怪物たちと,バケモノと。   作:パセリセリ

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メイクデビュー前から有名な彼女も,誰かの前では年相応の女の子になると思うし,なって欲しい願望を込めました。


少女とバケモノ

 

シンボリルドルフに案内されて生徒会室の中に入る。

 

他のメンバーはあいにく居なかったが、彼女は慣れたように動くといくつかのファイルや資料の束を此方に渡してきた。

 

「緑のファイルはターフ。白のファイルは観客エリア。黄色は君が先程いたダートの被害状況がまとめられています。あとは最初に発見した者たちの声をまとめたものや,警察の方々の取り調べ資料です。」

 

「そうか。ありがとう。助かるよ。」

 

「当然のことをしたまでです。」

 

そう話す彼女だが,尻尾が勢いよく揺れている為嬉しいという感情が丸わかりである。

 

ウマ娘は亜人種の中でも特に感情が分かりやすいと上司から何度も聞いたことがあるが…なる程,ここまでのものか。

 

「さて,この資料を今ここで見ても良いかな?」

 

「だったら,此方の席にお座りください。飲み物も今お出ししますね。」

 

席を案内し,彼女は奥の簡易キッチンの方へと向かっていく。先程の警戒心はどこにいったのであろうか。耳をすませば彼女の小さな鼻歌まで聞こえてくる。

 

それにつられ小さく笑みを溢すと,彼女に案内された席に腰を下ろし,ファイルを広げる。

大体が理事長室で見た画像と一致したが,細かな傷の形や様子。側に落ちていた物品。そして第一発見者の声が事細かに記されている事でこれから調べようと思っていた事が大きく省略できた。

 

気になる点をカバンから出したルーズリーフに殴り書きしてまとめていくと,シンボリルドルフがお茶を2つお盆に乗せて戻ってきた。

 

「私も座っても?」

 

「勿論。」

 

そう聞くと彼女は湯呑みを一つ此方の前と自分が座る席の前に置き,腰を下ろす。

 

興味があるのか此方をじっと観察してくる。視界の端には尻尾が時折揺れていた。

 

(有望株にして大人びた娘たちとはだと思っていたが,まだ中学生か。)

 

可愛らしい彼女の一面を見て,ペンを置き湯呑みに手を掛ける。適温になったお茶を一口啜るとホッと一息ついた気持ちになる。

 

「お疲れですか?」

 

「多少はね。」

 

慣れない場所に来て初日。任務の件や上司からの辞令。道中ウマ娘の子たちから向けられた多くの視線や囁き声など外的内的要因含めて知らないうちに削られている。

 

しかし,目の前の彼女のお陰もあり判ったことも多くある。ある程度どんなタイプの亜人種が妨害に来たのかも理解できた。

 

あとはタイミングを図るのみだが…暫くは泊まり込みになりそうだ。

 

長く息を吐き,気持ちを切り替える。

この一件に関してはそこまで時間がかかることはなさそうだ。

 

「改めてお礼を言う。情報提供感謝します,シンボリルドルフ。」

 

「フルネームだと言いにくいでしょう?これからは〝ルドルフ〟と気軽に呼んでください。」

 

「了解した。ところでルドルフはトレーニングはなかったのか?レース場は使えなくても室内トレーニングルームやプールでできただろう?」

 

「今日は休息日ですので。自己管理も蔑ろにする気は有りません。」

 

なるほど,だからあの場所にいたのか。

学生が1人であんな場所に来るから何事かと思っていたが,正義感ゆえの行動だったらしい。

 

「トレーナーはもう居るんだろう?まぁ今の俺には関係のない話ではあるがね…」

 

「いいえ,いません。」

 

「それは…何故?」

 

渡された資料と,道中に自分たちに向けられた声がに耳をすませば彼女は大部分のウマ娘達から注目を浴びている存在だ。

 

当然この学園の中堅,ベテランと言われるトレーナーから引く手数多…てっきりもう誰かと契約を結んでいるものだと思っていただけに驚かされる。

 

「私には叶えたい夢…目標があります。両親は応援してくれました。だけど,他の大人達は無理だと,夢物語だと嗤うのです。」

 

顔は俯き,膝に置かれた拳に力が込められ,口は固く結ばれる。それは彼女が何度も大人達が,社会の常識が持つ壁に拒まれた証だろう。

 

「その目標は,果たして俺が聞いても良いものかな?」

 

そう話すと,彼女は驚いた風に顔を上げた。

その目には不安と,ちょっとした期待の色が浮かび上がる。

 

一度口を閉じ,そして決心したように彼女はその夢を語ってくれた。

 

「私は…私の夢は!誰を導く頂点となり,皆を導くウマ娘でありたい!

 

全てのウマ娘が幸せになれる…そんな世界を作りたい!」

 

興奮気味に彼女は俺にそう自分の夢を,目標を聞かせてくれた。アメジストの瞳は潤み,息も荒い。手は制服の裾を握りしめており,彼女の不安や緊張が露骨に現れていた。

 

その姿に,自分の同志達の姿が重なった。

 

全ての亜人種と人間が,差別なく自由に暮らせる世界を作りたいー子供のように純粋で,青臭い思いで懸命に働く彼らの姿と,目の前の小さな彼女は同じ瞳をしていた。

 

人を突き動かし,社会に影響を与えるような大きな流れを生み出す人格者の瞳だ。

 

そんな者の夢を目標を。

夢物語などと否定するなど何故出来ようか。

 

「いいじゃないか。」

 

「ふぇ…」

 

気が抜けた声で返すルドルフ。構わずに口を再度開く。

 

「全てのウマ娘の頂点に立つ。そして皆を導く。その為には君はレースに出て勝ち続けなければならない。勿論それ以外でも。

 

茨の道だ。果てしない荒野を歩くようなものだ。

 

だけど君は,それを覚悟の上で決めたのだろう?

 

ならば俺は…ルドルフ。

 

君を個人的にでも応援しよう。

 

できる範囲であれば君を支えよう。

 

君がこれから導く者達を全力で守り抜くことを,今ここに約束しよう。」

 

気づけば彼女の目には涙が浮かび,ボロボロと崩れ落ちていた。いく筋にも涙が頬を伝い,絨毯の上には落ちた跡が広がっていく。

 

「なんで…そこまでッ、言って,くれる,の?」

 

嗚咽混じりの震えた彼女の言葉に答える。

 

「君が本気で話してくれたからだよ。シンボリルドルフ。」

 

そう言うとルドルフはタカが外れたように,わんわんと泣き叫んだ。彼女自身の溜め込んだ不安や迷いを全て吐き出すかのように,1人の少女が泣いていた。

 

男は1人,これまでの彼女を労うように泣き止むまで優しくその頭を撫で続けた。

 

 

 

「いいじゃないか。」

 

「ふぇ…」

 

予想しなかった答えに、間の抜けた声が出た。

 

なんで?なんで嗤わないの?

 

有名なトレーナーも,生徒会の先輩も,誰も彼もが無理だと話した私の夢を…

 

こんな小娘みたいな私の夢を,なんで貴方は笑わないの?

 

まだトレーナーでもない筈なのに。

 

しかし少し話しただけでも分かった。

 

彼の我々に対する知識はそこらのトレーナーと変わらない。故にその道のりの険しさも知り得るであろうはずなのに。

 

応援すると。支えになると。私が導きたい者達を守ると。

 

誰も言ってくれなかった言葉を、何故言ってくれるのだろう?

 

視界が滲む。頬に涙が伝うのが分かる。

喉から漏れる声を必死に抑えたくても,もう無理だった。

 

「なんで…そこまでッ、言って,くれる,の?」

 

絞り出すようにそう話せば,彼の琥珀色の瞳が優しく揺れる。

 

「君が本気で話してくれたからだよ。シンボリルドルフ。」

 

そう話す彼の言葉に,私は,自分の夢を諦めなくて良いのだと許された気がした。

 

声を上げて,誰にも見せた事がないくらいに私は泣いた。

 

目は腫れているだろう。喉も枯れるだろう。

 

それでも私は泣き続けた。

 

そんな私の頭を,彼はずっと撫で続けてくれた。

 

その慣れない手つきから彼の優しさを感じ,私は一層涙を流したのだった。

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