怪物たちと,バケモノと。   作:パセリセリ

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秋川やよい

 

年藤の車に揺られながら数十分,目的の場所に到着する。

 

バカ広い敷地の門を潜り,たづなさんの案内の下ある部屋の前にたどり着く。

 

「理事長,例の2人をお連れしましたよ。」

 

「うむ,了承!入るがよい。」

 

比較的若い,そして幼いような元気な声が聞こえてくるとたづなさんは「どうぞ」と笑顔で扉を開ける。

 

「歓迎!ようこそ我がトレセン学園へ!」

 

「にゃー」

 

2人の目の前には,白と青を基調とした制服を見に纏い,頭の上に猫を乗せる理事長と名乗る少女ー秋川やよいが立っていた。

 

その手には「歓迎!」と書かれた扇子が収まっている。

 

「久しぶり,理事長ちゃん。」

 

「はじめまして。」

 

顔見知りなのか,年藤はヒラヒラと手を振りながら挨拶を返す。此方も頭を下げて挨拶をすれば理事長も「うむうむ!」と笑顔で頷き返す。

 

「感謝!今は…〝年藤〟氏と呼べば良いのか?」

 

「〝みそら〟で良いですよ。」

 

「承諾!みそら殿,まずは我々の声に応えて頂けたことに深く感謝したい。ありがとう。」

 

深々と頭を下げる理事長が顔を上げた際,そこに笑顔はなく,真剣な眼差しを向けてくる。

 

「お茶を淹れてきますね。皆さんは此方でお待ちください。」

 

その言葉を受け部屋にある椅子に皆腰をかける。その後慣れた手つきでたづなさんが紅茶の入ったカップをそれぞれの前に置き,理事長の横に腰を下ろした。

 

「さて,私はたづなから話は一度聞いたけど,銘無もいることだし。改めて内容を聞いても宜しいかな?」

 

「了承。結果から言えばここ暫く,我がトレセン学園は外部から人的被害を受けている。

焦心。現在の学園生徒会や上層部とも話し合ったが迂闊に手を出せるような問題でもなかった。下手を打てばトレセン学園の価値も下がり,生徒であるウマ娘達にも余計な被害が出かねない。」

 

「そこで今回,みそらさんにこの話を持ちかけてみるのはどうかと私が理事長に提案したんです。極めて個人的なお願いにも関わらず,内容を聞いてくださってありがとうございます。」

 

申し訳なさそうに話すたづなさんは年藤の方を見る。

 

「謝らなくていい。寧ろよく私に話してくれたね。ありがとうたづな。」

 

彼女に笑顔を向けて返すと,年藤さんは一口紅茶を飲む。たづなさんの表情も先よりも柔らかくなっていた。

 

「警察には話さなかったのですか?この学園は特殊警察団や対ウマ娘制圧団体と繋がりもあるくらいだ。それくらい容易でしょう?」

 

「難航。すでにそれは済ませた。しかし思うような結果が得られることはなかった。

今学園で起きている問題は大きく3つある。

1つ。我が学園のウマ娘達およびトレーナーへの悪質な贈り物。これは彼女達に渡る前に学園側で検査してから渡しているから君達に任せるものではない。

1つ。我が学園のトレーニングエリアコースの破損…芝やダート,備品の破損など多く整備士の手が追いつかない。警察も導入して貰ったが〝ヒト〟の持つ身体能力では不可能な範囲だ。」

 

そう話して理事長は机の上に写真を置く。

 

年藤さんと2人で確認すれば酷いものだ。

整備された芝は剥がされ,砂利の混ざったコース…ダートには鋭利な鉄屑が。

ゴール板や柵,観客席エリアはまるで大きな爪で引っ掻いたような痕や,大型ショベルカーでも振り回したのかというような惨惨なるものだった。

 

なのにそんな大型機械を搬入した痕跡がないとなれば一般の警察もお手上げとなったのだろう。

 

「…これは確かに〝こちら側〟の奴らの犯行ですね。」

 

「質問。〝こちら側〟と言うのは?」

 

写真をすべて見終え,理事長の顔を見ながら話すと彼女はそう返す。

 

「この世界では…まぁこの学園で例えて言うので有れば人類は,トレーナーのような〝人間種〟と,ウマ娘のような〝亜人種〟の2つに分類されます。

世間ではウマ娘が圧倒的な知名度・人口数を誇っておりますが〝亜人種〟は何もウマ娘だけではないのですよ。例えばそうですね…」

 

〝人狼〟とか

 

「「!!?」」

 

ガタッと大きな物音を立て,目の前の2人は椅子から腰を上げようとしていた。

その目には未知のモノに対する恐怖,驚きの感情がハッキリと映っている。

 

漫画やゲームでよくある人狼で思いつくような耳と尻尾。黒色の毛に覆われたそれが目の前の男に急に生えているのだから。

 

「きょ…驚愕ッ!本物なのかソレは?いや,そもそも人狼なんてものが存在するのか!?」

 

「耳も尻尾も本物ですよ。ほら,爪も鋭いし,八重歯の部分もウマ娘やヒトのそれとはちがうでしょう。何なら触ってみてもいいですよ。」

 

そう話すと彼女らは恐る恐ると手を伸ばし,生えてきた耳と尻尾にそれぞれ触れる。

触る直前にピコピコと動かすと大袈裟に驚いた。

 

「あ、本当に生えてますね…フワフワ、コリコリしてて気持ち良いです。」

 

「尻尾もフサフサだな…ボリュームもあって柔らかいしクセになりそうだ。あといい匂いがする。」

 

一瞬驚くもそのあとは割と大胆に触ってくる。理事長に至っては尻尾をむぎゅっと抱きしめている。

 

「分かる,分かるぞ。銘無の尻尾は一級品だ。しかし2人とも,そろそろ本題に戻ってくれないだろうか?」

 

困ったように話す年藤さんの一言で2人共ハッとしたように意識が戻されると,何事もなかったかのように目の前のソファに戻った。

 

「…まぁこのように。この世には多種多様な〝亜人種〟が存在します。俺のような〝獣ベース〟雪女や天狗のような所謂〝妖怪ベース〟そしてデュラハンやオーク,コロポックルのような〝モンスターベース〟…まぁ血が薄くなったり血縁が絶えたりでゲームや漫画のような姿ではない場合の方が多い種もあります。

 

そうは言っても,ヒトよりも遥かに身体能力は強化されています。中にはウマ娘以上の種も居ますし…この写真のような被害はそいつらが起こしたと思って間違いはないでしょう。」

 

そう話しながら耳と尻尾を消すと2人は残念そうな顔をする。思ったよりも好かれてしまったようだが,今は無視する。

 

「因みに聞くけど,こんな大きなことが立て続けに起きた事例はある?私も知っている情報はコイツに共有したけど隠していることもあるのでは?」

 

年藤が理事長ら2人の顔を見れば,横に首を振られる。

 

「否定。こうも目立つようなことが立て続けに起きてなるものか。そのために代々の理事長や多くのスポンサーのお陰もありセキュリティシステムの向上ができている…といってもまだまだ課題は山積みであるのも事実。」

 

「ふぅん…となると,だ。

他の亜人種団体による妨害行為の線が濃厚か。」

 

「えっ?」

 

年藤の言葉にたづなさんは驚いたように目を見開くも、年藤は「考えてみろ」と話を続ける。

 

「150年も続くトレセン学園を中心に地域都心部問わず〝ウマ娘〟を育成するトレーニングセンターの運営実態。年内多く行われる様々なレース。そしてウィニングライブ。近年はウマドルやウマ娘のみの格闘技世界,競技への進出。

 

多種多様な業界に進出する〝ウマ娘〟という〝亜人種〟がもたらす経済効果と世界への影響度は昇龍が如く,だ。

 

さらに言えばヒトとウマ娘の密接な関係は歴史上からも窺える切っても切り離せないものとなっている。

 

だがまぁ…他にも多くの亜人種がいる中で〝ウマ娘〟だけが優遇されているのは可笑しいと思う奴らも当然いるわけだ。

 

中には迫害された種もいるわけだし…神代まで遡れば生まれながらに〝人類の敵〟とされる奴らもいる。」

 

「そして,ウマ娘の近年の活躍を踏まえて〝反ウマ娘団体〟とでも言おうか?そういった亜人種を中心とした組織の行動が活発になっている。

私らからしても目をつけていた矢先だったから,タイムリーだったよ。」

 

そういって彼女はゴソゴソと胸ポケットを漁り,名刺入れを取り出した。

 

「個人電話でもいいんだけど,一応会社の名刺も渡しておく。銘無も出しなさい。」

 

そう彼女に促され,自分も上着の内ポケットから名刺を取り出して2人に渡す。

 

そこには氏名、電話番号やメール。

そして所属している組織名「borderless」と書かれていた。

 

「ウチの会社は一般人から亜人種含めて様々な奴らが所属していてね。警察や公安とも関係はないこともないけどまだまだ信頼関係は満足な段階まで行ってない…あまり表立ってない組織だからって言うのもあるけれど仕事はきっちりやるよ。

 

それに今回は私にも少なからず縁がありそうだし,協力できることは全部するよ。仲間にも数人声をかけとこう。

 

今回の件については私の部下でもある,この銘無が担当する。歳は若いけど,実力はあるよ。

ウマ娘に関してもある程度知識はあるから,問題はないと思う。」

 

ポン,と彼の方に手を置いて年藤は笑った。

 

「感謝!銘無くん,よろしく頼む!」

 

「此方こそ,早急に解決できるよう努めますよ。」

 

差し出された理事長の手に応じて,握手をする。

 

だがここで大事な事を聞く事を忘れており,そのまま彼女たちに質問をした。

 

「今回の件について,任務期間を聞くのを忘れていましたね…なるべく早くカタをつけたいでしょうし,いかがいたします?」

 

「ん?特に期間は決めていないぞ?というか当分はトレセン学園に身を置いてもらう。」

 

そう話す年藤さんに「は?」と思わず返してしまった。

 

彼女は言うの忘れていたな,と付け加えるとニッカリと笑って衝撃の一言を言う。

 

「辞令だ。1週間後からお前を正式にトレセン学園対亜人種鎮圧員兼トレーナーに任ずる。

傭兵じみた生活から卒業するいい機会だ。しっかり頑張れよ。」

 

数秒の沈黙。

そして理事長室から男性の叫び声が,トレセン学園に響き渡った。

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