我が名はマドカ。聖剣に選ばれし✝︎漆黒の黒騎士✝︎ 作:めど
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勝った。初めて、勝った。
しかも実戦に限りなく近い、練習や訓練では再現すらされない極限の形式で。織斑一夏はオータムに、勝利したのだ。
「……やった、のか」
| 『っしゃ見たかオラぁ!! ざまぁみやがれ噛ませめが!!』 |
アラクネの
最強と云われ続けた、
その絶大な力でISの多重障壁を突破し、対象の保護機能『絶対防御』を強制発動させる。しかし力と引き換えに、自身の生命線であるシールドエネルギーをも根絶やしにしてしまう。
具現維持エネルギー全てを雪片に回した結果、白椿は
(ノリノリで焚き付けたけど、まさか白椿ちゃんに発現しちゃうとはねぇ……)
「……ねぇ、睡眠薬ってのはあとどれくらいで切れる?」
「…………んなもん知らねぇよ」
「へぇ〜……」
不貞腐れたところに、またも仕返し。
踵で踏んづけてやる。
「い゛ッ!? 踏むなよ、おい!」
「おやおや、さっきまで注射されるチワワみたいにブルブル震えてたのに。そんなに怖かったのかなぁ〜?」
「……だってあの『白椿』、
「それはそう」
同じワイヤーでオータムを縛り上げたヒカルノは、茶化しながらも内心苦笑していた。
確かに「奇跡」が起きなければ、コアナンバー046が零落白夜を発現することなど有り得ない筈。
「あくまで同一或いは近縁の波長を持つコアでなければ、能力の継承は発生しない」というのがヒカルノの仮説だった。というのも、白椿の波長はコアナンバー001『暮桜』から離れ過ぎている。
そもそも暮桜の波長自体、今この瞬間に至るまで。凍結後は
「まぁ、となれば候補は
「何だよ」
「キミの失言を拾うとなると……これ以上はヒミツ」
(──例えば……すべての祖、『白騎士』にアクセスした。或いは『彼女』が介入した、とかならあるよね)
これも想像に過ぎない。
一つ確定しているのは、亡国機業が『零落白夜』に対して、何らかの干渉を終えたこと。
尋問してやってもいいが、果たしてこの女が口を割るか……
「……その人、どうするんですか」
| 『当然、死刑だよ死刑!!』 |
「考え中。無力化したとはいえIS隠してるからねぇ……捕虜としてウチで飼うか、政府かIS学園に引き渡すか……うーん、爆弾でも括り付けて返しちゃおっかな。人体実験も捨て難い。どれが良い?」
「けッ、そんなことしてタダで済むと思うなよ……」
一夏に問われるも、ヒカルノとしては択を持て余していた。
しかし、そうこうしている内に。オータムの背後から、着実に伸び始めた触肢。
丸腰の相手にすら戦えはしないが、緊急脱出用の
今のオータムには、やるべきことがある。
早急にこの場から撤退するのは勿論、それよりも重要な──自分の顔に泥を塗りやがったあの『クソガキ』だ。アイツの顔面をズタズタに剥いでやることしか考えていない。
今回ばかりは必ず殺す。
「てめぇらは必ず、このオータム様にぶっ殺される運命──」
機を伺い、脱出準備を整える。
僅かな時間稼ぎに捨て台詞を吐いて逃走しようと。ワイヤーの切断を試みるが、
「回収しに来たよ、オータム」
突如、誰でもない一声。
それを引き金として、アリーナ中心に風の音。刹那、ゲリラ級の竜巻が発生する。
| 『な、なに!?』 |
「ッ!!」
勝手に身が退く程の勢力。
因みにヒカルノは、こんな時でも咄嗟にオータムを盾にしていた。
「っとぉ、お仲──ゴォォォォ……!(強風)──場かい。ねぇ、オ──ゴォォォォ……!!(突風)──ん?」
「あ、あい──ゴォォォォ!!!(業風)──何しに来──ゴォォォォオオオオ!!!!(神風)──!!」
「何? 聞こえない!?」
「てめぇもだよボケーッ!!!」
漫才だって出来る。
──竜巻が止んだ先に降り立ったのは。
バイザーで素顔を秘匿した、
しかもその身に纏うISは。
「『テンペスタⅡ』……? あら、完成してたの? 強奪も未遂って聞いてたけど……」
「企業ならぬ機業秘密、だよ」
| 『……お前も登録外かよ……!』 |
イタリア製第三世代。
C.D.V-TP02『
間違いない、去年出展されたトライアル・モデルと同じ形状だ。
二週間ほど前か。
(私の見立てだと、イグニッション・プランは
「……おい、てめぇ……ッ!!」
「ん?」
訝しげながら、気持ち悪い自画自賛。
ヒカルノが怪しい仕草をする隣で、オータムの動悸が激しくなる。そして組織から与えられた、コードネームの開示と共に。
「何しに私を嗤いに来たかって聞いてんだよ──『
ありったけの殺意を込めた眼で、犬歯を剥き出し。仲間であろう、『スパーダ』と呼んだ少女を睨み付け、糾弾。
対して、バイザー越しではあるが。何の価値も未練も感じられない、害虫の死骸を見下ろすような。光すら宿さない、黒渦の瞳でいる。
「
「黙れッ!! やっぱりそうか!! てめぇの手助けなんてッ、いら──」
「うるさい」
疾、話は終わり。
スパーダの手から出現したのは、アラクネの変性と同じく。大蟷螂の遺伝子から象られた大鎌。
吹いた一陣と共に、一夏とヒカルノを通り過ぎて。オータムの
「ぐッ、ぐあぁッ!?」
「時間切れ、ルール違反、あと喋り過ぎ……
| 『ッ! こ、こいつっ、本気を出した私より早い──!!?』 |
散々イキりまくった故の、因果応報だった。
組織の規律を乱す、不貞不埒な輩を裁く執行人。頭領からその役割を与えられた少女にとって、命だけを残し戦意を刈り取ることなど。四則演算より容易い。
「ほら帰るよ」
「ッ、丁重に扱え、クソ、ガキがッ……!」
「誰がアラクネを直すと思ってんの? お前が失敗したからそうなったんだろ」
「……チッ、ぃ……っ……」
失血が祟り、しかも最後は正論で殴られ。
一夏にぶった切られたのとは比にならない凄惨を浴びたオータムは、愚鈍ながらに意識を溶かした。
「ん、しょ」
「……良いのかい? キミ達にとってはまたとない、絶好のチャンスだけど」
「重っ…………こんな組織一の無能と一緒にしないで欲しいな」
気絶したオータムを片手で背負うスパーダ。
ヒカルノの指摘通り、
「言ったでしょ、時間切れって。それに戦えないヤツには、決して手を出さない──マザーの言い付けは絶対。それがボクたちの
けれどスパーダには、生憎。
最初から『手段を選ばない』という選択肢がない。
「おいおい、ウチらのこと快楽殺人戦争集団と勘違いしてないか? 時代に合わせて組織も変わったらしいがッ!」
「……嘘は言ってない、みたいだね。後悔しても知らないぞ?」
「いずれ分かる日が来るよ」
安っぽい揺さぶりには一切乗らない辺り。幼い容姿であれど、腕の中で伸びてる情けない大人より理性はあるようだ。
「……大変、育ちが宜しいようで」
| 『ぐぬぬぬ……ここで仕留められないのが心許ないけど、新キャラ、覚えたかんな……って、一夏!?』 |
「……すみません、俺、もう、っ──」
さて。
あれだけ酷使したのだから、一夏の身体は限界。復帰した零式・星鐘も万全でない以上、深追いも出来ない──つまりは、
「今回はボクたちの負けだけど、次はソレ貰うよ。それじゃあバイバイ」
天井に空けた風穴へと飛び立つスパーダを、ただ見上げるだけだ。この先は精々、『何事もなかった』と装う事後処理が関の山である。
「……よく頑張ったね、一夏くん。後の面倒は私に任せて、ゆっくり休みたまえ」
ヒカルノはおもむろにスマホを取り出し。
……一夏の方は、後で部分展開やらで運んでやるとして。
「それと、私は聞こえやしないけどさ。白椿ちゃんにも感謝しておくよ」
| 『えっ……か、勘違いするなよ!? 私は別に、お前を助けたわけじゃないからな……あくまで一夏の望みに従っただけで、お前が庇ったから気が変わったとか、そんなんじゃないからな!! じゃあおやすみ!!』 |
合わす目すらろくに持ち合わせてないが。
返す白椿は、典型的なツンデレ構文であたふたしていた。意思表示として、待機形態の腕輪からはちゃめちゃに発光点滅しているが……ヒカルノの視線はスマホにあった。
「……あらあら、怒ってそ〜」
画面を開けば早速、通知の山。不在着信が何十件も表示されている。
この時間に電凸して来るような人物は、どう考えても一人しかいない。掛けてやると、ずっとスタンバイしていたのか。1秒もしない内に繋がった。
「──やぁ、
『なにっ、一夏は!!?』
「もーまんたい。いや大マジ、マージマジマジーロ──うん、キミが警戒した通りだったね、
皆様ご存知、織斑千冬ご本人だ。
いつもの近寄り難い面影は無きに等しい。一夏のことで少し冷静さを失ってすらいる。
『……後から言うのもなんだが。急に押し付けてすまなかった』
「気にするなって、同じ学校で青春してきた友じゃないか……や、私相手にされてなかったね」
『…………』
「……冗談だよ?」
あの時は対等でなかったのだから、最早友人ですらないただの同級生──状況が状況だ、そんなしょうもない自虐ジョークで笑いは取れない。
というのも。
実は、一夏専用機受領の
「で、キミの目星はどう?」
『……あぁ、お前のおかげで
本来、最終調整を考慮すれば。
来る日に万全の状態で、学園で渡すのが望ましい……けれど『あの女』の存在もあって、ずっと『嫌な予感』がしていた。故に千冬も、当日まで一夏を丸腰には出来なかった。
まぁ、結果的にその危険な賭けは──裏目に出てしまった感が否めない。結果論だ。
「そりゃ良かった。じゃあ交換条件の『質問』なんだけど、奴さんからヒント貰っちゃってさぁ──」
思惑はともかく、最悪の可能性を承知で快く引き受けたヒカルノだが。完成の前倒しをタダで了承するなんて言わない。
例え千冬が頼むよりも先に、白椿がとっくに完成していたとしても──
「──『暮桜』、もといコアナンバー001は今、何処にあるのかな」
──これは何時しか待ち望んでいた、『遥か彼方』との真っ当な対面。対峙だ。学生だったあの日は届きすらしなかったが、こんな形で。
対価は一つ。
亡き母、篝火ステラが関与した暮桜に関する
己がすべての『やり残し』、そして己がすべての『贖罪』を精算するため。空白を追い掛け問いただす責務が、ヒカルノにはあった。
新型IS連続強奪未遂事件の主犯格。織斑千冬や更識楯無を始めとする生徒会が、その存在を追跡している最中。
全てが謎に包まれた秘密結社だが、
実は三年前に組織が改編された。
「────っ、あれ」
一夏が目を覚ますと。
先ほどまで戦闘を繰り広げた大地──
ヒカルノも、簪も、箒もいない。
目に映るのは真っ白な砂浜。真っ黒に朽ちた一本の樹と──蒼い空と蒼い海を結ぶ、果てのない境界線。一面に佇むのは自分一人だけだが、不思議と恐怖や孤独の情は湧き上がらない、優しい静寂。
そこは透き通る世界だった。
「何処だ、ここ……」
心当たりのない、身に覚えのない景色だ。
現実ではない異空間を見渡して、ふと思いを巡らせた。
厳密には、まだ目を覚ましていないのか、と。夢にしては、全ての認識が鮮明過ぎて。
「夢じゃないよ」
「!」
『声』がした。
そして同時に、安堵した。
振り向かずとも。此処が何処だか分からなくとも、その『声』だけは判る。
「……『
「──やっと、会えた。やっと君に、繋がった……っ!」
名を口にすると、背後から感覚。
感極まった、触れば今にも壊れてしまいそうな、か細い声で。
一夏を抱きしめたのは、白い少女だった。
「……あの」
「だ、大丈夫。分かってる──ここは『深層』──ISコアの一番深くに在る、
感動を噛み締めるのもここまで。
父母ヶ浜でも田沢湖でも、ましてやウユニ塩湖でもないこの鏡合わせの場所は。何を隠そうISコアの中だった。
誕生から十年が経過しても、ISにはまだ解き明かされていないブラック・ボックスが多数存在する。
『白椿』開発者である篝火ヒカルノはかつて、宇宙の超空洞に準え。そんな未解析領域を『
「……ごめん、まずは挨拶だよね……改めまして。私がコアナンバー046『白椿』の、いわばコア人格」
「…………」
「そ、そんなじろじろ見ても……何もないよ?」
「いや、その……」
波乱続きでようやくまともな自己紹介となったが、一夏は固まっていた。
どこか儚さを漂わせた幼い顔に、『深層』と同じ彩をした双眸。
そして真っ白なワンピースを、同じ色の髪と共に靡かせ。
あまりにも凝視するものだから、白椿は深く被った帽子で顔を隠し、もじもじしている──しかし、次に紡いだ言葉は。
「……こんなに可愛い女の子が、あんな過激な喋り方だったと思うと」
「あっ、ええっと、それは、あの、なんというか」
その羞恥を軽々吹っ飛ばすくらい、図星の的を突き貫かれることとなるのだが。
「……いや、あのー……私、そんなに、ヤバかった、っすか、ね?」
「……まぁ、うん」
物凄いキョドっている。よく言えば感情豊かにも程があるが、本当にコア人格、つまりは機械の類なのか。
あのオータムに引けを取らない暴言っぷりだったのだから、ギャップがとんでもない。
二つは一つで、二律背反なき一心同体だ。
戦闘中でもそうでなくとも──ありとあらゆる負の感情が、一夏にもダイレクトに伝わっていたのだから。そりゃ空いた口が塞がらない。
「自重します……あぁそうだ、時間が限られてるんだった……とにかくっ、これからはずーっと一緒だから、ふつつかものですか……」
白椿は猛省する。流石に羽目を外し過ぎた……何より、若干引いてすらいる宿主の前では頭が上がらなかった。
酷く畏まって、波打ちに構わず正座し始める始末だ。もうワンピースがびっしゃびしゃ。
「こ、 こちらこそ……一つ、良いか?」
「な、なぁに?」
「色々と知ってるみたいだけどさ……例えば、ヒカルノさんとか、
「うっ……!」
で、あからさまな動揺だ。
「まぁ、まぁそこは私、ISですから? 地球上に存在する一個人くらい、検索すれば大体分かりますとも! ホントに!」
「…………」
一夏の凝視が痛い。
目は泳ぐわあたふたするわで、誤魔化すには悪手を極めていた。
──これまでの動揺、狼狽に垣間見えた違和感。それこそ指折りなんかでは数え切れないくらい、不自然な点が。白椿には余りにも多過ぎた。つまるところ
妙な
これ以上は隠しきれない。
自らの出生を、明かす時か──
「……やっぱり、だめ、かな」
「信じるよ」
「!」
が、一夏の選択は。
黙秘の肯定。
弱気になって、身も心も後ろ向きになってしまった白椿に。背中を合わせて。
「俺のために、言い表せない色んなことをやろうとしてくれてるのは、何となく分かるから」
「一夏……」
手を握った。
こうして繋がっている限り、二人の深層──心想は全て筒抜けだ。一連の言動に悪意がないことくらい、解っている。だから。
「……強くなるためには、『
今、一夏が最短経路で覇道を歩むなら。千冬の影を追いかけるしかあるまい。
幸いにも、その権利は単一仕様能力・零落白夜の奇跡的享受で。これは千載一遇、故にパートナーは必ず。白椿でなければならない。
「まぁ、そういう訳で。答えられないなら無理に聞かない」
「……本当に、良いの?」
「操縦出来なくなるよりはずっと」
「……はは、そこまでお見通しかぁ……」
真実を知ればきっと。互いの関係の根幹を揺るがす。微かに震える手の先から、一夏は開かずの危惧を感じ取っていた。
「とにかく俺は、この先も戦わなくちゃいけない。勝ったその先に、辿り着かなくちゃいけない」
自分は今、岐路に立たされてるのかも知れない。意味も分からず、運命に飛び込もうとしているのかも知れない。けれど今、振り向くことは許されない。
前に進むためなら、恐ろしく寛容で在ることだって。
「俺が、千冬姉の弟──織斑一夏である限り。やりたいからやるとかじゃなくて、
二人は向き合う。
誰よりも本当に強い人間、誰かを守るために強く在り続けた本物の『英雄』の何たるかを、知っているからこそ。
当然、他者との差を一刻も早く埋めるべく。焦りもあったがそれ以上に。
覚悟も決意も、完了している──そう自分に言い効かせている今の内に。片道切符を切る直前まで、力に結べるものは全て後腐れなく、済ませておきたい。
そんな一夏の強い眼差しを見て、白椿は。
「……今なら勝てる」
「えっ?」
「勝とう一夏、セシリア・オルコットに!」
「!」
腹を括るのは彼女も同じだった。
一夏だけでなく、白椿にとっても。来たる一週間後の戦い、必ず勝たなければならない理由かある。
「……因みに、勝てる確率とかは」
「ざっと、5割!!」
「5…………え、50パーセント……!?」
「だって、あのオータムをやっつけたんだよ!? 今の一夏ならいけるって! それまで私作戦考えとくから!」
そしてこの初陣を制したということは即ち。それまで0と断言せざるを得なかった可能性を、予測演算で担保出来る余地が生まれた。
現時点でオータムに勝利したこと自体が、それだけ大きな意味をもたらしていたのだ。
「……わ、分かった。俺もやり残しがないよう、出来ることは全部やってみる」
予想より遥かにぶっ飛んだ数字を提示されたが、一夏としても。ここまで信用されて焚き付けられた以上、引き下がる訳にはいかない。
「うんうん! 勝利の方程式は見えた……よし、これからは特訓だね!」
そうと決まれば明日は明るい。
白椿が手を振り上げた、その瞬間。
「────えっ」
どぼん、と。
突然だった。
それまで無限に広がっていた、地に足をつけていた筈だ──白い砂の浅瀬が
重力に引きずり込まれるかのように。一夏の身体は、黒く、暗く深い海底へ。無意識にもがこうと試みるより先に、全ての色彩が落ち失せ、その無意識ごと沈みゆく。
けれど。此処も。
先まで居たあの場所と、同じ温もりだ。
故に一夏は臆せず、その身を委ねた。
一条の光差す深層が視えなくなるまで、まどろみを、在るがままに──。
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