我が名はマドカ。聖剣に選ばれし✝︎漆黒の黒騎士✝︎ 作:めど
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| 『……あいつ何やってんの』 |
「ヒカルノさん!?」
「一夏くんは、そこでいい子にしてな」
その瞬く間、緊急再展開が始動。
顔色声色を一つとして変えない、けれど
見覚えのある、触ったことのある形状。
そうだ。あれは打鉄の
「…………何を訳の分からないことを。興奮で頭おかしくな──」
「根拠その一、身長が2センチくらい余分。その二、声がオリジナルより少しだけハスキー」
しらを切る、輪那と思われた人物。
──彼女がもたらした功績、それは更識簪の新型専用機『
輪那ひよりもまた、倉持の危機脱却に手を差し伸べた一人だった。
現役引退後、生真面目さを買われて技術者の道を辿ったのだが。
ヒカルノとは反りが合わないように見えて、その実互いを補完する表裏一体、相棒のような存在。しかもヒカルノ当人は油断すれば、あらゆる手段で全てのホクロの位置を特定し尽くす変態である。
「そして三つ──
「ッ」
従って一見、誰にも気付かれない完璧な成りであったとしても。
微細な違いすら秒で見抜く、ヒカルノの戯けた慧眼は誤魔化せない。詰めが甘い。
「はいビンゴー顔が引き攣った。じゃあてぇんっさいの私が正体当てて見せようか──
──『
「!」
| 『ふぁっ!? 何なんつったお前!? もう一回言え!』 |
ヒカルノの更なる看破に、白椿からも驚愕が渡った。
『ファントム・タスク』。
どこかで聞いたその悪名──
「私と来ないか? 暁の幻影円卓──『ファントム・タスク』に」
──入学式のあの日だ。
あの『傍から見れば自称国際テロリスト』ことマドカ=ウォヴェンスポート・ミューゼルが、
| 『あーマドカねぇはいはい……え、 |
「どういう手品で本人と誤認させているかは知らないけど、残念だったね。この子が
| 『ねぇ、マドカってあのマドカ、なんだよね? なんで? Mなんだろ? ねぇ?』 |
「……ごめん、ちょっとだけ静かにして欲しい」
| 『あっはい』 |
仕舞いの煽りを添えてやると、左腕も再展開。今度はアサルトライフル。
最早、彼女に弁明の余地などありはしない。証明完了の合図だった。
「…………あーあ」
──作戦は失敗した。
これより最終プラン、強行突破に移行。
輪那の姿に扮した彼女にとって、つまりそれは。
肩を落として息を吐くと、タガが外れたように目尻と口角が歪む。抑えていたその邪悪な本性を、剥き出しにしたのだ。
「バレちまったもんはしょうがねぇ、なァッ!!」
「ッ!? だよねぇ!」
明らかに輪那本人とは違う本来の口調と共に、白衣の背中から飛び出た六本の『脚』。紛れもないIS。
そしてヒカルノの武装を弾き飛ばすや否や、一夏目掛けて『何か』を投げ付けた。
「あれは──!」
「ハっ、馬鹿がよ!」
六角の白い板切れかと思えば、触手のようにうねる四本脚が展開──
──操縦者とISの繋がりを強制的に断ち、無条件にコアを摘出させる、
禁断の
「《
「へッ」
| 『一夏来るよ! ぶった斬って!』 |
「! 間に合わ──えっ」
| 『あァ!?』 |
急かされた一夏が身構え、武装を手繰り寄せるより早く。
ゼロコンマ秒の急加速によって、完全展開したヒカルノが立ち塞がった。
ほんの僅かでも安心させるためか。
目が合った際、ふっ、と笑みを零してみせると──その《
するとヒカルノの全身から、紫電がおびただしく駆け巡った。
「ぬわーーーーッ!!」
「ッハハ! 苦しいか? 苦しいだろ?」
「ッ──今、助け」
| 『近づいちゃダメ!』 |
「でも!」
「まぁガキは指咥えて見てろや、お楽しみはこれからだぜぇ?」
ゲマにでも焼かれたような激痛による野太い悲鳴と、炸裂した電流の混声合唱。
為す術もなく徐々に装甲が霧散していき……
「ハハ! ったくチョロいもんだな!」
呆気ない形勢逆転を前に、制止された一夏はただ。歯を噛み締め、拳を握り締めるだけで。
これが幕切れとでも言いたげに、現実は非情。生身のヒカルノが、待機形態の鍵どころかコアまで戻ってしまったISと共に、倒れ込む。
「ヒカルノさん!! お前、よくも……!」
| 『な、なんで庇って……』 |
「っへへ、どうだ白椿ちゃん、少しは信用して貰えたかな……」
時に生命すら天秤に賭ける、その自己犠牲が。よりにもよって、身を呈したのが篝火ヒカルノだなんて。
白椿は納得がいかず、驚愕を隠せない。プログラムされた予測には無い、不可解だったのだ。
「……あと出来れば、逃げた方がいいよ……」
「あー無駄無駄。此処の全システムは全部
「……マジ?」
「ほらよ」
そうこうしている内に、退路まで塞がれた。解放されていた天井ゲートが、独りでに閉じられたのが証左。
これで外からは何があろうと、視認すらできない。
「おぉ、ヒカルノさんが相手か……」
「……あの人、ISバトルの経験ありましたっけ?」
「並以下だった覚えが」
同時刻、開発室A-1。
今頃リアルタイムカメラも、偽の合成映像が流れていることだろう。
誰も、気付いていないのである。
「……ちょっとだけ入れてくれたり、ダメっすか?」
「ヒラの私たちじゃ無理無理。社外秘・白椿の稼働試験中だもん」
アリーナ周辺も同様。
入口に『極秘につき関係者以外立ち入り禁止』と添えれば、他のスタッフも近付けまい。
その辺は犯罪集団亡国機業なだけあって、抜かりないようだ。
そう、誰も気付いていないのである!
今の倉持はガバガバだ!!
「……けど、どうかな。こ、こっちには逆ハックが得意な簪ちゃんが……あれ? そういや……」
「あぁ、あいつらさっき睡眠薬入れてやったからさ」
「!?」
そしてダメ押し。道理でこちらも、気配がないと思えば。
ピットの方を再度確認すると……三名仲良く、熟睡している。はい、奥の手すら撃沈。
「寝てるゥ〜〜……!?」
「箒!!?」
「因みにリンダとかいう奴は今頃、女子トイレでくたばってるだろうよ」
となれば、口調から察するに。
輪那と彼女が入れ替わったタイミングは移動中しか思い付かない。もうめちゃくちゃだ。
たった一人の侵入者によって、いとも容易く簡単に。文字通り倉持は、籠絡されようとしていた。
「ッ、ハハハハハハッ! どいつもこいつもマヌケばっかで天ッ才のお前ですらまんまとハメられるとは。ホント大したことねぇザル企業だなぁ!!」
「ウッ!?」
「……いや違うか、
名推理、それがどうした。
ことごとくが面白いくらい、彼女の魔の手に握り潰されているのだから。笑いが止まらないのも無理ない。
無力化したヒカルノを踏み付け、じりじりと蔑みの爪先を擦り付ける。これが地味にかなり痛い。
「…………目的は?」
「二つ。お前がせこせこ研究してた第四世代技術、本家《
薄々勘付いてはいたが、狙いの一つはこの『逆転の鍵』。
一夏の適正発覚と同時にヒカルノが提唱して以降、米国を始めとするIS先進国がこぞって研究を始めた次世代オーバーテクノロジーだ。
白椿が奇跡の完成を迎えたのも。
この机上の空論呼ばわりされた技術を、
となれば、必然の帰結が訪れる。
彼女の指先は本命──その資格者である、一夏の方へ。
「ノウハウのついでに、最強と謳われた『暮桜』の残滓と野郎の遺伝子が刻まれた……その『白椿』だ」
| 『!』 |
完成形
登録上は第三世代ではあるが、その実。白椿のスペックは既存を超越した
近年多発する新型ISの強奪未遂事件に関与する亡国にとっても、世界転覆の可能性を秘めた白椿だけは何としてでも。
喉から手が出るほど欲しい、まさに『絶対超越兵器』と呼ぶに他ならない。
| 『い、いやぁー"絶対超越兵器"ねぇ…………それほどでもないと言いますか、でも流石は私ってことなんだよね? なんか感慨深いなぁ〜、そうかそうかぁ…………!』 |
(いや褒めては)ないです。
「先ずはソイツを寄越しな。今なら痛い目も
「…………」
奪われる前に手中へ隠した、零式・星鐘のコア。小手先の誤魔化しだ、けれど。そう簡単に渡すものかと。
(──ここまでお膳立てしてやったのに、まだ棒立ちか)
白椿が呑気に惚けた隣で、一夏はただ、噛み潰した顔で。足も竦んでいた。
(──どうすればいい。せっかく人を守れる力を、ISを手に入れたのに……!)
突撃しても、相手がその気になれば。
ヒカルノの無事は保証出来ない──よりにもよってこんな時に、
(これじゃあまるで、
呼吸が早くなる。
『助けることすら叶わない』、かも知れない未来への恐怖が。途端に重くなる足元から、込み上がって来る。
(──期待外れだな。興味すら湧かない)
迷いが阻み、迂闊に手が出せないその様子を。所詮は素人と失望の念を抱きながら。
「……黙秘か。じゃあ
「──!!!」
無力を突き付けた、惨たらしい嫌味を込めた勝利宣言。
しかし、その時──今までずっと、空虚を許容せざるを得なった彼の。白椿と繋がる一夏の琴線が。
全身の鱗を逆立てるが如く、乱れ始め。
「──う゛ぅっ゛──!!」
| 『一夏? ……え、何?』 |
その時、彼の意志に呼応して。
六本の脚を広げた彼女が、始末を終えるべく一歩踏み入れようとした瞬間。
「──あぁん?」
「巫山戯るなぁッ!!」
| 『一夏!?』 |
もう、煮え切った感情を抑えはしない。黙って見過ごす訳にはいかない。
何故なら自分は。
数多の人々に夢と希望を与えた、世界最強と成ることで凡ゆる悪意を退けてきた、織斑千冬の弟。
絶対英雄の血を引く、織斑一夏だから──!
「何迷ってんだ俺ッ──答えろっ、お前は一体、誰なんだッ!?」
己への叱責を込めて。ヒカルノとの距離を、全速力で押し退けながら。
憤怒激情に身を任せ、けれど捕らえた内二本の腕は決して逃さず、問う。
「甘ぇよ!」
だが相手は、四本がガラ空き。未だ部分展開の状態だというのに、随分と余裕を含む笑みだ。
手数の多さ、そして経験の差を物語るように。一夏の腕部装甲を貫かんと迫るが、
| 『舐めてんじゃねーぞ!!』 |
白椿の介入だとすぐに解った。
0.5秒の姿勢制御解除と同時に脚部バーニアを吹かせ、車輪の一蹴。更にバックブーストで追い討ちの間合いをリセット。
こんな状態でも脳裏は驚くほど冷静で、空間把握が鮮明に処理される──使用可能な
この際何だって良い。
先の
「へぇ、雑魚素人のくせにやるじゃねぇか!」
「質問に答えろ、お前は誰だ!!」
デタラメな剣捌きに見えて、腐っても千冬の因子が宿った剣。そして篠ノ之道場の武芸をも併せ持つ。
いくら手放して時が過ぎ去ろうと、一度五臓六腑に至るまで刻まれた技を、忘れる訳がない。何時でも引き出せるようにその全てを、身体は覚えていた。
「あァ、私か? 教えてやろうか?」
対して彼女は──
窮地で開花させたのかは知らんが、面白いガキだ。
手のひらを返し、ご無沙汰だった久しき感覚に心すら踊らせ。その
「なんて素直に言うわけ──あ?」
まだ時間はある。
ぶちのめすのは少し弄んでからでも、と。
「んだよ今良いとこなのに──……何? 一々名乗るメリットなんてどこにもねぇじゃねーか!」
通信が入った。しかも余計な。
余程、呑み込み難い内容なのか。片手間で一夏の相手をしながらも、ヒカルノの問答とは比べ物にならない……それはもう鬱陶しそうな顔だった。
「大体てめぇはテロリストの自覚が……は? ……あーもうわかったからやるから、黙れ黙れ……──っと危ねぇ! いいぜ。もう『こいつ』はいらねーから教えてやるよ」
| 『どっちだよ(困惑)』 |
今度は彼女から距離を取ると、かろうじて輪那ひよりの原型を留めた己の顔面に手を伸ばす。そして
果たして顕となった、腰まで伸びた緋色を靡かせて。
本意でなかったものの、やはり正体を露出させた開放感故か。三白の鋭い瞳はこちらを嘲嗤っていた。
| 『お、お前は……!』 |
「知ってるのか?」
「見せてやったんだからちゃんと見ろよ、ガキが!」
何故か、白椿はその顔を
「どうだい? 悪の組織で暗躍する、千年に一度の逸材と云われたギリシャ彫刻に勝りモデル顔負けな謎の美女の甘い
| 『めちゃくちゃ自画自賛するじゃん。コウ・ウラキくらい顔作画崩れるくせに……!』 |
それは対女性禁句のちくちく言葉だ。
縞模様八本の装甲脚と巨大な腹部を模したコンデンサーを合わせれば。
邪智暴虐の女神アテナにパワハラされたショックで首を吊った逸話を持つ、哀れなイキリ機織りの名を冠したISへと変貌する。
「──コイツが
| 『あぁぁぁそうか、 |
AT-004『
アメリカ製第二世代のカスタムモデル──の、筈だ。
向こうが名前をバラしてようやく確定したが、『白椿』側が何も解析出来ないのに辻褄が合った。
ただのISじゃない。
現存する467のコアに属さない何らかの仕掛けが、この
「さぁやろうぜ、
「ッ──!」
改めて
ご存知、原作、BD資料、Blu-Ray版の修正、外伝……全てのメディアミックスを加味した上で「キャラクターの顔面がイメージと違う」を呈した──インフィニット・ストラトスで最も表情が安定しないはみ出し者。
「
実戦急来、最悪のチュートリアル。
ずっと早い『敵』との邂逅を、戦闘開始のコンソールが知らせ。
狂いに狂った廻歴の歯車は、もう誰にも止められない。
内心大はしゃぎの彼女だが、実はISバトルが原因でこれまでの強奪作戦は全て失敗に終わっている。
自慢の愛機『アラクネ』もつい最近まで使用禁止だった。
「うるせぇよボケが!!」
「何がッ!?」
「こっちの話だよ!」
一切の制約を解いた、オータムの半ギレ猛攻。
カタール状の近接武装《ルームシャトル》を内蔵した装甲脚による、息をする間無き刺突の嵐を。一本の、しかも機能が十全でないしょぼくれた刀だけで凌ぐには無謀。
しかし一夏は、
| 『細かいとこは私が全部補助するから、一夏は剣に集中! あいつ絶対ぶっ殺してやる!!』 |
というのも、宿主を雑魚呼ばわりされて全ギレした白椿の意志が。逆にオータムのプライドをへし折ってやろうと躍起になっているから。
所謂分からん殺しを自動で防ぎ、掴んだ矢先に片っ端から串刺しにしようと。所詮は量産用、されど殺傷品質は保証された葵の切っ先を突き立てる。が、物理的『手薄』が邪魔をする。
「ほぉ? まだまだ身体が追い付いてないが、結構見込みあるじゃんお前!」
(機体性能が高過ぎるのか、吹っ切れたこいつの潜在能力が尋常じゃないのか……どっちにせよ!)
その細切れ如きで、アラクネ相手にちょこまかと。此処まで無謀に刃向かいに来たのは、このガキが初めてかも知れない。
切っ先と爪先の結びを重ねれば重ねる程、オータムは。一夏の中で眠っていた『獣』に、徐々に魅入られてゆく。
──試してみるか。
| 『遠距離武器! 来るよ!』 |
両手には
悪の華、計八門の
「第一関門クリアだ、ご褒美に遊んでやるよ!!」
宣言高く、汚いハイマットフルバーストから実弾の吹雪が襲来。
蜂の巣、圧倒的不利対面、回避不可能か──
──
「! マジか……!」
| 『えぇ……』 |
透き通る心眼を以て、研ぎ澄ました剣の技を以て、一滴の淀みなき、身体連動を以て。
全てを刈り取る必要は決してなく、致命となる点だけを取り除く。
今の織斑一夏ならそれが出来る。そもそも関門ですらないのだから──実技試験監督『山田真耶』の、
──シールドエネルギー差、990。
──継戦時間、29分46秒。
その結末は、通過済みだ。
「へぇ、弾幕すら
「暇なんか、くれない癖にッ……!」
「ッハハ! 当たり前だろ!」
| 『……いや、あれ、一夏ってこんなに動けたっけな…………んん? 山田真耶に負けた? 自滅じゃなくて?????』 |
いける、やれる。湧き上がる確信のみが己を突き動かす。
思い出せ、二度目の起動を。
入学試験での完膚なき
あの時の弾道が一部でも重なれば、
「……はぁ?」
空砲。弾切れの合図。
コンソールが弾き出した予測によれば、あと一、二回の振りで葵は自壊する。つまりこの瞬間こそが、自力で作り出せた最初で最後。一度きりの隙。
後は逸らしたその視線を利用して。
スラスター加速と篠ノ之流古武術『零拍子』を掛け合わせた肉薄。相手の一拍子目より早く仕掛ける律動崩しで──
「なぁんてな!!」
──しかし、
一夏が詰めたタイミングで、既にオータムの両手にあった機関銃は消失し。掌から白い塊が射出された。
塊の正体は強靭なクモの糸だ。
巨大な網へと炸裂すると、葵の切っ先から、持ち主の本体丸ごとを絡めとる。
「へっ、やっぱガキ──!?」
名残惜しいが、クモを舐めたツケ──オータムはそう言いたかった。けれど粘弾複合エネルギー・ワイヤーで捕縛したのは一夏ではなく。
刀身がひび割れた葵と、
刹那、光の奔流が集う。
気付くのが遅過ぎた。視線を落とせば、否が応でも仇と屈辱が迫る。
(こいつ、まさか
虚空から実体を掴み取った居合。
既にアラクネの図体では間に合わない、懐へ入り込んだ一夏と。
その手に握られた