分かったものじゃない。」

 

げんなりとした風に話すトレーナーにつまらん,と息をこぼす。しかし,彼の言う通りだ。側から見れば普通の人間と変わらないこの男が私と併走なんてして仕舞えば余計なことを言ってくる輩が増えてくるだけだ。

 

うるさいのは嫌いだし,私たちのことを勝手に言われるのはもっと嫌いだ。彼との併走などはまたの機会に取っておくか。

 

(ん…?)

 

そう思った矢先にふと疑問に思う。

 

トレーナーとの模擬レースの際には,少ないとは言え見届けていた者たちがいた。

 

チームリギルのトレーナーに,理事長秘書。そしてリギルに所属する〝スポーツカー〟〝怪物〟の異名を持つマルゼンスキー。そして〝皇帝〟にして,この学園の生徒会長を務めるシンボリルドルフ。

 

チームリギルの…確か〝おハナさん〟と呼ばれていたトレーナーと理事長秘書である2人は分かる。元々彼はリギルのサブトレーナーに所属していたし,学園においても特殊な立ち位置にいるため関係はあるだろう。

 

では,残り2人はなぜあの場に居たのだろうか?

最悪スタートもゴールもリギルのトレーナーと秘書の2人で足りるはずなのに…あの場にいる理由はない。何か言われるのが嫌ならば関わる人間は極力少ない方がいいはずなのに,だ。

 

悶々と考えるも答えは当然見つからない。ならば答えを知る人物に聞くしかないだろう。

 

「おい」

 

「ん?」

 

「あの日、なんであのメンツがレースに居たんだ?リギルのトレーナーと秘書の2人はまだ分かる。だが,残りの2人はあそこにいる必要があったのか?」

 

「残り2人?あぁ,マルゼンスキーとルドルフか」

 

私の質問に対してトレーナーは特に隠すつもりもないと言う風に言葉を続けた。

 

「マルゼンスキーは多分,話を聞いて面白そうだと思ったからだろう。そしてルドルフは俺が人狼であることを知る唯一の学生だ。まぁ,今じゃ唯一じゃなくなったけどな。」

 

「なに?」

 

「詳しく聞きたいならルドルフに聞いてみるといい。もしかしたら今は生徒会室で仕事でもしているかもな。」

 

「…アンタは来ないのか?」

 

「俺は仕事だ。お前が一緒に行った方が安心するというなら行くが…どうする?」

 

「〜ッ!要らん!」

 

下らない冗談を挟むトレーナーの言葉に顔が熱くなるのを感じながら,私は彼のもとを後にした。もう夕方ではあるが寮への門限までは時間はある。それに彼の言う通りであるのであれば…

 

気付かぬうちに早足になりながら,私は彼の示した場所に向かい始めた。

 

 

 

 

 

「じゃあルドルフ,アタシは上がるけど…貴女はどうする?」

 

「この投書に目を通してから上がることにします。」

 

「そう。何かあったらすぐに教えてね。お疲れ様〜。」

 

ふぁ,と欠伸を一つしながら荷物をまとめ部屋を後にする先輩に「お疲れ様です」と返すとヒラヒラと手を振りかえしてくれた。

 

生徒会長に抜擢されたものの,まだまだ未熟な私に対して前生徒会長である彼女は色々と教えてくれる。彼女がウマ娘として前線を引退するのを機会に引き継いだ生徒会長という立場ではあるが,周りもそれを受け入れてくれたことに感謝する日々を過ごしている。

 

現に予算書や備品,次のイベント企画書やメディアへの対応など様々な資料が机の上に山のようにはあるが,6割以上は先輩らが担当し終えているものが並んでいるだけだ。まだまだ私は未完の器であることを痛感させられる。

 

(浅学非才…理想を掴むまでの道は遥か遠く,か。)

 

クラシック3冠は獲った。有馬記念も獲った。次の狙いは春の盾,天皇賞だ。世間では〝絶対〟と言われてはいるが,それと同時に語られるものもある。昨年のジャパンカップ…初の黒星,3位に沈んだレースだった。

 

(もう敗北は許されない…私は理想の〝皇帝〟にならなければならないのだから。)

 

そうだ。私の夢のためにも,理想のためにも2度と敗北は許されない。皆を導くには〝絶対〟的な指標が必要なのだ。その為には文武問わず欠陥があって良い筈がない。あってはならない。その為には私は何度でも栄光の冠を被らなければならないのだ。

 

(そう彼にも言ったじゃないか。)

 

皆を導くウマ娘になると。誰もが幸せな世界にするという私の夢を…初めて応援してくれた彼を思い浮かべる。

 

彼は私の理想を聞いたから,というわけではないだろうが,その後の活躍は目覚ましいものだ。

 

学問、実技では問題なくオールクリア。特に研修生でありながらウマ娘の脚質適正や調子を見抜く観察眼はずば抜けていた。それを見込みおハナさんや沖野トレーナーはよく可愛がっていたし,模擬レースでは彼と組んだウマ娘の勝率は8割と,他の研修生や並みのトレーナー以上であった。

 

それだけではなく,学園内のウマ娘とトレーナー間に関わる事件の対応。トレーナー達へ暴走したウマ娘に対する防衛アイテムの開発や提供。外部による亜人種や反トレセン学園およびURA組織による武力活動の鎮圧。対ウマ娘鎮圧部隊や警察との連携の中枢を担える統率力…今では少数のチームを抱えているとも聞いた。

 

(そして今では,あのナリタブライアンのトレーナー,か)

 

手に持つ投書を机に置き,椅子の背もたれに体を沈め,天を仰ぐ。2年前に会った時から,随分と彼は遠くに行ってしまった。最後に話したのは,先日行われた彼の見送り会の時だろうか…それ以来まともに話した記憶などない。久しく彼の声を聞いていない。2年間,異性の中で1番聞いた彼の声がどうしようもなく懐かしか思ってしまう。

 

「会いたい…」

 

ポツリと,思いがけず出てきた言葉は孤独な部屋の中に消えていった。

 

もう今日は帰るとしよう。仕事は予定よりも進んでいる。投書の中身も最低限目を通した。門限までは時間もあることだし,軽く汗を流してから帰るのもいいかもしれない。

 

机の上の書類を整理して,窓の鍵をかけて鞄を抱える。そして生徒会室のドアを手を掛けようとしたときに,コンコンとノックの音が響いた。

 

(来客?いや,そんな予定はない筈だ。となると学生の誰かか?)

 

生徒会室にはあまり一般の生徒が近づいてこないことや,トレーニングも終わるこの時間にわざわざノックをして訪れるような物好きな学生などいるのだろうか?

 

不思議に思いながらも数歩後ろに下がり,「どうぞ。」と部屋に入ることを相手に促す。

 

「失礼する。生徒会長様はいるか?」

 

「君はー」

 

ドアを開けたそこには,先程まで思っていた彼の担当バが立っていた。

 

ジャージ姿であることから,トレーニング終わりなのだろう彼女は、ジッと私の顔を見据えている。

 

「何か生徒会に用かな?」

 

「いや,用があるのはアンタにだ。会長様。」

 

そう言って彼女はドアを閉めるも,静寂が2人と部屋の中にあるだけだった。というよりも,彼女がどうやって切り出せば良いか悩んでいるふうに感じる。

 

(ふむ…)

 

何か聞きづらいことなのだろうか。しかし,このまま生徒会室に居続けることにもお互いのために良くないだろう。ならば,こちらから切り出すとしよう。

 

「君,まだ体を動かす余力は残っているかな?」

 

「…あぁ。」

 

ぎこちなく頷く彼女に私は笑うと,一つ提案をする。

 

「実はこれから軽く体を動かそうと思っていてね。よければ付き合ってくれると嬉しいのだが…どうだろうか?」

 

「あぁ,わかった。恩に着る。」

 

こちらの真意を汲み取ってくれたように彼女はそう話すと,後ろの扉を開けて外に出る。うまく誘導できたことに私も安堵しつつ,彼女の後に続いた。

 

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