我が名はマドカ。聖剣に選ばれし✝︎漆黒の黒騎士✝︎   作:めど

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Episword I :-後編- 白椿・そして白き廻歴は 5/6

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 勝った。初めて、勝った。

 しかも実戦に限りなく近い、練習や訓練では再現すらされない極限の形式で。織斑一夏はオータムに、勝利したのだ。

 

 

「……やった、のか」

 

っしゃ見たかオラぁ!! ざまぁみやがれ噛ませめが!!

 

 

 アラクネの戦闘不能(エンプティ)をしかと見届け、舞い上がる白椿。だが、一夏の武装もまた完全解除され、制服姿に戻っていた。

 

 

 

 

 

 最強と云われ続けた、究極の単一仕様(アルテミット・ワン)と呼ばれた『零落白夜』の代償だ。

 

 

 

 

 

 その絶大な力でISの多重障壁を突破し、対象の保護機能『絶対防御』を強制発動させる。しかし力と引き換えに、自身の生命線であるシールドエネルギーをも根絶やしにしてしまう。

 

 具現維持エネルギー全てを雪片に回した結果、白椿は継戦不能(エンプティ)となったのだ。

 

 

(ノリノリで焚き付けたけど、まさか白椿ちゃんに発現しちゃうとはねぇ……)

「……ねぇ、睡眠薬ってのはあとどれくらいで切れる?」

「…………んなもん知らねぇよ」

「へぇ〜……」

 

 

 不貞腐れたところに、またも仕返し。

 踵で踏んづけてやる。

 

 

「い゛ッ!? 踏むなよ、おい!」

「おやおや、さっきまで注射されるチワワみたいにブルブル震えてたのに。そんなに怖かったのかなぁ〜?」

「……だってあの『白椿』、()()()()()()

「それはそう」

 

 

 同じワイヤーでオータムを縛り上げたヒカルノは、茶化しながらも内心苦笑していた。

 

 確かに「奇跡」が起きなければ、コアナンバー046が零落白夜を発現することなど有り得ない筈。

 「あくまで同一或いは近縁の波長を持つコアでなければ、能力の継承は発生しない」というのがヒカルノの仮説だった。というのも、白椿の波長はコアナンバー001『暮桜』から離れ過ぎている。

 

 そもそも暮桜の波長自体、今この瞬間に至るまで。凍結後は()()観測されていない。

 

 

「まぁ、となれば候補は()()くらいかなぁ」

「何だよ」

「キミの失言を拾うとなると……これ以上はヒミツ」

(──例えば……すべての祖、『白騎士』にアクセスした。或いは『彼女』が介入した、とかならあるよね)

 

 

 これも想像に過ぎない。

 一つ確定しているのは、亡国機業が『零落白夜』に対して、何らかの干渉を終えたこと。

 尋問してやってもいいが、果たしてこの女が口を割るか……

 

 

「……その人、どうするんですか」

 

当然、死刑だよ死刑!!

 

「考え中。無力化したとはいえIS隠してるからねぇ……捕虜としてウチで飼うか、政府かIS学園に引き渡すか……うーん、爆弾でも括り付けて返しちゃおっかな。人体実験も捨て難い。どれが良い?」

「けッ、そんなことしてタダで済むと思うなよ……」

 

 

 一夏に問われるも、ヒカルノとしては択を持て余していた。

 

 しかし、そうこうしている内に。オータムの背後から、着実に伸び始めた触肢。

 丸腰の相手にすら戦えはしないが、緊急脱出用の()()くらいはあった。

 

 今のオータムには、やるべきことがある。

 早急にこの場から撤退するのは勿論、それよりも重要な──自分の顔に泥を塗りやがったあの『クソガキ』だ。アイツの顔面をズタズタに剥いでやることしか考えていない。

 

 今回ばかりは必ず殺す。

 頭領(ボス)が何を言おうが知ったことか。

 

 

「てめぇらは必ず、このオータム様にぶっ殺される運命──」

 

 

 機を伺い、脱出準備を整える。

 僅かな時間稼ぎに捨て台詞を吐いて逃走しようと。ワイヤーの切断を試みるが、

 

 

 

 

 

回収しに来たよ、オータム

 

 

 

 

 

 突如、誰でもない一声。

 それを引き金として、アリーナ中心に風の音。刹那、ゲリラ級の竜巻が発生する。

 

 

な、なに!?

 

「ッ!!」

 

 

 勝手に身が退く程の勢力。

 因みにヒカルノは、こんな時でも咄嗟にオータムを盾にしていた。

 

 

「っとぉ、お仲──ゴォォォォ……!(強風)──場かい。ねぇ、オ──ゴォォォォ……!!(突風)──ん?」

「あ、あい──ゴォォォォ!!!(業風)──何しに来──ゴォォォォオオオオ!!!!(神風)──!!」

何? 聞こえない!?

てめぇもだよボケーッ!!!

 

 

 漫才だって出来る。

 ──竜巻が止んだ先に降り立ったのは。

 

 バイザーで素顔を秘匿した、()()

 しかもその身に纏うISは。

 

 

『テンペスタⅡ』……? あら、完成してたの? 強奪も未遂って聞いてたけど……」

「企業ならぬ機業秘密、だよ」

 

……お前も登録外かよ……!

 

 

 イタリア製第三世代。

 C.D.V-TP02『TEMPESTA(テンペスタ) Ⅱ』

 間違いない、去年出展されたトライアル・モデルと同じ形状だ。

 

 二週間ほど前か。展開装甲(タクティカル・アームド)搭載実験に失敗して暴走事故を起こした結果──欧州連合次世代防衛計画『イグニッション・プラン』から()()()()。改良どころか開発そのものが破綻した未完成IS。だった筈だ。

 

 

(私の見立てだと、イグニッション・プランは()()()()()()()()()()()()()予定だったんだけどねぇ……まぁ流石は私ってコトか)

 

「……おい、てめぇ……ッ!!」

「ん?」

 

 

 訝しげながら、気持ち悪い自画自賛。

 ヒカルノが怪しい仕草をする隣で、オータムの動悸が激しくなる。そして組織から与えられた、コードネームの開示と共に。

 

 

 

 

 

「何しに私を嗤いに来たかって聞いてんだよ──()()()()』ッ!!

 

 

 

 

 

 ありったけの殺意を込めた眼で、犬歯を剥き出し。仲間であろう、『スパーダ』と呼んだ少女を睨み付け、糾弾。

 対して、バイザー越しではあるが。何の価値も未練も感じられない、害虫の死骸を見下ろすような。光すら宿さない、黒渦の瞳でいる。

 

 

()()使()()()()()()()()()()()()()んだからさ。むしろ『ありがとうございます』って、感謝しないとだよね」

「黙れッ!! やっぱりそうか!! てめぇの手助けなんてッ、いら──」

「うるさい」

 

 

 

 

 

 

 

'.Install,

Praying Mantis genome.

 

 

 

 

 

 

 

 疾、話は終わり。

 スパーダの手から出現したのは、アラクネの変性と同じく。大蟷螂の遺伝子から象られた大鎌。

 吹いた一陣と共に、一夏とヒカルノを通り過ぎて。オータムの()()()()、拘束していたワイヤーを切り刻んだ。

 

 

「ぐッ、ぐあぁッ!?」

「時間切れ、ルール違反、あと喋り過ぎ……()()()の命令を散々破ったんだ、その痛みを覚えておきなよ」

 

ッ! こ、こいつっ、本気を出した私より早い──!!?

 

 

 散々イキりまくった故の、因果応報だった。

 組織の規律を乱す、不貞不埒な輩を裁く執行人。頭領からその役割を与えられた少女にとって、命だけを残し戦意を刈り取ることなど。四則演算より容易い。

 

 

「ほら帰るよ」

「ッ、丁重に扱え、クソ、ガキがッ……!」

「誰がアラクネを直すと思ってんの? お前が失敗したからそうなったんだろ」

「……チッ、ぃ……っ……」

 

 

 失血が祟り、しかも最後は正論で殴られ。

 一夏にぶった切られたのとは比にならない凄惨を浴びたオータムは、愚鈍ながらに意識を溶かした。

 

 

「ん、しょ」

「……良いのかい? キミ達にとってはまたとない、絶好のチャンスだけど」

「重っ…………こんな組織一の無能と一緒にしないで欲しいな」

 

 

 気絶したオータムを片手で背負うスパーダ。

 ヒカルノの指摘通り、()()()()()()()()()()()。この場に居る人間を皆殺しにして、IS二機の強奪くらい可能な状況だろう──条件が整い過ぎている。

 

 

「言ったでしょ、時間切れって。それに戦えないヤツには、決して手を出さない──マザーの言い付けは絶対。それがボクたちの流儀(ルール)

 

 

 けれどスパーダには、生憎。

 最初から『手段を選ばない』という選択肢がない。

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、ウチらのこと快楽殺人戦争集団と勘違いしてないか? 時代に合わせて組織も変わったらしいがッ!」

 

 

 

 

 

 

 

「……嘘は言ってない、みたいだね。後悔しても知らないぞ?」

「いずれ分かる日が来るよ」

 

 

 安っぽい揺さぶりには一切乗らない辺り。幼い容姿であれど、腕の中で伸びてる情けない大人より理性はあるようだ。

 

 

「……大変、育ちが宜しいようで」

 

ぐぬぬぬ……ここで仕留められないのが心許ないけど、新キャラ、覚えたかんな……って、一夏!?

 

「……すみません、俺、もう、っ──」

 

 

 さて。

 あれだけ酷使したのだから、一夏の身体は限界。復帰した零式・星鐘も万全でない以上、深追いも出来ない──つまりは、()()()()()()()()

 

 

「今回はボクたちの負けだけど、次はソレ貰うよ。それじゃあバイバイ」

 

 

 天井に空けた風穴へと飛び立つスパーダを、ただ見上げるだけだ。この先は精々、『何事もなかった』と装う事後処理が関の山である。

 

 

「……よく頑張ったね、一夏くん。後の面倒は私に任せて、ゆっくり休みたまえ」

 

 

 ヒカルノはおもむろにスマホを取り出し。

 ……一夏の方は、後で部分展開やらで運んでやるとして。

 

 

「それと、私は聞こえやしないけどさ。白椿ちゃんにも感謝しておくよ」

 

えっ……か、勘違いするなよ!? 私は別に、お前を助けたわけじゃないからな……あくまで一夏の望みに従っただけで、お前が庇ったから気が変わったとか、そんなんじゃないからな!! じゃあおやすみ!!

 

 

 合わす目すらろくに持ち合わせてないが。

 返す白椿は、典型的なツンデレ構文であたふたしていた。意思表示として、待機形態の腕輪からはちゃめちゃに発光点滅しているが……ヒカルノの視線はスマホにあった。

 

 

「……あらあら、怒ってそ〜」

 

 

 画面を開けば早速、通知の山。不在着信が何十件も表示されている。

 この時間に電凸して来るような人物は、どう考えても一人しかいない。掛けてやると、ずっとスタンバイしていたのか。1秒もしない内に繋がった。

 

 

「──やぁ、()()。ごめんね遅れちゃって。さっき亡国機業に襲われたところ」

『なにっ、一夏は!!?』

「もーまんたい。いや大マジ、マージマジマジーロ──うん、キミが警戒した通りだったね、()()()()()()()()()()()()()

 

 

 皆様ご存知、織斑千冬ご本人だ。

 いつもの近寄り難い面影は無きに等しい。一夏のことで少し冷静さを失ってすらいる。

 

 

『……後から言うのもなんだが。急に押し付けてすまなかった』

「気にするなって、同じ学校で青春してきた友じゃないか……や、私相手にされてなかったね」

『…………』

「……冗談だよ?」

 

 

 あの時は対等でなかったのだから、最早友人ですらないただの同級生──状況が状況だ、そんなしょうもない自虐ジョークで笑いは取れない。

 

 というのも。

 実は、一夏専用機受領の()()()()を急遽提案したのは。……らしくもないが、千冬自らヒカルノに。

 

 

「で、キミの目星はどう?」

『……あぁ、お前のおかげで()()()()()()()()。間違いなくあいつは……』

 

 

 本来、最終調整を考慮すれば。

 来る日に万全の状態で、学園で渡すのが望ましい……けれど『あの女』の存在もあって、ずっと『嫌な予感』がしていた。故に千冬も、当日まで一夏を丸腰には出来なかった。

 

 まぁ、結果的にその危険な賭けは──裏目に出てしまった感が否めない。結果論だ。

 

 

「そりゃ良かった。じゃあ交換条件の『質問』なんだけど、奴さんからヒント貰っちゃってさぁ──」

 

 

 思惑はともかく、最悪の可能性を承知で快く引き受けたヒカルノだが。完成の前倒しをタダで了承するなんて言わない。

 例え千冬が頼むよりも先に、白椿がとっくに完成していたとしても──

 

 

 

 

 

──『暮桜』、もといコアナンバー001は今、何処にあるのかな

 

 

 

 

 

 ──これは何時しか待ち望んでいた、『遥か彼方』との真っ当な対面。対峙だ。学生だったあの日は届きすらしなかったが、こんな形で。

 

 対価は一つ。

 亡き母、篝火ステラが関与した暮桜に関する()()の核心。

 己がすべての『やり残し』、そして己がすべての『贖罪』を精算するため。空白を追い掛け問いただす責務が、ヒカルノにはあった。

 

 

 

 

 


 

 

 亡国機業(Phantom Task)

 

 

新型IS連続強奪未遂事件の主犯格。織斑千冬や更識楯無を始めとする生徒会が、その存在を追跡している最中。

 

 

全てが謎に包まれた秘密結社だが、

実は三年前に組織が改編された。

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────っ、あれ」

 

 

 一夏が目を覚ますと。

 先ほどまで戦闘を繰り広げた大地──()()。足元から聞こえる波の音が気付かせた。

 

 ヒカルノも、簪も、箒もいない。

 目に映るのは真っ白な砂浜。真っ黒に朽ちた一本の樹と──蒼い空と蒼い海を結ぶ、果てのない境界線。一面に佇むのは自分一人だけだが、不思議と恐怖や孤独の情は湧き上がらない、優しい静寂。

 

 そこは透き通る世界だった。

 

 

「何処だ、ここ……」

 

 

 心当たりのない、身に覚えのない景色だ。

 現実ではない異空間を見渡して、ふと思いを巡らせた。

 厳密には、まだ目を覚ましていないのか、と。夢にしては、全ての認識が鮮明過ぎて。

 

 

「夢じゃないよ」

「!」

 

 

 『声』がした。

 そして同時に、安堵した。

 

 振り向かずとも。此処が何処だか分からなくとも、その『声』だけは判る。

 

 

「……()椿()? ぅわっ」

「──やっと、会えた。やっと君に、繋がった……っ!」

 

 

 名を口にすると、背後から感覚。

 感極まった、触れば今にも壊れてしまいそうな、か細い声で。

 一夏を抱きしめたのは、白い少女だった。

 

 

「……あの」

「だ、大丈夫。分かってる──ここは『深層』──ISコアの一番深くに在る、無限の海(コア・ネットワーク)に一番近い場所……そして君と私を繋ぐ、狭間の海岸線」

 

 感動を噛み締めるのもここまで。

 父母ヶ浜でも田沢湖でも、ましてやウユニ塩湖でもないこの鏡合わせの場所は。何を隠そうISコアの中だった。

 

 誕生から十年が経過しても、ISにはまだ解き明かされていないブラック・ボックスが多数存在する。

 『白椿』開発者である篝火ヒカルノはかつて、宇宙の超空洞に準え。そんな未解析領域をVoid(ボイド)と定義した。『深層』も、その一つ。

 

 

「……ごめん、まずは挨拶だよね……改めまして。私がコアナンバー046『白椿』の、いわばコア人格」

「…………」

「そ、そんなじろじろ見ても……何もないよ?」

「いや、その……」

 

 

 波乱続きでようやくまともな自己紹介となったが、一夏は固まっていた。

 

 どこか儚さを漂わせた幼い顔に、『深層』と同じ彩をした双眸。

 そして真っ白なワンピースを、同じ色の髪と共に靡かせ。

 

 あまりにも凝視するものだから、白椿は深く被った帽子で顔を隠し、もじもじしている──しかし、次に紡いだ言葉は。

 

 

「……こんなに可愛い女の子が、あんな過激な喋り方だったと思うと」

あっ、ええっと、それは、あの、なんというか

 

 

 その羞恥を軽々吹っ飛ばすくらい、図星の的を突き貫かれることとなるのだが。

 

 

「……いや、あのー……私、そんなに、ヤバかった、っすか、ね?」

「……まぁ、うん」

 

 

 物凄いキョドっている。よく言えば感情豊かにも程があるが、本当にコア人格、つまりは機械の類なのか。

 あのオータムに引けを取らない暴言っぷりだったのだから、ギャップがとんでもない。

 

 二つは一つで、二律背反なき一心同体だ。

 戦闘中でもそうでなくとも──ありとあらゆる負の感情が、一夏にもダイレクトに伝わっていたのだから。そりゃ空いた口が塞がらない。

 

 

「自重します……あぁそうだ、時間が限られてるんだった……とにかくっ、これからはずーっと一緒だから、ふつつかものですか……」

 

 

 白椿は猛省する。流石に羽目を外し過ぎた……何より、若干引いてすらいる宿主の前では頭が上がらなかった。

 酷く畏まって、波打ちに構わず正座し始める始末だ。もうワンピースがびっしゃびしゃ。

 

 

「こ、 こちらこそ……一つ、良いか?」

「な、なぁに?」

「色々と知ってるみたいだけどさ……例えば、ヒカルノさんとか、()()()()()()()()()()

「うっ……!」

 

 

 で、あからさまな動揺だ。

 

 

「まぁ、まぁそこは私、ISですから? 地球上に存在する一個人くらい、検索すれば大体分かりますとも! ホントに!」

「…………」

 

 

 一夏の凝視が痛い。

 目は泳ぐわあたふたするわで、誤魔化すには悪手を極めていた。

 

 ──これまでの動揺、狼狽に垣間見えた違和感。それこそ指折りなんかでは数え切れないくらい、不自然な点が。白椿には余りにも多過ぎた。つまるところ()()()()()

 妙な人間(ヒト)らしさ、そしてヒトが想起するISとはかけ離れてしまった、俗に染まった成りが。その説得力を余計後押ししていた。

 

 これ以上は隠しきれない。

 自らの出生を、明かす時か──

 

 

「……やっぱり、だめ、かな」

「信じるよ」

「!」

 

 

 が、一夏の選択は。

 黙秘の肯定。

 弱気になって、身も心も後ろ向きになってしまった白椿に。背中を合わせて。

 

 

「俺のために、言い表せない色んなことをやろうとしてくれてるのは、何となく分かるから」

「一夏……」

 

 

 手を握った。

 こうして繋がっている限り、二人の深層──心想は全て筒抜けだ。一連の言動に悪意がないことくらい、解っている。だから。

 

 

「……強くなるためには、『白椿(きみ)』が必要だ。だから信じる──互いの信頼がなくちゃ、ISバトルなんてまともに出来ないもんな」

 

 

 今、一夏が最短経路で覇道を歩むなら。千冬の影を追いかけるしかあるまい。

 幸いにも、その権利は単一仕様能力・零落白夜の奇跡的享受で。これは千載一遇、故にパートナーは必ず。白椿でなければならない。

 

 

「まぁ、そういう訳で。答えられないなら無理に聞かない」

「……本当に、良いの?」

「操縦出来なくなるよりはずっと」

「……はは、そこまでお見通しかぁ……」

 

 

 真実を知ればきっと。互いの関係の根幹を揺るがす。微かに震える手の先から、一夏は開かずの危惧を感じ取っていた。

 

 ()()()そうなれば、自分の望みも、白椿の使命も。すべて露と消える──だったら、利害は問わずとも一致していた。

 

 

「とにかく俺は、この先も戦わなくちゃいけない。勝ったその先に、辿り着かなくちゃいけない」

 

 

 自分は今、岐路に立たされてるのかも知れない。意味も分からず、運命に飛び込もうとしているのかも知れない。けれど今、振り向くことは許されない。

 前に進むためなら、恐ろしく寛容で在ることだって。

 

 

「俺が、千冬姉の弟──織斑一夏である限り。やりたいからやるとかじゃなくて、()()()()()()()()()()ことなんだ」

 

 

 二人は向き合う。

 誰よりも本当に強い人間、誰かを守るために強く在り続けた本物の『英雄』の何たるかを、知っているからこそ。

 

 当然、他者との差を一刻も早く埋めるべく。焦りもあったがそれ以上に。

 覚悟も決意も、完了している──そう自分に言い効かせている今の内に。片道切符を切る直前まで、力に結べるものは全て後腐れなく、済ませておきたい。

 

 そんな一夏の強い眼差しを見て、白椿は。

 

 

「……今なら勝てる」

「えっ?」

「勝とう一夏、セシリア・オルコットに!」

「!」

 

 

 腹を括るのは彼女も同じだった。

 一夏だけでなく、白椿にとっても。来たる一週間後の戦い、必ず勝たなければならない理由かある。

 

 

「……因みに、勝てる確率とかは」

ざっと、5割!!

「5…………え、50パーセント……!?」

「だって、あのオータムをやっつけたんだよ!? 今の一夏ならいけるって! それまで私作戦考えとくから!」

 

 

 そしてこの初陣を制したということは即ち。それまで0と断言せざるを得なかった可能性を、予測演算で担保出来る余地が生まれた。

 現時点でオータムに勝利したこと自体が、それだけ大きな意味をもたらしていたのだ。

 

 

「……わ、分かった。俺もやり残しがないよう、出来ることは全部やってみる」

 

 

 予想より遥かにぶっ飛んだ数字を提示されたが、一夏としても。ここまで信用されて焚き付けられた以上、引き下がる訳にはいかない。

 

 

「うんうん! 勝利の方程式は見えた……よし、これからは特訓だね!」

 

 

 そうと決まれば明日は明るい。

 白椿が手を振り上げた、その瞬間。

 

 

「────えっ」

 

 

 

 どぼん、と。

 

 突然だった。

 それまで無限に広がっていた、地に足をつけていた筈だ──白い砂の浅瀬が()()()

 重力に引きずり込まれるかのように。一夏の身体は、黒く、暗く深い海底へ。無意識にもがこうと試みるより先に、全ての色彩が落ち失せ、その無意識ごと沈みゆく。

 

 けれど。此処も。

 先まで居たあの場所と、同じ温もりだ。

 

 故に一夏は臆せず、その身を委ねた。

 一条の光差す深層が視えなくなるまで、まどろみを、在るがままに──。

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