怪物たちと,バケモノと。   作:パセリセリ

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鬱憤溜まる怪物と

「ルドルフと自主練をした!?」

 

「あぁ。」

 

次の日の朝の時間のトレーニングにて,トレーナーに昨晩のことを話したら彼は珍しく驚いていた。

 

「…お前から誘ったのか?」

 

「いや。アイツの方へと出向いたのは私だが,自主練に誘ったのは向こうからだ。」

 

自主練といっても,会話をしながらのジョギングの為気分転換の軽い運動に等しい負荷だ。別に体に異変はないし,調子も悪くない。

 

それでも心配性なこいつには言わないと,また細かく聞かれるだろうから先に内容を伝えればホッと胸を撫で下ろす。

 

「しかし,お前とルドルフに共通の話題があるとは…生徒会にでも入るのか?」

 

「冗談じゃない。誰が好きであんな堅苦しそうな所に入るか。」

 

げんなりとした風に返せば,彼は「だろうな」と小さく笑って返すのだった。確かに別れる間際に誘われはしたが,椅子に座ってやれ書類整理だ会議だなぞ私の性に合うわけがない。コイツもそれは理解しているだろう。

 

そのあとは特に何も話はせず,ストレッチを十分というほどした後にウォーミングアップも兼ねてターフを2周ほど軽く流す。静かな朝方の空気の中を走るのはやはり気分が良い。

 

「よし…昨日の疲労もないな。それじゃあペース走から始めるとするか。」

 

「分かった。」

 

トレーナーのトレーニングメニューは朝はアップに時間をかける。負荷はそれほどでもないが,長時間一定のペースで行うものが多い。そして昼,夕方などは負荷は高いがセット数は少なく,種目も多い。それに一度もの足らず,不満を言ったことがあるが,

 

「まだ体も脳も覚醒し切っていない朝方からいきなり負荷の高いトレーニングができるか。」

 

とバッサリと切り捨てられた。私が睨んでもどこ吹く風とトレーナーは全く気にしない。それを何度か繰り返し私の方が折れた。

 

ストップウォッチを取り出してスタート位置に向かうトレーナーの後を追い,構える。そして「スタート」という合図とともに駆け出す。

 

「ハッ…ハッ…」

 

「ペース早いぞ。あと20秒抑えてみてくれ。」

 

「クッ…!」

 

距離は一周2,000メートル。コースの特徴としてはは第一コーナーから緩い下りが続き,第三コーナーにかけて上り坂に入り,最後の直線は平坦となる。

 

このトレセン学園は全国様々なレース場に対応するためにあらゆるコース形状を模した会場。そして坂路,ダート,ウマ娘専用のタイヤ引き専用コースなどがある。

 

勿論,芝の状態やコース形状によってペースは変わるのは当然ではあるが,私のトレーナーは基本「崩さない」のを鉄則としている。

 

何でも,コースの状態をいち早く掴み,いつでも同じペースで走れるような感覚を積むことでその日その日で大きく左右されない習慣をつけるのもこのトレーニングの一因とのことだ。

 

だが,ペースを抑えて走り続けるのは私の性格上ストレスが溜まる。本能のまま駆け出したいのを理性で抑え続けらようなものなのだから,当たり前だ。

 

そんな悶々とした気持ちを抱えたまま私は3周走り終える。ゴール地点ではトレーナーがタオルとボトルを持って私を待っていた。

 

「お疲れ様。少し休んで2セット目いくぞ。」

 

「あぁ。」

 

渡されたボトルを受け取り,中身を飲み一息入れる。思うように走れないストレスもあるが体が変に疲れるということはない。むしろ有り余っているくらいだ。

 

「次はペースを上げる。」

 

「言うと思ったが,まだダメだ。」

 

「何故だ?」

 

少し強めにトレーナーに言えば,彼はフッと小さく笑った。

 

「思うように走れないのがストレスなんだろ?それが狙いだ。お前は目の前に敵がいれば食らいつかんとスピードを上げる。だが,集団から抜け出すのには瞬間的に大きくパワーもスタミナも使う。位置取りする際には激しい接触もあるし,大回りをすれば余計なスタミナを消費する。」

 

「何が言いたい?」

 

「我慢を覚えろってことだ。思うままにレースを走るのも大事だが,理性で本能を抑え,仕掛け時まで脚を溜めるのも戦略だ。折角の末脚だ,それを無駄に消費するわけにはいかないだろう。」

 

そこまで言われて仕舞えば、何も言い返せない。現に彼と全力で走り合ったのだから,尚更だ。

 

そう思うと彼のスマホから休憩時間を終えるアラームが鳴り響く。トレーナーはすぐにそれを止め,私はボトルとタオルを彼に返した。

 

「行ってくる。」

 

「あぁ…それと2セット目,多少ペースは上げていいぞ。」

 

「本当か!?」

 

「多少だからな。あまり上がりすぎたら知らせるからその時は落とすように。」

 

「あぁ,分かった。」

 

メニューとしてはやることは変わらないが,私の気持ちを汲み取ってくれるのは彼の優しさからくるのだろうか。どちらにしろ,先ほどよりはストレスが減るだろう。

 

「上げすぎだ!ペースを下げろ下げろ!」

 

「グッ…」

 

前言撤回。やはりトレーナーはトレーナーだった。

 

その後も何度かトレーナーから警告ももらうが、同時に良かったところや伸びてきたところも言われはしたがブライアンの耳は不満げに折れたままだった。

 

「…尻尾モフるか?」

 

「私のことをなんだと思っている!?」

 

そうは言うものの,朝のトレーニング終わりにトレーナー部屋にて彼の尻尾をモフモフと抱きしめたり,顔を埋めたりとブライアンは存分に楽しんだ後に授業へと向かっていった。

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